side:姫咲露々 『貴方に捧げる弔いの儀』
死神主人がいて、各地域の《死神拠点》の統轄をしている、私の所属するこの地区。
私はそこの隊長をしている。
「隊長」
振り向くと銀色の長い髪を持つ少年が居た。
「どうしたの、椎名」
「仕事が終わったので報告に」
「早いわね」
彼は私が二十一歳の時に《死神》になった。
あれからまだ五年しか経ってないのに、実力はSランクに達していて、舞はきっと誰よりも勝っている。
彼のような人を、天才と人は呼ぶのだろう。
けれど私は知っている。
誰よりも彼が努力していることを。
彼が守りたいものの為に、今もまだ磨きをかけていることを。
私が鎌を持ったのは十六歳の時。
転生をして前世の記憶があるから、その歳で鎌を受け取った。
鎌は十六歳にならないと、いくら転生しているとはいえ持たせてはくれない。
それは決まりだった。
鎌は魂を身体から切り離す為のもの。
通常はCからAランクの死神が舞や鎮魂歌で自発的に天へ逝くように導く。
でも、未練や怨みなどの感情によって自発的には逝けない魂を、SとSSランクの死神はその鎌を持って引き離し、送る。
それはとても身体に負担がかかり、鍛えられた者にしか出来ないことで、ましてや身体が未熟な子供は命を落としかねない。
だから、鎌はSランクのみが許される。
Sランクは貴重だから、死してなおSSランクという特別なランクへと持ち上がり、仕事を続ける。
その代わり見返りとして、“現世の記憶を持ったまま”の転生をする。
つまりは人生のやり直しを許されるのである。
だけど実際に死神を来世で辞めて生きる人なんて殆ど居ない。
それはSSランクへ上がることの難しさと、彼らの強い意志を暗示させる。
「露々」
聞き慣れた、優しい声が聞こえた。
呼ばれた方へ顔を向ける。
「深舞……」
《死神》はそれぞれパートナーを持つ。
それは《舞》と《鎮魂歌》という二つの送天方法を用いて、効率よく仕事をするため。
だけどそれよりも、心の支えという役割のが大きいかもしれない。
「どうした、元気ないじゃないか」
「そう、かしら」
あれから三年。
Aランクの《死神》だった二人は、Sランクへと上がった。
鎌を持ち、魂を送る。
この地区は死神主人が居る為、SSランクの死神は居ない。
元々数が少ないから、こちらに回せないのだ。
故にSランクがトップ。
仕事も必然と多くなる。
体力に限界のあるSランクは、無理をしてはいけない。
無理をしたら本当に、命を落としてしまうから。
元々私と深舞、ミカルと凛香の四人だったから、それを六人でやるのはゆとりがある。
けれど逆に下位の死神は少なく、SランクでもAランク以下の仕事もやらなくちゃいけない。
それに椎名は、酷く疲労していた。
「最近、椎名の調子が悪いの」
先日も仕事中に倒れたと陸が言っていた。
陸の“霊を引き寄せる力”によって引き寄せられた仕事外の霊も、椎名は送天しなければならないから。
「椎名はあれで頑固だからね……無理をするなと言っても、していないと言うから」
「でも駄目。このままじゃ早死にするわ」
子瑠斗さんは二十五歳の時、亡くなった。
子瑠斗さんには早くこの世から去りたい理由があったらしくて、それでわざと無理をしたと死神主人からこっそり聞いた(というより、愚痴をこぼされたのだが)。
だけど椎名は違う。
止めなきゃ。
私が椎名を、この地区の《死神》を守らなきゃ。
「椎名を呼んで」
◆
「なんですか、隊長」
「休みなさい」
「何故? 俺は大丈夫です」
「大丈夫じゃないわ。このままじゃ二十歳で死ぬわよ」
「でも俺がやらなきゃ、陸は」
「陸も休養をとらせる。それなら文句はないでしょう?」
「それは……」
陸一人では仕事には行かせられないし、他の《死神》と組むのも“あれ”を考えると難しい。
「お願い、椎名」
「……分かりました」
椎名にはこの日から一ヶ月、仕事を禁止した。
その時の椎名は私との約束を守ってくれて、しっかりと休養を取ったおかげか、一ヶ月後には以前のように調子を取り戻していた。
◆
月日は流れ、七年が経った。
目黒紫稀が死んだ。
子瑠斗さんはそれで転生の儀式を行ったらしい。
そんなことを、人づてに聞いた。
「隊長、行ってきます」
その日は、椎名と陸が悪霊となった魂を送天しに行った。
嫌な予感がしていた。
その予感は最悪な形で的中し、次に彼らを見た時には、もう息をしていなくて。
冷えた二人の身体。
そして魂だけの存在となった二人がそこに居て。
「なん、で」
椎名から、話を聞いた。
予定外の出来事。あまりにも多い数に疲弊し、椎名の身体がもたなかったこと。
身体は失ったが、なんとか魂までは奪われずに済んだ。
けれど、しばらくの間戦えない椎名を庇って、陸も身体を失うこととなったのだと。
「守れなかった」
彼の言葉は、悲しみに満ちていて。
「守れなかった……っ」
大切なものを守る為に頑張ってきたのに、守れなかったことを酷く悔やんでいた。
私は何を言えば彼が傷つかなくて済むのか分からなくて何も言えなかった。
◆
こうしてSSランクになった彼らは今まで通り仕事をこなし、そして転生した。
「~♪」
深舞が鎮魂歌を口ずさむ。
私は舞を踊る。
これは弔いの儀。
どうか来世は、彼らに幸あらんことを。
繰り返される生死の中に、希望の光が差すことを願って。
“貴方に捧げる弔いの儀”