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始祖竜さんの言葉

どのくらい時間が経ったのだろう?

時計も無ければ窓も無い灰色の空間。

外に出る事も叶わなければ、話す人も居ない。

時間を教えてくれるものが何一つ無い閉鎖空間。


過去この魔障壁に囚われた闇魔法使いの皆さんは、精神的にどれ程追い詰められたのだろう?

私にはまだ毒ちゃんが居てくれるから、気を紛らわすことが出来ているけれど。


「毒ちゃん、今何時くらいかしら?」

『我の身体の中に時計は無い』

「そう言えば、ずっと食べていないけれどお腹が減らないですね。毒ちゃんも今はカエルさんなのだから、何か食べないと怠くなったりしないですか?」

『我はカエルではない!』

「でも、そのカエルさんの身体を維持するためには虫とか何かを食べないと辛いんじゃないのかな、と」

『そうだとして、ここに昆虫が居るのか?』

「デスヨネー」


ベッドで大の字になり溜息を吐く。

両手を上げて掌を開いてみる。

ほとんど痺れは消えて、身体を動かすことに支障は無くなっている。

皇帝の魔眼で動けないまま殺されるかと思ったが、そのままこの空間に放置され続けている。

奴は何を考えているのだろうか?

ただ、そう遠くない将来、殺される予定はほぼ決定なのだろうけれど。


ジークさん、ゼルさんの上着に刺した髪留めさんに気付いてくれたかな?

ゼルさんがジークさんと会わなければ、或いはゼルさんがあの軍服を着替えたりしちゃったら、髪留めさんに気付いてもらえない。

服の裾ではなく靴に差し込んだ方が良かったかな?


今、こうしている間に、皇帝は私を餌にジークさんを誘い出しているのだろう。

ジークさんの目の前で私を殺し、彼を怨嗟竜に変えて世界を破壊するのがイカレタ皇帝のシナリオの筈。

囚われた私は、どう迎え撃てばいいのか?


ここから逃げ出せれば、それが一番だ。

だが、それは出来そうにない。

ならば、死ななければ良い訳で。


「死なない方法ってありますかね?」

『我のように精神体になればよい』


飛び跳ねて枕元に着地した毒ちゃんは、簡単だとばかりに即答した。


「でも、身体が滅んだりしたら、今の毒ちゃんのようにカエルやらトカゲやらに入り込んじゃったりするんですよね?それってヤですよ」

『ルナも一度この身体(カエル)を経験しておくといい』

「私、自分の身体が好きなので、この身体を大事に生き延びたいんです」


カエルやトカゲに入ってしまったら、美味しい人間サマのご飯が食べられない。

それに、これ以上小さくなったらジークさんにうっかり踏ん付けられてしまうかも知れない、涙。

クロの非常食にされる可能性もあるだろう・・・汗。


「毒ちゃんも昔はドラゴンさんだったんですか?」

『我は生まれた時から精神体だ』

「私がお会いした精神体は竜毒さん1号に、毒ちゃんに、うーん、始祖竜さん?も?かな?」


ナントカ神殿の魔法陣の中に、無理矢理ジークさんに立たされて見た光の渦。

あの中に現れた虹色の荘厳な竜の顔。

・・・そう言えば、彼は何か言っていたな。

ジークさんは、始祖竜さんは私にだけ話しかけていたと言っていた。

彼は何と言ったのだろう?


そして、見ることは叶わなかったけれど、過去に渡って竜牙剣を自分に突き刺した時、始祖竜さんの声が聞こえた。

最初は聞き取れなかったが、魂に竜牙剣を刺せば・・・ナントカカントカ言っていたような・・・??

最初に会った時と同じ言葉だったのだろうか?


『お前、始祖竜にも会ったのか?』


・・・お前だと?


私は左指で毒ちゃんの狭い眉間を弾いた。


「毒ちゃんは一度昇天しないと、その言葉が頭の中から消えないようですね?」


弾かれてベッドの下まで飛んで行った毒ちゃんは、呻りながら再び枕元に飛び乗った。


『始祖竜と相まみえる機会を許される人族など、聞いたことが無い』

「それって良い事なんですか?」

『始祖竜こそ肉体を捨て、竜族の安寧の為に悠久の時を生きる事を選んだ我々竜族の根源だ。その貴き存在を拝める栄誉など、早々与えられるものではない』


何だか前世のアイドルや推しを絶賛する女子のような発言だ。

毒ちゃんがミーハーに見える、笑。

毒ちゃんだって竜毒さんだ。

威厳があるだろうに、カエルさんの姿に敬語を使うのもどうかと思うほど、偉い存在に見えなくなってきた、笑。


「毒ちゃんは会った事無いの?」

『我はこの世界に生まれてまだ300年だ。年若い我では会う機会など無い』

「え?300歳?随分お年寄りなカエルさんなのね」

『だから、我はカエルではない!』

「毒ちゃんも、始祖竜さんも、同じ精神体なのでしょう?どこが違うの?」

『我らは人族の器の中で初めて、竜の魔力を紡ぎ出すことが出来る。・・・まあ今回、他種族の器にも入る事が出来ると初めて知ったがな』


金のカエル眼を眇めて、毒ちゃんは私を一瞥した。

毒ちゃんがカエルさんに入ったのは不可抗力なのに、やっぱり根に持っているようだ、笑。


『だが、こうして分かった事と言えば、人族以外の器では、我々は何の力も生み出せない無力な存在に過ぎないという事だ』


不貞腐れたように俯く毒ちゃんが少し可哀想で、けれどもやっぱり可愛くて、私は指の腹で小っちゃな頭を撫でた。


『しかし、始祖竜は違う。竜族と縁あるものであれば、それが無機物であっても彼の意志で宿ることが出来るのだ』


ほう、そりゃあ便利だ。

木や土どころか、服やお家にだって宿っちゃうのか。

まあ、縁が無いと駄目なのだろうけれど。


「常に何処かに宿っているの?」

『我らのように、常にひと処に留まっているのでは無い。何処に居るのかは我らにも分からん』

「ナントカ神殿で召喚みたいな儀式で現れたけれど?」

『それとて、必ず姿を現すとは限らん』


ふむ、会えたのはラッキーだったのか。


『だが、あの森で、皇太子が持っていた竜牙剣に始祖竜の思念を感じたぞ?』

「ずっと剣の中に居たのでは無いの?」

『剣を見る機会は度々あったが、竜牙剣の中に彼の厳かな思念を感じ取ったのはあれが初めてだ』


確かに、あの森で剣を突き刺した時に、始祖竜さんの声が聞こえた。

魂に刺せと。


「そう言えば、毒ちゃんも魂に剣を刺せって言ったよね?あの剣はそういう使い方をするものなの?」

『ルナは時始めの竜眼持ち(ヴァルテン)だろうから、そう言ったまでだ』

「?どういう事?」


ベッドの上に座る私の膝上に飛び乗った毒ちゃんは、得意気に顔を上げて説明し始めた。


『前にも言ったように、時始めの竜眼持ち(ヴァルテン)は、竜の闇の力から生まれた魔法使いであり竜の守護者(ガーディアン)だ。ただの竜眼持ち(ヴァルテン)と違い、竜の魔力との親和が極めて強い。竜の魔力を増幅したり引き出したりすることが出来る』


次第に指まで動かして話し続ける毒ちゃんは、カエルさん学校の先生のようで実に微笑ましい。


『他にも、時空を渡る力があり、現にルナも過去に遡って我と出会ったであろう?あれとて、竜の魔力を使うが故に成せた事だ』


過去に渡った時、バラーさまから借りたお守りが光っていた。

あのペンダントに竜の守りの力が宿っているとバラーさまは言っていた。

守りの力とは、過去に渡ることが出来る竜の力の事だったのか?


「で、どうして剣で魂を刺さなければならないの?」

『怨嗟竜を滅ぼす竜牙剣は闇魔法使いであれば使えるが、更に時始めの者であれば、その親和力次第で多くの効力を引き出すことが可能とされるのだ』

「多くの効力って?」


おお、さすが私、さすがヒロイン!

まさにチート三昧ではないか、笑。

知識豊富な毒ちゃんに興奮気味に聞いてみる。


『分からん!』

「は?」


何ですと?

ここまで語っておいて知らないとな?

持ち上げた後の落とし方が酷い、泣。


『時始めの竜眼持ち(ヴァルテン)の魂に刻まれた願いに始祖竜が応えるのだろうが、剣が魂に触れなければ力は発動せん。そうして、どんな力が生まれるのかは我にも分からん』


始祖竜さんは他にも何か言ったと思うのだが、聞き取れなかった。

むう。

物語とは、何でこう大事な事をちゃんと聞かせてくれないのか?

だが、私が時始めの竜眼持ち(ヴァルテン)というのであれば、竜牙剣で自分をぷすぷす刺せば始祖竜さんの力を引き出せるってチートがあるって事か?

そんな凄い力なら、ガンガン使うに限る。

まあ、その度に自分をぷすぷす刺すのもどうかと思うが、そこは我慢だ。


「ならば、竜牙剣で刺しまくりよ!」


私が拳を握って決意を強くしていると、目の前の毒ちゃんは小さな金眼を半眼にして言った。


『その竜牙剣は、今何処にあるんだ?』


あ?

そう言えば、私、失くしちゃいましたね・・・涙。


『先ずは剣を探さねばな・・・』


私の嫌いな溜息を器用に吐く毒ちゃんが可愛らしくて笑みが溢れる。

毒ちゃんだって元の姿に戻れずがっかりしている筈だ。

溜息吐く輩には容赦なくパンチしてきたが、毒ちゃんにはサービスだ。

殴ることはせずに、私は指の腹で優しく毒ちゃんの頭を撫でた。


っ!?


その時、突然、左眼に針が刺さった様な嫌な痛みが走った。

その眼から連なる糸で前に引っ張られている錯覚が起こり、糸の続く先にあの不快な青白い魔法陣が現れた。


奴が来るのか・・・?!


身の危険を感じて私の掌に飛び乗ってきた毒ちゃんを、私は慌ててドレスの胸元に押し込んだ。

目の前の魔法陣は空間に大きく広がり、一瞬白く強く光った。

光の中心から現れたのは、第一皇子と一緒に居たあの妖術師、いや、妖魔術師だった。


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