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美少女公爵令嬢さん襲来? 1

皇帝のアポ無し訪問の翌日、相も変わらず私は引きこもり部屋で優雅に過ごしていた。

今日も今日とて小僧スタイルで筋トレだ。

いつ何時来るか知れない脅威に備え、体力作りは欠かせない。


そう言えば、ジークさんと大喧嘩の後、やたら体力が漲っていた。

飲まず食わずに加え長時間労働?にも耐え、反動で1日以上眠りこけていたが体調はすこぶる良かった。

ニクスさんが言っていた、あれが竜の力なのか?

ジークさんとの魔力交換で、私も得をしたって事かな?


そんな事を考えていたら、お客様がいらしたと侍女さんから告げられた。


お客?

私にか?

友達すら居ないのだけれど?


「どちら様ですか?」


侍女さんに聞くと、彼女は困った顔をして言い淀んだ。


「それが、・・・グロードン公爵令嬢様なのです」

「へ?!」


お見舞いのお便りを頂いたのはつい昨日の事、お断りの返事をしたのも昨日だ。

返事がまだ届いていないのか?

いや、普通、返信が届くのを待つものでしょう?

公爵令嬢ともあろうお方が、先触れもなく礼儀も吹っ飛ばして政敵の地に乗り込んでくるとは、何か大変な事が起こっているのか?

それとも何だ、昨日の皇帝といい、最近の上流貴族さんたちの間ではアポなし訪問が流行りなのか?

私が考え込んでいると、侍女さんは更に気になることを言った。


「実は、その、・・・お忍びでいらしたご様子なのです」


ますます訳が分からない。

だが、来てしまったものは仕方がない。

そちらが公爵令嬢としての礼を欠いているのならば、こちらも公爵令嬢を迎えたという体は示さず、敢えて立ち寄っただけの方とお会いするくらいの対応で良いのか?

取り敢えず、失礼に当たらない程度のドレスに着替える。


部屋を出ると、扉脇の定位置に立つゼルさんが頭を下げてきた。

今日もお人形さんのような能面顔だ。


「どちらへ?」

「階下にお客様がいらしているようなのでご挨拶に参ります」


私の言葉にゼルさんは難しい顔をした。


「お約束されていたのですか?」

「いえ、突然の来訪です。何か急ぎの要件があるのでしょう」


歩き出そうとすると、ゼルさんはすぐ横について私を制した。


「お待ちください。不審な者やもしれません」

「それではご一緒くださいますか?デンゼルさまもご存じのお方のようです」

「承知しました」


そう、あの毒茶会で美少女さんを尋問に案内していたのはゼルさんだった。

彼は口を引き結んで私の前を歩きだした。

彼の後ろ姿を見てふと思った。

綺麗なサラサラの黒髪だ。

どうやって手入れをしているのだろう?


「デンゼルさまはとても美しい黒髪をお持ちですね。ご両親譲りなのですか?」


私が後ろから声をかけると、ゼルさんはチラッと此方を振り返って答えてくれた。


「両親は共に黒髪ではありません。祖母が黒髪でした」


短く答えるゼルさん。

この人とあまり時間を過ごした事がないから、話題が不快なのか否かよく分からない。


「女性の艶やかな黒髪も美しいですね」


ゼルさんは答えない。

聞こえてないのか、無視されているのか、もう話は終わりって事かな?

話題が無いから黙っていよう、そう思っていたらゼルさんが言葉を返してきた。


「私の姉が黒髪でした」


でした?

過去形?

聞いても良いのかどうか・・・。

気まずいので、もうこの話題は終わりにしよう。


「ごめんなさい、不適切な話題でしたね」


ゼルさんの機嫌が良いか悪いかよく分からんが、取り敢えず謝って終いだ。


「いえ、お褒め頂き姉も喜んでいると思います。黒髪をとても大切にしておりましたので」


もう終いだと思っていたのに、ゼルさんの言葉にしては少し長めの答えだ。

お姉さんを大切にしていたのだね。

その後はゼルさんも無言になった。


階段を降りていくと、執事さんと護衛のアルバートさんがエントランスにある付き人を待機させるためのソファーの横に立っていた。

そのソファーには茶色のフード付きマントで全身覆われている、一見すると性別も分からない人物が腰かけていた。

ただ、背筋の伸びた美しい姿勢で座っているので高貴さが滲み出ている。

私に気付くと音も立てずに立ち上がり、その場で淑女の礼をしてくれた。


「先触れも無く、非礼を承知で参りました。ご無礼をお許しくださいませ」


フードも取らず名も名乗らない事から、人目のつくエントランスでは話せない事だろうと察する。

執事さんとアルバートさんに視線を向けると、お二人ともやや厳しいお顔をしている。

そりゃそうだ。

ジークさんと敵対する筆頭貴族のお嬢さまが単身で乗り込んで来るとは。

うーん、私如きが対応して良いものなのだろうか?


「生憎、本日はご当主でいらっしゃる第三皇子殿下はご不在です。ご用件でしたら、殿下がお戻りの際にお話しになった方が宜しいのではありませんか?」


私も挨拶せずに言いたい事だけを言う。


「本日は第三皇子殿下ではなく、ご婚約者でいらっしゃるヴェルツ令嬢さまにお話があって参りました」


この場で話せと言っても拒まれそうだ。

仕方なく執事さんにお願いする。


「お客さまを応接室にご案内してください」


執事さんがエントランスに続く扉へとご令嬢を案内する。

見ると、壁際にお付きの侍女さんと思しき女性が、不安そうにご令嬢の姿を目で追っていた。

その隣には、お目付け役のジェニファーさんが黙して目を光らせている。

敵陣に女ふたりだけでやって来たのか?

アルバートさんに声を落として尋ねてみた。


「辻馬車を拾って来たようです。護衛の者も見当たりません」


ここは第三皇子殿下の邸宅。

公爵令嬢とは言え無礼であればただでは済まない。

屈強な騎士の冷たい視線にも狼狽えることなく堂々としている美少女さんに、毒茶会で助けていただいた時の気概を思い出した。


「そちらはご令嬢の侍女の方ですね?一緒にお部屋へお通ししてください」


ジェニファーさんにお願いして侍女さんに付き添ってもらう。

女は度胸的な豪胆さを感じ、そんな美人令嬢さんを敵陣にひとり立たせるような対応は逆に失礼だと思った。

侍女さんと思しき女性は私の顔を見て、安堵した様子で深々と頭を下げた。


ご令嬢と侍女さんを応接室に通してソファーまで案内する。

ジェニファーさんにお茶を用意してもらう間、誰も口を開かなかった。


応接室には執事さんとアルバートさん、ゼルさんもいらっしゃる。

皆さん、私の席のすぐ後ろに控えて立っている。

物々しい空気の中、扉が開きジェニファーさんがお茶を運んで来てくれると同時に、隙間から黒い生き物が素早く侵入して来た。


クロは私の足元まで走ってくると、さっと膝の上に飛び乗って可愛らしく小首を傾げた。


「こら、お客さまの前で失礼でしょう?」

『ご主人さまにルナを守るよう言われてるよ』


周りにはにゃーとしか聞こえていないクロの言葉に、胸が温かくなる。

ありがとう、クロ。

ありがとう、ジークさん。


「いい子ね、大好きよ」

『えっへん!』


クロを撫でながら正面に座るご令嬢を見る。


「この部屋には第三皇子殿下の信厚い者しかおりません。どうぞフードをとってお話し下さいませ」


そう言うと、ご令嬢は茶色の大きなフードを後ろにずらし、濃い金色の髪に縁取られた白く小さなお顔を拝ませてくれた。

深い青の瞳は凛として私の視線を捉え、固い決意が見てとれる。

潔さが美しさに拍車をかけ、魅入ってしまうと同時に口元が緩みそうになる。

いかん、いかん。

美人さんと言えど、ここは下手に出てジークさんやお屋敷の皆さんに迷惑をかける訳にはいかないのだ。


「お力添えを頂きたく、グロードン公爵家次期当主としてお願いに参りました」


何だか私の小さな脳みそでは理解し難いワードがありましたが?

腹芸が不得意な私の頭に、淑女の鑑マイヤー先生のお言葉が浮かぶ。


『受け答えに迷う時は不用意に発言せず、相手に話をさせる事です』


私は公爵令嬢さんの言葉に是も非も言わず、笑顔を向けて目の前の美少女さんを見つめる。

美少女令嬢さんにニッコリ笑いかけ、黙ったまま先を促した。

緊張しているのか、公爵令嬢さんは一度唇を引き結んでから口を開いた。


「先日の第一皇妃さまの騒動以降、皇妃さまのご生家であるディルナー公爵家の力も失墜し第一皇子殿下の資質にも異を唱える声が貴族から上がっております。我がグロードン公爵家は長子である私が第一皇子殿下と婚約し、殿下をお支えする家門として仕えて参りました。ですが、我々は今回の騒動以前から第一皇子殿下の素行に疑問を抱いており、そんな中で今回の事件が起こりました。グロードン家一族は、今、岐路に立っております。このまま第一皇子派として残れば、我々の勢力も弱体化するのは火を見るより明らか。であれば、我が一族の取るべき道は一つ、第三皇子殿下を皇位に擁立することです」


若くて美人さんなのに、一族の命運を束ねる姿勢は素晴らしい。

だが、しかし。


「今のお言葉がグロードン家の総意であるならば、ますます第三皇子殿下にお話しすべき内容ではございませんか?」


何故、私に話すのか?

美少女公爵令嬢さんは、眉尻を下げて言いにくそうなお顔をした。


「・・・第三皇子殿下には貴族の大きな後ろ盾がございません。そこで、・・・我がグロードン公爵家が殿下をお支えしたいと考えております」


ほう?

どうやって・・・、あー、なんか読めてきたぞー。


「私との婚姻をもって第三皇子殿下の後見を務めさせていただきたいのです」


その言葉に、周りに居た皆さんの空気がピシっと音を立てひび割れたようだった。


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