クセポ爆売れ、そして
連日の更新は大変なのですねー。
そしてその日は、あっさりとやって来た。
そう、クセポ爆売れである。
リンダと痩せたワンちゃんにクセポをあげたあの日以来、週末市に出店する度に売り切れるのだ、クセポが。
どうやらリンダは母親にクセポを飲ませてくれたようで、その回復ぶりが話題になって露店に列が出来るようになったのだった。
実演販売こそ出来なかったが、狙っていた口コミが効を奏したのだ。
やっぱり徳を積めば幸せが還ってくるものなのね。
作る数を順調に増やしてはいるのだが、ひとりで作るのには限界がある。
これからは、質を落とさず量産も考えないといけない。
とは言え、他の人と一緒に作れば闇魔法使いだとバレてしまう。
暫くは、このまま限定販売で通させて貰おう。
そんなある日、週末市に自慢のクセポを携えてやって来ると、既に店先にはお客さんが列を成して待っていた。
おや?
よく見ると、女性ばかり、然も皆さんお若い。
先週までのお客さんは老若男女、特に偏ってはいなかったのだが?
準備を終えてお客さんに開店を告げる。
同じくらいか少し上くらいの歳と思われる女性たちが、クセポを手にお金を渡してくれる。
「これホントに凄いわよねー。病気だけでなく縁結びまでしてくれるなんて、どれだけ万能なのかしら」
「キャサリンなんて、狙っていた鍛冶屋の息子と一緒にクセポ飲んだら、すぐに告白されたそうよ」
「えっ!あのイケメンに?!くやしーっ!先を越されたわ!」
えっ?
そうなの?そんなご利益あったの?
作った本人、そんな力があったなんて知らんのだけれど・・・汗。
クセポを買ってくれたお嬢さん方に恐る恐る聞いてみた。
「あのう、このクセポを飲んで恋愛成就できた方って、そんなに沢山いらっしゃるんですか?」
「「「そうなのよ!!」」」
お嬢さん方は声をそろえて興奮した様子で話を聞かせてくれた。
何でも、最初は飲むものとしての認識だったこのクセポ、ひょんなことから手に付けたら手荒れが良くなり、そのうち顔に付けたらまたこれがツルツルになったとか。
下手な化粧水よりも効果があると女性の間で評判になり、ついには飲めば美しくなれるのではと病気でもないのに飲んだところ、意中の男性から告白されるようになったのだとか。
その数およそ十数人。
うーん、単に偶然が重なったような気がしないでもないが、客層が増えることは喜ばしい。
作用機序は全く不明だが、この際、売れるだけ売ってしまえ!
こうして1年、クセポを作れるだけ作って売るという、なかなか充実した日々を過ごしていた。
自分としては効果の持続を短くしているつもりなので、それこそ付き合い始めたのにすぐ破局・・・なんてことになったら悪評がたつのではとびくびくしていたのだが、そんな噂はたたずクセポの売れ行きは順調だった。
今日も週末市で予定量のクセポを完売させた。
ほくほくでお店を仕舞う準備をしていた時、突然、左眼の奥にジリっと焼けるような感覚があった。
痛い様な重い様な感じ、何だろうコレ?
瞼を擦っていると、近くにひとりの黒いフードを被った男の人が目に入った。
男性は声をかけるでもなく無言で私の作業を見ていた・・・様な気がした。
と言うのも、フードのせいで全く顔が見えないけれど強い視線を感じたのだ。
何だろう、クセポが欲しかったのかな?
お店を閉めているのを見て、声をかけづらいのかな?
片付けを中断して声をかけてみた。
「あの、何か?」
身長が高く、フードから伸びるブーツを履いた脚は長く筋肉が付いている。
男性だとは思うのだけれど、フードをすっぽり被っているため若いのか年寄りなのかよく分からない。
「ポーションを作っているのはお前か?」
おお、声は男性だ、比較的若そうだ。
だが、まったく顔が見えない・・・何だか怖いんですけど・・・。
真意も分からなければ顔も分からん相手に、下手に個人情報を与えるのは憚られる。
クセポで何か不味いことでも起きたのだろうか?
「クセポで何か不都合な事が起きたのでしょうか?」
質問には質問返しだ。
「いや。ただ、どんな奴が作っているのかと思ってな」
「貴方もポーション職人なのですか?」
「いや。ただ、興味があるだけだ」
「残念ですが、本日分は完売してしまいました。また来週お並び頂けますか?」
「いや。もう手にしている」
男性はそう言うと、フードの腰当たりからクセポを1本取り出して見せた。
おおー、買ってくれていたのか、良か良か。
「お買い上げありがとうございます。またのお越しをお待ちしております」
営業用スマイルを顔に張り付け、店仕舞いの作業を再開する。
「折角来てみれば、相変わらず自分以外は興味が無さそうだな」
うん?
以前に会ったことがあるのか、この人と?
あ、クセポはここでしか売っていないから、その時に会ったことはあるか。
それにしても、失礼な物言いだな。
お客さんには愛想良くしていたつもりだが、こちらにずかずか入り込むお客さんの方こそマナー違反では?
「今日はもう店仕舞いです」
「ああ。だから待っていた」
「は?」
「お前と話をしようと思ってな」
「クセポについては企業秘密なので、お話できることはありませんよ」
「ポーションについてでは無い。お前についてだ、ルナ」
その言葉に、私は固まってしまった。
身バレの第一歩は名前からだ。
念願叶って乙女ゲーから降りたのに、些細なことからゲームに復帰してたまるか。
だからこの一年、週末市に通ってからというもの、自分の名前は一度たりともお客さんに教えたことは無い。
露店でマリアンヌやグラントと一緒にいた時でさえ、彼らは私を名前で呼ぶことは無かった。
なのに何故、この男は私の名を知っているのだろう・・・?
もしや、攻略対象者がゲームの強制力とやらの超能力で私の居場所を突き止め、ストーリーの中に無理やり戻そうとしているのか?
しまったな、呑気に一年楽しく過ごしていたから平和ボケしていた。
18歳までは、常に最悪の事態を想定していなければならなかったのに!
フードの奥の男の眼が光ったような気がした。
見えない男の視線から眼を逸らさないようにしながら、視界の中で助けてくれそうな人物を探る。
最近は一人でクセポを売りに来ているので、マリアンヌもグラントもここには居ない。
視界の中で動いているのは、小さい子供を連れた女性と老人だけだ。
とても、目の前の男をのしてくれそうな屈強な男性は見当たらない。
むー。
おっ!そういえば、ポケットに腐り玉を入れていた。
バートン家の館と市場はそれほど遠くないものの、夕方になれば薄暗いし人通りも少し寂しくなってしまう。
不審者が現れる可能性もあるからと、グラントが持たせてくれていたものだ。
ついにコイツを使う時が来た。
この男が何者なのかは後回し。
ここで捕まってなるものか!
私は男から後退りながら、スカートのポケットに右手を突っ込んで腐り玉を掴んだ。
フードで見えないが、そこにあるであろう男の眼を睨む。
「貴方は何者です?何故その名を知っているのです?」
「他ならぬお前が俺に教えたでは・・・」
男が言い終えぬうちに、掴んだ腐り玉を男の顔めがけて投げつけた。
その後の事など見届けている余裕は無い。
逃げるが勝ちだ。
後ろを振り返りもせず両手で耳も塞いで、ひたすら走って逃げた。
順調にいっていたクセポ販売も今日で売り納め。
平和だった私の楽しいクセポ製造生活よ、さようなら。
あぁ、また逃亡計画を練り直さなければ・・・とほほ。
お読みいただきありがとうございます♪
週末はお休みして、週明けからまた次話を掲載していきます!