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不思議猫のクロちゃん(1)

それから1ヶ月経っても、相変わらず魔法陣で封印された室内で監禁生活を送っていた。

部屋でずっとゴロゴロしていたので、体力もちゃんと回復してきた。


乙女ゲーのヒロインだったら、この辺りで『もう私には無理ー』とか言ってフラフラ出てって、そんでもってまたノコノコ悪漢に捕まるって鬱陶しいパターンだよね。

だったら引き篭もっとれーってね。

私、引き篭もり好きなので、そんなお馬鹿なヒロインと同じことは致しません。

まあ、退屈になってくると外に出たくなるのは分かる。

しかし、楽しみが有ればずっと部屋に居ても何ら問題はない。

前世の夏休みは、ひとり引き篭もってスナック菓子片手に徹夜でテレビゲームしてましたから。

それに、外には妖術師の脅威もあるのだ。

それこそノコノコ外に出て行くなんてするもんか。


ジークさんは凄く忙しそうだが、毎日私の様子を見に来てくれている。

最近は部屋の扉を使わず魔法陣を使って訪れるので、そのうち扉が錆びて開かなくなるのではと心配になる。


しかし、妖術師から逃れるためとは言え永遠に篭るわけにもいかないし、一体いつまでこうしていないとならないのか?

以前、街に出た時に身につけていたシャツにズボンの格好で腕立て伏せをしていると、ジークさんの来訪を告げるお馴染みの左眼の疼きが起こった。

魔法陣から現れたジークさんは仕事着の軍服姿だった。

私を見るなり深くなった眉間の皺が、今日も彼は通常運転中だと教えてくれている。


「床で何をしている?」

「体力づくりです」

「その格好でか?」

「ドレスだと汚れてしまうので、街の小僧スタイルの方が動き易いですから」


ジークさんは無表情だ。

男の格好しているのが気に入らないのか?


「・・・また逃亡を企てているのではあるまいな?」


あ、私が逃げようとしていると疑っていたのかー。

信用ないなあ。

取り敢えず、今は逃げませんよ?

妖術師と竜毒さんのお仕置きが怖いので。


「時期が来たら考えます」


私の答えが不正解だったのか、ジークさんの眉間の皺が増えた。

じっとジークさんは黙ったままだ。

む?

何か面白くない事でもあったのかな?

すると、案の定、面白くない事この上ない無愛想な顔でジークさんは口を開いた。


「討伐の命が下った。数日の間、帝都を離れる」

「討伐?」

「辺境の地ガレオンで魔族による被害が出た。皇帝の勅命で俺が討伐の任にあたる」


成る程、面倒臭そうだ。

怪我しないように気を付けて行ってらっしゃーい、と思っていたのだが、良く考えてみたらちょっとマズイのでは?

私の顔色が不安気になったのが分かったのか、ジークさんは溜息を吐いて私の頭に手を乗せた。


「大丈夫だ。不測の事態に備えて、ルナには護衛を付けていく」

「それは有難いのですが、ジークさんと離れてしまうと竜眼持ち(ヴァルテン)の力が発揮できないのでは?」


ジークさんは私がそう言うとは思わなかったのか、金眼を見開いて私を見た。

そりゃあ妖術師はおっかないが、もっと怖いのは竜毒さんとの契約不履行だ。

ジークさんと離れてしまっては、彼の肩代わりが出来なくなってしまう。

ジークさんの代わりに私の生命力を差し出さないと、竜毒さんに何をされるか分かったものではない。

一瞬で魂を抜かれてあの世逝きーなんてごめんだ。

そう考えると、一体いくつの死亡フラグが私の頭に突き刺さっているのだろう?

自分がこの世界の歩く死亡フラグ剣山のような気がしてならない、涙。


「アーノルドを付けていく。何か有れば奴に言え」


ジークさんはそう言ってくれたが、私の懸念はそこではない。

何とかジークさんと行動を共にしなければ、竜毒さんからどんなお仕置きをされるのやら。

だがしかし、竜毒さんと交わした契約をジークさんに話すことは出来ない。

今度は、それを知ったジークさんからのお仕置きを心配しなくてはならなくなる。


「ジークさんと一緒に行ってはダメですか?」


ダメもとで、ちょっとヒロインぽくジークさんを見上げながらウルウルしてみた。


「却下だ」


はい、予想通りの瞬殺でした。

うーん、やっぱり私にはヒロインの才能が無いらしい。

ジークさんは半眼で、何を馬鹿な事を言っていると顔に書いてありそうな表情だ。

むう、乙女のお願いを無碍にするとは女心の分からぬ御仁だ。

だから俺様イケメンって嫌なんだよ。


「ドラゴンさんを守ると決めたのに、ジークさんに何かあったらドラゴンさんにも何か起きてしまうじゃないですか。心配でここに居られません」

「・・・俺もドラゴンも同じ存在だ。複雑な言い方をするな」

「私の中では別人格です」


キッと睨めば、ジークさんは指で眉間の皺を解していた。

もうこれ以上は、さすがのジークさんの眉間も皺を刻むスペースが無いらしい。


「討伐中にまた竜毒さんに生命力を吸われたらどうするんですか?体調悪くなったら討伐どころじゃなくなります」


ジークさんは私の言葉を無視して、魔法陣に向き直ってしまった。


「とにかく駄目だ。大人しくここに居ろ」


それだけ言うと、魔法陣の中に消えて行ってしまった。

人の話を聞かないワンマン気質に殺意を覚えるものの、自分の命がかかっているのだ、ここは冷静になろう。

物理的にこの魔法陣は私が通れるものなのか?

力技で壁を破壊すれば良いのか?


「ねえクロ、私にここの魔法陣は使えるかしら?」

『ご主人さましか使えないよ』


振り返って、ベッドで丸くなっていたクロに問いかける。

さすがは腹黒美人、隙が無い。


「どうやったら外に出られるかしら?」

『ご主人さまを追いかけるの?』

「うん、どうしてもジークさんの側に居たいの」


ベッドでひとつ伸びをした後、軽い身のこなしで床に座る私の元まで来たクロはこてっと小首を傾げた。


『ルナはご主人さまが好きなんだね』

「いや、そうでも無いよ」

『・・・』

「どちらかと言うと好きでは無いけれど、ジークさんを助ける契約しちゃったからね」


クロは残念そうに溜息を吐いた。

溜息を吐くクロちゃんは何だか可愛いから許してあげよう。


『ご主人さまが不憫だな』

「?どうして?」

『ルナ相手じゃ事は簡単でないってこと』


クロの言っている意味が分からない。

まあ、この通り、私は一筋縄ではいきませんけど?


「で、ジークさんに追て行く良い方法あるかしら?」


クロの青い綺麗な目と視線を合わせる。

その瞳にじーっと見つめられると、吸い込まれそうで少し目眩を覚えた。


『あるけど、後でご主人さまに怒られても知らないよ?』

「ドラゴンさんの為だもの、覚悟するわ」


その言葉を聞いたクロは、器用に口角を上げた。

ご主人のジークさんと同じ意地悪そうな笑みを浮かべたクロを見て、私は少し背筋が寒くなったのだった。


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