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竜毒さんと狂人化の呪いとジークさん

重い瞼を上げると、収監部屋のベッドの上だった。

瞼を上げるのが精一杯で、身体を動かしたり声を出すなんて以ての外、視線すら動かすのが難しかった。

一言でいうと、とにかく非常に怠い。

自分の身体が何ひとつ言う事を聞かない、そんな感じだ。


「気分はどうだ?」


ジークさんの声が左から聞こえてきた。

頑張って左に視線を動かそうとするが、怠くなって目を閉じてしまった。


「無理をしなくていい」


ジークさんの言葉に有り難くそうさせて貰う。

目を閉じたままでいると、ジークさんの手が額に触れた。

前もこんな事があったな。

あの時はジークさんに、無理矢理ナントカ神殿の魔法陣に立たされて体力を消耗した。

でも今回は、自分から竜毒さんと契約して自身の生命力を吸われた、謂わば自業自得だ。

それを知ったら、お前レベルが烏滸がましいとジークさんがブチ切れそうで言うに言えない、とほほ。

いや、もう既に分かっているかも知れない。

そうだとしたら、目が合った瞬間に怒鳴られるかも、汗。


どう言い訳をしようか考えていたのだが、そうしている間もジークさんの手はなかなか額から離れない。

意を決して、それでも恐る恐る瞼を開けると、そこには眉間に物凄く皺を寄せたジークさんの顔があった。

本当に驚いたのだが、今まで見た事のない心配顔だった。

少し後悔しているような、後ろめたいような、まずジークさんが見せたりすることが無いだろう顔だった。


「何処か痛むか?・・・苦しくはないか?」


真剣に私の身体の心配をしてくれているようだ。

怒っていない、つまりは、私が交わした竜毒さんとの勝手な契約については知らないと言うことかな?

ちょっと安心したのだが、直ぐに別の不安がよぎった。

私の生命力ってジークさんの身代わりになれる程あるものなのか?

私の生命力が尽きたら、結局はジークさんの生命力を奪う事になる訳で、大した時間稼ぎにならないかも知れない。


「ジーク・・・さん、は、へ、いき・・?」


何とか頑張って声を出してみたが、小さな掠れ声しか出せず息が続かない。

疲れてまた目を閉じる。


「ああ、俺は大丈夫だ」


ジークさんの体調は悪くないのか。

竜毒さんはちゃんと約束を守ってくれているようだ、良か良か。


「ルナ、もう二度と竜毒に触れるな」


私の額にあったジークさんの手は、私の頬に下りてきて指先が優しくこめかみを撫でている。

再び目を開けると、眉間の皺はそのままに、ジークさんの顔は少し辛そうに見えた。

首を横に振りたいが動かすことが億劫で、私はじっとジークさんの金の瞳を見つめていた。

竜毒さんに触れたくないのは山々ですが、ジークさんの代わりに生命力を差し出す契約しちゃったのでその命令は聞けないのですよ、ふう。


「りゅう、どく、さんに、ついて、教えて・・・」


一息で話したいのに、呼吸が続かないくらい身体の力が弱っている。

私の貧相な状態を憐れに思ったのか、ジークさんは何だか泣きそうだ。

うーん、あの腹黒美人をここまで追い詰める、私のこの見窄らしさは中々のものだな。

眼を逸らさずジークさんが口を開くのを待つ。

話を聞くまで寝ないぞという私の意志の強さを感じとったのか、ジークさんは久しぶりに溜息を吐いて話し始めた。


「竜毒は俺の生命力を喰って俺に竜族の魔力を与える。俺の意志とは関係無くな。竜族の魔力は強大だ。その魔力を持ち続ける為に、器となる身体も強靭でなければならない。だが、生命力を吸われ続ける器は徐々に弱体化し、魔力を維持できず魔力暴走からついには狂人化する」


「きょうじ、ん、か・・・」


以前、ドラゴンさんが言っていた竜族が与えた人族への呪い。

不穏な単語に、つい声を挟んでしまった。


「怨嗟竜だ。・・・一度は俺も、あの化け物となった」


私のこめかみを摩っていた指の動きが止まった。

その時のことを思い出しているのか、ジークさんは苦しそうな顔をした。


「怨嗟竜となってしまえば自我は消える。そこにあるのは本能だけだ。内なる本能のままに世界を破壊する。一度、怨嗟竜となれば封印するのは難しい。怨嗟竜に通常の剣や魔法は歯が立たないからだ」


でも、ジークさんは元に戻りましたよね?

私の不安そうな顔を察してか、ジークさんは続きを話してくれた。


「俺を元に戻したのは、ターバルナの大神官が振るった聖剣だった」


ジークさんの金眼が揺れた気がした。

ジークさんを育ててくれた人。

その人は、どんな思いでジークさんに剣を振るったのだろう?


「聖剣はそれまで怨嗟竜には無効とされ、狂人化する前のルシュカン皇族に用いられてきた」

「?・・・もち、いる?」

「狂人化する可能性のある者を、狂人化する前に、つまり怨嗟竜となる前に予め殺してきたのだ」


え?!

罪を犯した訳でも無いのに?

手に負えなくなる前に殺すの?

可能性があるってだけで?

狂人化しないかも知れないのに?

・・・酷すぎる。


「ルシュカン皇族は生まれて直ぐ降竜の儀を行う。表向きは誕生を祝う儀式だが、実際は強い竜の魔力を受け継ぐ者に印を付ける事が目的だ。将来、狂人化する可能性のある抹殺対象がここにいるのだとな」


そう言えば、皇室図書館の司書のマーシャルさんが言っていた。

竜の魔力を強く持つものには、身体の何処かにドラゴンの痣が現れると。

それは、怨嗟竜化する可能性のある者のことだったのか。

ジークさんにもあるって事なのかな?


「死竜紋と呼ばれるその印を持つ者の運命は、ふたつに一つだ」


ジークさんは淡々としていたが、その様子は、どこか諦めているかのような感情の無い冷たさだった。


「竜毒に生命力を喰われて死ぬか、発狂して怨嗟竜となり世界を滅ぼすか」


それがジークさんの運命なの?

これが乙女ゲーのストーリーなの?

・・・ブラック過ぎる。


私が盛大に眉間に皺を寄せているのを見て、ジークさんは私の頭に手を置いて撫ではじめた。


「俺に死竜紋は無い。俺は妾腹の子であるが故に降竜の儀は行われなかった。だが、そんな印が有ろうと無かろうと、俺の存在が危うい事に変わりは無い」


それでも、怨嗟竜となっても封印できたじゃないか、聖剣で。


「聖剣、あります、よね?」


力を振り絞って言葉にすると、ジークさんの金眼は少しだけ優しさを含んでいるように見えた。


「あれは本来、怨嗟竜化する前の皇族を殺す為の剣だ。あの時何故、あの剣で怨嗟竜となった俺を戻すことが出来たのか、バラーでさえ分からないという」


大神官さまでも分からないのか。

謎すぎる聖剣。

ほんと、暗いなこの世界。

乙女ゲーの世界なら、もっと明るくなければ売れないと思うのだけれど。

む?

バッドエンドなら真っ暗すぎても仕方ないのか?涙。

全方位型死亡フラグのど真ん中で、どうせ死ぬならジークさんを呪いから解放してあげてからこの世界とお別れしたい。

今世とはご縁が無かったということで、早々に次の世界に転生したいものだ。

次は、死なない程度のモブキャラでお願いできれば幸いです、はい。


そうと腹を括れば、何か方法がある筈だ。

そりが合わないヤツとは関係を断つのが一番だ。

よって、竜毒さんとジークさんの関係を断つ方法が見つかれば万々歳だが、竜毒さんは無いと言った。

ならば次なる手は、不仲なヤツだが仲良くするしかない。

竜毒さんと仲良くなるには、貢物ならぬ生命力を与え続ければ良いのか?

人の一生分の生命力を与え続けられるような生き物っているのか?


「りゅうどく、さんと、仲良くする、には・・・?」 


ジークさんの金眼が少し驚いたように拡がった。


「本当にお前は、面白いことを言う・・・」


ジークさんは私の言葉が子供の戯言のように聞こえたらしい。

子供をあやすように頭をゆっくり撫でられた。

むぅー、私、真剣ですけど?


「竜化すれば同胞と見なされるのか、竜毒は俺の生命力を奪おうとはしてこない」

「竜化?」

「お前が言うところの『ドラゴンさん』だ」

「怨嗟竜と、違う・・・?」

「怨嗟竜は、魔力暴走の果てに自我を失い破壊の限りを尽くすバケモノだ。一方で、竜化は自身の意志で竜に変化し自我を保つ事ができる、似て非なるものだ」


ほほー、さすがはヒーロー、ジークさん。

そんなことも出来るのですね。


「竜化できるようになるまでは、竜毒を抑えるために光魔法の浄化儀式を頻回に受けねばならなかった。竜化によって、その回数は減り心身ともに安定したかに思えた」


なら、愛しのドラゴンさんに四六時中なっときゃ良いのでは?

私も、ジークさんもお互いハッピーではないですか。


「だが、事はそう簡単ではなかった。竜化が長ければ、それだけ竜の魔力が蓄積され続ける。竜化出来たとして、所詮は人の身体だ。例え竜の姿形をとっていても純粋な竜族ではないため、膨大な魔力を受け入れる器としては不相応なのだ。魔力を制御できず、結局は魔力暴走から怨嗟竜化の引き金となってしまう」


むうー。

人でいると竜毒さんに生命力を奪われ、竜でいると増えすぎた魔力を持て余して魔力暴走の果てに怨嗟竜化する・・・どちらに転んでもバッドエンド。

八方塞がりとはこの事かー、ガクっ。

ジークさんも、私に負けず劣らず死亡フラグを背負い込んだお人だ。

愛しのドラゴンさんを出し惜しみされていたのは、竜の魔力が強まることを危惧してのことだったのか。


「結局は、竜の魔力を浄化・相殺する光魔法による封印の儀を受けるしかない。俺の内なる闇属性の竜の血脈に、相反する光魔法が流れ込むことは苦痛でしかない。だが、竜毒に生命力を吸われる苦しみとは比べようもない」


竜毒さんがジークさんを苦しめる根源ならば、仲良くできる方法を見つけたいものだ。

けれど、見つかるまではジークさんの、いや、私の生命力が喰われていく訳で、竜毒さんにお裾分け出来るよう何処からか調達せねばならない。

でも、竜毒さんへ生命力のお裾分けが無理ならば、溜まってしまった竜の魔力を減らせば良いのでは?


「・・・ジークさん、竜の・・・魔力、みせて・・・?」


竜族も私と同じ闇属性だ。

竜の魔力が器に入りきらないのならば、発散したらダメなのかな?

お屋敷吹っ飛んじゃう?

でも、みんなが想像するのと違い、闇魔法ってとても柔らかくて温かい力なんだけどな。

だから、ジークさんの持つ魔力も、もしかしたらそうかも知れない。


・・・なんてヒロインっぽく甘々に考えていたが、やはり現実は世の中の皆さんの想像通りだった。


「・・・後悔しても知らんぞ」


そう言うと、ジークさんの全身から陽炎のような揺らぎが立ち昇り、竜毒さんに似た赤黒いドラゴンの巨大な顔の形を作ったと思った瞬間、地下から地震のような地鳴りと共にお屋敷全体が揺れ始めた。


うへっ!


ベッドに横たわる私でも分かるほど窓の外が青白く光り、やがて何処か遠くの方でドンっという爆発音が聞こえた。


ひーっ!


恐る恐るジークさんのお顔を見上げれば、口角を上げた意地悪顔がそこにあった。


「愚か者の集う館が吹き飛んだな」


あの、私、ほぼ病人だと思うのですが、そんな人間を目の前にして随分過激な事してくれますね?

心臓止まったらどうしてくれるんだ。


「この程度の魔力放出では、狂人化の歯止めにはならない」


何処か遠くのお屋敷を吹っ飛ばしておきながら、ジークさんは大した事ないと素っ気ない。


え?

マジですか?

この世界をぶっ飛ばしてしまうくらいの勢いでないと、スカッと魔力ゼロに出来ないって事?

何だかこの世の最終兵器みたいだな。

これじゃあ世界が幾つあっても足りないよ・・・汗。

ははは、溜まった魔力の発散計画ってのはナシで。


名案は浮かばず、結局はなけなしの生命力を竜毒さんに差し出すのかと私は項垂れたのだった。


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