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〜 ジーク編 5 〜

「腹黒ヒーロー登場」後のジーク視点です

「ジークバルトよ、其方の選んだ婚約者を連れて参れ」


呼び出しに仕方なく出向くと、和やかな表情で皇帝はそう告げた。


彼が俺に向けてくる視線はいつも同じだ。

表情こそ柔らかいが緑の深い瞳は仄暗く、得体の知れない深淵さを感じる。


側から見れば、仲の良い親子に見えているのかも知れない。

隠されて育った俺を探し出し、俺を産み虐待してきた巫女を幽閉した。

果ては第三皇子として迎え入れ、俺の名誉を回復させた。

皇位継承権返上も聞き入れず、婚姻も相手を好きに選べと言った。

力の無い俺に、軍の要職さえも用意した。

何故、良い父親のフリをしたがるのか?

この男の真意が分からない。

ただ、分かるのは、そこに温かさが無いだけだ。


第一皇子に皇統を継ぐ資質が欠けている事は分かる。

一方で、政局からすれば、経験も後ろ盾も無い俺が皇帝の座に就ける筈もない。

この期に及んで、俺を第一皇子の当て馬にでも仕立てる気か?

だが、悪戯に貴族内に波風を立てれば国が揺れるだけだ。

この男がそこまで愚かだとは思えない。


何れにせよ、この男が俺に近付く目的が分からない今は、同調も拒絶も得策では無い。

一家臣として、表立った行動は控えるべきだ。

夜会など全く興味は無いが、下命とあらば不快な連中と顔を合わせる事も耐えねばならない。


きっと嫌がる・・・。


案の定、夜会の招待にルナは大いに嫌がった。

田舎で育った娘なら煌びやかに見えるまやかしの世界に魅力を感じるのかと思ったが、全く逆だった。

体術や剣には興味を示すが、ドレスにヒールを見ると逃げ出そうとする。

室内ではズボンを穿いて訓練しているらしい。

変わった娘だ。

年頃の娘からは凡そ離れ過ぎている。


ダンスの出来を確認すれば、出来の悪さに驚くほどだ。

これだけ近くにいる俺を嫌うかのように、終始視線を下げて仏頂面をしている。

その態度に腹が立ち意趣返ししたくなった。

細腰を強く引き寄せ、顔を上げさせようと身体を仰反らせる。


『俺を見ろ』

『怖いからヤですっ』


間髪入れず返ってきた言葉と心底嫌そうな顔を見て動きを止めた。

腹の奥が重い。

何故、それほど俺を怖がる?

ルナの怯える表情に苛立つ。

ささくれ立った心が治らず部屋を後にした。


出発直前まで、ルナは夜会に参加するのを渋った。

普段は馬鹿が付くくらい元気な娘が、正装姿で項垂れていた。

顔を上げれば俺を見て紅の瞳を大きく開いた。

ぼーっと呆けて俺を見つめる姿に、小さな悦びを感じる。


『ジークさんって本当に皇子さまだったんですね』


そんなルナの言葉に悪い気はしなかった。

彼女の言葉や表情に悦んだり苛ついたり、不思議に思う。

一喜一憂とはこう言う事なのか?

初めて乗る魔導馬車に子供のようにはしゃいだかと思えば、城内を淑女のように堂々と歩く。

容姿が変わっても、返す言葉は機知に富み芯の強さはそのままだ。

何故か惹きつけられる。

少し揶揄いたくなって髪に口付けたが、ルナは無反応だった。

それがどうしてか面白くない。




『淡い紅の美しい瞳だ。()()()()、いつまでもジークバルトを支えてやってくれ』


皇帝はルナを見てそう言った。

ルナが竜眼持ち(ヴァルテン)だと知っていたのか?

そして、夜会で会った妖術師(刺客)の存在。


遡竜の儀で竜眼を与えられたルナは、その左眼に俺と同じ黄金の瞳(竜の眼)を持っている。

魔力が高まる時や、時空を渡り竜族の窮状をその眼に映している時に瞳が黄金色になる。

だが、何処にでも魔法陣を描き出せる妖術師は、普段は隠されている竜眼を暴く事が出来る。

過去にルシュカン皇族が闇魔法使いを虐殺してきたのは、妖術師の手によるものだ。

奴らは闇魔法使いの眼を喰らう事で、凶暴なただの土くれから強力な魔術師となる。

そんな厄介な代物を生み出せるのは、相当な魔力を持つ者だけだ。


しかし、第一皇子にそれだけの魔力は無い。

ならば援助する輩がいる筈だ。

奴の後ろ盾である母親の実家ディルナー公爵家には、お抱えの魔術師がいる。

諜報活動や後ろ暗い詭謀も行なっているらしいが、裏を取る事が出来ないでいる。

そいつらの中に妖術師を創り出せる者がいるのか?

それとも・・・?




俺が任務で帝都を離れている隙に、屋敷からルナが連れ出された。

従魔のギルアドからの念話で事の次第を知り、急ぎ帝都に戻った。

これは俺の手落ちだ。

思っていたよりも早く相手が動いてきた。

俺が近くにいない事を知りながらの行動に歯軋りする。


ルナが連れて行かれた先が第一皇妃の茶会と聞き、恐らくは調査中のあの毒を使うのだろうと予想できた。

急ぎ皇帝に上申し、皇妃への処罰について一時的ではあるが許可を得た。

その為、現場到着までに時間がかかったが、ルナ自身の機転で事を回避していた。

それに腹を立てた皇妃は、あろう事かルナを殴りつけようとしていた。

身の程知らずの愚か者に、それ相応の報いを受けさせた。

だが、解せないのは、この成り行きを陰から息を殺して見ていた妖術師だ。

動じず、皇妃を擁護するような行動は一切しなかった。

まるで高見の見物を決め込んでいるかのようだった。

妖術師は皇妃とは別の筋の者なのか?




『抱っこされるのは嬉しいですが、黙っていることは出来ません。色々聞きたいですし』


俺に抱き上げられたルナの顔を覗き込めば、そう言ってふわっと笑った。

そうか、抱き上げられるのが好きなのか・・・。

その言葉を反芻しながら前を見て歩き始めた。

そして、柔らかく笑ったその顔を思い出し、急に息が出来なくなった。

顔が火照り口元が緩む。

自身で間抜けな顔をしているだろうと思えば、他人に見せられるものではない。

ルナが追及してくるのを何とかやり過ごす。


この娘といると、常に心を揺さぶられる。

自身の奥底にあるとも知らなかった、触れたことも無い様々な感情に出会う。

その度に、目の前に広がる世界が色鮮やかに見える。

この感情にどんな名を付ければ良いのだろう?


明日はどんな景色が見えるのだろうか?

こんな日がずっと続くことを願わずにはいられなかった。


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