お茶会にドナドナされる 2
席に着くと、早速嫌味のオンパレードだった。
貴族のお茶会に招待されたら主催者に手土産持参するのは常識だーとか。
異国の田舎者に高級茶の味など分かるもんかーとか。
ひとまず顔に笑顔を張り付けて、相手に喋らせるだけ喋らせておく。
この世界の貴族のお茶会って、こんな中身の無い会話の為に開くものなのか?
特に皇妃と同じテーブルのご令嬢たちは、皇妃の取り巻きや高位貴族だろうに。
着る物身に付けるもの全てお高そうだが、それらが庶民の収入の数ヶ月、数年分だと分かっているのだろうか?
頭の中がカラカラ音の鳴りそうな連中に国政を委ねなければならない帝国民に、心から同情しますよ、ホント。
皇妃の左隣には私と同じ年代と思われる綺麗なご令嬢が座っており、やたら皇妃の話に相槌を入れている。
この人若いのに、このオバサンの腰巾着なのか?
少し硬めに巻かれた金髪をハーフアップして、深めの青い瞳の色に合わせたリボンを長く垂らしている。
所作は洗礼されていて、黙っていれば美少女なのに。
何となく皇妃の機嫌を伺っているところが非常に勿体ない。
私がガン見している事に気付いた彼女は、眉間に皺を寄せて私を舐め付けた。
「先程から随分とこちらをご覧になっている様ですが、そのように品無く目を向けるのは無礼ですわよ。最も田舎では十分な教育が無かったのでしょうが」
おお、美少女が睨んでるー。
怒った顔も綺麗だね。
白い小顔に青いお目めのデカイこと。
羨ましさに、ついつい魅入ってしまう。
「聞いてますの?!」
美少女の荒げた声で我に返る。
「ふふふ、失礼致しました。あまりにもお美しくていらっしゃるので、つい見惚れてしまいました。ご容赦くださいませ」
美人と言えど、まだまだ少女。
前世のオバサンが中身の私からすると、癇癪を起こした子供に過ぎない。
嫌味の言葉すら頑張って言ってみたーな感じで、益々可愛らしい。
私の言葉に少々赤くなった美少女は、扇を広げて口元を隠した。
皇妃の右隣の腰巾着2号?がすかさず突っ込む。
「当然ですわ。グロードン公爵令嬢は第一皇子殿下のご婚約者でいらっしゃいます。貴女のような下級貴族とはお生まれから全て違いましてよ」
成る程、さすがは美少女、未来の皇后候補なのかー。
にしても、あの馬鹿皇子の奥さん候補とは更に勿体ない。
もっとまともな男、世の中探せばいるだろうに。
この子も親の政治的駒なのか。
貴族の女の子は、娶られる男の出来不出来で人生が決まる。
自分で選べない人生は、さぞ味気ないだろうに。
「さあ、挨拶はこのくらいにして、田舎では決して味わえぬ高級茶葉を堪能しようではないか」
皇妃はそう言うと、余裕の笑みを湛えながら側仕えの者に指示を出した。
数名の侍女さんたちが盆にお茶を乗せて運んできた。
白磁のティーカップに青と金の花が描かれた如何にも高そうなカップには、紅色のお茶が注がれていた。
私の前に置かれたお茶には、黄色の花弁が一枚浮いている。
ちらっと伺うと、他のご令嬢のものは皆ピンク色の花弁だ。
おやー。
もしや、もしかしなくとも、これはフラグですかねー、汗。
私のお茶にだけ毒とか入ってるんじゃあないですかねー、涙。
「どうした?其方の為に特別に取り寄せた逸品ぞ。しかと味わうが良い」
皇妃はこれぞ悪女という微笑みで、私に飲め飲めと急かしてきた。
むうー。
飲まずに捨てたら無礼だ不敬だと騒ぐだろうなあ。
飲んでも地獄、飲まなくても地獄。
ならば、死ぬよりはマシな方を選ぶしかない。
このテーブル以外の会場中の皆さんも私に注目している。
私は皇妃の後ろに控えている、私を拉致しに来た侍女さんに目を向けた。
「そちらの方は、今日のお茶会の為に、わざわざ私を迎えに来てくださった第一皇妃さまの侍女でらっしゃいますね?」
「左様にございます」
主が主なら僕も僕。
顔に不愉快だと張り付けて侍女さんは答えた。
「銘茶を愉しむ為の余興をひとつご覧に入れますわ。そこで、本日の主催者であらせられる第一皇妃さまのお手拭きをお借りしたいのです」
侍女さんは訝しげに私を見た後、皇妃の顔を伺った。
皇妃が顎先で指示を出すと、侍女さんは私に皇妃のハンカチを差し出した。
「田舎者の為に身に余るお持て成しをありがとうございます。本日は先触れなくお誘い頂いたので、皆さまへの品を献上する事が叶いませんでした。その代わりとして、余興にお茶の発祥地である東国の茶時の風習をご紹介致しますわ」
嫌味も込めて私はにっこりと皇妃に向かって微笑む。
ハンカチを持った侍女さんの手首をがっしり掴み、徐ろにハンカチを目の前のティーカップに突っ込んだ。
「ひっ!」
小さく悲鳴を上げた侍女さんは、顔を蒼白にして固まっている。
ふふふ、良い気味だ。
ジークさんの屋敷で、皆さんに厚かましい態度を取った報いを受けてみろ。
「なっ、何をする!!」
皇妃が淑女らしからぬ声で怒鳴り、周りのご令嬢も悲鳴を上げた。
会場中から非難の声がする。
くくく、こりゃ愉快だな。
「そのハンカチを離してはなりませんよ?第一皇妃さまの私物を地に落とすなんて、そんな不敬を働く方は皇城におりませんものね」
周りにも聞こえる声で侍女さんに釘を刺す。
侍女さんは動けず、私に手首を掴まれながら音を立てて震えている。
「生国で懇意にしていた茶葉の卸商人が、珍しい東国の作法を教えてくれました」
そう言って、私は侍女さんの手首を引っ張り、彼女が握るハンカチをお茶から引き上げた。
「まず飲む前に、身体を馴染ませるため両手と口元をお茶で綺麗に拭います。次に、ひとくち口に含み口の中を濯ぐのです。勿論濯いだお茶は飲んではいけません、吐き出します。そうして最後に、お客様の目の前でポットからお茶を注ぎ、一つのカップで皆さま同じものを回して飲むのですわ」
世の中にそんな珍妙な風習があるのか知らんが、さも体験したかの様に説明する。
侍女さんの手首から手を離すと、彼女の目を見て無邪気に微笑んで見せた。
「それでは、侍女のお方、銘茶の染み込んだその高貴なハンカチで第一皇妃さまのお手とお口を拭って差し上げて下さいませ」
機械仕掛けの人形の様に、侍女さんはギギギーと皇妃の方を向いた。
それを見た皇妃は先程の余裕はどこへやら、顔に青筋を立てて吠え出した。
「無礼者!その様なものを妾に近づけるでないわっ!!」
何をそんなに焦っているのか。
それじゃまるで、ハンカチに付いたお茶が毒だと言っているようなものだ。
この人、悪女としては中途半端だな。
これじゃ、どこから見ても私の方が悪女だね、笑。
「第一皇妃さま、何をそう取り乱していらっしゃるのです?皆さまもご覧になったでしょう?第一皇妃さまお勧めの高級茶を染み込ませたハンカチですわ。お肌にも良さそうだと思いませんか?」
そう言って侍女さんの背中を押した。
「この通り、田舎者の私はお茶はおろかハンカチすら指一本触れておりません。下賤な私が触れたせいで銘茶が腐ったりして、第一皇妃さまのお手やお口が爛れたりする心配はございませんよ。何しろこのお茶を準備して下さったのは、第一皇妃さまも信頼なさる侍女の皆さんですもの」
悪役令嬢ここに見参!
目は笑わずに口角が裂けるほどニターッと笑えば、もうどこから見ても悪役令嬢だ。
これはクセになるな、笑。
「何を騒いでいる?」
背後からしたその声を聞いて、自分の悪役令嬢っぷりに興奮していた私の気分は一気に氷点下まで下がった。
「第一皇子殿下・・・」
予定外の珍客に周囲が騒めく。
うっげー。
たった今、死亡フラグを折ったばかりだと言うのに、間髪入れずまたしても次のフラグが歩いて来たよ、涙。
第一皇子の登場に周りが深々頭を下げる中、彼の姿など見たくもない私は、顔を上げる事なく腰を折って早く消えろと心の中で叫んでいた。




