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お茶会にドナドナされる 1

衝撃の夜会から2日。

左の瞳は金色からもとの桃色に戻ったものの、私の頭には深々と死亡フラグが突き刺さったままだ。

永らく引き篭りに入ろうとしていたのだが、フラグはそれを許してはくれなかった、とほほ。


夜会の会場で盛大にコケた私は、かなりの有名人になった様で、どこぞの夜会やらお茶会やら紙吹雪の様に招待状が舞い込んできたのだった。

まあ、趣旨というか魂胆は見えてるよね。

異国出身の身分の低い田舎者が自国の皇子さまの婚約者だなんて、袋叩きの対象でしかないでしょ、泣。


貴族の勢力図に詳しいマイヤー先生によると、一つ二つは出席して味方を見つけた方が良いとの事だった。

が、当然、ヒロインの私が参加する訳がない。

夜会だのお茶会だのはフラグ大量生産工場だろうに。

夜会で偉い事になった私は、勉強して賢くなったのだ。

さらに、いつ何時、妖術師からのあの世行きツアーに突然ご招待されるか分かったものではない。

ノコノコ出て行ってなるものか!


ジークさんからの放っておけという有難いお言葉もあるので、病に臥した事にしておこう。

・・・と、思っていたのだが、フラグが向こうから歩いて来た、涙。

そう、拉致されたのである。



今、私は無理矢理馬車に乗せられて皇城に向かっている。

誰に拉致されたか、それは他ならぬ第一皇妃だ。

皇帝の妻である皇后は既にこの世に無く、後宮は第一皇妃の天下らしい。

そしてその息子である第一皇子も、当然後ろ盾を盤石にして皇太子の座を狙っている訳だ。

然も、事もあろうに第三皇子であるジークさんの邸宅内で、ジークさんが不在の時を狙って引っ張り出されたのだ。

執事さんや護衛のアルバートさんも阻止しようと頑張ってくれたのだが、やはり権力に逆らう事は難しかった。

私が出方を間違えれば、彼らが不敬罪でその場で切り捨てられる事もあるのだ。

お世話になっている彼らの為に私が出来る事と言ったら、素直に誘拐されていくしか無かった、泣。

取り敢えず、ジークさんへSOSコールを発信してもらうように、屋敷の皆さんにはお願いしてきたけど。



今世で3回目のドナドナです。

そう言えば乙女ゲーとか小説の類では、ヒロインって馬鹿みたいに何処かに囚われたりするんだよねー。

そういうヒロインにイライラしません?

だから嫌いなんだよ、ヒロインって奴は。

だが、今まさに私がそのムカつくヒロインですね、情けない、はぁ。

収監部屋で大人しくしていたのに、一体どうすればこの事態を避けられたっていうんだ?


「お嬢さま、到着いたしました。足元に気をつけてお降り下さいませ」


向かいに座る皇妃の使いの侍女さんに、とっとと降りろと急かされる。

護衛騎士を連れてくる事は叶わなかったが、せめて侍女をという事でジェニファーさんは一緒に来る事を許された。

すまし顔の見知らぬ侍女さんが降りた後、ジェニファーさんの手を借りて仕方なく馬車を降りる。


会場は皇城の何処か奥の方にある庭園らしいが、降りた場所は高木がそびえ立つ森の入り口のような外観だった。

昼下がりの日差しが心地よい森林だが、何処からか妖術師が私という死亡フラグをロックオンしていないか気が気でない。

神経を尖らせて森林内の遊歩道をゆっくり進む。

暫くして木々が開け、腰の高さの生垣に赤い薔薇が咲き誇る庭園が見えてきた。

皇妃主催のお茶会は20から30人くらいのやや小規模なものらしい。

色とりどりのドレスを纏ったご令嬢たちが、音楽隊の生演奏を背景に淑女よろしく楚々と会話を愉しんでいる。


不条理にここに引っ立てられた私は、前回の夜会のように女優面する元気も無くヤサグレていた。

人権無視されて無理矢理連れてこられたのだ。

愛想良くしろというのは土台無理な話だ。


私の姿を認めるなり、和やかなお顔から一転、会場の皆さんは眉を顰めながらヒソヒソ話を始めた。

あから様な冷笑に喧嘩を売られていると感じた私は、こりゃあ雌雄を決するべきと心の中でファイティングポーズをとった。

ヒロインからジョブチェンジ、今日の私は悪役令嬢だ。


上座と思しきテーブルに座っている、如何にも私皇妃ですという澄まし顔の女の元まで案内される。

こちらも悪役令嬢よろしく、澄ました笑顔で淑女の礼をとった。


「第一皇妃さまにはご機嫌麗しゅう、ルナ・ヴェルツと申します。ご下命により参上致しました」


招待ではなく命令だとはっきり指摘してやる。

第一皇妃は息子と同じ金髪だが、瞳の色は薄いグレーだ。

その薄い色合いが軽薄さに拍車をかけているように見える。

前世で言う細眉のモデル顔で、美人と言えば美人だがツンケンしていて可愛気がない。


「先だっての夜会で体調を崩したと聞いたが、見たところ大事に至ってはいないようだな」


皇妃は細い片眉を上げて意地悪な笑みを扇子で隠し、私を一瞥して言った。


「第一皇妃さまにお心砕いて頂けるとは、光栄にございます」


にっこり笑い、心にも無い言葉を返してやる。


「生国ではこの様な華やかな催しに出向いた事も無いのであろう?この機に其方にも教えを施してやろうではないか」


むぅ、私を田舎者扱いだ。

イチイチ感に触る言い回しだな。


「ありがとうございます。第三皇子殿下に頂いたご縁を大切に、第一皇妃さまを母上さまとお呼びするその日まで、恥じない所作を身につけて参ります」


ふん、10代の私からすると、所詮アナタはオバサンなのよ。

そんなオバサンのアナタが皇后になれる日が来れば良いですけどね。

まあ、中身は私の方がオバサンですが。



皇妃は扇子で口元を隠しながら、険しい目つきで私を睨んだ。

そんな目、怖くないですよーだ。

およそ半年間、ジークさんの絶対零度の眼力で培われた私の精神力を見よ。


「口先だけで無いことを示すのだな。其方の席はそこじゃ」


皇妃は目を細めたまま視線で私の席を指した。

いやー、やっぱりオバサンと同じテーブルなんですかー。

もう、叩きのめす気ムンムンですね。


皇妃の座る丸テーブルは6名掛けだ。

既に一つを除いて皆さん着席していらっしゃる。

皇妃の対角にある空席に、とっとと座れと使用人の方に椅子を引かれた。

溜息を堪えて席に着けば、これからがショータイムと言わんばかりに皇妃は満足そうに笑った。


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