皇城の夜会にドナドナされる 2
「左手を出せ」
ジークさんはそう言うと、私に掌を差し出してきた。
手相でも見てくれるのか?
頭にはてなマークを浮かべて左手を出す。
ジークさんは私の手を掴むと、反対の手で胸ポケットから指輪を取り出し私の薬指に嵌めた。
左手を翳してしげしげと指輪を眺めてみる。
ぐるっと一周、ダイヤモンドみたいに光る石で出来た輪っかだ。
この石、何だろう?
まさか本当にダイヤモンドなのか?
ダイヤモンドで出来た輪っかって、一体お値段おいくらなのよ・・・汗。
ジークさんの目を見ながら恐る恐る聞いてみる。
「これ、何の石ですか?」
「魔鉱石を加工したものだ」
ほう、魔鉱石ですか。
何か特殊な機能でも付いてるって事かな?
「助けが必要な時はこれを使え」
ほうほう、ランプの精ならぬ指輪の精が出て来るって仕掛けですね。
助けてーって叫べば良いのかな?
「楽しみですね!」
「何を言っているんだ?身の危険が迫っている時に使うものだ。余興の為に渡すのでは無い」
この人堅いなー。
何事も楽しまなければね、人生って面白いものだよ。
ピンチもチャンスにって言うじゃないの。
ふふふ、これは良いものを貸してもらえた。
私の機嫌が急上昇したのを見て、ジークさんは半眼だ。
「お前が上機嫌だと、俺は逆に不安でしかない」
おっ、本日4回目の『お前』ですね。
ぐーパンチもう一発追加でーす、笑。
私が満面の笑みを見せると、ジークさんは馬車に乗る前の私のように項垂れたのだった。
窓から道の先を眺めると、皇城の入り口まで馬車の長い列が繋がっていた。
これ、いつになったら着くの?
渋滞に巻き込まれて着くのが夜会終了時間になりましたー、また今度ーって事に出来ないかな?
私が嬉しそうに振り返ると、ジークさんは片眉を吊り上げた。
「残念だが、思惑通りにはならない」
ジークさんが言い終わる前に、乗っていた馬車は速度を上げ始めた。
おや?
もう一度窓の外へ視線を移すと、馬車は脇道を疾走していた。
え?
その先、崖になってません?
「ジークさん!私と心中するつもりですか?!」
焦る私をつまらなそうに一瞥して、ジークさんは更に深く席に座った。
「ルナと心中?冗談でも面白く無いな」
いや、そこ冷静に構えてる場合じゃないんですけど・・・汗。
「はっ!もしかして、今が指輪の精を呼び出すその時なの?チャンスがピンチ?」
「落ち着け。立つな。座っていろ」
興奮して立ち上がり自分でも良く分からない事を叫ぶ私と、対照的にこと更落ち着いた様子のジークさん。
その自信は何処から来るの?
涙目でドア枠にしがみ付いていると、急に浮遊感が足元から迫り上がってきた。
ひーーっ!!
いっ?
落ちる衝撃に備えようとするが、一行に落ちる様子がない。
そーっと窓の外を見遣ると、何とこの馬車浮いているではないですか!
「これは皇族が使う特殊な馬車だ。帝都で空を駆ける事を許されるのは皇族だけだ」
そういう事は早く言ってください・・・。
私は暫し魂が抜けた顔で外を眺めていた。
闇に包まれる帝都を空から臨む。
区画整理された街並みは、魔鉱石が創り出しているであろう灯で規則正しく闇夜に映し出されていた。
前世で見た飛行機からの眺めに似ている。
飛行機と違い馬車は小さい。
トロッコで空中に飛び出すような心許ない感覚だ。
空から見る夜景は綺麗だが、一度経験すれば十分だ。
帰りは是非とも地上を使っておくれ、涙。
空を駆ける馬車の先が仄かに明るくなった。
視線を移すと、闇夜に蒼白く浮かび上がる大きな魔法陣が見えてきた。
馬車は真っ直ぐ魔法陣に向かうと、吸い込まれるように蒼白い円をくぐって行った。
白と青の光が前から後ろへ流れていく。
これって、前世で言うワープみたいな感じ?
もちろん、ワープなんで経験した事はないけれど。
窓の外の光が織りなす光景に見惚れていると、後ろからジークさんの声がした。
「口を閉じろ。そろそろ着く」
憮然としたジークさんの声に、せっかくの楽しい遊園地気分が萎んでいく。
緩んだ口元を引き結んで、窓枠から手を離した。
「私が知っておくべき事はありますか?」
真面目な顔でジークさんを見る。
やれやれと言うように、ジークさんは背もたれから身体を起こした。
「俺の腹違いの兄弟には気を付けろ」
謂わゆる皇統争いというヤツですね。
「俺には3人の異母兄弟が居る。・・・いや、居た、が正解か」
むむ?
何やら不穏な言い回しですね。
「長男は第一皇妃の息子であるリンギット、こいつには気を付けろ。皇后の息子であった第二皇子を殺した奴だ」
うへー。
皇位簒奪とかドロドロ愛憎劇は他所でお願いしたい。
「三番目が俺だ。・・・第四皇子も、もう既にこの世には居ない」
ジークさんはそう言うと目を伏せた。
少し間があったのは、何か思うところがあったのかな?
「では、皇統争いは実質、第一皇子とジークさんの一騎打ちって事ですか?」
「事はそれ程簡単では無い。それに、俺には皇統を継ぐ気などさらさら無い」
本人にその気が無くとも、皇位継承権を持っている限り周りは見逃してくれないだろうに。
「皇位継承権を放棄しているんですか?」
「そうしたいのは山々だが、誰かさんが許可しない」
そう言ってジークさんは溜息を吐いた。
まあ、今の溜息は私に対してでは無く、その誰かさんへのものだからノーカンにしてやろう。
「その他、貴族の中で気を付けるべき者は居ますか?」
「挙げたらキリが無い」
分かっていたけど、ジークさんって敵多過ぎ。
全員敵って事で、会場では笑い顔を終始貼り付けておくしか無い。
「俺がお前に話題を振る奴以外は、話さなくていい」
「了解です」
私は心得たとばかりにジークさんに敬礼して見せた。
「・・・俺の評判を落とすなよ」
私は鼻息荒く頷いたが、ジークさんはますます不安そうな顔をした。




