皇室図書館でお勉強(2)
・・・結果から言おう。
この3冊にはどーでもいい事しか書かれていなかった。
謂わゆる、私の嫌いな英雄譚だ。
皇帝は偉いぞー、皇族は凄いぞーみたいな。
彼らを讃える本なぞどうでもいい。
ジークさんは自分がバケモノになったと言った。
それは皇族特有の力なのでは、と思ったのだ。
しかし、少なくともこの3冊にはそれを匂わす文脈すら見当たらない。
私の見当違いか?
バケモノ・・・ねぇ。
っ!!
もしかして・・・!
「マーシャルさん!」
そうだよ、コレだよ!
ここ、乙女ゲーでしょ?!
なら、関係あるんじゃないの?
「皇族とドラゴンの関係を綴った書物はありますか?」
私の勢いにまた腰が引けてしまったマーシャルさんだったが、私の言葉に眼鏡をかけ直して頷いた。
「それなら沢山ございますよ」
彼は初めて会った時に見た笑顔で答えてくれた。
この人もドラゴン好きなのかな?
彼の得意分野なのかも知れない。
マーシャルさんは足取り軽く、禁書棚のガラス扉をメダルで叩いていく。
「こちらで全てになります」
ほくほく顔のマーシャルさんは、両手で9冊抱えて戻ってきた。
あら、あんまり多くない。
これのどこが沢山なの?
私が眉を顰めたのを見て、何が言いたかったかを敏感に感じ取ったマーシャルさんは、後退りながらも果敢に言った。
「こ、これはお嬢さまのご期待に充分お応え出来るものたちです!」
まるで私の攻撃から大事な本たちを守るかのように、マーシャルさんは抱えていた本を自分の背後に隠した。
むぅ。
私だって大事な本、燃やしたりしないよ?
「分かりました。お持ち頂いたものを全て読みます」
マーシャルさんは恐る恐るといったように、抱えていた書物を閲覧用の机の上に置いた。
オレサマは皇室に縁のある特別な本だぞーと主張する豪華な装丁の書物の中で、本の角が切れ紙も黄ばんで如何にもボロですと言わんばかりの古めかしい一冊に目が留まった。
手に取ろうとすると、マーシャルさんが声を上げた。
「あっ、あっ、気を付けてください!この一冊は、ここにある禁書の中で最古のものです。古のドラゴンの魔力や対を成す聖剣の力についてなど、非常に貴重な記述が残っているものなのです」
「聖剣?」
「はい。彼らの力は強大で、中には人族を脅かす傲慢なドラゴンも存在したようです。ルシュカン皇族が、邪悪なドラゴンを制する時に用いたのが聖剣とされています」
「それは単なる伝承に過ぎないのでは?」
「聖剣は存在します。帝都から離れた北部の古都ターバルナの大神殿に納められています」
それっぽい剣があっても、後からお伽噺をくっつけただけのハリボテーなんてのはよくある話だ。
観光名所や信仰心を擽るためのハリボテ。
「ドラゴンは本当に実在するのかしら?」
「帝国の歴史は近隣諸国よりも古く、既に3000年前から国の形態をとっていたとされています。豪族が乱立する中で、台頭してきたのがルシュカン族です。彼らは地上最強の種族とされるドラゴンをその血脈に取り込み、ドラゴンの魔力を得て国々を併合していったのです」
「皇族は皆、ドラゴンの魔力を持っているのですか?」
「そう伝えられています。およそ850年前のグラーク皇帝は、彼自身がドラゴンとなり隣国の脅威から帝国を守ったと記されています」
え?
変身出来ちゃうの?!
「グラーク皇帝以降現在に至るまで、ドラゴンの姿をとる皇族の話はありません。皇族の方々は生まれてひと月以内に降竜の儀を行います。ドラゴンの魔力を受け継ぐ者として祝福を受ける儀式です。現在は形骸化し、生誕の儀式として執り行われておりますが、その昔、この儀式により、ドラゴンの魔力を強く持つものには身体の何処かにドラゴンの痣が現れたそうです」
ふーん。
ルシュカンとドラゴンは古くから縁があるのかー。
ところで・・・。
「ドラゴンに関係する呪いとか、封印とか、そう言ったものもあるのですか?」
ジークさんは自分にはかかっている呪いを解く必要があると言っていた。
私が思うに、彼はドラゴンの力を持つ者で、恐らくその力を恐れた誰かに呪いをかけられ、力を封印されたのではないだろうか?
「ドラゴンの呪い・・・?さあ、そのような話は聞いた事がありません」
そっかー。
やっぱり、簡単には正解に辿り着かないよねー。
「ですが、ドラゴンを封印したとする記述はこちらの最古の書物『ヴァルグント創竜紀』にございますよ」
おっ!
見込みあるじゃん!
「先程お話しした、大神殿に奉納されている聖剣がその封印とされています。聖剣は大神殿の地下に刺さっているそうで、それがドラゴンを時空の歪みに縫い留めているのだとか」
「では、その聖剣を引き抜いてしまえば、再びこの地にドラゴンを呼び込む事が出来るのですか?」
「さあ、どうでしょう?聖剣を抜いたとする記述は今も昔もありませんし、そもそも、選ばれし者以外は、聖剣に触れる事も叶わないとされております」
「聖剣は、いつから大神殿に刺さっているのですか?」
「正確な記述は分かりませんが、少なくとも500年は経っているかと」
うん?
ジークさんは小さい時に力を封印されたと言っていた。
さすがの腹黒美人も500歳には見えないから、その聖剣とやらで封印されたというのは時間的に合わない。
・・・やっぱ、剣はハリボテかぁ。
その後、一通り置かれた書物に目を通したが、古代語で書かれている部分もあり、本嫌いの私の頭にはさっぱり何も残らなかった。




