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私、生贄にはなりません!

本日は長めです、お付き合いくださいー汗。

その日は、帝都アーデンの花祭りだった。

帝国にいつ、どんなお祭りがあるかなんて知らないが、お祭りと聞けばワクワクするものだ。


ジークさんの体調が悪かったあの日、翌朝、目を覚ますといつもの豪華な監獄ベッドにいた。

クロもいつも通りに、私の枕元で丸くなって寝ていた。

うーん、あれは夢だったのかな?


夢?だったあの日から今日まで、ジークさんとは会わなかったから、確かめようも無かった。

まあ、聞いたところで、夢でしたね、寝ぼけんなって言われそうなので要らぬ確認だなーっと。

ジークさんは今日も変わらず、麗しいが表情筋が死んだいつものお顔で平常運転中っぽい。


3か月前に馬車で通った時よりも、街は花と人で溢れていた。

広い街路には普段ない屋台が立ち、花だけでなく食べ物や装飾品まで売られ、さながらラグーの週末市をもっと大きくしたようだった。

彼方此方から美味しそうな匂いが立ちのぼり、ついついお店を覗いてしまう。


「おい、勝手にあちこち行くな」


ジークさんにフードを引っ張られ、店先に並んだ串焼きを掴み損ねた。


「折角のお祭り、数ヶ月ぶりの外の世界なのに、何で楽しんじゃいけないんですか?」

「人が多過ぎる。お前なら間違いなく迷子になる」

「それはそれで好都合ですけど?」

「お前、全く懲りて無いのだな・・・」


脱走の機会は当然狙ってはいるが、見たこともない街で初めて見るお祭りは楽しまなければ損だろう。

脱走はその後だ。

然も今日のお祭りスタイルは、大判のフードを被ったその辺の男の子を目指した装いだ。

髪の毛は目立つからと帽子の中に引っ詰められ、黄色のシャツに茶色のパンツをサスペンダーで留めている。

帽子を被ったその上から厚手のフードを重ね、どこから見ても不審者っぽい。

ジークさんはペアルックにしたかったのかな?

わざわざこんな格好させたのは、逃がしてくれる気があるんじゃないのか?


「何処に誰が居るか分からない。俺の名前もお前の名前も口にするな。良いな?」

「了解です。あの、あれって何ですか?凄く美味しそうなんですけど・・・」

「先程から食べ物ばかり気にしているな。普段の食事は少ないのか?」

「いえ、お代わりも美味しく頂いてますよ」

「2人分食っていたのか・・・」

「成長期なので」

「何処が成長したって?」

「身長は伸びました」

「お前の頭の上の景色は変わっとらんぞ」


ジークさんはフードを被っている私を、わざとらしくジロジロ見た。

むーっ。

失礼な!

これでも少し身長は伸びたし、多少胸の膨らみも出てきたんだぞ。


「成長が足りないと思うなら、もっと沢山美味しいものを食べさせてください」

「口の減らない奴だな。食った栄養は全て口に回っているのではないか?」


口が悪いのは貴方の方ですよ。

仕方が無いとでも言うように、ジークさんは屋台の叔父さんにお金を渡してサンドイッチに似た紙で包まれたパンを買ってくれた。


「ほら、食え」

「わあ!ありがとうございます!」


お礼もそこそこにかぶり付く。

おお、これは、照り焼きバーガーの様な味!

中のお肉はつくねみたいな何かのミンチだ。

甘辛のタレが絶妙ですね!


「食っている間は静かだな」

「喋って欲しいですか?」

「黙って食え」


あっという間に平らげた私は、次なる獲物を物色する。

次は甘い物が食べたい。

帝国のお菓子はセルバンでも美味しいと評判だった。


「おい、また食う気か?」

「貴方は食べないんですか?」


フードを被っているので、同じくフードを被っているジークさんの顔は見えない。

でも、声で呆れているのは分かる。


「食わせる為に連れてきたのでは無い」


あれ?

目的があったの?

ジークさんは私の肩に手を置いて、人混みの中をぐいぐい歩いて行く。

賑わっているメイン通りから横に入った細い路地を進むと、住宅のような建物の中に小さなお店があった。

お店の看板には『薬』の文字。

ジークさんは迷う事なくそのお店のドアを開けた。

お店の壁にある棚には、薬草が所狭しと入れられ雑多な印象だ。

それ程珍しい薬草があるようには見えない。

お店は鰻の寝床のように細長く、入り口から真っ直ぐ奥にカウンターが見えるが店員さんは見当たらない。

ジークさんから肩を解放され、彼は何も言わずカウンター目指して歩いて行ってしまった。

少し興味があって近くの薬草に手を伸ばそうとすると、振り向きもしないジークさんが言葉を投げた。


「触るな。早く来い」


何故分かるんだ?

こやつ、やはり後ろにも目があるな?

背中にあるのか、頭にあるのか。

今度、あの後ろ髪を掻き分けてみよう。

でも、そこに目が2つとかあったらかなり怖いな。

1つでも怖いけど。

小走りでジークさんを追いかけた。


誰もいないカウンターに着いた、と思ったら、あろう事がジークさんはカウンターを素通りした。

え?

木で出来たカウンターのど真ん中を通って行きましたよ、ジークさん?

あれって幻なの?

何かのイリュージョン?

立ち止まって目が点になっているであろう私を振り返り、ジークさんは手招きした。


「何をしている?早く来い」

「えっ・・・と、私はここで待っていた方が良いかなーっと」


絶対零度の眼力で凄まれ、ますます動けない私の手を、カウンターまで戻ってきたジークさんは強く握って引っ張った。

ひー!

カウンターに腹がぶつかるー!

・・・しかし、次の瞬間、何事も無くジークさんの隣に立っていた。


「目眩しだ。害意ある者は通れん」


そう言うことは早く言って下さい・・・怒。

しかし、害意って何だ?

何だか物騒だな。

視線を前に向けると、目の前は最早お店の様相は無く両脇には太く白い石柱が並び、壁には等間隔に魔鉱石が嵌め込まれ街灯のように光を投げかけていた。

そのお陰で幾らか周りは明るいが、先の出口は暗くて見えない。

脱走の隙を与えないかのようにジークさんには手を握り込まれ、いつ終わるとも分からない長い回廊をひたすら歩いた。


「お前が静かだと、何か起こりそうで薄ら寒いな」

「静かなのがお好きでしょう?」


無愛想に言い返す。

理由も説明も無くこんな所を歩かされて、お腹も空いてきたし楽しいお祭りも見れないし、私は怒っているのだよ!

もう口など聞いてやるものか。

この私の怒りを思い知れ。


私の怒りを知ってか知らずか、ジークさんは無言で私をぐいぐい奥へと引っ張っていく。

暗がりから急に開けたと思ったら、通路の出口に到着していた。

目を細めてその先を伺うと、かなり広い円形の広場が見えた。

そこに居た黒いローブを纏った数人が、腰を屈めて挨拶をしてきた。


「お待ちしておりました。お連れ様もどうぞこちらへ」


あたりは何処か神殿のようで、黒いローブの人たちはざっと5~6人、神官さんなのかな?

私たち同様、皆フードを目深に被り顔が見えない。

冷たい空気が張り詰めていて、なんだか悪魔召喚儀式のような雰囲気だ。

広場の中心には、何やら複雑な幾何学模様が描かれている。

魔法陣か何かか?

ひょっとして、本当に何か召喚するの?

そんな事を考えていたら、ジークさんに広場の中央まで引っ立てられた。

え!

これって、ホントにまずいんじゃ?

真ん中に立ったら、生贄確定じゃん?!

焦る私は全身に力を入れてジークさんに抵抗するのだが、全く歯が立たない。


「さっさと終わらせる」


ひ?!

何をですか?!

私を横目でチラッと見ながらそう言ったジークさんは、魔法陣が描かれた広場の真ん中で私の手を乱暴に放した。


「な、何ですかこれは?悪魔召喚か何かですか?そんでもって、私って生贄か何かですか?!」


焦って魔法陣から飛び出そうとする私を、黒いローブの神官さんもどき?が二人がかりで抑え込む。


「お静かに。直ぐに終わりますよ」


いや、だから何が?!


「せ、説明を要求しますっ!!」


その場の全員の動きが止まった。


「収監されている身かもしれませんが、この国にも万人に帰属する人権を尊重する法がありますよね?!何の説明も無く私の意志を無視したこの行為は、決して許されるものではありません!!正当な事由の説明を要求します!」


誰もが微動だにしなかったが、その静寂を破ったのはジークさんだった。


「その頭で、たまには小難しい事も言えるのだな」

「説明になってない!!」

「お前が言うところの悪魔召喚とやらを行う訳ではない」

「では何をするのですか?目的は?方法は?」

「・・・お前を試す」

「はあ?試すって何を?!」

「お前が『選ばれし者』であるかどうかを」

「選ばれし者?何ですか、それ?」

「呪いを破る」

「呪い?呪いって何?」


一度に説明出来ないのか、それとも言いたくないのか。

ジークさんの物言いは普段と違い、ひどく歯切れが悪かった。


「・・・竜族の呪いだ」


何だそれ?


「聞いたことないんですけど?」

「お喋りは後だ。時間が無い」

「ちょっと待ってください!私は正当な事由を・・・」


私が言い終わらないうちに、今度はジークさんに両肩を後ろから押さえつけられて魔法陣の上に立たされてしまった。

黒い神官さんもどき全員が、何かの詠唱をし始めた。

足元から強い風が巻き起こり、被っていたフードが帽子毎飛ばされてしまう。

帽子で隠れていた髪が風で乱暴に煽られる。

それでも、不思議と身体が飛ばされる事はなかった。

足元の魔法陣にがっしりと捕まっているような感覚だ。

目の前が次第に明るくなり、眼を開けていられないほどの光の渦となってきた。

あの時の、ドラゴンさんに手を翳したとき感じた光景だ。

実際は、あの瞬間は目を瞑っていたから、はっきり見えたわけではないけれど。


っつ!!


不意に左眼の奥に殴られたような激痛が走って、思わず顔を覆った。

次第に痛みは引いてきたが、左眼全体が腫れている様な、手で触れている筈なのにその感触が分からない。

頭の中で轟音が響いている。

必死に目を開いて前を見つめると、光の海原の中に虹色に輝く巨大なドラゴンの顔があった。

ドラゴンが何かを話しているのに言葉として聞き取れない。


『・・・剣を・・・お前・・・に突き刺せ・・・』


光の洪水の中、何処からが自分で何処までが自分なのかその境界が不明瞭になり、私は光の渦に呑まれて意識を失った。


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