第51話【偽りの神】
イージスが龍皇に任命され、 一日目の集会が終わった翌日……
今度は騎士団を抜いた王様達だけの会議とはなぁ……話についていけるかどうか心配だ……
「それではイージス様、 何かごさいましたらお呼び下さい」
「おう、 じゃあ行ってくる」
そしてイージスは守護者達と別れ、 一人で会議室へ入った。
「おぉ、 来たか」
王達は既に揃っていた。
「俺が最後か……」
イージスは空いた席に座った。
この空気は魔王の話だな……
「では始めるとしよう……」
イージス達は話に入った。
「最近……魔王軍が活発になってきているということだが……イージス殿、 四天王全員を倒したと聞いたが本当かね? 」
もうそこまで情報が入ってるのか……まぁいつか話すつもりではいたが……
「あぁ、 二人の四天王と元四天王一人……そして俺の守護者に加わった一人が全員だ」
「何と……四天王の一人を仲間に! ? 」
他の王達はざわめく中、 ベルムントは話を続ける。
「うむ……イージス殿、 仲間に加わった四天王については少し本人から魔王についての情報を聞き出して頂きたいのだが……」
そう来ると思ったよ……四天王が仲間になったならまずやることは魔王の戦力だよな……
この時イージスはすでにアメニから魔王の情報を聞き出していたのだ。
「それについてはもう俺が聞いている。 情報は全てこの魔石に記されている」
そう言ってイージスはテーブルに魔石を出し、 魔王の情報の全てを見せた。
本当は紙でも良かったんだが……こういうプロジェクターみたいに一気に見せられる方が楽だからな。 メゾルに頼んで作ってもらって正解だった。
「おぉ……イージス殿、 この魔石しばらく預からせてもらっても構わんかね? 」
「お好きにどうぞ、 というより全員分あるから配っておくよ」
そしてイージスは王達全員に魔石を渡した。
「それで、 話はまだあるだろ? 」
「うむ、 実は最近……勇者の剣が発見されたという情報が耳に入ってな……」
遂に見つかったか……バアルは既に知っているだろうな……
「そこでだ……イージス殿に勇者と共にその剣を取りに行って頂きたいのだ……」
「えっ! ? 」
そこまでして剣を取りに行かなくてもいいと思うんだが……
「何なら俺が魔王を倒しに行ってもいいんだけど……? 」
イージスがそう言うとベルムントは首を横に振った。
「魔王と勇者いうのは表裏一体……つまり勇者以外に魔王を完全に倒せる者はおらぬのだ……例えイージス殿のような強者であっても消滅には至らぬ……また、 勇者の剣は勇者にしか使えない、 そしてその剣が無ければ魔王を完全に消滅させることはできないのだ」
なるほどなぁ……結構面倒だな……俺が倒せても完全には消滅しないのか……
……でも待てよ、 やっぱりわざわざ俺が一緒に勇者の剣を取りに行かなくても良くね?
「剣の重要性は理解したが……何故取りに行くのに俺の同行が必要なんだ? あの勇者のパーティなら高レベルのダンジョンでも攻略できるだろ? 」
「それが……」
ベルムントは顔を曇らせながら話した。
「その剣があるダンジョンには昔から剣を守り勇者を剣の元へ導くドラゴンがおるのだが……どうもおかしくてな……」
「おかしい? 」
「……ドラゴンが突然姿を消したのじゃ……まるで何者かに消されたように……」
マジか……剣を守るドラゴンって聞く限りめちゃくちゃ強そうなのに……誰かに倒されたのか?
すると若い男が発言した。
「きっと魔王の仕業だ! やつは既に剣を持ち去ったんだ! 」
「貴方は……? 」
そういえば他の国々の王様の名前とか知らないな……後で聞くか。
「私はクーラン・デルタ帝国の王、 ヘルゼである。 自己紹介を遅れてすまない……それより、 やはり魔王がやったとしか思えない! 」
「それはあり得ん、 魔王は剣に触れることはできない。 現に剣はまだダンジョンの中にあると報告されている」
「なら魔王と同じ強さを持つ者がいるとでもいうのであるか? 」
それぞれの国の王達が言い争いを始めてしまった。
……国会とかって……こんな感じなのかな?
「皆落ち着け、 何があれまずは剣を取ることが最優先。 じゃがこれまでに無かった事態故……イージス殿にも協力を願いたいのだ」
「いいよ、 どうせ暇だし……」
勇者と冒険するとか二度と無さそうだしな。
「それではこの集会が終わった三日後に頼むぞ」
……さて、 勇者の剣と魔王の情報についてはこれでよしとして……あとはあれだな……
イージスはこの集会中にどうしても王達に話しておきたいことがあった。
「……皆、 俺から一つ話があるんだが……いいか? 」
「ほう、 イージス殿が話とな? 」
「あぁ……話というかこれは警告なんだが……」
この話は絶対に伝えておかないと……
「……もしかすると今から何ヵ月もしない内に……ゼンヴァールがこの地上に現れるかもしれないんだ……」
そう、 イージスが話したかったのはゼンヴァールについてである。
現れてからじゃ手遅れだからな……今のうちに警戒させておかないと……
しかし王達は少し首を傾げた。
「イージス殿、 ゼンヴァールというのはあのおとぎ話に出てくる偽りの神のことかね? 」
「……おとぎ話なんかじゃない、 奴は存在する。 俺はこの間の冒険でゼンヴァールと戦った人達に会ってきた……」
すると王達は笑った。
何故笑う……ゼンヴァールは実在するのに……やっぱりおとぎ話としてしか認識されていないということなのかよ……
「イージス殿、 ゼンヴァールはおとぎ話にしか出てこない登場人物だ。 それに実際に戦った人間がいるならば当に死んでいるじゃろ、 もう300年も前から続く話じゃからな」
「その人達は今も生きているんだ! だから会えたんだ! この話はおとぎ話なんかじゃないんだ! ! 」
怒鳴るイージスに対してヘルゼが馬鹿にした口調で言った。
「おとぎ話を信じるなんて……英雄様は頭がおかしいのか? 」
その言葉にキレたイージスはテーブルを叩き割った。
「……俺の母さんは奴に負けて殺されたんだ! ! 」
イージスの怒りに王達は言葉を失う。
「母さんは邪悪な奴らから世界を守り、 苦しむ皆の希望になろうとしていた……でも母さんはゼンヴァールに負けてしまった……きっと母さんは皆を守れなくて後悔している……だから俺はそんな母さんと同じように後悔を作りたくない、 だからこうやって警告しているんだ! 奴が来てからじゃ遅いんだ……」
「まさか……イージス殿の母上というのは……? 」
「あんたらがおとぎ話だと思っている伝説に登場する人物……名無しの英雄だよ。 その仲間から聞いた本名はダイヤという名前の冒険者だ……」
それを聞いた王達はイージスに謝罪した。
「……かつて名無しの英雄様は別世界から来た人間なのではないかとも言われておった……とするとイージス殿はもしや……」
イージスは黙って頷いた。
「今まで黙ってていてごめん……」
「いや、 それなら辻褄が合う……ここの世界と別の世界では時間軸が違うという説もあるからな……こちらでは300年もの月日が経とうと、 イージス殿がいる世界ではほんの数年であるのも十分に考えられる……」
「俺の話を信じてくれるか? 」
「うむ……こうして話の辻褄が合い、 他ならぬイージス殿が言うことじゃ……信じよう」
その後、 王達はイージスの提案を元に他国と協力して警戒態勢を強化していく方針となった。
もしもゼンヴァールが現れた時にはその地点から最も遠い国に住民達が避難できるように準備されることとなったのだ。
なお、 転移魔法についてはアルゲルとメゾルで協力して装置を作ってもらうことになった。
「にしても……偽りの神 ゼンヴァールであるか……我が国ではゼンヴァールに挑んだ英雄は全能の武器を持っていたという話があるが……」
そう呟いたのはエンタルテ王国の王、 ディランテだった。
ベヘラーティアでもチラッと聞いたが……武器が変形するなんて未だに信じられないな……今度エンタルテ王国に行ってみるか……
「ふむ、 ではこれにて今回の集会は終わりとさせてもらおう。 イージス殿、 ゼンヴァール対策に関しては最優先で取り組ませてもらうよ」
「あぁ……」
そして王達は解散した。
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集会が終わり、 時間を持て余したイージスは守護者達と共にヒュエルの街を回っていた。
「そういえば守護者皆揃って出掛けるなんて初めてだな」
「イージス様はいつもこのような散歩を? 」
レフィナスが聞いた。
「まぁね、 街を歩いてるだけでも以外と面白いことが起きるからね」
するとイージスはロフィヌスがある酒場が気になっているのに気付いた。
「どうしたロフィヌス? あそこ気になるか」
「い、 いえ! その……」
ロフィヌスはこういう街中を歩いたりしないから気になるんだろうな……
「よし、 昼飯はあそこで食うか! 」
「よ、 よろしいのですか? 」
「俺はいつもこんな感じの店で食ってるしな、 入ったことないなら経験してみるのも楽しいぞ」
「は、 はい! 」
そしてイージス達は店に入った。
中にはメランとその護衛の騎士団がいた。
ゲッ……メランじゃん……苦手なお姫様ナンバーワンなんだよなぁ……
「あら、 これはこれは英雄様じゃないですの。 貴方もこの店に? 」
「え、 えぇまぁ……」
「……よろしければ私達と同じ席にでもいかが? 」
うわぁ……嫌なお誘い……
するとザヴァラムが口を開いた。
「ふん……下等な姫風情が……イージス様と同じ席だと? 笑わせる……」
「ちょっ……ラム……! 」
イージスは慌てて止めようとしたが周りの騎士達は何もしてこない。
あれ……そうか! ラムは人間に崇めらている存在だから反抗はできないのか……まぁ武力行使でも勝てないしな……
「……英雄様に面白い情報を持ってきていますの、 それでも嫌と言うなら別に構いませんのよ? 」
あぁ……情報ねぇ……今日はもう何か疲れてるし、 ここはフォルドゥナに任せようなか……
「情報を聞くだけならフォルドゥナに任せても構わないかな? 」
「ふふっ、 いいですわ」
「イージス様の命とあれば喜んで承りますわ♡」
そしてフォルドゥナはメランと同じ席に座り、 他の一同は別の席に座った。
……………
「さて、 話を聞きますわ……」
フォルドゥナは微笑んだ様子で対応する。
「……ゼンヴァールの伝説はご存知? 」
「えぇ、 昔からよく聞いてますわ」
「ゼンヴァールには二人の配下がいるのもご存知? 」
「えぇ」
「……実はその二人が近日、 この世界に現れたという噂が耳に入りましたの……」
「ふぅん……それで? 」
フォルドゥナはテーブルの紅茶を飲みながら言った。
「……彼らは英雄様を狙っていますわ、 今後の行動には十分注意した方が──」
「脆弱な人間に心配されるほどあの方は抜けてはおりませんわ……そこら辺のスライムでも解る……貴女はそれすら解らないスライム以下であって? 」
次の瞬間、 周りにいた騎士達が剣を抜き、 フォルドゥナに剣先を向けた。
「貴様! 無礼だぞ! ! 」
「無礼ねぇ……」
するとフォルドゥナは向けられている剣の一本を二本指で挟み、 まるでポッキーでも折るかのように簡単に折ってしまった。
そして折れた剣先を黒い炎で消滅させてしまった。
「こんな武器に頼ってるから脆弱ですのよ? 私は間違ったことは一言も言っておりませんわ」
フォルドゥナは不気味に微笑みながら言った。
「……剣を下ろしなさい、 戦ったところで勝てる相手じゃないわ」
「賢明な判断ですわ……それじゃあ話はこれで終わり? だったらイージス様の元に戻らせてもらいますわ」
「えぇ……」
そしてフォルドゥナはイージス達の元に戻った。
「……行きますわよ」
メランは騎士達を連れ、 店を後にした。
……………
……ゼンヴァールの配下が現れた……か……確かに気を付けた方がいいな……相手は母さんの仲間を倒した奴らだ……
イージスはスパゲッティーを食べながらそう思うのだった。
続く……