第50話【龍と人間を結ぶ者】
前回からの続き……
「さて……お前はメランと言ったか……」
「そ、 そうですわ……」
ザヴァラムはメランに威圧的な目をしながら凝視する。
するとザヴァラムは黙って次の姫を見た。
そんな調子でザヴァラムは全員の姫達を見ていった。そして……
「……ふむ……なるほど……」
ラムはどうするんだ?
「……下らん……」
『えっ……?』
「下らんと言ったのだ……こんな地位付け……お前達人間共の自己満足でしかない。 私はこんな下らん連中の為に来たのではないぞ! 」
ザヴァラムの言葉に反論を出す者はいなかった。いや、 正確には出せる者などいなかっなのだ。
目の前にいるのは世界最強の種族 覇龍族、 そしてその中でも頂点に君臨する王……覇王龍改め、 覇神龍 ザヴァラムだからである。
そういえば初めて会った時も冒険者等級なんて下らないとか言ってたもんなぁ……
「そもそも龍姫というのは我ら龍族と人間を結ぶ為の架け橋……決して王族のみからが決まるものではない! 」
ザヴァラムはそう言うとイージスの方を見た。
「我ら龍族と人間を結ぶ者はそれ相応の力を持つ者でなくてはない……ならば私……いや、 私達が認め、 忠義を捧げる人間はただ一人……」
するとザヴァラムに続き守護者達全員がイージスの前に出てひざまづいた。
「聖剣王……又の名を……英雄、 イージス様だ! 」
『我ら守護者は至高なる聖神国 メゾロクスの王、 聖剣王 イージス様に永久なる忠誠を誓う者! ! 』
守護者達は一斉に深々と頭を下げる。
えぇ……俺が龍姫になれと? 面倒くさそう……それと俺、 男なんだが……
「で、 ではザヴァラム様は……イージス様を龍姫にすると……? 」
使用人がそう言うとザヴァラムは立ち上がり、 宣言した。
「愚問、 イージス様こそ世界の王に相応しい……龍姫は名を改め、 龍皇となる! 異論は認めん! ! 」
(称号、 龍皇を獲得しました。)
変な称号貰っちゃったよ全く……
すると騎士の隊列の中から声がした。
「待て! いくらザヴァラム様がお認めになっても、 私は認めませんぞ! 」
一人の騎士が隊列の中から出てきた。
金髪にエメラルドグリーンの瞳を持ち、 他の騎士達とは違う服装と風格を見せる。
制服の胸部分の紋章はコルスターカ法国を示していた。
また面倒くさそうなイベント発生だな……
騎士は話を続ける。
「私はコルスターカ法国騎士団長、 リレイン・オル・バハラティーア! ザヴァラム様の意見に私は同意しかねます! 伝説によれば龍姫というのは龍の力に劣らない魔法や力を使えるという……イージス様にそのような力を持つと到底思えない! 」
うわぁ……この人殺されるぞ……ラムに……
リレインの言葉を聞いたザヴァラムは物凄い覇気を放ちながら言った。
「イージス様は私をひれ伏す程の力の持ち主……そんなイージス様を相応しくないと言うのは……貴様がイージス様以上の力があるからか……? 」
「うっ……」
リレインは怖じ気づく。
ザヴァラムは声を龍の姿の時の声に変えて言った。
『考えてから物を言え……この愚か者が! ! ! ! 』
「待てラム! 」
怒りを顕にするザヴァラムをイージスが止めた。
騎士団長か……考えてみればそんな人と戦ったことが無い……
するとイージスは席を立ち、 リレインの目の前に歩み寄った。
「リレインさん……だっけ? 」
「は、 はい……」
「一度国を代表する騎士さんと戦ってみたかったんだ……もし貴方がどうしても納得いかないなら、 俺と決闘をしてそれを証明してみせようか? 」
それはイージスからリレインに対する宣戦布告であった。
リレインは一瞬驚いた顔をしたがすぐに冷静さを取り戻した。
「分かりました……では……」
「それにラムと戦うのは危な過ぎるしな……」
イージスは小声で囁いた。
「……助かりました」
リレインは密かにイージスにお礼を言い、 決闘が決まった。
ザヴァラムや姫達に異論は無く、 誰もがイージスの決闘を認めた。
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そして一同全員は城にある闘技場に集まり、 イージスとリレインは準備をした。
「……本当によろしかったのですか……あの人間……レベルは300にも及びませんが……? 」
イージスの考えが読めないザヴァラムは聞いた。
「まぁそうなんだけど……俺って騎士とはまともに戦ったことが無いんだ。 だから一度騎士というのはどんなものか見てみたいと思ってね……それに……」
「それに……? 」
「俺が止めなかったらラムはリレインさんを殺していただろう? 」
ザヴァラムは遇の音も出なかった。
図星だな……
「ラムもそろそろ怒りを抑えるというのを覚えた方がいいぞ」
「は、 はい……」
そしてイージスは闘技場のリングへ向かった。
闘技場の観客席では各国王を始め、 各国騎士団、 姫達も観戦している。
……ほぉ、 リレインさんは召喚獣使いみたいだな……
イージスの前に現れたリレインの周りには召喚された魔物達がいた。
「召喚魔法が使えるんですね……でもそれだけじゃないんですよね? 」
「勿論、 精霊を使って様々な加護を付与することも可能です」
リレインはそう言うとリレインの周りに五色の光が現れた。
精霊術師か……初めて会う職業だな……精霊ということは魔術とは違うんだろ? ジースさん。
(はい、 魔術師は自身の体内、 あるいは空気中にある魔力を操り魔法を行使する職業。 そして精霊術師は精霊に宿る力を操り精霊の能力を行使する職業です。 また、 現在主様の持つスキル、 超反射で精霊の力を完全無力化することが可能です。)
なるほど……敵ではないということだな……でもまぁ
どっちにせよ剣で勝負するつもりだけど……
「では参ります……」
「……」
そしてお互いに剣を構え、 試合が始まった。
リレインは精霊の力を剣に宿し、 イージスに向かってきた。
……速い!
イージスはリレインの剣を弾き、 避けて様子を見た。
「……召喚獣を使わないんですか? 」
「隙があれば使うつもりだったのですが……貴方には隙が全く見られない、 貴方はいつでも私を攻撃できるはずですが……」
見破られているか……じゃあそろそろ……
するとイージスは剣を弾き、 お互いに距離を取った。
距離を取った瞬間、 イージスは東の果てで習得した構えをやった。
次の瞬間、 辺りの空間は時が止まったかのように静寂に包まれた。
「……あの構えは……何だ……! ? 」
見ていた周りの人間達も静寂に包まれ、 風も止まった。
……剣技……
「千雨反降……雷轟……! 」
そう呟くとイージスは剣を前に突き出した。
音も風も出ない。
次の瞬間……
「うぉっ! ? 」
地面は小刻みに振動し、 その振動は空気も揺さぶる。空気に伝わった振動は空気中に漂う水分を集め、 まるで雨が逆さに降っているかのような現象が起きた。
「この……技は……! ? 」
この技は母さんの技術を応用した新しい技……空気を一点に集中させて発射する……いわゆる空気砲だ。その力は……ライフ銃を遥かに上回る……そして俺が狙った対象は……
「……なっ! 」
召喚獣達が足だけを残して消滅していた。
「そんな……音も無かったのに! 」
「やはりイージス様は強い……」
見ていた人間達も気付かない程静かな技……初めてにしてはうまくいってよかった……さてと……もう騎士の強さは十分見た……剣に宿した精霊の力は俺の剣からビリビリ感じた……確かに強いな。
イージスは剣をしまうとスキルでリレインを威圧した。
「……どうする? このまま続けてもいいが……」
「っ……! 」
(これが……イージス様……絶対的強者……圧倒的力……)
リレインは絶対に勝てないと悟り、 降参した。
「……フフッ、 あれが英雄様のお力……流石ね……」
観客席で見ていたメランは不敵な笑みを浮かべた。
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大広間に戻った一同は話の続きを始めた。
「では、 改めましてザヴァラム様の決定により、 イージス様を『龍皇』に任命します! なお、 今回の決定については選挙は行わないものとします」
不本意だが……とりあえずこれでよしとしよう……
「新たな龍皇様に……捧げ、 剣! ! 」
騎士達は剣を両手に持ち、 刃を上に向けるように持った。
……疲れるんだよなぁ……こういうの……
そしてひとまずこの日の集会は終わり、 一同は一旦解散した。
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その夜、 城で泊まるようにヒュレイダルに勧められたイージス達はその日は城で泊まることにした。
城のバルコニーにて……
「……はぁ……」
本当に疲れた……あの後お姫様達にめっちゃアプローチされるし……先進国の王様が独身となったらそりゃ放ってはおかないか……
イージスが一人で夜空を眺めていると……
「ここにおられましたかイージス様」
「……あなたは……」
後ろからエルセが声を掛けてきた。
確か十二天星騎士団の団長……エルセさんだったけ……
「隣、 よろしいでしょうか? 」
「あぁ……それとそんなに畏まらなくていいよ」
「では失礼して……」
エルセはイージスの隣に寄り、 一緒に夜空を眺めた。しばらく二人は黙っているとエルセが口を開いた。
「イージス殿は……どうしてそんなに強いのですか? 」
「ふふっ、 直球だな……」
隠すだけ怪しまれるだけだからな……いっそ全部話しておくか……
イージスはエルセに今まで何があったのかを話した。15年もの間、 激戦を繰り広げた話を……
「……そんな……ことが……しかもレベル1500を越えているなんて……国どころか世界を支配できますよ……! 」
「まぁそうだよな……普通はそう……たまたま俺に欲が無かったんだろうな……」
それに女神様に折角転生させてもらったんだし、 悪事を働くのは女神様に失礼ってもんだしな。
「ははっ、 本当にイージス殿は面白い人ですね……では、 貴方はその力を持って何を求めるのですか? 」
「うーん……分からん! 」
イージスはキッパリ言い切った。
「そもそもこの強さは成り行きで手に入れたものだし、 特にこの力を使って何をしようとか考えたことも無いよ。 ただ……」
「ただ? 」
「俺の母さんが守ろうとしたこの美しい世界を……守りたい……今の俺の目的はただそれだけだ」
イージスは街の夜景を見ながらそう言った。
あまり深く考えるのは柄じゃないし……前みたいにぐちゃぐちゃ考えるのはもうやめたつもりだ。
「そうですか……それはそうとイージス殿、 先ほどから口に咥えているそれは……? 」
「あぁこれ? さっき市場で買ってきたんだけど……これがスパイシーで旨いんだ」
イージスはエルセにもう一本の謎の棒を渡した。
エルセはその棒を噛ってみると……
「ウブッ……! か、 辛い! これは香辛料の素材になる木の棒じゃないですか! ? 」
これってそのままじゃ食えないのか……?
(はい、 通常香辛料は素材そのまま食べることはありません。 )
また耐性スキルのせいで感覚が麻痺してるのか……でも旨いんだがなぁ……
「……さぁて、 明日も集会はあるんだ。 もう寝るとしよう! 」
「はい、 では私は城の警備に戻ります。 お休みなさいませ」
そしてイージスは自分の部屋へ戻った。
明日はもしかすると魔王とかその類いの話をするんだろうな……最近そういった事件が多かったからなぁ……
イージスは少し憂鬱になった。
続く……