第48話【伝説の剣士】
東の海を無事に越えたイージス達は、 東の果ての島にてクローロと出会った。
「さて、 まずは……」
クローロはアメニを見た。
「わざわざ俺の弟子を連れて来てくれたこと……感謝する……」
「……」
弟子だったのか! ……なるほどな、 アメニは魔王の配下に下ってしまったから師匠であるクローロに会いに行くのが気まずかったって訳だ……これで納得いったな……
するとクローロはアメニに言った。
「恥ずるな、 アメニよ……お前は確かに魔王の配下に下り、 力を悪の為に使った……だが再びこうして俺の元に戻った……それだけで俺は十分だ……」
「師匠……私は臆病者です……師匠に鍛えられたのにも関わらず……戦うことなく魔王様を裏切る事になってしまいました……そして敵であるイージス様の元に寝返る始末……こんな私に……強さなんて意味があるのでしょうか……」
そう言うとアメニは涙を溢した。
……アメニ……そこまで……
するとクローロはアメニの頭を優しく撫でながら言った。
「……それは俺にも分からん……だが、 きっとお前の心はその力を悪に使う事を許さなかった……だから戦えなかったんだろう……」
「うぅ……」
「しかし、 もう今は違うだろう……」
そう言いながらクローロはイージスの方を見た。
「お前は……その力を捧げるべき者を見つけたのだ……」
え……それって俺のこと! ?
イージスはクローロを見ながら自分を指さした。
それに対してクローロは頷いた。
「いや……俺はただ……」
「謙遜せずとも分かっている……英雄殿はそれを理解した上でアメニをここへ連れてきたのだろう? 」
「いや……だから……」
何か凄い誤解されてる気がする……俺がそんな深く考えて来た訳じゃ……ただ剣の強さを引き出したくてここに来たのに……
するとアメニはイージスの方を見た。
「イージス様……このことを知ってて私を……」
「いや……あの……」
そしてアメニは席を立ち、 イージスにひざまづいた。
「イージス様……いえ、 至高なる聖神国の王、 聖剣王 イージス様……」
えぇ……
「私アメニ・メルフェランは、 貴方様の優しさに心打たれました……私はそんな貴方様に……この身を捧げると共に、 永久なる忠誠を……誓います! 」
……もういいや、 どうにでもなれぇ! !
「あ、あぁ……その忠誠、 しっかり受け取ったよ……」
「感謝申し上げます! これから何卒よろしくお願い致します! 」
うわぁ……また忠誠心の重い人が加わっちゃったよ……疲れるんだよなぁ……
イージスはクローロの方を見た。
クローロはイージスを見ながらニヤニヤしていた。
……コイツまさかこれが目的で俺に振ったんじゃないだろうな! ?
するとクローロは笑い出し
「ハッハッハッハッ! どうやらアメニの問題は無事に解決できたようだな! いやぁ良かった良かった! 」
……コイツ嫌いだ! ! ! ! !
イージスは心の中でそう叫んだ。
するとクローロは雰囲気を変え、 イージスに話し掛けた。
「さて……英雄殿よ……話はそれだけではないだろう? むしろこっちが本命だったみたいだしな……」
「……分かってるなら最初からその話題にして欲しかったんだが……」
「まぁ悪く思うな、 これも彼女の為なんだ……」
……アメニの為……まぁ師匠が弟子を思うのは当然か……なら……多少は許してやるか……
イージスは一つため息を着くと話した。
「まぁ仕方ない……それじゃあ本題に入るとするか……率直に言おう、 この剣の本当の力を……引き出したいんだ……」
するとクローロは少し顔を曇らせた。
「……すまないがそれは無理だ……」
『えっ! ? 』
母さんの仲間でもあった伝説の剣士ならこの剣の力を引き出せると思ってたのに……
「だが英雄殿の力なら引き出せる……それは英雄殿自身を鍛える必要がある」
俺の力……?
「どうすればいい? 」
するとクローロは席を立ち、 部屋に置いてある木剣を取り出した。
「これからしばらく俺と剣術の修行だ、 勿論……魔法やスキルの使用は禁ずる形でな……」
俺自身だけの強さを鍛えるということか……
そしてイージスは立ち上がり、 クローロに言った。
「お願いします、 師匠! 」
「イージス様……! 」
すまないラム、 だが許せ……俺が強くなるには鍛えてくれる師が必要だ……そして師匠には礼儀を払わないといけない……ラムにとっては少し屈辱だが……我慢してくれ……
「いい返事だ……では早速今日から始めるぞ! 」
そしてイージスとクローロの修行が始まった……
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イージスとクローロは小屋から出てお互いに木剣を構えた。
「まずはイージス君、 君の実力を見せて欲しい……」
スキルや魔法は駄目なんだよな……自信無い……とにかくやってみるしか……
するとイージスはクローロの方に向けて走った。
次の瞬間、 イージスはとんでもない速度に加速した。
「うぉ! ? 」
スピードに驚いたイージスはクローロ前でこけた。
クローロはすかさずイージスに木剣を振りかざした。イージスは咄嗟にクローロの木剣を弾こうとした。
するとクローロの木剣が鈍い音を立てながら真っ二つに折れてしまった。
「え……」
何だこの力! ? ステータスによるものなのかよ! ?
(はい、 恐らくその解釈で間違いありません。)
ちなみに現在のイージスのレベルは1842である。
見た目が変わってないから全然気付かなかったけど……俺ってだいぶ人間を止めているみたいだな……
するとクローロは少し驚いた様子で話した。
「驚いた……この力……ダイヤ様を越える力だ……だが、 力を完全にコントロールできていないようだな……」
「はい……見た通りです……」
前々から力加減が出来なかったからなぁ……ここで思い切り出ちゃったなぁ……
「ふむ……君にすべき修行を思い付いたぞ」
そう言うとクローロはイージスについてくるように言い、 森の中へ入っていった。
しばらく森を進むと綺麗な泉のある場所に出た。
「ここは……」
「君には、 この泉に波紋を出さなくなるまで剣を思い切り振ってもらう……」
えぇ! ? 波紋を出さずに剣を振るって……なるほど、 力を調整する技術を身に付けろということか……何かカンフー映画みたいになってきた……面白そう……
「分かりました……やってみます……」
するとクローロはその場を立ち去った。
「夕暮れになったらまた迎えに来よう……サボるも良し、 真面目にやるも良しだ……」
なるほど……流石は伝説の剣士だな……教え方も上手い……
そしてイージスは泉に一人残された。
「……やるか」
イージスは持ってきた背中の剣を抜き、 泉の水面スレスレまで思い切り振ってみた。
すると周りに強い衝撃波と共に水面が荒々しく波が立ってしまった。
……こりゃ気が遠くなるなぁ……まぁやるしかないか……
イージスはひたすら剣を泉に向かって振り続けた。
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夕暮れ、 クローロはイージスを迎えに来た。
「……やっているな」
「……駄目だ……どうしても波が立ってしまいます」
「ハハハッ、 まぁ最初からできれば苦労はしない……根気よく続けるのが大事だ」
そしてイージス達は小屋へ戻った。
小屋ではザヴァラムとアメニ以外のメンバー達が迎えた。
「あっ、 イージスさんお帰りなさい! 」
「修行どうだった? 」
「まだまだって感じだよ……それより、 ラムとアメニは? 」
「何か大事な用があるって言ってアメニさんと一緒にメゾロクスに戻っていきましたよ? 」
大事な用か……まぁだいぶメゾロクスを放置してたからな……何か仕事が貯まってるんだろうなぁ……
するとクローロは台所から鍋を持ってきた。
その中には大量のシチューがあった。
「さぁ飯だ、 沢山食え! 」
「わぁ、 美味しそう! 」
イージス達は食事をすることにした。
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食事を終え、 イージス達はしばらく談笑していた。
「ハハハッ、 ガムール殿も変わってない様子で何よりだ」
「本当に頼りになる仲間ですよ」
そういえばクローロさんは何でガムールと離れることになったんだ?
イージスはクローロに聞いた。
「師匠……」
「修行以外の時はクローロで構わんよ」
「あぁ……クローロさん、 何故あなたはここに暮らすように? 」
するとクローロは顔を曇らせ、 話した。
「……奴らとの戦いに原因があるのさ……偽りの神、 ゼンヴァールとのな……」
「奴ら……? 」
クローロさんが母さんの仲間だったから当然ゼンヴァールと戦ったのは分かるけど……奴らと複数形で呼ぶのは何故だ?
「ゼンヴァールには二人の配下がいるのさ……」
「えっ! ? 」
それは知らなかった……図書館の本にもそんなの書いてなかったし……
クローロは話を続ける。
「ゼンヴァールは一人だけで行動はしなかった。奴には絶対的信頼を持つ二人の配下を従えていた……その内の一人に俺はやられたのさ……名はズネーラ……ゼンヴァールの右腕とも呼ばれる存在……そしてもう片方はヴァランデ……カルミスが負けた相手さ……」
カルミスさんが負けた相手……
「俺とガムールはズネーラに立ち向かった……二人なら大丈夫だと思い込んでいたんだ……だがズネーラは強過ぎた……伝説の剣士とも言われた俺達でこの様だ、 だがガムールは諦めずに邪神軍へ入り、 再びズネーラと戦う機会を待っているんだ……本当にアイツは戦士の鑑だ……」
「でも……何故クローロさんは? 」
するとクローロは右腕を見せるように服を脱いだ。そこには右腕は無く、 何か特殊な金属で作られた義手があった。
「それって……」
「そうさ……ズネーラとの戦いで失ったのさ……こんなんじゃもはやズネーラは愚か、 あの覇龍族とも勝負にならないだろうさ……」
ガムールは運が良かったということか……
「俺は段々自分が惨めに思えてな……いつしかこの島に籠るようになってしまった……伝説の剣士なんて所詮は肩書きに過ぎん……世界も守れずに何が伝説だ……」
そう言うクローロにイージスは言った。
「でも貴方は世界を救ったんだよ……」
「何故そう思う……」
「貴方はここまで世代を繋げてくれたじゃないか……この剣を継ぐ人が現れるまで繋げてくれたじゃないか……そんな世界の危機から時を紡いでくれた貴方達を伝説と言わずして何と言うんですか! 」
するとクローロは優しく微笑み
「……伝説は死んだのさ……」
と言い、 クローロはそのまま自室へと入っていってしまった。
クローロさん……絶対に俺は強くなる……そして再びあなたに伝説を見せてやる!
そう決心したイージスはより一層修行に専念することにした。
朝から晩まで……朝食、 昼食、 夕食までも抜いてイージスは泉で修行を続けた……
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一週間後……
「ぬぉらぁ! ! ! 」
イージスは泉で修行を続けて一週間が経った……しかし泉の波紋は消えることは無かった……
畜生……時間が無いって言うのに……
イージスの中で焦りが生じていた。
そこへクローロが現れた。
「イージス、 まずは飯を食え」
「師匠……」
そしてイージスとクローロは泉にて食事をすることにした。
握り飯なんてずっと食べてないな……異世界に来て以来だな……
そう思いつつイージスは握り飯を食べていると
「この料理はな……かつてダイヤ様に教えてもらったんだ……」
母さんに……そういえば婆ちゃんに……母さんはよく父さんに握り飯を作ってたって言ってたっけ……
「ダイヤ様は握り飯を作っている時にいつも歌を歌っていた……何の歌かは全く分からなかったが……なんというか、 不思議な温もりを感じる歌だったよ……」
そうだ……母さんは癖で歌も歌ってたって言ってたな……
その時、 イージスは祖母から聞かされていた歌の歌詞を思い出した。
『愛は温もりとなりあなたを包む……旅へ出かけるあなたへの想い……私に出来るのはあなたを愛すること……誰よりもあなたを愛してる……』
そう……母さんは愛という言葉が好きだったんだ……
……! ?
「そうか……そういうことか……! 」
何かを思い立ったようにイージスは叫んだ。
「ど、 どうした! ? 」
「ありがとうございます師匠、 お陰でヒントが見つかりました! 」
「えっ、 あぁ……」
それからイージスは再び修行へ戻った……
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それから三日後……
クローロはイージスの様子を見に行った。
「無茶してなきゃいいんだが……」
その心配を余所にクローロはイージスの姿を見て驚いた。
イージスは泉の水面で立っていたのだ。深さ2、3メートルはある泉の水面で波紋も起こさず立っていた。
「なっ! ? スキルや魔法の使用形跡は感じない……まさか本人の……! 」
すると目を瞑っていたイージスは目を開け、 剣を横に思い切り凪ぎ払った。
物凄い風圧が辺りに広がった。しかし……
「波紋が……立っていない……」
泉には波どころか波紋すらも無かった。
凪の如く、 泉は平らな水面でいた。
「イージス……いやイージス殿、 これは! ? 」
「力を別の方向へ集中させ、 放つ技術……放つ方向以外へは絶対に力は逃げない……我流の剣術です……」
「どうやってその技術を……」
するとイージスは微笑みながらこう言った。
「包み込む温もりと同じですよ……」
「どういう……? 」
「俺は母さんの歌を思い出して思い付いたんです……強さは力だけじゃないって……すると俺の周りにある空気、 水、 魔力、 全ての流れが見えるようになったんです……それを包み込むように気の流れを作り、 放つ……これが俺の中で見出だした答えです……」
それを聞いたクローロは涙を流しながら言った。
「その技術は……かつてダイヤ様が使っていた技術と全く同じもの……」
母さんが最初に使っていた技術だったのか……どうりで懐かしい気持ちになる訳だ……
「イージス殿、 其方はダイヤ様の……! 」
その言葉に対しイージスは静かに頷いた。
今、 伝説の英雄の技が……ここに蘇ったのだ……
続く……