第47話【東の海】(前編)
ベヘラーティアにて東の果てにいる伝説の剣士の話を聞いたイージス達は更なる力を求め、 東の海を渡ろうとしていた。
「魔の海かぁ……楽しみだ」
「何がどう楽しみなのやら……」
移動中、 イージス達は東の海について話していた。
「だって魔の海だよ? 都市伝説の場所に行く気分だぜ! 」
イージスが言っているのは魔の領域、 バミューダトライアングルの事である。
この世界と俺のいた世界じゃ違うけど……似たような場所があるなら興味が湧かないはずが無い。
「トシ……伝説……? 」
あぁ……皆には分からないよな……
「つまり裏の世界で囁かれているちょっとした伝説の話だよ」
「現に表に出てる時点で裏とは言わないんじゃ? 」
……それは正直思う……
そんな話をしながらイージス達は馬車の中で揺られた。
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数時間後……
「イージス様、 見えて参りました! 」
「あれが大陸東の港街……ミベル……俺達の船がある場所か……」
イージス達は大陸の東の果てにある港街、 ミベルに着いた。
ちなみに昨晩、 ザヴァラムは既にレフィナスに飛空挺を手配するように通信していた。
「ん? アメニ、 どうした? 」
イージスは浮かない顔をしているアメニに気付いた。
「い、いえ……遂に東の果てに行くのですね……」
何かあるのか? アメニと東の果てに何の関係が……
「……そうだ、 飛空挺の準備ができるまで時間がある! 少しの時間だが街で遊んで行こうか! 」
アメニの気分転換させてやらないとな……
イージスは何となくだがそうしようと思った。
そしてイージス達はミベルで少し息抜きをすることにした。
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数十分後……
「イージス様、 準備が整いました」
「おう、 そんじゃ行くか! 」
イージスはザヴァラムの報告を受け、 皆を集めた。
「おーいアメニ! 行くぞー! 」
「……」
アメニは街の広場にある噴水の前で立ったまま動かない。
……ずっとあそこにいたのか……本当に何があったんだよ……
イージスはアメニの側に寄った。
「アメニ……」
「……すみません……少し考え事をしてて……」
そう言うとアメニはザヴァラム達の所へ歩いていった。
……あの雰囲気は話せそうには無い……か……
そしてイージス達は飛空挺に乗り込んだ。
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「うおぉーーー! ! ! 」
今までザヴァラムの背中に乗っていたりしていたが飛空挺に乗るとまた違う気分だな!
そう思いながらイージスはミーナ達を見た。
「……うぅ……」
「……おぇぇ……」
「……イージス……様ぁ……」
ザヴァラム以外のメンバー達は酔ってしまっていた。
何で船酔いは平気なのに飛空挺は駄目なんだよ……でもこれじゃいざというときに戦えないしな……魔法でも掛けておこうか。
「ほら、 大丈夫か? 」
イージスは耐性魔法をミーナ達に付与した。
「あ、 ありがとうございます……」
「魔の海の領域に入るんだ、 戦えないとヤバいだろ? 」
するとザヴァラムが大声で叫んだ。
「イージス様! ! あれを見て下さい! ! 」
「何だ! ? 」
ザヴァラムが指さす方向に見えたのは……
「あれは……入道雲? 」
黒い巨大な雲が目の前に立ちはだかっていた。
あれ……どっかの飛行島があんな感じの雲の中にある物語があった気が……
「……ラ──」
「イージスさん、 あれはまずいですよ! ! 」
イージスが何か言ってはいけないような事を言おうとした時にミーナが言った。
……っと……確かに、 あの雲の中から凄まじい魔力を感じるな……ただの雲じゃないな……
そんなことを考えているとジースが解説した。
(あれは魔力雲です。 自然発生的に起きた空間にある魔力の暴走により起こる自然現象です。)
なるほど……あれが魔の海と呼ばれている原因か?
(いいえ、 恐らく原因は他にあるかと……)
だよなぁ……あれじゃただ海が荒れるだけだしな……
「イージス様、 旋回致しますか? 」
「……いや、 中を突っ切ろう! 」
『えぇーーー! ! ! ? 』
魔の海と呼ばれている原因があの中にあるのかもしれないしな……ついでだ、 魔物なら倒してここの一帯を安全にしてやるか……
そしてイージス達は雲の中へ入っていった。
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中は予想通りだがすげぇ荒れてるな……
飛空挺はイージスの防御結界によって一切影響は受けていないが方向感覚が狂う程目の前は真っ暗だった。
「イージスさん! このままだと迷ってしまいますよ! 」
「羅針盤も効きません! ! 」
入ると言ったのは俺だが中々ヤバいな……
するとイージスは何かの気配を感じた。
(報告、 高密度の魔力反応を確認しました。 方角……不明。 )
「おっ、 そうこうしてる内にここの主がご登場みたいだぜ? 」
『えっ……』
次の瞬間、 イージス達の目の前に雷が落ちてきた。
「た、 太陽の盾! ! 」
ミーナは咄嗟に防御魔法を展開した。
雷は結界に跳ね返され、 暗闇へ消えた。
「ナイスミーナ! ! 」
正直ビビったぁ……どこから来るか分からなかった……
するとどこからか声が聞こえてきた。
『ほぅ……我が力を跳ね退けるとは……太陽の精霊の力か……』
……この雰囲気……思った以上にヤバい! !
次の瞬間、 上空から何か巨大なものが降りてきた。
「なっ……! 」
「お前は……! 」
降りてきたのは巨大な黒いドラゴンだった。
全身は暗闇と同化し、 頭部には赤い光を放つ瞳があり、 更には額部分に三つ目の目があった。
『久しいなぁ……ザヴァラム! 』
「ラム、 知り合いか! ? 」
するとザヴァラムはドラゴンから目を離さずに話した。
「あれは邪神竜、 ミヴァルネルです……世界に存在する龍族の中でも最強クラス……覇龍級の災龍です! 」
ラムがかなり警戒してるなんて……ジースさん……
(スキル、 能力透視・極が発動します。)
……レベル……1000! ?
明らかに今までの相手とはレベルが違う!
ちなみにザヴァラムの現在のレベルは1015であり、 レベルではミヴァルネルに勝っているものの、 かなりの強敵となると言える。
『そう、 我こそはミヴァルネル……この空を支配する邪神龍なり! 』
「皆、 行くぞ! 」
『はい! 』
イージス達が武器を構えるとミヴァルネルは再び上空の暗闇へ姿を消した。
「気を付けろ……どこから来るか俺にも分からない……」
超探知でもこの魔力の嵐じゃ探知のしようが無い……
次の瞬間、 様々な方向から黒い火の玉がイージス達に目掛けて飛んできた。
「太陽障壁! 」
ミーナの魔法でイージス達の周りに光の膜が張られた。そして火の玉は膜に直撃し、 大爆発が起きた。
「ありがとうミーナ! 」
「やっと皆を守れました……」
本当に強くなったな……
次にイージスは剣を抜き、 ザヴァラムに指示を出した。
「ラム、 この雲をかき消せたりしないか? 」
「……恐らく難しいかと……この雲は全てミヴァルネルの魔力の塊……奴を弱らせないと雲をかき消すのは無理です……」
やっぱりそうだよなぁ……ゴッド・オブ・ディストラクションを撃てばワンチャンいけそうだが……ミーナ達を巻き込む可能性が……
イージスが考えていると次の攻撃が飛んできた。
ミヴァルネルが雷と共に高速でイージス達の所に突っ込んできたのだ。
ミヴァルネルは飛空挺にぶつかり、 一部破壊した後、 ミーナに目掛けて雷を落とした。
厄介な防御役を潰そうってか!
「太陽障壁! ! 」
ミーナは咄嗟に防御したが膜にヒビが入り、 割れてしまった。
「なっ……! ! 」
ヤバっ! !
雷がミーナに直撃する直前、 ヒューゴがミーナを突き飛ばした。
雷はヒューゴに直撃した。
「ヒューゴ! ! 」
「……大丈夫だ……イージスさん……! 」
ヒューゴの体には傷一つ付いていなかったのだ。
マジか! 防御魔法も使っていないのに……フェースの力か……!
『ヌッ! その防御力……フェースの力! ? 』
「よく知ってるじゃないか、 流石は最強クラスの龍だな! 」
ミヴァルネルは驚いた様子で話した。
『覇王龍を従え……フェースの力を持つ小僧を仲間にし……更には太陽の精霊の力を授かりし小娘まで……貴様は一体何者だ! ! 』
ここは決め台詞でも言っておくか……
するとイージスは剣を床に突き立て、 名乗った。
「俺は……イージスだ! ただの冒険好きの人間だ! 」
『人間如きが……我は空を支配する邪神龍だ! 貴様らなんぞに負ける訳にはいかん! ! 』
するとイージスに目掛けて無数の黒い雷が飛んできた。
イージスは剣を円形に凪ぎ払い、 雷を一瞬にしてかき消した。
『何っ! 』
「火力が足りてないんじゃないかぁ? ミーナ、 ヒューゴ! 」
「お、俺達! ? 」
「勝てる自信が……」
「勝てなくてもいい……奴を追い込んでくれればそれでいい」
『は、 はい! 』
するとヒューゴが指輪を前にかざすとイージス達の上に大きな亀裂が空間に入った。そこからフェースが飛んできた。
『我が主よ、 さぁ……』
「よし、 そんじゃあ遂にフェースとの初戦だ! ミーナちゃん、行くぞ! 」
「は、はい! 」
そしてミーナはフェースに乗り込み、 ヒューゴと共に雲の中へと入っていった。
……………
雲の中へ入っていったヒューゴ達は……
「うぉ……雲の中は更にやべぇな! 」
「ふぇぇ~~! 目が回る~~! 」
しばらく嵐の中を飛んでいるとミヴァルネルが後ろから追いかけてきた。
『愚かな……貴様ら貧弱な人間の子供如きが我に太刀打ちできるとでも思っているのか! 』
『それはこちらも同じだ……空を崩壊させし龍の力を見るがいい! 』
するとフェースは周りから無数の魔法陣を展開させ、 光の槍を飛ばした。
「俺も行くぜ! 」
飛んでいく槍に混じってヒューゴはフェースから飛び出し、 ミヴァルネルに向かって拳を振りかざした。
「龍滅拳! ! 」
槍がミヴァルネルに刺さると同時にヒューゴの拳がミヴァルネルの頭に直撃した。
『……この程度か……』
「何……! ? 」
次の瞬間、 ミヴァルネルはヒューゴを突き飛ばし、 槍の刺さった部分から無数の雷を放った。
『主! 』
フェースはヒューゴをキャッチし、 雷から逃げるように飛んでいった。
「ミーナちゃん、 目が回るかもしれないけど我慢してくれ! 」
「ふぇぇ……」
そしてフェースは超高速で飛んだ。
『崩天空間! 』
フェースは空間に亀裂を入れ、 ワープした。
『ヌゥ……どこへ行った……』
ミヴァルネルが辺りを見渡していると
「行くぜゴラァ! ! 」
「ランス・サン! ! 」
ミヴァルネルの上空からフェースと共にミーナとヒューゴが落ちてきた。
ミーナは勢いに乗せながら無数の黄金の槍を降らせた。
『崩天炎! ! 』
フェースもそれに合わせて青白い炎を吐き出した。
『第三の眼……』
するとミヴァルネルは額にある目を開き、 巨大な赤い魔法陣を展開した。
槍と炎は魔法陣の中へ取り込まれていった。
「なっ! ? 」
『悪くはない作戦だったが……まだ足りぬわ! 』
そしてミヴァルネルはフェースの所に飛び上がり、 口から黒い火の玉を吐き出した。
「このくらいでいいか……行くぞフェース! イージスさん達の所におびき寄せるぞ! 」
『了解した! 』
するとフェースはミヴァルネルの攻撃を避け、 ミヴァルネルを横切った。
『逃がさぬわ! 』
ミヴァルネルはフェースの後を追いかけた。
……………
その頃、 イージス達は……
「……」
「……」
「……」
ミヴァルネルが来るまで待ち構えていた。
「……来る! ラム! 」
「はっ! 」
イージスの指示と共にザヴァラムは龍の姿へ変わった。
『さぁ……来るがいい……覇神龍の力をここで見せてくれる……』
そう言うとザヴァラムは拳を握った。拳からは黒いオーラに満ち溢れた。
「アメニは下がってて……」
「は、はい……」
しばらくするとヒューゴ達の声が聞こえてきた。
「イージスさーん! 」
「おびき寄せてきましたよ! 」
……凄い……あの二人……いや、 三人か……ミヴァルネルの体力が僅かだが減らして戻ってきた! 強くなったな……二人とも……そしてラム……君の強さはどれほどになったのか……見せてもらおう……
するとザヴァラムの前方からミーナとヒューゴを乗せたフェースが飛んできた。
フェースは飛空挺の上で止まるとミーナ達を降ろし、 空間の亀裂の中へ戻っていった。
「イージスさん! 」
「あとはラムの力を信じよう……」
そして……
『ヌォォーーー! ! 人間共! ! 』
『……覇龍……邪神破滅拳! ! ! 』
暗闇から飛び出してきたミヴァルネルに向かってザヴァラムは拳をぶつけた。
ミヴァルネルの頭は陥没し、 そのまま再び暗闇の中へ吹き飛ばされた。
つ、強! !
後編へ続く……