第45話【鍛冶の街】(後編)
前回、 ベヘラーティアの街にてグライドと出会ったイージス達は剣の実験でオリハルコン製のゴーレムを破壊してしまった。
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「……えっと……」
「ゴーレムの事なら気にすんな! 言ったろ、 坊主なら壊されるのは本望だって」
やっぱり手加減できねぇな俺……もしかして……
イージスはサヌラの言葉を思い出す。
『その剣……まだ強くなるよ……』
剣の力を使いこなせってことか?
そんなことを考えているとグライドが話しだした。
「……坊主……お前のその剣……まだまだ不思議な力を宿してるみてぇだな……俺の虫眼鏡でも分からねぇことだらけだ……」
「そうみたいだな……なぁグライドさん、 ここの近くに剣術を鍛えてくれるような人とかいないか? 」
するとグライドは考え込んだ様子で髭を撫でた。
剣術を極めればこの剣の力だって制御できるはずだ。この剣が強くなるってことは俺が強くなるってことだ……俺がそう望んで貰った剣だからな……
しばらくするとグライドは思い出したように言った。
「そういやぁ、 東の海の果てに世界で一番強いって言われている伝説の剣士がいるって話を聞いたことがあるなぁ……」
「それじゃあその人に会いに行けば……! 」
「だがこれはおとぎ話って噂されてるからなぁ……本当にいるかどうか……」
それだけでも行ってみる価値はある!
そしてイージスはザヴァラムに指示をした。
「ラム、 ミーナとヒューゴに伝えてくれ。明後日の朝、 東の海を渡るって」
「承知致しました」
そう言うとザヴァラムは店を後にした。
「おいおい坊主、 こんな本当かどうかも分からねぇ話を信じるってのかよ? 」
「少なくとも行ってみるだけの価値はあるだろ? 」
イージスがそう言うとグライドはフッと笑い
「……そうだな」
と一言だけ言って店のカウンターの方に座った。
「さて坊主、 あの嬢ちゃんだけ行かせたっつぅことはまだ何かあるんだろ? 」
「あぁ、 もう一つ聞きたい事があってな……ゼンヴァールという奴について、 何か知ってることは無いか? 」
本来の俺の目的があるからな……息抜きって言ってもゼンヴァールの情報集めを止めるっていうことじゃあない。
聞こう聞こうと思ってたがタイミングが難しかった……
するとグライドは再び髭を撫でて考え込んだ。
「ゼンヴァール……」
「何でもいいんだ」
「……悪いが坊主、 そのゼンヴァールとやらに関しては聞いたことも見たこともねぇな……」
「そうか……」
まぁそう簡単には手に入らないか……この世界の皆は魔王ぐらいしかデカイ悪党は知らないだろうしな……あとガインぐらいか……
この時イージスはこの世界の人々が何故極端にゼンヴァールの事だけを知らないのかを少し疑問に感じた。
「……まぁ考えても仕方ない、 とにかくありがとう。 伝説の剣士の話だけでも十分参考になったよ」
「おぅ、 礼を言いてぇのはこっちだぜ! あんなにいい剣を見せてもらったんだからな! また来るといい、 安くしとくぜ! 」
「ふっ……あぁ」
そしてイージスはアメニを連れて店を後にしようとした。
「そういやぁ坊主、 名前何て言うんだ? 」
別れ際にグライドはイージスの名前を聞いた。
「……俺はイージスだ」
「そうか、 いい名前だな! そんじゃまたな! 」
グライドはそう言ってイージス達を見送った。
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一方その頃、 ミーナとヒューゴは……
「うぉぉ~……めちゃくちゃカッケェ! ! 」
街中の武具店を見て回っていた。
「ちょっ、 ヒューゴ……勝手に……」
そんなことをしながら二人が街を歩いているとザヴァラムが来た。
「二人共、 イージス様からの伝言よ」
「ザヴァラムさん! 」
「明後日から、 東の海に向かうと……」
それを聞いたミーナ達は驚いた様子だった。
「東の海って……! 」
「魔の海と言われる……! ! 」
魔の海……それはこの世界では東の海を表すのだ。
今までその領域に入った船は全て消息不明、 死体だけが海に浮かび、 船だけが完全に消滅するという不可思議な事が起こる。
海を渡る者達にとってはその領域に入るのは自殺行為と言われているのだ。
「いやいやイージスさんはおかしくなったのかよ! ! 」
「おかしくなってなどいない、 伝説の剣士に会いに行くだけよ」
「だからってそのためにわざわざ東の海に行かなくても……」
「イージス様には何か考えがあるのよ、 私はその指示に従うだけ」
……………
その頃、 イージスは……
「ヘックシ! 」
「……どうしたの……?」
「いや、 風邪かぁ……? 」
こんな暑い所で風邪はありえんか……
まぁいいか、 とりあえずミーナ達と合流するか。
そしてイージスとアメニはミーナ達を探しに向かった。
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「……あ、 いた」
「あっ、 イージスさん! 」
ミーナはイージスを見つけると駆け寄り質問攻めしてきた。
「どうして東の海を渡ろうと思ったんですか! 」
「えぇ、 いや……どゆこと? 」
「知らないで行こうとしてたんですか! ? 」
イージスはミーナから東の海について聞いた。
「……マジか」
都市伝説かっての……グライドさんめ……そこも教えとけよ……
「うーん……でも剣士に会いに行くにはそこを通るしかないもんなぁ……」
イージスが頭を抱えているとミーナは一つため息をつき、 イージスに言った。
「はぁ……まぁいいです。イージスさんといれば何でもできる気がしますから」
ミーナ……
……そうだよな、 仲間が俺を信じてるんだから俺もしっかりしないとな。この間みたいになるのはもう嫌だし……
そしてイージスは改めて東の海に向かうことに決めた。
「おーいイージスさーん!」
遠くからヒューゴとザヴァラムが待っていた。
……明後日から出発だからな……よし……
そしてイージスは皆を集め
「よぉし皆、 明後日から海に向けての旅になる。明日はそれぞれ別行動で遊び回っていいぞ! 」
「えっ、 マジで! ? やったー! 」
俺も明日は休むとするか。
そしてイージス達は宿へ向かった。
その夜、 イージスはヒューゴにもミーナと同じ質問をされた。
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夜中、 イージスは夢を見ていた……
……………
『イージス……様……』
イージスの目の前には弱々しく倒れているザヴァラムの姿があった。
イージスはそんなザヴァラムの体を抱えていた。
何だ……これ……
『イー……ジス……さ……ま……』
ザヴァラムの腹から大量の血が流れ出していた。それは不気味に生暖かく、 ザヴァラムの体が段々と冷えてきているのを実感させる。
ラム……駄目だ……死ぬな!
『……こわ……い……』
それを最後にザヴァラムは目を閉じた。
「う゛……う゛あ゛ぁぁぁあ゛ぁぁぁぁ! ! ! ! 」
喉が壊れる程にイージスは叫んだ。
悲しみ、 怒り、 憎しみが何故だか湧いてくる。
イージスは夢の中で声にならない叫びをあげた。
…………
「はぁっ! ! 」
思わずイージスは目が覚めた。
大量の汗がシャツを濡らしていた。
「……夢……か……」
にしてはリアル過ぎる……まさかこれって未来予知ってやつじゃ……
「あぁ~何も考えたくない! てかアッツ! 」
イージスは気分転換のために外へ出た。
……火山の近くにしては随分と晴れてるもんだな……星空が綺麗だ……
(この位置では風が噴煙、火山灰等を全て流しています。)
「わざわざ分析どうも……」
するとイージスは火山の方に何か気配がした。
何だ……この気配……悪い感じではないが……めちゃくちゃ強い……
「あれはサラマンダーですね」
イージスの背後からザヴァラムの声がした。
イージスが振り向くと両手を後ろで繋ぎながらザヴァラムが歩み寄ってきた。
「ラム、 起きてたのか……」
サラマンダーってあの炎のドラゴンの……
「サラマンダーはこの地の守り神として奉られているんです。私の知り合いでもあります」
「ラムの知り合いか……にしてもラム、 どうしてついてきたんだ? 」
「申し訳ございません、 駄目でしたか! ? 」
「いやいやそんなことは……」
相変わらず忠誠心が重い……
「……なぁラム、 ちょっと散歩しようぜ」
「はっ、 イージス様のご命令とあれば! 」
重いわ! !
そしてイージス達は共に散歩することにした。
途中、 ザヴァラムはイージスに聞いた。
「イージス様、 何かあったのですか? 」
「……ちょっと嫌な夢を見てな……」
するとザヴァラムも
「偶然ですね……私もです……」
あぁ……ラムってそういうの何かありそうな雰囲気だもんな……両親がゼンヴァールによって殺されてるみたいだし……最近聞いたばかりじゃ尚更か……
するとザヴァラムは夢の話をした。
「……とても……恐ろしい夢でした……ミーナやヒューゴ……そして守護者達……皆私の側から離れていく……私はその時……胸が苦しかった……だけど……何もできなかった……」
そしてザヴァラムはイージスを見ながら言った。
「イージス様も……私の側から離れていきました……」
……夢の中とは言え……胸糞悪いな……
しばらくザヴァラムはイージスの顔を見つめていた。
「ラ、 ラム……そんな見つめられると……」
イージスが恥ずかしがっているとザヴァラムはポロポロと涙を溢した。
「イージス……様……」
そしてザヴァラムはイージスに抱き付いてきた。
「……イージス様は……私の側から……いなくなったりしませんよね……? 」
「ラム……」
ラムって強いイメージが強かったけど、 彼女は彼女なりに恐いんだな……
するとジースが
(報告、 現在目の前にいる対象からザヴァラム様の反応がありません。)
ラムの反応が無い?
……まさか!
イージスは咄嗟に剣を抜き、 振り下ろした。
ザヴァラムは宙を舞い、 避けた。
「お前……何者だ……」
「ふん……流石はイージス……完全に気配を消してたのにバレるなんてね……」
するとザヴァラムの姿が変わり、 アメニの姿が現れた。
……アメニの能力か……確かに暗殺者みたいな格好はしてるからな……
「本物のラムはどうした? 」
「さぁね、 今は火山の火口でサラマンダーと話してるんじゃない? 」
なるほど……サラマンダーの気配が現れたのはそのせいだというのも納得いくな……にしてもラムの情報まで知ってるなんて……
「……それで、 戦うのか? 」
「元々それが目的で近付いたんだし、 戦わない理由なんて無いよ」
そう言うとアメニは一瞬顔を曇らせた。
……ふーん……
イージスは何かを悟った。
そしてお互い武器を構えた。
「……来い」
「遠慮無く! 」
次の瞬間、 イージスとアメニは目にも止まらぬ速さで動き出した。
……………
その頃、 火山の火口にて……
「……! イージス様が戦っている! 」
サラマンダーと久しぶりに話していたザヴァラムはイージスが戦っているのを感じた。
そしてザヴァラムがその場から離れようとするとサラマンダーが止めた。
『やめときな……彼は相手を殺すつもりはないし……そして相手も同じだ』
「どういうことだ……」
『まっ、 しばらくして落ち着いてから様子を見に行こう』
……………
「……速い……流石はガインを越える者……」
猛スピードの中、 イージスとアメニは戦いながら会話をしていた。
「君こそ、 今まで戦ってきた中でも一番速いかもな……」
「随分と余裕のようですね……」
「君だって手を抜いてるだろ? 」
するとアメニは持っている短剣をイージスに向かって連撃を放った。
「私は手など抜いてない! ! ! 」
……やっぱり本気じゃないね……
イージスは剣でアメニの攻撃を受けながら思った。
続く……