第57話【それぞれの役目】
メゾロクスを後にしたイージス達は勇者バアルに会うべくサメルーニア王国へ向かった。
「……ここがサメルーニア王国の首都、 ジェルドか……まるで江戸時代の日本みたいだ……」
テレポートを使ってサメルーニア王国へ来たイージス達は街の風景を見て感心した。
ジースさんの情報だとバアル達はこの国に来てると言ってたけど……この入り組んだ地形から探すのは骨が折れるなぁ……位置は大雑把な情報だけだからな……
「よし、 まずは手分けして探すぞ! 」
『はい! 』
そしてイージス達はそれぞれ分かれて街を捜索することにした。
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ミーナとヒューゴの二人は商店街を探していた。
「ここの商店街は他の街とは風景が異なってますね……」
「そうだな、 こんな街初めて来るからなぁ……まるで立体迷路だな……」
二人は入り組んだ街で迷っていた。
…………
イージスは一人で高台から探していた。
……超探知……勇者……
(……探知を阻害されました。 勇者バアルは探知系スキルに耐性を獲得していると思われます)
やっぱり無理か……流石勇者、 成長してるな……
イージスは高台から降りて街を探すことにした。
……ここは本当に大昔の日本みたいな風景をしてるな……ここの国のお姫様も何となくそんな風貌はしてたしな……
「……はぁ……こんな時フメラとへランデさんがいてくれたらなぁ……」
そんなことを呟きながらもイージスは街を歩き回った。
あてもなく歩き回ってもなぁ……まずは情報収集でもしようか……
そしてイージスは適当な店でギルドの場所を聞き、 街のギルドへ向かうことにした。
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ジェルドのギルドにて……
「さて……これで最後だ」
「中々手ごわい猿でしたね……」
バアル達は一仕事を終えて丁度ギルドに帰還したところだった。
「イージス様達……本当に来るんですかね? 」
「さぁな……あのドラゴンの言うことを信じるしかない……」
そんなやり取りをしている時。
「だはぁ! やぁっと終わった! 」
複数人の男女のグループがギルドに入ってきた。
それはイージス(龍人)のクラスメイトだった勇斗達だ。
勇斗達に気付いた周りの冒険者達は少しざわついた。
『あれって確か……転移者の……』
『あぁ……間違いない』
勇斗達はイージス達と出会った時からレベルを上げ、 上位の冒険者になっていた。
勇斗達もバアル達と同じく依頼を終えてギルドに報告をしに来たのだ。
バアル達は勇斗達の元へ寄ると。
「君達はあの噂の転移者か? 」
「え……あなたは? 」
「失礼、 俺は勇者のバアルという者だ」
それを聞いた勇斗達は驚いたがバアルはそれに気にも留めず話を続けた。
「君達、 聞いた話によるとイージス様の知人らしいが本当か……? 」
「イージスって……龍人の事だよな……」
「リュウジ……なるほど、 彼も君らと似た境遇の者だったのか……」
すると勇斗が前に出てバアルと話した。
「バアルさん、 イージスがどうかしたんですか? 」
「あぁ、 実は……」
バアルが事情を説明しようとしたその時、 ギルドにイージスが到着した。
「ここ本当に迷いやすいな……飛んで行った方が早かったか……」
イージスに気付いた一同は驚いた。
「イージス様! 」
「龍人! ? 」
一同に気付いたイージスも驚いた様子で駆け寄った。
「皆! まさかここに来ていたなんて……それにバアルも! 」
そしてイージスはザヴァラム達を招集し、 一度別の場所で話すことにした。
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街で一番大きな飲食店にて……
「ほ、 本当にいいのか……? こんな豪華な飯を奢ってもらって……! 」
「あぁ、 気にせず食ってくれ」
イージスは勇斗達に御馳走した。
さて……勇者に会えたわけだし、 早速本題に入るか。
「ではバアル、 早速だが……」
イージスは一から説明しようとしたがバアルは止めた。
「大丈夫、 何があったのかは把握できます……ゼンヴァール……それが関係してるんでしょう……? 」
まさか……エメはバアルと接触したということか……それしか考えられないが……
「あるドラゴンが貴方と会うように伝えてくれたんです……この国で……」
「……そうか……」
説明を省けて助かった……伝えてくれてありがとう、 エメ……
するとイージスは勇者の剣 『ベルダルタ』を出し、 バアルに渡した。
「これを渡すようにゼンヴァールの配下に言われたんだ……」
「あの天使の言っていたことは本当だったのか……」
待てよ……天使って……もう一人の配下か……
「その天使はヴァランデと名乗っていたか……? 」
「はい、 確かそう名乗っていました……」
……ヴァランデも現れたか……まだ会ったことは無いが、 ズネーラと同じ強さはあるだろうな……
すると勇斗が話に入ってきた。
「龍人、 詳しく聞かせてもらえないか? 」
「あぁそうか……勇斗君達は知らないんだったな……」
イージスは勇斗に事情を全て話した。
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「まさか……魔王よりも強い存在がいたなんてな……」
「おまけにその魔王軍と邪神軍が今までその存在を退けていたとはなぁ……」
そうか、 バアルはガインと魔王の役割を知らないんだった……
「だったら魔王は倒さなければゼンヴァールもここには来れないんだろう? ゼンヴァールとも戦う必要は無いんじゃないか? 」
「正直俺もそう考えた……でもゼンヴァールの配下がここに来ている時点で手遅れなのは確実だ……ガインを倒してしまった俺の責任でもある……でもそれ以上に……」
イージスは少し間を開けて言った。
「母さんがゼンヴァールに負けてしまった事実を知った時点で……俺は戦いに挑むつもりだったし……」
「……そうか……」
バアルも勇斗もそれ以上は何も言ってはこなかった。
そしてしばらく皆で食事をした後……
「龍人、 俺達にできることがあれば何でも言ってくれ」
「ありがとう、 でも皆は自分の身を守ることを考えてくれ……守護者はメゾロクスを守るのに手を離せないし、 俺は離れていては守ってもやれないしな……」
「……そうか、 じゃあ俺達はそろそろ行くよ」
そう言って勇斗達はイージス達と別れた。
別れ際、 勇斗はイージスに言った。
「龍……イージス……」
「……何だ? 」
「また会えてよかった……」
「……また会おうぜ! 」
イージスがそう言うと勇斗は少し微笑み立ち去っていった。
……さて、 あとはバアルにやってもらいたいことを頼むだけだな。
「バアル、 別れる前に俺から頼みがある」
「何でしょう? 」
「魔王はその剣と勇者の力を使わないと完全には倒せない……だから……」
イージスが言い切る前にバアルはフッと笑いながら答えた。
「知ってますよ……任せて下さい、 元々それが役目ですし……ゼンヴァールは任せます」
「あぁ、 ありがとう」
少し見ない内に成長したように見えるな……バアル……
そしてイージス達はバアル達と別れた。
…………
「剣も魔王を倒す方法も手に入れた……あとは魔王のいる裏世界へ行くぞ! 」
『はい! 』
魔王のいる裏世界に行くには座標へ行く必要がある。
その座標に行き、 勇者が剣を突き立てた時……道が開かれるのだ。
そしてその座標は……
「早速カロスナへ向かうぞ」
カロスナである……
…………
目的を果たしたイージス達はゼンヴァール達の情報を集めるべくサメルーニア王国の王城へ向かった。
まだゼンヴァールについて何か情報が得られるかもしれないしな、 王城に行けば何か分かるかもしれないし。
「そういえばこの国のお姫様は何か特殊なものを見ることができるらしいぜ」
王城へ向かう途中、 ヒューゴが言った。
「特殊なもの? どんなのが見えるんだ? 」
「さぁ……それは俺も分からないな……」
「噂だと人の前世や生まれ持った神からの使命が見えるとか……」
ミーナが言った。
前世かぁ……俺だったら前の世界の記憶が見えたりするのかな……あまり思い出したくないが……ゼンヴァールには特に関係は無いか……
イージスはあまり深くは考えなかった。
そうこうしている内にイージス達は王城へ着いた。
「……なんか……雰囲気が違うな……」
「他国の城とは風貌が違いますね……」
王城も街の雰囲気と似ており、 大昔の日本に建てられていた城に似ていた。
城に入ると兵士達がイージス達を止めた。
「止まれ! そこの者、 何者だ」
「突然の訪問失礼、 俺はイージスだ」
そう言いイージスは身分を明かすと兵士達はすんなりと通してくれた。
イージス達は早速王の間に向かうとそこにはクリラがいた。
「よくぞここへ……さぁ、 こちらへ……」
クリラはイージス達が来るのを分かっていたかのように別室へ案内した。
「……ここへ来たのは……ゼンヴァールの情報を……集めるため……でしょう……? 」
「あ……あぁそうだ」
「残念だけど……私は何も知らない……」
やっぱりそう簡単には手に入らないか……
イージスは諦め、 早々に帰ろうと席を立とうとした時、 クリラはある話をしてきた。
「でも……この二人の力……引き出すことは……できる……」
「え? それはどういうことだ? 」
クリラは簡単に説明する。
「私……人の前世を見ることができる……その記憶から……力……引き出すことができる……この二人から……何か感じた……」
フメラとへランデさんと似た能力だな……
(クリラ様は人の記憶の中から封じられた前世の記憶を見る能力を持っており、 本人の魂そのものが持つ潜在的力を取り戻すことができます。 へランデ様の持つ能力は時空間を辿るものであり、 精密性に欠けますが生物以外の能力を引き出すことができるというものです)
なるほど、 つまり人の能力を引き出すならクリラの方がより精密ということか……
「私達から何かを感じたって……私達の前世に一体何が……? 」
「……分からない……私が分かるのは……あなた達の前世に……どんな能力を持っていて……どんな使命を受けて来たのか……それだけ……」
「私達の……使命……」
クリラはその人の使命も見ることもできるのか……まさかミーナとヒューゴは……俺達に出会ったというのも最初から決まっていたことだったのか……?
するとクリラはミーナとヒューゴの前に手を出した。
「手を……」
「……」
ミーナとヒューゴはお互い見合わせると黙ってクリラの手を握った。
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クリラはまずヒューゴの前世を覗いた……
目の前には火の海が広がっており、 そこには巨大なドラゴンの影と二本の剣を構えた一人の戦士の影が見える……
ドラゴンと戦士は睨み合うようにして立っていた……
『さぁ……来るがよい……勇敢なる竜の戦士……グレア・ドルストーラよ……』
『言われずとも……! 』
戦士の思いが聞こえてくる……
俺は……誰よりも強い竜の戦士になるんだ……そしていつか……ダイア様と共に世界を……!
……この人は……そうか……
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「……見えた……英雄を夢見る竜の戦士……名は……グレア・ドルストーラ……」
その名を聞いた瞬間、 ザヴァラムは少し驚いた表情をした。
「ん? どうした、 ラム」
「グレア……聞いたことがあります……私のお爺様が……かつて激戦を繰り広げた竜の戦士がいたと……」
「え……それって……」
……なるほどな……いわゆる因縁といったところか……
「……多分……グレアの夢と思い……そしてザヴァラム様の家系の血筋が……お互いを引き合わせた……」
「俺の持つ竜の力も……その時の名残……ということか? 」
そう言うヒューゴに対しクリラは静かに頷いた。
「今から……あなたの力を完全なものに……」
「あぁ、 頼む……」
するとヒューゴの手を握っているクリラの手から光が漏れだした。
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しばらくして光は収まった。
「……これであなたの竜の力……より完全なものになった……でも……ゼンヴァールと戦えるかは分からない……ゼンヴァールは世界を超える力を持つ……」
「それでも構わねぇ……イージスさんの役に立てるんなら……! 」
……確かにヒューゴから感じる力が更に増した……でもクリラの言う通り、 前に会ったゼンヴァールの配下には及ばない……それでも力にはなれるか……
「もしもの時は頼むぞ、 ヒューゴ」
「よっしゃ! ゼンヴァールなんてドンと来いだぜ! 」
今までよりも更に意気込んだヒューゴを置いてクリラは次にミーナの方に顔を向けた。
「次は……あなた……」
そして次にクリラはミーナの前世を覗いた……
ミーナの前世……一体どんな過去があったんだろう……?
第五章へ続く……
ここまで読んで頂きありがとうございます。
次回の章で最終章となりますのでどうぞそちらの方もよろしくお願いします。




