第52話【迫る危機】
三日目の集会の日が来た。
イージス達は初日の大広間に集まった。
「では、王族集会最終日の会議を始めます」
何だかんだあったが最終日か……さっさと終わらせてバアル達に会って剣を取りに行こう。
イージスはそんなことを考えていると……
『まだそんなことをしているのか、 人類よ……』
「! ? ……何だこの声、 そして背筋が凍り付きそうなこの気配は……! 」
どこからか声が響いてきた。
そして次の瞬間、 鋭い刃の音と共に部屋の天井が崩れた。
「な、 何だ! 」
「全員警戒態勢に入れ! 王をお守りするのだ! 」
騎士達は王達を囲うように警戒態勢に入った。
……まさか……! !
崩れた天井から降りてきたのは……
「所詮は無能の人間共の集まり……そのようなことをしても何の解決にもならぬぞ? 」
「あいつ……まさかここまで……」
イージスの側にいたガムールが険しい表情をしている。
……クローロさんとガムールが倒されたゼンヴァールの配下の一人……
「……ズネーラ……」
「久しいなぁ……ガムールよ……」
やばい……この気配……能力透視・極も通用しないなんて……レベル1000はあるぞこれは!
(はい、 放出されている魔力量を解析した結果……ズネーラのレベルは約1100以上あると推測されます。 )
初めて会うな……レベル1000以上の敵なんて……
イージスは守護者達の前に出た。
「皆はここにいる人達の避難を……俺はそれだけの時間は稼ぐ」
「! ? イージス様! ! 」
戦う覚悟をしていたイージスに対してズネーラは止めのポーズを取った。
「早まるな……今回はあくまで戦うつもりで来たのではない、 ちょっとした挨拶のようなものだ」
「挨拶……? 」
嘘を言ってる感じじゃないな……
するとズネーラはイージスの前に一本の剣を突き立てるように投げた。
これは……
(報告、 鑑定結果……この剣は勇者の剣、『ベルダルタ』です。 )
その剣は勇者の剣だったのだ。
「なっ! ? 勇者の剣を何故ここに! 」
「貴様らが遅いから持ってきてやったのだ……勇者に直接渡しても良かったのだが、 それだと問答無用で襲い掛かられそうだからな……勇者と繋がりのあるイージスに託すことにした」
勇者の剣って勇者以外の人は触れない筈じゃ……
(ズネーラはスキル、 万能装備・極を所持しています。効果は呪いの装備、 特定人物しか装備できない武器等をペナルティ無しで所持することができるというものです。 )
マジか……勇者の剣も対象なのかよ……
(また、 主様も同様スキルを所持しております。 )
だからズネーラは俺の所に……
「その剣を使って魔王を倒せ、 さすれば我ら天界軍がこの地に降り立とうぞ……ゼンヴァール様と戦いたくば魔王を倒し、 結界を解除せよ……」
結界……? まさかガインと魔王が守っているっていうのはまさか!
「何だ、 知らなかったのか……あの邪神と魔王はこの世界に張り巡らせている結界を維持しているのだよ……その結界で我ら天界軍はこの地上に降りることはできなかった……だが二つの結界の一つ、 邪神が倒された今、 我のような強力な力を持つ者のみがこの地に降り立つことができたのだ」
そうだったのか……ガインと魔王が……
するとガムールがズネーラに向かって怒声を挙げた。
「貴様! ここまで来て逃げるのか! 」
「逃げる? 違うな、 我は宣戦布告をしに来ただけ……戦うつもりではないと言っただろう……それに300年前……逃げたのは貴様の方だろう? 」
「やめとけガムール……今ここで戦うのは被害が大き過ぎる……相手が戦うつもりが無いなら都合がいい……」
イージスの言葉にガムールは渋々剣を納めた。
「賢明な判断よ……では、 我はここでおさらばするとしよう」
そしてズネーラは空へ飛び立ち、 その場を去った。
……ズネーラのあのスキルと言い……中級とは言え結界を張り巡らせている城の天井を意図も簡単に切り刻む力……奴は剣を扱うのか……クローロさんとガムールがやられた理由が分かる気がする……
そしてイージスは剣を手に取り、 王達に集会は終わるように話した。
危機が近付いていることを理解した各国の王達は急いで国に帰り、 イージスと話した計画の準備をすることになった。
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イージス達がメゾロクスへ帰る途中……
「……」
「ガムール、 大丈夫か? 」
まぁ宿敵を前にして冷静になれと言われても無理な話だよなぁ……
「イージス様は……知らないかと思われますが……実は──」
ガムールがクローロと同じ話をしようとするとイージスは止めた。
「あぁ、 クローロさんから全部聞いてるよ……母さんの仲間だったんだよな……」
「クローロ殿と会ったのですか……彼は今どうして……」
「元気にしてたよ、 あっちもガムールの事を聞いてたよ……」
「左様ですか……」
「気持ちは分かるが今はそれどころじゃない、 ズネーラが現れたことで更にゼンヴァールの配下がここに攻めてくるまで時間が無くなったことが分かった……メゾロクスの警戒態勢を最大に上げてそれから……魔王にも会わないと……」
魔王に会って直接話すか……ゼンヴァールを倒す為のヒントが得られるかもしれない……
「……そうですな……今はゼンヴァールの対策が最優先、 我々は成すべき事を成すのみ……」
そしてメゾロクスへ戻ったイージス達は急いで警戒態勢に入るように準備をし、 ミーナとヒューゴと共に旅立つ準備をした。
「まさかゼンヴァールの配下がここに来てたなんて……」
「なぁイージスさん、 ゼンヴァールの配下がここに来ちゃったなら魔王を倒さなくてもいいんじゃないか? 」
「ぶっちゃけ俺も最初はそう考えたが……ゼンヴァールは結界が完全に壊れるまでここには姿を現さない……結界を壊さなければゼンヴァールの配下がここに来るだけで終わりだ、 それじゃあゼンヴァールを倒すという目的は果たせないままだ」
だがむしろそれがチャンスだ……結界を維持している魔王を倒さない限りはゼンヴァールがここに来ることはないし、 天界の軍隊がここに来ることもない……それまでにゼンヴァールを倒す為の準備をしないと……
ジースさん、 勇者のいる座標は分かるか?
(はい、 勇者の剣の魔力から勇者バアルの現在いる座標を特定できます。 )
これでいつでも勇者に剣を渡せるな……流石の俺も魔王のいる場所まで特定はできないからな……それに魔王を倒すのは勇者の仕事だしな。
「よし、 行くぞ! 」
『はい! 』
そういえばエメをずっと前から見てないが……故郷に帰ってるのか?
イージスはエメの事が気になったが構わず旅に出た。
「さて、 まずはエンタルテ王国に行くぞ」
「確か武器の伝説についてですよね? 」
「エンタルテ王国って……」
ヒューゴは何か嫌そうな顔をしていた。
ん? 何か嫌な予感が……
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数時間後……
「うぅ~~~さささささ寒い~~~……! ! ! 」
ザヴァラムの案内を元にエンタルテ王国がある大陸に渡ってきたイージス達はその寒さに驚いた。
なるほどな、 エンタルテのお姫様が暖かい格好をしていたのはこれか……
イージスは環境適応をミーナとヒューゴに付与し、 街を目指した。
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しばらく吹雪の中を歩いていると大きな壁が見えてきた。
デカい壁だなぁ……それに硬そうだ。
(壁の素材はミスリルと氷魔石の合金でできており、 硬度はアダマンタイト鉱石に近いものとなっています。 )
氷魔石? ここでしか採れない鉱石の一つかな?
イージスはそんなことを考えながらも街に入ることにした。
壁を通るには厳しい検問を通らなくてはならない。
「身分証明できるものは? 」
兵士がイージス達に聞く。
イージス達は冒険者等級の証を見せ、 素性を明らかにした。
「貴方がイージス様でしたか、 お会いできて光栄の限りです! 国王陛下より皆様に伝言を預かっております」
「伝言? 俺達が来るのを分かっていたのか……」
「何やら用意が出来次第城へ来て欲しいとのことで……」
ゼンヴァールの件についてか? それとも別の要件か……
「……分かった、 伝言ご苦労様」
そしてイージス達は街へ入った。
エンタルテ王国の首都か……街の名前は何だろう?
(ここはエンタルテ王国首都 トルムティアです。 )
トルムティアかぁ……何だかイギリスを思わせるような風景してるな……
王城近くには巨大な時計台が見える。 それはまるでイギリスにある時計台を思い出させる風格を持っている。
街の建物もヒュエルやカロスナよりもレンガ造りの建物が多く見られる。
「トルムティアなんて初めて来ましたよ! 凄く綺麗な街ですね! 」
「目的を忘れるなよぉ? 」
まずは城へ行く前にこの剣について何か知っている人がいないか探してみるか……
イージス達はしばらく街を回って情報収集をした。
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一時間後……
「未だに情報掴めずかぁ……この国では武器の伝説が有名だと聞いていたが詳しい情報を知っている人は一人もいない……」
街の酒場でイージス達は一休みしながら悩んでいた。
「どうしたものか……」
イージス達が困っていると……
「もし……何かお悩みの様子ですなぁ……? 」
イージスの背後から少女のような声がした。
振り向くとそこには謎のローブを被った人間がいた。 顔はローブが覆い被さっていて見えなかった。
「あんたは? 」
「これは失礼、 私はしがない旅人でして……それより何かお悩みの様子ですが? よろしければ相談に乗りましょう……」
何か胡散臭い気配はするが……今は情報を一つでも欲しい……躊躇っている場合じゃない
「じゃあ話だけでも……」
そう言ってイージスは謎の少女? を席に座らせ、 話すことにした。
「それで、 何かお探しで? 」
「実は……」
イージスは武器の情報について聞いていたと話した。
「なるほど……それなら丁度良い人がいるかもしれません……」
「えっ、 誰ですか? 」
「情報を持つ人物ではありませんが……手掛かりを探すのが得意な人物でしてね……名は『フメラ・ミフェルダ』……この国随一の名探偵です……」
「探偵! ? 」
イギリスみたいな街並みのせいでもあるが……まるでシャーロック・ホームズみたいだな……
「ただあの人は少しおてんばでしてね……行く先々でトラブルを起こす……いわゆるトラブルメーカーでもありますな……」
それでもいい……情報が少しでも手に入るなら会う価値はある。
「事務所は入り口に街灯が二つ並んだ裏路地の奥にありますよ……」
「ありがとう、 行ってみるよ」
イージスは謎の少女? に情報料を払い、 酒場をあとにした。
しばらく街で目印を探していると……
「あっ、 イージスさん! あれじゃないですか? 」
ミーナが裏路地の入り口に二つ並んだ街灯を見つけた。
「よし、 行くぞ……」
イージス達は裏路地へ入っていった。
……暗い……夜だから一層暗さが際立つ……
しばらく薄暗い裏路地を進んでいくと……
「おっ、 あれか……」
裏路地の一番奥に扉が見えた。扉の横に小さなランタンが一つぶら下がっており、 その下には『ミフェルダ探偵事務所』と書かれている看板があった。
そしてイージスが扉を開けると……
「……誰もいないのか? 」
狭い部屋の中には大量の資料が部屋の床を埋め尽くしており、 どこか埃臭い。
……明かりは点いてるし……でも人の気配がしない……
イージス達が部屋の中へ入ると……
「ふぎゅっ……! 」
イージスが何か柔らかいものを踏んだ感覚と共に床から声がした。
イージスが下を見ると
「うぉ! ? 」
「人が倒れてる! 」
低いテーブルとソファーの間で倒れている少女がいた。
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「ひゃあ~申し訳ない……何せ四日も六に寝れてないもので! 」
「あなたがフメラさん? 」
「いかにも! 私こそがこのエンタルテ王国随一の名探偵、 フメラ・ミフェルダであります! 」
……どう見ても子供だよな……ミーナと同い年くらいか? でも服装は立派な名探偵らしいな……
褐色の髪に乗せられている探偵帽、 その下をからサファイアのような青い瞳が覗かせる。
まぁいい、 一見アホっぽいが実力は確かなんだろう……
「それで、 ここに来たということは何かご用で? 」
「あぁ、実はある武器の情報を探していてね……エンタルテ王国に伝わる伝説に全能の武器について語られたものがあると聞いたんだが……詳しい情報は手に入らなくて……」
するとフメラは難しい顔をした。
「うーん……実は今はそれどころじゃ無いんですよねぇ……」
「何か事件ですか? 」
「君達、 怪盗を知っているかい? 」
「怪盗! ? 」
続く……




