第45話【鍛冶の街】(前編)
昨夜の出来事があって翌朝、 イージス達は街を旅立つ準備をしていた。
「よぅし、 皆準備できたな? 」
『はい! 』
「よし、 出発だ! 」
そしてイージス達はシューラの教会を出た。
教会の前ではシューラと教会のシスター達が見送りに来ていた。
「行かれるのですね……英雄様……」
「はい……」
するとシューラは仮面越しでも分かるようにイージスの顔をじっと見た。
「ふふっ……何か迷いを断ち切ったような顔をしていますね……」
「……俺はここに来て、 ゼンヴァールを倒すために必要な何かを……その一つを見つけた気がするんです」
そう言いながらイージスは振り返り、 ザヴァラム達を見つめた。
「……そうですか……」
シューラは最後にそう言い、 道を開けた。
そしてイージス達は教会を後にした。
「……どうか……この世界の人々に……希望を……」
遠くなってゆくイージス達の姿を見ながらシューラはそう言うと仮面を外した。
その顔の右目には傷が入っており、 閉じられていたが左目からは太陽のように煌めく黄金の瞳があった。
……………………
「イージスさん、 次の行き先は? 」
「シューラさんから聞いた情報だとティタルから東に進む道をずっと行けば火山の街、 ベヘラーティアに着くそうだ。そこへ行ってみよう」
そしてイージス達は馬車に乗り、 ティタルの街から出て東の道へ向かった。
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数時間後……
イージス達は砂漠から抜けた。
……更に暑くなったな……ここに住んでる人達ってどんな人なんだ?
辺りは黒い岩がゴロゴロ転がっている。
草木は小さなものしか生えておらず、 動物も魔物も見かけない更地となっている。
「凄い熱気ですね……イージスさんのスキルが無かったらどうなっていたか……」
「地図によれば村はもう少し先みたいだ、 あの火山の近くだ」
そしてイージス達は遠くに見える火山の方向へ向かった。
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しばらく進んでいると……
「……む……? 」
何だ……何か気配がする……でも場所が分からない……
(スキル、 超探知が発動します。)
何かの気配を感じたイージスは周りを探知した。
……見えた! ここから左にある岩山の洞窟からだ!
するとイージスは馬車を止め、 そこら辺にあった石ころを拾い、 そこへ投げた。
次の瞬間、 岩山の洞窟から黒い影が飛び出し、 イージス達の方へ向かってきた。
「ぬぁ! ? 」
イージスは咄嗟に剣を抜き、 影を斬り付けた。
影はイージスの剣をかすめ、 イージスの頭上を飛び越えた。
動きが止まった影の正体は……
「……流石は……邪神ガインを倒した人間……強い……」
魔王に仕えていた獣人族の娘だった。
「……君は……」
「イージスさん、 知ってるんですか? 」
「……誰? 」
『いや知らないんですか! ! ! 』
本当に誰だ……俺の素性を知ってるみたいだが……まさか四天王か!
そう思ったイージスは剣を構えた。
すると獣人族の娘は突然倒れた。
「ど、 どうした! ? 」
慌てたイージス達は獣人族の娘に駆け寄った。
(報告、 異常な体温上昇を確認。栄養失調及び脱水症状を確認……危険な状態です。)
「まずいな……ヒューゴ、 荷物に水があるだろう。それを持ってきてくれ! ミーナは俺と一緒にこの子を馬車に運ぶぞ! ラムはタオルか何か布を! 」
『はい! 』
とりあえずこの子が四天王かどうかは後回しだ、 先に手当てをしなくちゃ!
イージス達は獣人族の娘の手当てをした。
数分後……
「……う……」
「あっ、 目を覚ましましたよ! 」
獣人族の娘は目を覚ました。
「……」
「大丈夫か? 君、 名前は」
「……アメニ……」
手当ての時に能力透視をしてみたが……やっぱり四天王で間違い無さそうだ……レベルが870でかなりの高レベルだし……
するとアメニは起き上がり、 イージスを見た。
「……私を殺すならさっさと殺して……」
「……殺さないよ」
イージスがそう言うとアメニはイージスの胸ぐらを掴んだ。
「情けなんていらない! 私は魔王軍の幹部でもありながら魔王様を裏切った! もう私に生きる意味なんて無いんだ! 」
「待て待て落ち着けって! 」
ヒューゴがアメニを落ち着かせた。
魔王を裏切った……? 四天王を辞めたってことか……まさかあのシュランゼと似た事情が……?
イージスはアメニに一つ一つ事情を聞いた。
話によるとアメニは魔王に嫌われたという訳ではなく、 自ら四天王から辞退したという。
そして現在は行く宛も無くさ迷っていたそうだ。
「魔王軍を裏切った私は……次は悪ではなく善になろうと思った……でも……私は破壊や殺しでしか悪を滅する考えが浮かばなかった……結果として私は事情も知らずに罪無き人間達を……」
「ん? 待て、 その人間達って……」
「あなた達が助けた冒険者です……」
あの砂漠の街に住む冒険者達を襲ったのはアメニだったのだ。
あれをやったのはこの子だったのか……確かにあの人達は奴隷商人と繋がっていたが……
「……それで……君はこれからどうしたいんだ? 」
「……分かりません……もう……何も考えたくない……」
そう言うとアメニは踞ってしまった。
「……連れて行こう」
放っておく訳にもいかないしな……悪い子じゃないみたいだし。
そしてイージス達はアメニを連れてベヘラーティアへ向かった。
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「着いた、 ベヘラーティアだ! 」
イージス達はベヘラーティアに着いた。
街は活気に満ち溢れ、 街中から鉄を叩く音が聞こえる。
スゲー! 鍛冶の街だ! ここら辺は火山に近いのにあまり暑くはないんだな。
(街周辺に気温調節をする結界が張られています。)
なるほどな。
「わぁ……ここがベヘラーティアですか……! 」
「ここは鍛冶で有名な街らしいぜ、 ここなら強い装備とかも手に入るかもな! 」
「おいおい、 俺達の目的はゼンヴァールの情報を……」
イージスはミーナ達に言いかけた時、 言うのを止めた。
……そうだな……あまりゼンヴァールのことばかり考えてたらキリが無いよな……時には忘れて楽しむってのもありか……
「……よし、 皆最近色んな事がありすぎて疲れてるだろう? 時には息抜きでもしようか」
「えっ! ? いいんですか! ? 」
「おう、 好きな所回ってきな」
イージスがそう言うとミーナとヒューゴは街を探索しに行った。
イージスとザヴァラムはアメニを連れて街を探索することにした。
アメニはイージスの服の裾を掴みながらついてきた。
「……どうして……そんなに優しくするんですか?
」
アメニは恐る恐るイージスに聞いた。
「そんなの決まってるだろ」
「え……? 」
「君は優しいからだよ」
アメニはイージスの言葉に少し疑問を抱いたが、 今のアメニにとってはどうでもよかった。
そしてアメニは再び黙り込んでしまった。
……今は彼女は大きな壁にぶつかっている……そっとしておくのが一番だな。
イージスはそう考え、アメニの態度を気にしなかった。
「イージス様、 この店に入ってみましょう」
「おぉ、 中々大きな武具店だな」
イージス達は目に留まった武具店に入っていった。
武具店の中には高級そうな武器や防具ばかりで辺りはキラキラとしていた。
「ふーん……」
(スキル、 鑑定が発動します。)
イージスは武器や防具を鑑定した。
……どれも強い武器や防具ばかりだ……ここの店主は相当腕がいいな。
そんなことを考えていると店の奥から一人の男が現れた。
イージスが見上げる程背が高く、腕は丸太のように太く、長い髭を生やしており、その姿は正に神話に登場するヘパイストスのよう。
「よう、 坊主……俺の作った武具はどれもいい出来だろ? 」
「あんたがこの店の店主か? 」
「いかにも、 俺はこの店の店主でもありこの街の領主でもある、 グライドってんだ! 」
街の領主さんか……すげぇデカイ……オークを素手で倒せそう……
するとグライドはイージスの剣に目をやった。
「ん? 坊主、 その剣……ちょっと見せてくんねぇか? 」
「え、 あぁ……」
イージスは背中の剣を抜き、 グライドに見せた。
グライドは腰に下がっていた虫眼鏡のような物を取り出し、 イージスの剣を観察した。
しばらくするとグライドは驚いた様子でイージスに迫った。
「坊主、 この剣をどこで! ? 」
「え……この剣が何か……? 」
「こりゃ百年に一度……いや、 千年に一度に現れるかの業物だぞ! 」
まぁ覇神の力が宿ってるくらいだし……
するとグライドは更に迫ってきた。
「頼む、 もう少し調べてみてぇんだ! その剣を貸してくれねぇか? 」
「あぁ、 いいけど……」
そしてイージスはグライドに剣を渡した瞬間、 グライドは剣を持ったまま倒れた。
剣が突然重くなったのだ。グライドが持てない程に。
「ぐぉぉ! 何だこの剣……重いぞ! 」
「嘘だろ……」
グライドさんの体つきからして俺の剣ぐらい軽く持てるはずなのに……何が起きたんだ?
(恐らく主様以外の者が持とうとすると重くなるのだと思われます。)
ジースが説明した。
……何かアメコミにそんな武器があったような気がする……
そしてイージスは剣を持った。
「どうやら俺にしかこの剣は持てないみたいだな、悪いけど調べるのは諦めて──」
「いや、 坊主にその剣を試して見せてもらえりゃいい! 」
「あ、そうか……」
意外に頭の回る人だな……失礼か……
「店の裏に試す場所があるんだ、 そこでやろう」
そしてイージス達はグライドについていった。
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試験場に着いたイージス達は早速イージスの剣を試すことにした。
そういえばこの剣の強さとかよく分かってなかったな……成り行きになってしまったがいい機会だな。
「よし、 坊主! まずはその剣の切れ味だ、 その的を斬ってみてくれ! 」
「おし……」
そしてイージスは剣を抜き、 的を軽く斬り付けた。
すると剣はまるで豆腐を斬ってるかのようにスルッと刃が滑り落ち、 的を真っ二つにした。
うん、 ここまでは予想通りだな……
「ふむ……これならアレでも太刀打ちできそうだな……」
グライドはそう呟くと試験場にある大きな倉庫に入っていった。
しばらくするとグライドは布の被せられた大きな何かを乗せた台車を押して出てきた。
「グライドさん、 それは? 」
「へへっ、 こいつは俺の自信作でな……」
そう言うとグライドは布を取った。
そこに現れたのは大きなゴーレムだった。
「こいつは武器の性能を試すために作った試験用ゴーレムだ! 外装はここらでしか採れないオリハルコンを使っているから頑丈なんだぜ! 」
ゴーレムか……それと俺が戦うってか……大丈夫かな……
(主様の戦闘能力なら問題無いのでは? )
分かってねぇなぁ、 ぶっ壊しちゃうかもってことだよ。
(なるほど……)
するとグライドは何かを察したようにイージスに言った。
「大丈夫だ、 確かにこいつは俺の自信作だが……坊主みてぇな強い奴に壊されるなら本望よぉ! 」
「……そうか」
そしてイージスは剣を構えた。
それと同時にゴーレムも動き出した。
ゴーレムは背中に装備された大剣を抜き、 イージスに攻撃した。
イージスはその剣を弾き、 ゴーレムの胴体を斬り付けた。
……やっぱりオリハルコンって硬いんだなぁ……初めて斬るけど軽くじゃ切れ込みしか入らない……
次の瞬間、 ゴーレムの動きが突然速くなりイージスに襲い掛かった。
「うぉ! 」
「……大丈夫なの? イージスは……」
離れた場所から見ていたアメニは心配している。
「イージス様を侮らないことよ、 あの方は私をも上回る存在……あなただったら殺すのに一秒も掛からないでしょうね……」
ザヴァラムは静かにそう言った。
アメニはその言葉に少し恐怖を覚えた。
「このゴーレム……硬いだけじゃないみたいだな」
「がっはっは! そいつには特別な魔法石をいくつも埋め込んでいるからな! 」
これ普通の冒険者じゃ絶対死んでるよ……
ゴーレムの猛烈な斬撃を避けながらイージスはそう思った。
「……もういいか……やっちゃおう! 」
そう言うとイージスは剣を振った。
するとゴーレムの剣が二本同時に真っ二つに斬れてしまった。
そして……
「おぉら! 」
イージスはゴーレムに向かって剣を縦に振った。
次の瞬間、 ゴーレムは縦に真っ二つになり、試験場の地面に地割れのように切れ込みが入った。
切れ込みは試験場の端まで続いた。
「ブフッ……! ! 」
そのありえない光景にグライドは驚き、吹き出した。
「……えぇっと……やりすぎちゃった☆」
汗をだらだら流しながらイージスは苦笑いした。
後編に続く……