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王太子妃は殿下を。

「王太子妃様!」

「王太子妃様しっかり!お気を確かに!」

「もう頭が見えております!あと少しでございます!」

「王太子妃様!!出血が酷い!止血魔法を早く!」


 女医官達の声がどんどん遠くになってゆく。

 遠くに元気な赤子の泣き声がする。

 あぁ、産まれたわと思ったら気を失った。


 出産で意識を失い目覚めると私になった。


 変ね私になったとか。

 しかし、そうとしか思えない。

 私なのだが何か妙な感覚、あえて言うなら自分が二人混ざりあう、私は前の私じゃないかもしれないけれど、それすら比べようがないから困ってしまう。


 自分の傍に赤子が眠っている。

 ほっとして、目尻が下がる。

 なんて愛らしい子なのだろう。


『これで殿下は私を見てくださるわ!』


 そんなわけないのに。

 ……ん?

 あら?なにかしら、今の呟き前もあったような。

 気のせいかしら、これから先の事がわかるわ。


 もうすぐ、侍女が来て。


『ルディアナ王太子妃様、本日殿下は執務で忙しいとの事でございます』


 部屋のドアが控えめにノックされ侍女が入ってきた。


「ルディアナ王太子妃様、本日殿下は執務で忙しいとの事でございます」

「そ、そう。わかったわ」


 …え?何かしらこれ。


 繰り返してる? 思った瞬間、頭が割れるように傷んだ。


 ズキズキと痛む、殿下はわたくしを嫌っている。

 ズキズキと痛む、高慢で意地悪な冷たい女と言われ続ける。

 ズキズキと痛む、政略結婚に愛なんてあるわけない。


 痛みと吐き気、ぐるぐると頭を巡る記憶。

 唸り声が出ていたらしい、様子がおかしい事に気がついた侍女が駆け込んでくる。


「ルディアナ様!お気を確かに!誰か侍医を!」


 辛くて目を瞑っていたら、バタバタと人が走る気配と魔力のうねり。


「ルディアナ様!」

「あ、頭が…頭が痛い」

「王太子妃様!!」


 意識は真っ黒の闇に呑み込まれた。


 モノクロの世界で、映像が途切れて映し出されている。

 私は膝を抱えてそれを見た。


 お互いを紹介する出会いの日、若干12歳の殿下は庭に迷い混んだ魔獣を、わたくしを庇いながら倒してくれた。

 あの日から殿下はわたくしの英雄。

 15歳で殿下が学園に行ってしまい、年下のわたくしは寂しくて早くわたくしも学園に行きたくて父を困らせた。


 2年遅れて、わたくしも15歳になり漸く殿下と一緒に学園に通えるようになったのに、殿下は徐々に変わられた。

 誰かを探すように女生徒に声をかけるようになる。

 そしてその女生徒に失望して離れるを繰り返した。

 殿下は荒んでいく、わたくしも殿下を引き留める事も出来ない婚約者として烙印を押された。


 あれは結婚式だわ、なんて顔をしてるのかしら。

 そう、式の直前に取り止めたいなんて言われたのよね。

 父親の皇帝陛下に今更何を言ってるのだと声を荒げられていた。


 本当に嫌な奴。


 ……そうだわ、きっとこれはわたくしの夢ですもの、夢くらい好きなようにしていいわよね。


 隣に立つ殿下の顔を、黒く塗りつぶし結婚式の映像をぐしゃぐしゃにすると少しだけスッキリした。

 今となっては取り止めていたほうが良かったわよね。

 初夜も散々だったわ。

 あの夜に赤子を授かったのよ。


 次の映像は懐妊がわかったときのね。

 倒れてベットで唸るわたくしによりによって僕の子供か?なんてふざけた事を言うから、魔術医を呼んで確かめてもらってるときよね。

 宰相の父は同席してたわね、あらら、憤怒の表情をしてたのね、見えてなかったわ。

 陛下も呆れたように殿下を見ていたっけ。

 魔力測定で晴れて殿下の子供と判ったときのあの顔。

 無表情だったわ。


 くそじゃないかしら、本当。


 この時の殿下も黒く塗りつぶしてやったわ。

 わたくしの事が嫌いだからといって浮気しているなんてよく思い付くわ。


 大体なんでここまで悪感情をぶつけてくるのかしら、わたくしなら何をしてもいいと思ってるのかしら、なら甘えてるとしか思えないわ。

 やだやだ、気持ち悪い。


 あら?これは未来かしら、いえ違うわ。

 わたくし体験してますわ。

 乳母の娘と殿下が出会うところね。

 あの子を産み、産褥熱で臥せっている時に、乳母の娘を侍女として雇ったら殿下と恋に落ちていた。

 この映像はきっと今ね。

 側近に煩く言われてしぶしぶ向かってたら、この娘が部屋の前に立っていたというわけね。


 娘の髪と瞳の色、今気がついたけど亡くなった皇太后であるお義母さまの色だわ。

 そういえば、昔から声をかけた女性はこの色、殿下はこの色の女性が好きだったわ。


 ……マザコンなのね。


 マザコンが悪いとは言わないけど。


 恋愛対象っていうのが気持ち悪いわ。


 何処が良かったのかしら、あんなに好きだったのに、こうやって見ると大人になった殿下に惹かれる要素なんて全くないわ。

 あの時の素晴らしい出会いは別人だったのかしら。

 殿下に執着していたのは、振り向いて貰おうと躍起になり、勝手にわたくしが努力した分を認めてもらいたかっただけね。

 気がついたらスッキリしたわ。



 映像が小さくなってゆく中、何か恐ろしい事が起きる。

 まって!最後まで見せて頂戴!



 願いも虚しく、どんどん映像は小さくなって、最後は真っ黒に塗りつぶされた。


 



 パチリと目を開けると王太子妃様は開口一番に。


「わたくし離宮へ参りますわ」

「王太子妃様?!お目覚めに!」

「ルディアナ!大丈夫か?!」

「王太子妃様お加減は!」

「え?離宮?!」

「あら、お父様ご機嫌いかがかしら、いらしてましたの?」

「当たり前だろう!倒れたと聞けば見舞うだろう!」

「まぁ、それが普通ですわよね?」


 部屋には信頼のおける侍女と侍医にお父様がいる。

 ぐるりと部屋を見る、陛下も殿下も居ないのを確認して父の目をしっかり見据えた。


「わたくし、今回の出産でもう子供が出来ない体になりましたの」

「え?!そんなばかな!」


 長年仕えてくれる侍医が叫ぶ。


「サバーニャ侍医そうよね?」

「そんな事は」

「そ う よ ね?」

「さ、さようにございます」

「ですって、お父様」


 にっこりと父へ笑いかける。


「ふざけるな!そんな嘘が通るとでも?!」

「一度きりですわ」

「なにがだ?」

「殿下がわたくしに触れたのは初夜の一度だけ、以後は触れてませんわよ」

「よさないか!はしたないぞ!」

「もう!はしたない事を言わせたのはお父様ですわ!」


 いやそれは、ともごもごしてる。


「しかし、おまえが離宮へ行くとして生まれた子はどうするのだ」

「愛しい娘は連れていきますわ」

「いや、王女だぞ」

「それがなにか?」

「幸い殿下の異母弟君も異母妹君も沢山いらっしゃるではありませんか」

「今は亡き正妃様の子は殿下だけで、その子は王太子の血を」

「お父様、我がルクスブル家に王家の血を入れるのも一興では?」

「ふむ、婿を取り跡目にするつもりか」

「よい考えでは?」

「王家の血を取り込み権力を持つと思われるぞ」

「よいではありませんか」

「権力なら殿下の次の正妃に政敵のサンデルマン公爵家から据えたら相殺されますわ」

「お前はどうするのだ!」

「暫く離宮にいた後、この子と共にルクスブル公爵家に戻りますわ、そうだわ!女公爵でも良さそうですわね」


 ぐあーと頭を抱えるお父様。

 

「まったく。意識がない間に人が変わったようだなルディ」

「お父様、死ぬ時に見るという走馬灯を見ましたの」

「……洒落になっておらん、馬鹿者」

「もう、決めましたの、それとそろそろわたくしの娘を見てくださいまし」


 鬼熊の見た目の父の顔が溶けるのを初めて見て、孫は最強なのねと思った。

 よちよちと孫に語りかけ抱き上げる姿を見て、なんとも言えない幸福感を味わう。


「ルディ、名前は決めたのか?」

「マリア…マリアベルですわ」

「おお、マリアベルおじじだぞう」


 父が娘にメロメロの間に侍医長にお願いをした。


「サバーニャお願い」

「全く姫さまには難題を押し付けられましたな、わかりましたその代わり私も姫さまにどこまでもお仕えしますからね」

「ありがとうサバーニャ!」

「貴女達もよ、リタ、サリア、モニカ」

「はい、お嬢様!」

 

 子供の頃から仕えて貰っている、実家から着いてきてもらったのだ一緒に帰ろう。

 わたくしが王太子妃をする気がない事がわかったのだろう、父も侍医も侍女も昔の呼び名に戻してくれている、受け入れられて良かった。


 まあ、ここ数年の殿下の態度を見ていて皆も思うところがあったようだ。


「さ、準備をはじめて頂戴」


 デレデレの父からマリアベルを取り上げる。


「さ、お父様外堀を埋めてくださいな」

「あぁ、マリアベル……うむ、サンデルマン公爵家ならすぐに話に乗ってくるだろう、皇帝陛下もまあなんとかなるだろう」


 そう言うとお父様がじっとわたくしを見て。


「おまえは本当にそれでいいのだな?」

「はい、お父様」


 しっかりと頷いた。

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