脅迫を初めてしたものの……
とりあえず俺は目の前の令嬢(多分)に土魔法で作ったナイフを後ろから首に当てて脅してる……筈なんだが、この女急にテンション上がってないか?
さり気なく右手を前に出してガッツポーズみたいなのしてるし……俺もしかして人選ミスったか?それでも始めてしまったからには最後までやるけどな。
必要なのは他のクラスメイトたちの待遇を聞いて信頼出来るのか、それと元の世界に変える手段に……挙げだしたら止まらないし1個ずつ聞くか。
「いいか、変な動きや嘘くさい返答など俺が怪しむ行動をとった瞬間にお前の首を切る。それが嫌なら大人しく俺の質問に全部答えろ。いいな?」
初めて脅迫とかやるがこんな感じでいいのだろうか? 日本人で陰キャしていた俺が分かるはずもないが、このまま乗りと勢いで行くしかないだろう。
「ええ! いいですわ! どんな質問も答えてみせましょう!」
うん、嫌だわこのテンションの変な奴と会話するの。俺の中の何かが削がれてる感じがするし。あれだ、この脅しを行ってる雰囲気が薄れてきてるからだ……多分。
「おい、あまり声を荒げるな他の奴に気づかれる。それに俺は今お前を殺して他の奴を人質にしても問題はないんだぞ?」
そう言いながら俺は軽く首に当ててるナイフの力を込める。
女の首筋からスーっと赤い血が月夜に照らされながら垂れていく。
「っ……。わかりました。では質問をお願いします」
「お前、今俺に命令できる立場か? 少しは自分の状況をよく考えろ」
俺は首の横に当ててるナイフを滑らし、更に首の傷を増やす。
「申し訳……ありませんでした」
そして女は黙った。
よし、雰囲気がそれっぽくなったな。俺の頭の中は女性に傷を負わせた罪悪感でいっぱいだが、回復魔法で治ることを願っておく。
「よし、なら最初の質問だ。今召喚された勇者はどうなっている」
「勇者様たちなら今は城にある寝室で全員眠っておられます」
ふむ……どういう経緯で眠ったとか言わないは怪しいな。もう少し詳しく聞くべきだな。最悪この世界に奴隷にするための首輪があってそれを着けられてる可能性もあるからな。
「その勇者たちを奴隷のように扱っているのか?」
「いえ! そんなはずございません。勇者様たちの召喚は私たちの不手際でもあります。元の世界に帰れるようにそれまで不自由無くここに住んでもらう予定です」
ん〜そういや俺こいつの言ってることがホントかウソかさっぱり分からないんだよな。首に傷を着けられて尚堂々とウソついてるなら感嘆を少しするけどさ……。
それでも今はこいつの情報が頼りだし信じる方向でいくか。さて、次は……元の世界に戻るほうh……バン!!
「姫様の大声が聞こえて来てみればお前、何者だ!」
音のした方を見ると部屋の扉を開けて剣を持った男が……あれ?コイツはクラスメイトの……え〜と、名前が出てないから今は剣男でいいか。
剣男がこちらにジリジリと距離を詰めながら剣を構える。
あいつが奴隷とかになってて操られてる可能性があるから迂闊に俺がクラスメイトだと言えないんだよな。月光を背にしてるからアイツから俺の顔は暗くて見えてないだろうし。
コイツの持ってる神から貰ったチートは知らないのであまり近づかれたくはない。
「これ以上近づくな。その瞬間コイツの首を切る。それとそこから5歩は下がれ。」
少なくとも遠距離関連のチートなら既に使ってるだろうし、確実に近接戦闘によるチートだと読んでいる。
「くっ……、分かった。それと何が目的だ! 彼女はこの国の姫だぞ。身代金か国の情報辺りが妥当だが……」
剣男は、足を止めたかと思いきや、こちらに喋りかけてきた。しかも少しずつこちらに今も近づいて来てる。
「おい! 聞いてなかったのか。5歩下がれと言ったんだ。もし俺がコイツを殺さないと思ってるなら大間違いだぞ。俺はコイツの暗殺も仕事の中に入っているからな。それに命は特に惜しくも思ってない」
俺はそう言いながら、姫と呼ばれてる女の首の前側にナイフの刃を少しずつ力を込めて押し当てる。
それを見て剣男はゆっくりと後ろに下がり始めた。ふ〜アイツのチートの射程に入ってなくて良かった。だが、剣男が来たということは他の奴らも来る可能性がある。
俺は早めにこの姫から再び情報を聞き出そうと質問をしようとした瞬間
「フラッシュ!!」
急に剣男がそう叫ぶと、強い光が放たれる。
「くっ、足音的にこっちに走って来てるな」
俺は光でほぼ目が見えていない。それに今は剣男の敵をやっているんだ。最悪首を刎ねられるかもしれない。
俺は咄嗟に姫を剣男のいた方向に突き飛ばす。「きゃっ!!」という悲鳴が聞こえ、それを心配する剣男の声も聞こえる。俺はそのスキに隠密のスキルを発動させながら部屋の角に移動する。
部屋の隅は特に暗いため、服の色も黒いのでそう簡単に気づかないと思うが、少し目を凝らせば気づくと思うので、後は隠密の性能に掛けるしかない。
剣男たちの様子を見ると、剣男は姫の心配をしながら俺を見失ってキョロキョロと周りを見ている。しばらくして、俺が逃げたと判断したのか姫の事に集中しだした。
剣男は姫を抱えて部屋を出て、大声で姫の首の傷を治すように叫んでいる。
俺は一先ずこれ以上迂闊な行動は取れないと判断し、どこか身を隠せる場所はないかと城の壁の出っ張りやテラスなどを足場にグルグルと周る。
すると、城の近くに小屋みたいなのが見えた。城の城壁内にあるから家では無いのは確かだが明かりが付いてないので今夜はそこで一夜を明かすとしよう。
明日はクラスメイトたちが操られてるかどうか観察する事にするつもりだが、剣男の行動を見るに操られてるとはあまり思えない。アイツは無鉄砲な所があり、先程魔法でスキを突こうとしていたが、俺がホントに姫を殺すつもりだったなら確実に殺せていた。
操られてる奴があんなゴミみたいな作戦を実行するとは思えない。念の為に様子見するつもりだ。石橋は叩ける時はトコトン叩くのが俺のポリシーだからな。
「よっ……と。とりあえず小屋に着いたが、入口に鍵とか掛かってたら嫌だな……」
小屋は元の世界でいう山小屋みたいな感じだった。もし鍵が掛かってたら城内を探索しなければならないが、そんなリスクは負いたくない。
小屋の扉には特に鍵穴も見当たらないので、魔法の類で鍵が掛かってない事を願いながらドアノブに手を掛ける。
そして、扉はアッサリと開いた。俺は中を見渡すとそこは使えなくなった家具などが置いてあった。しかも外から見た時の小屋より中が広いのだ。おそらく体育館ぐらいの広さはあるだろう。
空間魔法とかその辺りの魔法で広くなってるのかなと思いながら俺は脚の1箇所が折れて斜めに傾いているベッドを見つけ、そこに寝転がる。
眠るまでもう少し考え事をしたかったが、この世界に来て新しい事だらけだったので疲れていたのかすぐに俺は意識を手放すのだった。