めんどくさい
「あんたは誰だってんだい!?」
江戸っ子口調でそう聞くと私のお弁当を貪り!犯し!喰らいつきやがった!……改め、私のお弁当を勝手に食べたその男はまたガハガハ笑って答えた。
「口調おもしれぇな!気に入った!」
「気に入られたいわけじゃないんだけど!名前言って名前!」
本当に人を煽るのが得意なようだね君ぃ!私のこの母なる大地より広い器がピシピシ音をたててヒビが入っていってるよ!!
「おう!俺は実賀田実ってんだ!よろしくっ!」
最後の小さいつはなんだっ!人のお弁当勝手に食べてっ!許さないぞっ!
「お前は……中川だっけか?よろしくなっ!」
差し出してきたその手を私は握らないからな!……はっ!ここで感じ良くすれば蛇穴くんへのポイントアップにつながる!?
ふふん、利用させてもらうぜ実賀田とやら!
「よろしくね!実賀田くん!」
「それはそうと蛇穴!なんだよお前隅におけねぇな!こんな彼女さんまで作ってよ!」
手を握ろうとしたら蛇穴くんに向き直って私の手は空を切る。
おいみっちゃんほーちゃんなに笑い堪えてるんだわかってるんだぞ。
……この男、嫌い!でも私のこと蛇穴くんの彼女と勘違いしたところは褒めてやる!
「か、彼女さんじゃないよ。僕に彼女なんておこがましいし……それに、その、中川さんは僕に罰ゲームでこういうことをさせられてるんじゃ……」
「ちっがわぁい!私が好きでやっとんじゃい!何度言ったらわかるんじゃい!」
「東北の出か?……にしても罰ゲームでんなことさせられるたぁご苦労なことで」
「罰ゲームじゃないって言ってるでしょぉ!?ええい、よく聞けい!」
そう言って私は手を腰にあててバーン、と効果音が付くぐらいの立派な仁王立ちをした。
「私は蛇穴くんのことが好き!だからお弁当を作る!お昼ご飯にも誘う!わかったかこんにゃろー!!!」
そう大声で言い切ると周りからパチパチと拍手が鳴ってきた。ありがとう、みんなありがとう。
あとみっちゃんほーちゃんは机に突っ伏して震えてるけど後でお話しだからね。
「ほほう!すっげぇなそんな恥ずかしげもなく!おい蛇穴!これ罰ゲームじゃなくて本気でお前のこと好きだぜ!」
「うえ、ええ?」
赤面してキョドキョドしてる蛇穴くんも可愛いね。私の心のアルバムに大事にしまってあげよう。
うん、これで実賀田くんには私が罰ゲームで蛇穴くんにあれこれしてるわけじゃないってことがよく伝わったみたいだ。
「でもよ、蛇穴はやめてくれって言ってんだろ?それをやめないっておかしくないか?」
「ほえ?」
いやよ、と実賀田くんは続ける。
「本当に好きなら、好きなやつが嫌がることなんてしないだろ?」
「………」
「やっぱ罰ゲームなんじゃねぇの?」
「………………」
よーし、めいっぱい息を吸えたぞ。今からおっきいのぶっ放してやるからな。
「めんどくさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!!!」