食われた
「蛇穴!」
呼んでも呼んでも走り続ける。
「待てって!蛇穴!」
どうにか追いついて、肩に手をかけてもそれを振り払い、あいつはこう言うんだ。
「僕と関わったら、君まで馬鹿にされる」
「蛇穴くーん!」
抱きつかんばかりの勢いで蛇穴くんの机に走る。
ビクッと肩をはねさせて恐る恐る顔を上げて、私の顔を見るなり逃げる。
残念、人間は学習する生き物なんだなぁ。
「逃げちゃダメー!」
回り込んで逃げ道を塞ぐ。甘いぜ蛇穴くん。
「なっ!だから僕とは関わらないでって……」
「はいともすんとも言ってないって私は言いましたー!お昼ご飯一緒に食べよ!」
「え、遠慮してお……」
「ダメでーす!遠慮させませーん!」
そう言ってドン!と机に包みを置く。
あれから練習して、まともなものを作れるようになった。
来る日も来る日も作ってくる私に毎回申し訳なさそうな顔で包みを受け取る蛇穴くん。
受け取ってくれるだけ進展したと思いたい。
「今日こそ目の前で食べてもらうんだから!ほら!パクついちゃって!」
「パ、パク……?」
「食べて!今すぐ!」
有無を言わせない迫力でそう言い、包みを開けさせた。そんな怯えた顔しなくてもいいじゃんか……。
「……美味しそうです」
「見た感想も嬉しいけど食べた感想を言ってくれるともっと嬉しいな」
「わ、わかりました」
いただきます、と言ってから箸を手に持ち、卵焼きをつかもうとすると、教室の扉が乱暴に開かれた。
「蛇穴ぃ!」
「み、実賀田くん!?」
名前を知ってるってことは知り合いかな?未来の彼女として仲良くしなきゃね!
そう思っていたんだけど。
「……お?なんだよそれ、うまそうだな!一口もらうわ!」
「え?あ、ちょっ!」
私の静止も虚しく、そいつは蛇穴くんが食べようとしていた卵焼きを手でつまみとり、口に運んだ。
「おぉ!うまいじゃねぇか!蛇穴が作ったのか?」
「い、いや、中川さんが……」
「へぇ?うまいぜ!中川!」
こ、この男……。
「それは蛇穴くんのためのお弁当なの!どこかの誰かさんのためのお弁当じゃないの!」
そう怒りに怒っている私にその男は笑いながら話す。
「お?いやすまんすまん!でもうまかったぜ!」
お、おお……!
こやつ、人を煽る天才か……!?
「そ、その……中川さん。もう実賀田くんが感想言ったので、僕は食べなくても……」
「良いわけ!ない!」