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フラれてない

「……なーんであんなこと言うかね」

教室に戻った私とみっちゃんは、なにがあったかをほーちゃんにも話した。

なんで、あんなことを言うのかなんて、私にもわからない。

でも、あんな辛そうな顔で言われたら、関わるなんて……。

「あの子なりに、自分を大切にしてって伝えたかったんしょ」

「んー……まぁそれもあるんだろうけど。なして蛇穴ちゃんはあんなにネガティブなのよ?もーちょい自分に自信持って生きようや?」

ほーちゃんとみっちゃんがなにか言ってるけど、私は、気が気じゃなかった。

「迷惑、だったのかな」

「……ようちゃん」

ぽつりと言葉を漏らすと、それが弾みになってぽろぽろ言葉が出ていった。

「私、一緒にご飯食べよって誘って、下手なりに頑張って、お弁当作って……でも、全部、全部蛇穴くんにとっては迷惑だったんだって思ったら、私」

辛くて、心がねじ切れそうだ。

涙を堪える。私が勝手にやったことなんだから、涙なんて流す筋合いもないんだから。

「迷惑じゃ、なかったと思う」

「……え?」

ほーちゃんが静かな声で、そう言って私に笑いかける。

「ようちゃんに追っかけられてる蛇穴くんさ、いつもより笑ってたんだ。教室にいる時も、少し楽しそうな顔してた」

「ほーちゃん……」

「私の憶測でしかないけどさ、迷惑じゃなかったと思う。そう思うから」

ほーちゃんが、ぽすぽすと小さい手で私の頭を撫でた。

そんなに優しくされたら涙、こぼれちゃうよ……。

「おおよしよしお前ら二人ともいい子だねぇ。ママンは嬉しいよ」

そう言ってみっちゃんが私たち二人を抱きしめる。ほーちゃんと顔を見合わせて、ふふっと笑う。なんだか、やけに心が温かくなった。




「じゃね!ほー!ようちゃん!」

「ばいばーい」

「また明日」

みっちゃんは部活へ、ほーちゃんは私とは別方向。

帰るときは、三人ともバラバラか、みっちゃんの部活がないときは私とみっちゃん二人で帰る。

今日は一人。というか、部活が休みになるのは天気が悪くなりすぎるか、テスト期間の間ぐらいで、ほとんど一人だけど。

「はぁ……」

柄にもなくため息なんてついてしまった。二人が見たら、どうしたどうしたって慰めてくれるのかな。

「私も、帰らなきゃ……」

そう呟いて、学校指定の黒い鞄を持って靴箱に向かう。

蛇穴くんは、先に帰ったみたいだ。いつも、終礼が終わるなり真っ先に帰っていく。

いつのまにかまた、蛇穴くんのことを考えていたみたいだ。

首を振って、思考を変える。靴箱で、自分の靴を取ろうとした。

けど、靴箱には私の靴以外のものが入っていた。お弁当の、包みが。

「……!」

包みの上には一枚の紙切れが入っていた。

開いて見てみると、綺麗な、しっかりと濃い字で、こう書かれていた。

『おいしかったです』

手紙を畳んでポケットにしまい、お弁当の蓋をあける。

中身は、綺麗に平らげられていた。

その瞬間、溢れそうになるものが抑えられなくて、急いで女子トイレに向かった。


個室に入って、座らずに立ったまま私は。

止めどなく溢れてくるものを必死で、手で拭う。

「うあ……ふは……」

泣いているのか笑っているのかわからないこの顔は、到底人に見せられるものじゃなかった。

「ああ……もう……」

胸が苦しくて、でも熱くて。

蛇穴くんの顔が、姿が脳裏に浮かんだ。

「こんな、こんなさ……全部、食べるなんて……」

おいしいわけがない。作った本人なのだから、おいしくないことは一番わかる。

なのに、全部食べて、その上おいしかったです、だなんて。

「余計、好きになっちゃうよ……」

ひとしきり泣こう。涙が枯れるまで。

「関わらないなんて、無理だよ……」

そばにいたい。隣にいたい。

蛇穴くん。蛇穴くん─────




「おはよー!」

次の朝、私は蛇穴くんに朝の挨拶をした。とびっきりの笑顔で。

「お、おはようございます……あの、僕が言ってたこと、聞いてました?」

「聞いてたよ!しっかりと!」

「ならなんで……」

ふっふっふ……、と笑ってみる。蛇穴くんの話には抜け道があったのだ。それを発見した私は天才だ。

蛇穴くんが不気味なもの見る目で私のこと見てるけど気のせいだね。

「関わらないでとは言われたけど私、うんともはいとも言ってないもーん!」

バーン!、と効果音がつきそうなドヤ顔で腕を組む。

「……ぷっ」

「! わ、笑った!?今笑ったよね!?ね!?ね!?」

「わ、笑ってな……あは、あははははは!」

なにかよくわからないけどウケたのならそれでいいや。

「い、いえ……屁理屈じゃないですかそれ」

「へ、屁理屈じゃないもん!これ考えついた時世紀の大発明みたいに思ったんだよ!?」

「そ、そうですか……ふ、ふふ」

まだ笑ってる蛇穴くんに、私はちょっとムッとしながら包みを渡した。

「はい!」

「ま、また作ってきたんですか……?」

若干嫌そうな顔をしてないかな?泣くよ?泣きつくよ?

「美味しいよ今回は!ちゃんとお母さん監修の元作ったから!」

「あ、いえ……また手を怪我してないかなと思いまして……」

そう言って私の手を取った。

わーすごい自然に手を取ってくれた。嬉しいって気持ちが身体中駆け巡ってる。

そして私は知っている。ここできゃー、とか悲鳴をあげたり、なにか反応を見せると蛇穴くんも気づいてしまい、手を引っ込めてしまうことを。なので無反応。

「怪我……増えてないみたいですね。良かった」

そう言って柔らかく笑う蛇穴くんの顔に、私の心臓が七回ぐらい撃ち抜かれた。

「……あ。す、すいません!手、触ってしまって……ごめんなさい!」

そう言っていきなり席を立つと、走ってどこかへ行ってしまった。

「……あ!お昼ご飯誘うの忘れてた!」

私の恋路の終結は、まだ遠いらしい。

なんでこんな伸びたんですか ありがとうね

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