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真実と想いの業  作者: 神無月凍夜
第五章 大罪編
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92話「神の騎士たち」

「覚えてんのか、オレの名前。……まぁ、アンタじゃ勝てねぇよ。さっさと結月來貴を連れてこい。さもなくば、お前たちを殺す事になる」


 ジーレスト・オヴェイロン。來貴と戦い勝利した、彼のアルヴァダ兵。いや……槍の騎士の再来だ。


 その顔を、勿論來貴は視認している。……そして、今來貴と目があった。來貴の顔は、険しいものだった。きっと、刀華たちでは勝てないだろう。ジーレストが連れている有象無象は斃せるかもしれないが、ジーレストには勝てない。


 ――何より、刀華は一度ジーレストに負けているのだ。桐生が居たのにも関わらず。今回、桐生が不在だ。しかし、怜次や伏見、他の教師が多数来ている。……だが、ジーレストには勝てないだろう。


 ジーレストにとって、刀華たちは有象無象。いくら集まったところで、足元にすら及ばないのだ。來貴ならば、勝てる可能性はある。――本気を出せば、の話だが。力を抑えている状態では、勝てる可能性は無い。自身が持つ全てを引き出して、初めて勝てる可能性が生まれるのだ。


 ――恐らくこのままでは、刀華たちは全員死ぬだろう。自分がやらなければ、この学校は更地と化す。……來貴は険しい顔をした。知らない人が死ぬのはどうでもいい。しかし、あの中には凜の姿もある。


 有象無象のアルヴァダ兵にはきっと勝てるだろうが、ジーレストは別だ。あの場にいる全員掛かりでも、蹴散らされるだけだろう。


「……どうしたんですか? 來貴君。そんなに、険しい顔をして」


 近くに居た文奈が、來貴の様子に気付く。険しい顔をしていることに、疑問を持ったようだ。……來貴は、静かに呟く。


「……アルヴァダ兵の集団の中央に、槍を持ったアルヴァダ兵がいる。……そいつは、俺と刀華先生たちが、アルヴァダ帝国へ行った時に一度負けた相手だ。……その時はあいつが撤退したが、今は撤退するなんて思えない」


 その呟きを聞いた文奈は、目を見開く。この勝負の結果がどうなるか、容易に想像できたのだろう。そして、あの者たちの矛先が次に何処へ向くのかも。


 ――二人の不安を余所に、ジーレストたちと教師たちの戦いが始まる。


 教師と生徒たちの内、刀華と伏見と瞬華以外は、こちらへ迫ってきたアルヴァダ兵を抑え、離れた場所へ行く。三人は、ジーレストと対峙する。


 ジーレストは油断無く三人の様子を見ながら、左右に槍を振るう。これはただの動作確認であり、攻撃ではない。彼女らも、それをわかっている。だが、思わず一歩後退ってしまう。ジーレストは興味が無いようで、見てすらいない。


 ――そして、ジーレストは槍を地面に突き刺す。同時に、紅の雷が地から出でる。それは複雑な軌道を描き、二人へと迫っていく。


 刀華はその力を知っていたため、ジーレストが槍を地面に突き刺した時点で回避行動を取っていた。瞬華も、時間を止めて回避する。しかし、伏見は反応出来ずに紅の雷を食らってしまう。


「……ぐっ!?」


 紅の雷は、伏見の身体に蠢く虫の様に纏わり付いている。しかし、伏見が腕を振り払うと、それは霧散した。そして、ジーレストが槍を突き出しているのが見えたため、右に躱して距離を取る。


 ……現在の位置関係は、左向きのYのようになっている。Yの左頂点に瞬華、右頂点に刀華。中央にジーレスト、下に伏見。ジーレストは、左右に囲まれている状況でもひどく冷静だ。敵を一瞬見て、槍を回し振る。


 先端に紅の雷が出ていて、威力と速度を底上げしている。……しかし、全員が少し擦っただけの怪我で済んだ。ジーレストは槍を回したその勢いと能力を使い、竜巻を生み出す。それはかなりの引力を持ち、三人を引きずり込んだ。


「なっ!?」

「なにっ!?」

「きゃっ!?」


 やがてそれは雷を帯び、三人を痺れさせていく。しかし風で身動きが取れないため、このままでは感電死してしまう。瞬華は時間を止め、ジーレストの力から無理矢理逃れる。そして、相当近くにまで接近し、斬撃を浴びせる。思い切りの一発を浴びせるだけだが、これだけでも能力は止まるだろう。


 ――そして時は動き出す。


「ぐっ!?」


 ジーレストは口から血を吐き出し、思わず能力を停止する。刀華と伏見は上空から落ちてきたが、しっかり両足で着地した。


「助かりました、瞬華さん」

「東道、助かった」


 二人から感謝の言葉をもらいながら、油断無くジーレストに追撃の発砲を浴びせる。ジーレストは身体を捻って躱し、口から出ている血を手で拭う。ジーレストは、腹部から流れ出る血を見る。それは瞬時に治っていき、やがて完治した。


 瞬華が付けた傷により、少し有利になれたと思っていた。だが、それは間違いだと否定される。傷など、瞬時に治るのだ。あの時は、傷すら付けられなかったからわからなかった。そう言う能力を持っているのか、それとも身体機能なのか。


 二つの可能性を推測できたが、どちらでも厄介だ。


 ――そして、刀華たちは反撃に出る。伏見が囮になり、ジーレストを引きつけ誘導する。その間、刀華は剣を創って操り、伏見のサポートをしながら準備をする。瞬華はその場所へと行って準備をした。


 数分後、ジーレストがその場へと到着する。


「……今です!」


 刀華の合図が、この場所へと響き渡る。伏見が、ジーレストから離れ、刀華の近くへと行く。それと同時に、止められる時間。周りに見えるは、大量の剣。ジーレストがいるのは、比較的凸凹して影が多い場所だ。


 その故に、黒いものが隠れていてはよく見えない。それ故に、時間を止めて避けられないような攻撃をすれば、ジーレストに傷を付けられると考えたのだ。大量に剣を創り、時間を止めて瞬華に攻撃させる。


 ただ攻撃するだけでは風に防がれてしまうため、一個一個加速をさせながら。かなり無茶を強いることになってしまうが、了承してくれた。これは刀華が即興で考えた作戦であり、動作確認も連携も何も無い全てアドリブのものである。


 ――そして時は動き出す。


 ジーレストの周囲に張り巡らされた無数の剣が、かなりの速さで飛来する。ジーレストは少し焦燥と、周囲の剣の数を見ながら能力を使う。瞬間、紅の風が吹き荒れる。それは無数の剣を多く弾いたが、近かったものはジーレストに迫っていっている。


 身を捩って跳躍しながら、剣を全て回避した。……結果、ジーレストが負った傷は何個かのそれなりに深い傷のみ。


 しかし、この程度ならばすぐに治ってしまう。


 ――刀華たちは、絶望と恐怖に冷や汗を流した。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ――一方、凜たちは。


 ジーレスト以外のアルヴァダ兵は、十字大隊軍(サザンクロス)所属である。……それ故に、単純に一人一人が弱い。学校側が十数人、アルヴァダ側が四人。数が売りである十字大隊軍(サザンクロス)に数で負けている勝負は無謀だった。


 ひたすらに銃を撃つアルヴァダ兵の銃弾を、凜が全て弾く。その後、後ろから怜次が襲いかかる。しかし、躱される。どうやら他よりは強いようで、簡単には死なないようだ。


 とは言いつつも、この状況を打破出来るわけではない。ただ戦闘が長引くだけで、いずれは決着を迎える。


 アルヴァダ兵が発砲した銃弾を、凜と怜次が全て弾く。今回は量が多かったため、怜次が魔力を纏った拳で弾丸を撃ち落としていた。そしてそれを繰り返していく内に、アルヴァダ兵たちの残弾は無くなっていく。


 銃を撃った後の隙を突かれ、アルヴァダ兵は攻撃を受ける。……それは、足元への攻撃。それは死角から攻撃であり、アルヴァダ兵は躱すのが遅れて命中してしまう。しかし、まだ動ける。決してそれは侮っているわけでは無く、確実に殺すために、機動力を削ぐのだ。


 一分、二分と立つごとに、アルヴァダ兵の動きが鈍くなり、弾丸の数が減る。


 ――やがて約三分が立った頃には、弾丸が底をつき、足の怪我と出血で動けなくなっていた。……静かに、竜二は止めの引き金を引く。数人のアルヴァダ兵は、力尽きた。


 残るはジーレストのみである。だが、この槍の騎士は、他のアルヴァダ兵とは格が違う。今ここに居る者が束になったも、勝てる見込みは無い。……しかし、行かねばならない。そうでなければ、刀華たちの身の保証は無いのだ。


 時間を見つつ、凜たちは刀華たちの加勢へと行く――――。


 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



(……おかしいですね)


 ――――刀華は、違和感を感じていた。戦闘が始まってから、もう十分は経つだろう。今自分たちが負っている傷は、数個の掠り傷。それがおかしいのだ。本来ならば、この時間でジーレストは自分たちを殺害出来る。


 それを、刀華は身を以て体験している。……だからこそ、ジーレストが何を目的としているのかが不透明で、不気味なのだ。


 ならば、援軍が来るまで粘ろうと刀華は考えた。伏見と瞬華には無茶をさせるが、どっちみちそうしなければ死んでしまう。


「……まだ抗うか。そろそろ、くたばってきた頃だと思っていたが」


 ――ジーレストの軽口を無視し、攻撃を続ける。


 宙を舞う剣たちの一閃。当たらない、躱される。空中に跳び上がったジーレストに、時間差の銃弾と剣閃。掠り傷すら付けられず、弾かれる。後ろから、伏見の回し蹴り。ジーレストも回し蹴りをし、威力を相殺。そしてそのまま吹き飛ばされる。


 ……はっきり言って、戦況はかなり絶望的だった。


 ――しかし、抗わなければならない。生徒を護ると言うのが、教師の仕事だから。瞬華も生徒だが、教師よりも強いために若い教師のような扱いになっている。


(……勝ちは絶望的、ですね。それどころか、この戦いが終わった後に、学校内で生存している人がいるのかすら不明瞭です)


 刀華はその頭脳を用いて、今と先を分析する。


 結果得られたのは絶望だが、それでも足は止められない。……止めてしまったら最後、待つのは死であるから。自身の目標――『正しい在り方を教える事』を、実現するために。


 ――その後、凜たちが刀華たちに加勢する。それでも、数的有利の戦いは、絶対的力の差で有利にはならない。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ――――來貴は、俯瞰した場で戦いを見届けている。


(……護るべき対象がいる……と言う事実をエサに、俺を引き出そうと言うことか。卑しい手段を取るな……)


 ジーレストが何の為に手加減をしているか、來貴はわかっていた。それは、自身をあの場へと引きずり出すため。自分からあの場へと行かせようとしている所に、來貴は性格の悪さを感じた。


 ――考える間にも、戦闘は続く。


 時間が経つ度に、刀華たちに傷が付いていく。……來貴の顔が、より険しくなっていく。その理由は簡単であり、凜に傷がついているからだ。教師と同等以上の強さを持つため、駆り出された三年生の内の一人である、凜。


 來貴の義姉であるが、來貴は凜の事をかなり大切に思っている。家族なのだ。そうであるから、傷付く姿は見たくない。


 ――行くべきなのか、行くべきでは無いのか。凜のためを思うなら、來貴は行くべきだろう。凜たちでは、ジーレストには勝てない。対して()()の來貴ならば勝てる可能性はある。


 ……しかし、その行動が何を意味するかを來貴はよく分かっている。


(俺があの場に行けば……きっと凜姉たちは助かる。……でも、それは俺の全てが、秘密がバレる事を意味する。……能力も……人間じゃなくなった事も)


 助けたい気持ちは、勿論ある。寧ろ、その気持ちの方が大きい。しかし――「嫌われたくない」「誰にも力を見せたくない」と言う子供じみたプライドと幼さが、それを邪魔する。


 力を見せる事で、凜や琉愛に嫌われる事を恐れているのだ。……でも、その力を出さなければ助けることは出来ない。


(――どうすればいいんだ?)


 独り、來貴は悩み続ける。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「――がっ!?」


 ジーレストに鳩尾を食らい、血を吐き出す凜。一旦距離を取り、手で血を拭う。その間は瞬華がフォローをし、上手く連携を取り続ける。


 そして、洗練された動きでジーレストに代わり代わり攻撃し、抗う。


 自分たちでは、ジーレストには勝てない。凜たちも来たばかりだが、段々それを悟ってきていた。


「――これだけ遊び続けても、結月來貴は来ない……か。ならば、無理矢理引きずり出そうか」


 ジーレストの呟きが凜の耳に届いた、その時。


「――えっ?」


 自分の身体は、空中に跳び上がっていた。地上からは、約500mだろう。來貴ならば無傷で着地出来るが、凜は違う。このまま地面にぶつかれば、軍人としての生活はおろか、生活が不自由になってしまう。最悪の場合、死ぬ可能性だってあるだろう。


「凜!」


 瞬華が叫ぶ。だが、その叫びも虚しく響き渡るのみ。


 だが、ジーレストはこれで終わらない。一瞬で凜の上を取り、槍を上から投げようとしている。その姿を見た凜は、自らの結末を察する。


(……あぁ、私死ぬんだ。――ごめんね、お父さん、お母さん。私、言いつけを守れなかったよ。――ごめんね、琉愛。幼いまま残しちゃって。――ごめんね、來くん。……ずっと、傍に寄り添えなくて)


 凜は、目を瞑る。現世への未練を、心に残しながら。


(……あれっ?)


 ――しかし、いくら待っても痛みと衝撃は来ない。それどころか、落下の感覚すらも無かった。ゆっくりと、凜は目を開けてみる。


 すると、そこにいたのは――――。


「……來くん!」


 ――――凜を左手で抱きかかえ、右手に"白天黒滅(はくてんこくめつ)"を構える來貴の姿だった。

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