88話「生き残りの悪魔」
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――マサハス・ロンディーネは、ジョン・レガドの報告を聞いていた。
「……結月來貴に、近づくのは難しそうです。あの者は、私よりも強いく、そして勘が鋭い」
「――そうか。ならば、オレが直々に出向くか……そろそろ、時期は来そうだしな」
マサハスと、この場にはいないがエオも生き残りの悪魔の一人である。……そして、彼らの主であるマサハスは、悪魔の中でも十本の指に入るほどの強さを誇っている。
彼らは、選定のために日本に来ている。選定者が選定する者を選ぶ。……だからこそ、自分から出向く必要がある。自分たちの事情に、他人を巻き込んでいるのだから。……そして、巻き込んだ者に試練を与えねばならない。
巻き込んだ者は、承知の上でこの茨の道を歩いている。ドルナイトを殺し、世界の崩壊を未然に防ぐ……この結果に必要な強さは、きっと巨大なものだ。
最強の悪魔"七柱"、最強の天使"七柱"。かつての"最強"に匹敵する強さを持つ者が、勝てる可能性を持つのだ。現状、その領域に至る者は悪魔側と天使側、その双方にいない。しかし、その領域に迫る者は数名ほど現れてきている。
――結月來貴も、その一人だ。しかし、その中ではまだ弱い方である。だが、マサハスはすぐに追い抜かすだろうとも考えている。
來貴の才能は、その数名の中でも頂点に立つ。トップクラスでは無く、トップ。絶対なる、一である。それ故、機会を与えればすぐに追い抜せる。……それ程なのだ、來貴の才能は。
マサハスはそれを見抜き、早く試練を与えて強くしたいと思っている。……それ以外にも、マサハスの私事で会いたい理由もある。マサハスにとって、これは重要な事だ。軍事機関と日本に潜んでいるアルヴァダ兵の動きを警戒しつつ、動かねばならない。
(エオが今、状況を探っている最中だろう……帰還せし次第、報告を聞こう)
マサハスの直属の部下であるエオは、今状況を探っていて不在だ。今はジョンの家に潜んで帰還を待っている。
「……そうだ、マサハス様。一つ忠告を」
「なんだ?」
突如、ジョンがマサハスに話しかけて来た。その内容が「忠告」と言う事なため、マサハスは聞いてみる。
「私が結月來貴の周辺を探っていて、わかったことがあります」
次繰り出されるであろう言葉を、マサハスは聞き逃さないよう真剣に聞く。
「――彼は、心に闇を抱えています」
その言葉の真意を、マサハスは読み取った。返事をせず、頷くことで解釈したと示す。
「……ただいま戻りました、マサハス様、ジョン」
ジョンが言い終えたタイミングで、エオが戻ってきた。短く纏められた報告を聞き、マサハスは出かける準備をする。
これから歩む道は、きっと過酷なものだろう。だから、次の試練を与えるために動き始める。黒い髪をなびかせ、紫の瞳を持つ彼の悪魔は、白い外套を身に纏う。
――第三の選定の悪魔、マサハス・ロンディーネは、歩み出した。
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現在、授業が終わって俺は校長室にいる。何故かと言うと、放送で「校長室に来い」と呼び出されたからだ。
「……來貴君。明日、依頼へと行ってもらえますか?」
開口一番に言われたのは、俺への依頼。またかと思いつつも、俺は話を聞く。依頼は、基本的に断れないからな。まずは、詳細を聞こう。
「わかりました。……どんな依頼ですか?」
俺がそう聞くと、校長が神妙な面持ちで話し始めた。
「――それが……今回來貴君に来た依頼は、厄介なものなんです。明日、來貴君に神奈川県の横浜市に行ってもらいます」
「……神奈川?」
いきなり出てきた言葉に、俺は少し困惑する。依頼で東京を出ることは多々あったため、神奈川に行くだけで依頼が厄介になるとは思えないのだ。……だから、一枚何かあるのだろう。……いや、あるな。よっぽどの事が無い限り、俺が手こずることは無い。
そして校長は、俺の疑問を受けて、依頼の事を話し始めた。
「……横浜に、乗り込んできたアルヴァダ兵が潜んでいるそうです。しかも、かなりの人数が。こんなに多くの人数を動員させるとは、何か裏があるように思えます。だから、來貴君に殲滅すると同時に、その"裏"を探って欲しいのです。……他の軍人は、仕事で動けません。だから、來貴君に白羽の矢が立ちました。……気をつけてください、想定していないことが来るかもしれませんからね」
アルヴァダ兵……か。その言葉を聞くだけで、全身が煮えたぎりそうだ。俺はアルヴァダ兵……いやアルヴァダ帝国は、嫌いだからな。
「……わかりました」
「來貴君、もう行っていいですよ。……明日、頼みますよ」
頷くことで聞いたことを示し、校長室を出る直前に「失礼します」と言ってから出る。そして、学校から出て帰り始めた。
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「――妙なことにならなければ、いいんですがね……」
琴音は、額を抑えながら呟く。
今回來貴に飛んで来た依頼は、かなり厄介なものだ。神奈川に来ているアルヴァダ兵。……奴等が何の為に、秘密裏に日本へ来ているのかはわからない。しかし、いつも来ている人数よりも多いため、何か企んでいるのは確実だろう。
アルヴァダ兵は、軍事機関の軍人たちが殲滅している。しかし、全てを殲滅出来ているわけじゃない。殺す事も、殺されることもある。だから、來貴が殺されることを心配している。
來貴の強さを上回る者は、アルヴァダ兵の中にはかなり少ないだろう。だが、いくら來貴でも数で押されると劣勢になる。
他の軍人も送りたかったが、他の場所にアルヴァダ兵が来ていないか探る他、闇組織の警戒もしなければならない。それに加え、変な事が無いかの巡回もやっている。そのため、対応出来る動かせる軍人が來貴以外にいなかったのだ。他にもいるはいるが、対応出来ない者もいる。
――だから、來貴を動かすしか無かった。……この裏に、何があっても。
(來貴君……どうか、無事に帰ってきて……)
ただ、祈る。來貴が死なないように、何も起こらないように。琴音は――――。
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――――次の日。俺は依頼に行っている。車など出ていないので、走って神奈川県に向かっている。学校には既に校長から休むと言う事が伝わっている。凜姉たちにも、今日は依頼があると伝えている。
一直線に向かうため、住宅街の屋根を跳び越える。屋根の道が途切れ、高速道路の上に来たため、魔力を使い空中で再加速する。気配を消しているため、高速道路を往来している車の中の国民たちにはバレていない。
空中を舞い、ビルの壁を蹴って神奈川県の敷地へと入っていく。手頃なビルの屋上を見つけ、そこに着地する。
――そして、そこから周りの景色を見渡す。……別に景色を見に来たわけでは無いが、圧巻だなと俺は思った。そんな事は頭の隅に置いておいて、俺はアルヴァダ兵の潜んでいるところを探ろうか。
何処に潜んでいるのかはわからないが、海沿いの人が少ないところにいるだろう。
そう考え、俺は再び跳び上がりその場へと向かう。上空から場所を探り、魔力の波を流す。その波の先を辿って知覚し、何処に何があるのかを把握しているのだ。そして、潜んでいるかどうかを判断する。
今は上空からなので、これが一番手っ取り早い。地上に降りたら、人気の無い場所と魔力が強い場所を探そう。
――そして、約250m程跳んだところで、人気の少ないビルの近くに着地した。大体の居る範囲は、校長から聞いている。監視カメラに映っていた映像と見張りの軍人の証言から、おおよその範囲を予測したんだと。
俺はその範囲と、自分が予測する範囲を重点的に探す。校長の推測が間違っている……とは言わないが、そこにはいない可能性もある。だから俺は、自分で推測した範囲も探すのだ。
――そうして、探すこと約30分。アルヴァダ兵らしき影を見かけた。それをインカムで校長に報告し、追跡を開始する。奴等が何処に潜んでいるかを探るためだ。
数えたところ人数は約50人、方角的に東京の方へと向かっている。……自ら敵の本拠地に向かうなんて、こいつらは死にたいのか? ……いや、それはいいか。
全員殲滅し、目的を知る。それが、俺に与えられた依頼だ。
俺は奴等の後を付けつつ、能力で主に紙や武器、服などの痕跡を探る。……その結果、痕跡は見当たらなかったため、追跡を続行する。
……この場で全員殺すのも可能だが、それはダメだ。市街地に近いため、一般人にバレる可能性もある。……こいつらも、夜より早朝の時間帯の方が見つかりにくいってわかっているな。朝は軍人の見回りが少ないため、隠れにくい代わりに見つかりにくいのだ。
――この人数だ、派手な戦闘をしても支障が無いような場所に出るか、無理だったら瞬間的に悪魔化を発動して全員を瞬殺するか……しかし、あれは個人的にあまり使いたくは無い。
……見られている可能性も、あるからな。
そうして追跡すること約10分、奴等は本拠地らしき所へ来た。
(……こんな所に、こんな場所があったとはな……)
そこは、廃墟と化した大きな工場だった。その工場に、入っていくアルヴァダ兵たちの姿を確認出来た。普通に入るとバレそうだったが、この場で殲滅するためバレても問題は無い。
俺は能力を発動し、廃工場へと入っていった――――。
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――――廃工場の中は、意外にも小綺麗だった。整備されていて、長らく存在している、アルヴァダ兵たちの潜んでいる拠点なのだろう。……ただ、それは今から來貴によって破壊されるが。
歩いて廃工場を徘徊する來貴は、数人のアルヴァダ兵と遭遇した。アルヴァダ兵は硬直し、震えている。この廃工場のアルヴァダ兵は、全て同じ服装だ。それ故、同じ服装でない來貴を、一目見て侵入者だと、日本の軍人だと確信したのだろう。
來貴がジロジロ見て何か無いか探っている中、そのアルヴァダ兵は拳銃を取り出した。それを見て、他のアルヴァダ兵も拳銃を取り出す。
「う、動くな! こ……殺すぞ!」
そう言ったアルヴァダ兵の声と、その手に持っている拳銃は酷く震えている。他の兵も、例外無く。人を殺したことが無いのだろう……と、來貴は簡単に推測できた。來貴は表情すらも動かさず、ただその様子を見ている。
数秒間止まっていたが、何も無さそうだったため、來貴が歩き出そうと一歩踏み出した瞬間、発砲音。
バァンッ!
それは、見当違いの方向へと飛んでいった。來貴は避けれる自信はあったが、避ける必要すら無かった。
(ここにいるのは全員新人か……? 殺すのは楽だろうが、情報は何も持って居なさそうだ)
來貴は瞬時に"白天黒滅"を抜刀し、一閃。数名いたアルヴァダ兵が、ただの肉塊と化した。
その肉塊に目もくれず、刀身の血を振り払いながら走る。能力で廃工場の中にいる全ての人間の場所を特定し、近くの者から殺していく。能力で脳の中の記憶を見ても、良い情報は無い。この廃工場にいるアルヴァダ兵たちを取り仕切っている者から探ろうと考え、來貴はその雰囲気が漂う場所へと行く。
場所は、一階の一番奥だった。そこに、取り仕切っているアルヴァダ兵がいた。上から襲撃して殺し、脳の中の記憶を読み取ることで判明した。しかし、あまり良い情報は無かった。そして、ついでにこの廃工場にある情報を全て記憶してきた。まぁ、あまり良い情報は無かったが。
……そのため、もうこの場所に用は無い。
來貴は"白天黒滅"に魔力を集中させ、刀を横に一閃する。
――瞬間、廃工場が崩れた。壁や天井が崩落し、中にいたアルヴァダ兵やその痕跡が全て潰れる。來貴も巻き込まれたが、一瞬の内にして脱出し、少し離れた場所にあるビルの屋上に立っていた。
かなり大きな音を出したが、周りには知れ渡っていない。――もしくは、軍事機関がこの事実を民衆の記憶から葬り去ったか。どちらにせよ、もうあの場所に生存者はいない。全て、あの瓦礫の下敷きとなった。
來貴は瓦礫となった廃工場を尻目に、來貴はインカムで琴音に連絡を取る。
『あ、來貴君。……終わりましたか?』
「……はい。ですが、特に良い情報はありませんでした」
『……そうですか。では、彼らは下っ端だと言うことですかね。だとすれば、考えられるのは陽動……他の場所にも、アルヴァダ兵が侵入している可能性が高いですね。……わかりました。軍事機関本部に来て下さい』
その言葉を最後に、琴音からの通信は切れた。來貴はインカムから手を離し、空中に跳び上がる。そのままビルとビルを飛び移り、東京へと戻っていく最中――。
「――よう、初めまして……か?」
彼の悪魔が、來貴に接触した。




