85話「結月來貴 ~決意と覚悟~」
とても大事な回です。
家に迎え入れられた後、來貴はお風呂に入らされた。髪がボサボサで、あまり身体を洗っていなかったからだ。蓮也に身体を洗われ、きれいさっぱり汚れを落とした後、食事。それが終わった後、里奈が作った食事を食べさせられる。
……來貴は、久しぶりにまともな食事を食べた。自分で食事を作れるとは言え、それは拙いものだ。それももちろん栄養はしっかりとれるが、如何せん上手ではない。故に、來貴は里奈の作った料理はとても美味しく感じた。
そして食べ終わった後、來貴はその長い髪を切られた。蓮也に散髪の技術は無いが、幼子の髪を切ることぐらいは出来るだろうと思ったのだ。……その結果、少し不格好な髪型になった。だがしかし、來貴はとても美形であるため、似合っていないと言う事はない。
髪を切った後は、髪を再び洗って整える。整えた後は、もう寝る時間。來貴は、凜と琉愛と一緒に寝ることになった。來貴は「一人で寝られる」と抵抗したが、その抵抗も虚しく連れて行かれる。
結果、三人で一緒に寝ることとなった。
――そして、朝。
來貴は朝食を食べさせられた後、蓮也と里奈にある場所へと連れて行かれた。その場所とは、軍事機関の経営する理髪店。その理髪店は、仕事に最適な髪型にする他、一般の店に行きづらい事情などを持った軍人たちのために経営されている。
そこで事情を説明し、來貴が適当に流されていると、髪を黒に染色された。急の出来事に困惑しながらその理由を聞くと、蓮也に「髪の色は同じにした方がいい」と言われたためである。來貴はもう、結月家の一員。黒が抜けた白髪よりも、蓮也たちと同じ黒髪の方がいろいろと都合が良いのだ。
――髪色がしっかり黒となった後、來貴は軍事機関に連れて行かれた。その目的先を聞いて來貴が嫌そうにしていたが、蓮也が「お前に必要な事だ」と言われたため渋々ついていった。
……そうして軍事機関についた後、來貴は蓮也に手を引かれながら中へ入っていった。里奈は、蓮也と來貴の後をついてきている。
数分後、來貴は軍事機関本部の最上階へと来ていた。ある"人物"に、直接その願いを申し出るためだ。最上階に敷いてあるレッドカーペットを歩き、三つある部屋の内左側の部屋の前で止まる。
蓮也は姿勢を整え、三回ノックする。中から「どうぞ」と聞こえたため、中へと入る。……里奈は、外へ待つ。その中で起きる出来事は、蓮也と來貴で乗り越えるものだから。その中で待つは、神藤桂ただ一人。
「お願いです、神藤さん。この子を……來貴の未来を奪わないでください。まだ7歳の子供なんです。それなのに、一生それは酷すぎます。來貴はもう、"小さい化物"ではありません。ただの……7歳の子供です」
――そして蓮也は、來貴に危険は無くなったと言い、來貴が実験台にならないように必死に懇願し、頭を下げた。
「……いいだろう。ただ、その子はお前が育てるのだ」
その願いは通って、來貴は対象から外された。それから來貴は、軍事育成機関で軍人として育てられることになった。その事に蓮也は喜び、最後に「ありがとうございます」と言ってから部屋から出て行った。
――部屋から出て行く間際、ふと後ろを見た來貴は、桂と視線が合った。……桂の表情は、とても柔らかいものだった。
それから、來貴は本当の意味で蓮也の元に預けられた。……そして、來貴にどのような力があるのかを聞いた。返ってきた答えは――。
「……あらゆるものを強化する事が出来る」
――その、能力のチカラ。"それ"はあくまでも、ほんの一部である。
身体能力を測ってみると、普通の7歳児の記録よりも大幅に上回っていた。蓮也は驚いたが、更に驚くこともあった。……軍事機関の運営する小学校に編入する事になったが、そのために里奈が勉強を教えていた。
その結果、ものの数日で二年生までの範囲を網羅した。その、あまりにも大きすぎる才能に、蓮也と里奈はどう育てるかかなり悩んだ。
――そして数ヶ月後、"軍事育成機関小学校"に編入することになった。來貴のクラスは二年一組。そこに一つ、余っている席があったからだ。來貴は美形で、人当たりも比較的良くしたため、編入してもクラスメイトたちにすぐ受け入れられた。
そうして担任の教師に学校の事を教わりながら、学校内を案内された。
……学校生活がしばらく経った頃、学校に侵入者が来た。その侵入者は、一人では無い。明確な意思を持ち、多人数でこの学校へとやってきた。学校側はすぐにそれを察知出来たが、戦える軍人を寄越すのに少し時間が掛かった。
しかし少しはいるため、その者たちが侵入者を抑えた。
――そして、その内の一人が来てしまった。……來貴たちの、いる教室に。そいつの目的は、将来軍人になる卵を潰すことだ。そして、堂々とその目的を言った。当然、教師と生徒は混乱する。
教師の殆どは比較的戦闘経験が少なく、死体を見たこともないような新人だ。この小学校の教師たちは殆どが研究班や医療班に属していて、戦える者は居ないと言ってもいい。
当然、來貴以外の生徒も死体を見たことや戦闘経験も無い。何故なら、小学校で学ぶのは軍のことや魔力や能力のことがほとんどだからである。そのため、小学校には戦闘経験も無いような新人が着きやすい。
そして、その教師と生徒は慌てて逃げ出そうとする。しかし慌てながらも教師が逃げ道を先導し、なるべく侵入者から生徒たちを遠ざける。
――だが、來貴は違った。
隠し持っていた魔力刃を形成する刀を取り出し、能力を発動して一瞬でその侵入者との距離を詰めた。そして、侵入者とすれ違いざまに魔力刃で身体を斬り裂いた。直後、飛び出る血。それは部屋中に飛び散り、死亡した侵入者の近くにいた來貴にも少なからず掛かった。
当然、その場にいた生徒は騒ぎ出した。教師は、生徒たちを隣の部屋へ行くよう指示をした後、來貴の元へと駆けつけた。……そして、來貴に「大丈夫なのか」と聞いた。來貴は「大丈夫です」と言い、刃の血を払った。
――その後、校長と他の教師が来て死体は回収された。同時に來貴以外の全生徒を帰らせた。事情聴取のため、來貴はシャワーを浴びて服を着替えさせてから、その場にいた先生とともに校長室へと連れて行かれた。
高級な椅子に座って机を挟んだ向こうで、來貴は校長にこう聞かれた。
「……何故、あの侵入者を殺した?」
それに対し、來貴はこう言った。
「俺たちを殺そうとしたからです」
――答えを聞き、校長は少し安心した表情をする。……そして、校長はこう言った。
「そうか。なら……いい。二人とも、もう出て行って良いぞ」
そうして、侵入者騒動は無事に終わった。
……しかし、それだけでは終わらなかった。來貴が侵入者を容赦なく殺した事が学校中に広まり、來貴は恐れられた。クラス中の誰もが敵わないと逃げた侵入者の一人に、ただ一人で立ち向かい一瞬の内に殺害した。……そんな來貴を、生徒たちは避けている。恐れている。……ヒソヒソと、後ろ指を指している。
――"バケモノ"。
來貴に付けられた、最高に不愉快なあだ名。家族でも何でも無い他人に言われているとは言え、來貴の心に少なからずダメージはある。それを認知しているからだ。当然それは、同じ小学校にいた凜も知っていた。琉愛も、最近義兄の元気が無い事で、何かあったのかを悟った。だが、どうする事も出来なかった。
ただ、辛かった。來貴以上に、凜が、琉愛が……家族が。義理とは言え、弟が避けられている現状に、何も出来ない自分が。
――教師たちはやめるように言っている。当然だ、自分や生徒たちを守ってくれたのだから。しかし、生徒たちはやめない。バレないように、影でコソコソやっている。
――結月來貴はバケモノ。
――関わったら殺される。
この他様々な言葉が、刃となって來貴を襲った。……クラスの中で來貴は孤立し、物静かで落ち着いている生徒となった。……心の中に、ドス黒い闇を抱えて。
――やがて、來貴は三年生になった。相変わらず、來貴は避けられている。だが、來貴は気にせず学校生活を続けていた。
そして、ある生徒と同じクラスになった。
――紫﨑兇介。兇介は來貴と同じクラスになったと知ると、來貴に話しかけに行った。來貴が一人でいるタイミングを狙って、兇介は話しかける。そうで無ければ、周囲がうるさいからだ。
最初は相手にされなかった兇介だが、だんだんと來貴は口を聞いてくれるようになった。何度も兇介が話しかけてくるため、來貴が興味本位に「何故自分に話しかけるのか」を聞いたのがきっかけだった。
……兇介は、來貴の人殺しのことをなんとも思っていなかった。來貴の事も、バケモノだとか、関わっても殺されるとは思っていない。実際、兇介は殺されていない訳なのだから。そしてその理由は、兇介も人を一度殺しているのと、襲ってきた奴を殺して何が悪いと思っているからだ。至ってシンプルな理由だが、來貴は腑に落ちたと納得した。
それから、來貴はと兇介は仲良くなっていき、六年生になった。その頃には、來貴は自身が避けられている事はもはやどうでも良くなっていた。
――時が経ち、來貴たちは軍事育成機関小学校を卒業した。名残惜しいものは何も無いが、やはり約五年間通っていたこの小学校を卒業して、來貴はしんみりするものを少し感じた。
來貴と兇介は、"軍事育成機関中学校"に入学した。
……そして、そこで最初の試験があった。入学してから一ヶ月後の事である。その内容は知らされていないが、大体どんなものか來貴は予測出来た。
遂に来たる最初の試験。その内容は、人を殺すことだ。しかし、一部の生徒は違う内容だ。その場に回復の魔法を使える軍人を複数人用意し、始める。殺す相手は、死刑囚たちや、敵国の捕虜たち。……そして、他より少しばかり頑丈な教師。
……その者たちに刃や鉛玉をぶち込む事が出来れば、試験は合格。別に死んでいなくてもいい。"それ"が出来ると言う事は、"それ"以上の事も出来ると言う事だからだ。
……この試験は、合格してもしなくてもいい。人は誰でも人を殺せるが、それよりも別の適正を持つ生徒もいる。それに加え、殺しという行為を躊躇ってしまう生徒もいる。
その生徒には殺しをさせず、適正あるものを育てるのだ。
――來貴と兇介は、躊躇無く一撃で殺した。その様子に、他の生徒は若干引いていたが、教師だけは感心したような表情をしていた。試験は、勿論合格だ。來貴はもう何度も殺しをしているため、兇介は一度殺しているため、今更という感じであった。
普段の授業で、來貴と兇介は能力を使わない。兇介は「危険だから」と言う理由で対抗できる生徒以外にはストップされているため仕方ないが、來貴には掛かっていない。……それでも並の生徒には勝ててしまうため、他の生徒は使っていると考えている。だが、兇介には使っていない事がバレていた。
「――來貴。なんで、能力を使わないんだ?」
一回、兇介が"それ"を聞いた。
「――使わないだけだ」
しかし、答えは返ってこない。
やがて月日は流れ、二人は軍事育成機関中学校の生徒の中で一番強くなった。
幾度も、來貴は兇介と一緒に依頼へ行き、こなしてきた。中学校では二人一組で依頼へ行くため、仲が良い二人はよく一緒に依頼へ行っていたのだ。この二人のコンビは、他の生徒から"最凶"とまで言われる程強く、軍事機関の軍人からも一目置かれていた。
――そして、ある依頼が二人の元に舞い込んできた。その依頼は、違法取引現場を二人で抑えることだ。結論から言うと、依頼は無事に終わった。能力者や強き者はいたが、兇介の能力や來貴の身体能力の前には手も足も出なかった。
その後、來貴と兇介が依頼で組む回数は少なくなった。
二人は単体でも強いので、弱い人と一緒に組んで、死亡率を減らして欲しい。……そう言う旨の事を、当時担任だった教師に言われたからだ。二人ともそれを了承し、別の生徒と組むことになった。
「よろしくお願いします、結月君……」
「……よろしく」
來貴は、雨宮柚那という女子生徒と。兇介は、金森紬という女子生徒と組むことになった。だが、柚那と紬はあまり強くない。それ故、來貴が見てないところで殺されそうになっている事が何度かあった。
兇介は危なげなく紬を助けられたが、來貴は能力を使っていない事もあり、危ない場面が何度もあった。……その度、傷を負った。
――來貴は、本来は一刀流。蓮也を通して桂から貰った白天黒滅を、振るっている。しかし、一つの刃じゃ届かない事があると知り、二刀流に変更した。
白天黒滅を奥に仕舞い、守るために魔力刃の刀を二本、そして拳銃を懐に忍ばせた。能力を使わずとも、勝てるように。……それから來貴は特訓を重ね、二刀流と拳銃を使いこなせるようになった。
それから、柚那の危機はあっても柚那に傷が付くことは無くなった。……來貴が、幾度となく助けたから。
――そして、來貴はしばらく柚那と一緒に依頼を続けた。だんだん、柚那は來貴との距離が近くなっていった。敬語も無くなり、呼び方も「結月君」から「來貴」に変わった。……柚那は、來貴が兇介と能力の事について話しているのを見かけてしまった。
……それは、來貴の能力の秘密を知ってしまう事を意味していた。兇介が離れたタイミングで、柚那は來貴に話しかけた。
「あの、來貴……さっきの話、聞いちゃったんだけど……能力、隠してるの? あんなに、すごい力なのに」
「……いたのか、柚那。……だけど、今の問いには答えられない」
柚那は來貴に何故能力を隠しているのかを聞いたが、來貴は答えない。
「……いつか、言ってくれる?」
――來貴は、何も言わなかった。
柚那は、來貴の事が心配になった。柚那は、來貴に惚れているのだ。理由はただ一つ。幾度となく、來貴は柚那を助けていたからである。だからこそ、來貴の事を気に掛ける。自分は無力だが、せめて好きな人の事は助けたい。
――その想いで、柚那は來貴に迫り続けた。そして、來貴はしつこく聞かれたので、渋々答えた。……誰も、いない場所で。
「――"バケモノ"だから」
……と。
その答えを聞いた柚那は、來貴を抱きしめた。……あまりにも、悲痛すぎた回答に。來貴は、突然の事で戸惑っていた。その時に、柚那は來貴にこう言った。
「來貴は……バケモノじゃないよ。何度も、私を助けてくれたでしょ? そんな優しい人が、バケモノなわけないじゃん。……だから、そんなこと言わないで?」
――それから、來貴は柚那に惹かれ始めた。
そうして、時間が経つにつれて二人の仲は深くなった。
周りからも「イチャイチャしている」と言われるほどだ。來貴は、自分の秘密を言っても笑顔で受け止めてくれる柚那の事が、好きになっていた。
來貴は自分の人生で一番と言える程勇気を振り絞り、告白した。
「柚那……俺と、付き合ってくれ」
「はい……お願いします、來貴」
柚那は、その告白を承諾した。
――晴れて、二人は恋人同士になった。二人が付き合っていた事は、來貴の姉の凜と妹の琉愛と、柚那の両親も知っている。來貴が柚那と付き合っていたときは、來貴は自分の秘密を全て柚那にさらけ出していた。そして、柚那も自分の秘密を全てさらけ出している。
……その時の來貴は、人生で一番明るかっただろう。
――付き合って半年経ったとき、來貴は柚那と一緒に依頼へ行った。それは、ある国の人間を殺しに行くというものだ。
その依頼で、柚那は來貴の目の前で殺された。……自分が他の敵に気を取られている間、柚那は取り囲まれて殺されたのだ。……他に依頼に行っている軍人や生徒はいたが、その者たちは他の場所へ行っている。
その場にいたのは、來貴たちだけだった。
來貴は、守れなかったと自分を責めた。そして、柚那を殺された怒りと哀しみで理性を失い、その場にいた敵を全て殺した。一瞬だった。……その後、柚那の姿を見て理性を取り戻し、彼女の元へと駆けつけた。
今からでも助かるかも知れないと、來貴は急いで治療をしようとしたが……もう遅かった。
柚那は――――。
「私は、もうすぐ死ぬ……だけど、來貴。聞いて欲しいことが……あるの。來貴は……誰よりも……優しいから……だから、私が死んでも……恐れないで。決して、みんなは……來貴を、見捨てないから」
――――この言葉を残した。その言葉の真意を、來貴はまだ知らない。知らずにいる。
当時の担任であるスフィド・アロンナイトが必死に來貴の事を慰めていたが、それもあまり効果は無かった。凜からの言葉も、琉愛からの言葉も、兇介からの言葉も、全てが虚無に還ってる。
柚那の死後、來貴は前よりも暗くなり、より貪欲に強さを求めるようになった。交友関係も変わり、前から親しかった人しか関わらなくなった。
その変貌に、ずっと親しかった家族や親友は、心に近づけずにいる。
……そして、今に至る。
――――來貴は、今でも柚那の死を引きずっている。




