84話「神藤一羽 ~生きる意思~」
『……これが、僕の正体だ。……と言っても、わからないか。……じゃあ、言うよ。僕は、万物具現化の眼の残留意思と君の意思によって作られた、もう一つの人格さ。……わかったかい? 神藤一羽君』
その言葉に、俺はドールを睨んだ。
「……その名前で呼ぶな。俺の名前は結月來貴だ」
ドールは、フフッと笑いながら話し出す。
『……さて、過去の話をしようか。……ほら、僕の手を掴んで。……過去の記憶を写すよ。ここでは万物具現化の眼は使えるから、君も手伝って』
――少し癪だが、言われた通りにドールの手を掴む。……そして、ドールがやっている事を補佐する。とは言いつつも、俺は殆ど何もしていない。頭の中に映し出されたものを、見ているだけだ。
そして――――。
『……ほら、始まるよ。目を閉じて。それと、僕の手を離さないでね』
――――俺の過去が、目を閉じた中に映し出される。
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「生まれたわよ、あなた」
「……おお……この子が……」
――結月來貴……いや、神藤一羽は、この瞬間に誕生した。結月來貴の、元々の出生。それは、この神藤家である。神藤桂と血が繋がっていて、正真正銘、神藤桂の息子。……それが、元々の結月來貴。その名は、後に貰った名前である。
そして、一羽が能力を持っていた事はわかっていたが、一羽は能力をまだ使えなかった。0歳の内では、まだ扱えない。内に秘めた魔力量、そして才能は歴代神藤家の中で一番多く、大きい。……世界でも、誰もが羨む程の圧倒的な才能だ。
桂も、一羽の才能を「世界最高の才能」と称している。だからこそ、桂と母は一羽に愛情を込めて育てた。一羽が孤立する事が無いように、才能に溺れることが無いように。それ故、一羽は明るい子に育っていった。
一羽は、0歳からの記憶をはっきり覚えていて、言葉を理解し喋るようになるのも速かった。……喋ったのは、生まれてから数ヶ月経った頃だ。立ち上がるのも速く、生まれて家に戻ってきてからしばらく経った頃の時だった。
三歳の頃には、血の繋がった弟が生まれた。その弟の名前は神藤明人。一羽と、明人。この二人は、比較的仲が良い方の兄弟だった。いつも一緒にいて、遊んでいる。……そんな、兄弟だった。
そして、六歳になってしばらく経った時。
「一羽。……ついてきてくれ。ある場所に行く」
桂についていった先にいたのは、西宮寺家の人間たち。突然、父である神藤桂の命で、一羽は西宮寺家に預けられる事となった。……それは、幼い明人には伝えていない。
そして、その理由は……「―――――」が仕向けたアルヴァダの刺客から、神藤の最高傑作たる一羽を……息子を守るためだ。元々、襲撃が来ることはわかっていた。だから、襲撃が来ないタイミングで抜けようとしたのだが……途中でアルヴァダの刺客が来てしまった。
桂はそのアルヴァダ兵と応戦し、離脱。西宮寺家までの道を西宮寺家当主・西宮寺琴音に任せた。……そして、車で西宮寺家の本家に向かっている途中、再びアルヴァダからの刺客が来る。
琴音は、一羽に護衛を残して離れていった。……だが、その護衛も途中で襲撃してきたアルヴァダの刺客に殺された。
一羽は、父や琴音がどのような仕事をしているか知っている。人を殺しているのも知っている。……だが、目の前で人が死んだのはこれが初めてだ。
アルヴァダ兵に連れて行かれそうになる中――そのショックで能力――『――――――』が覚醒した。
……そして、人生で初めての殺人をした。魔力量も前とは比べものにならないほど増えていた。そして、口調と性格が変わり始めた。
それと同時にだんだんと、心に闇が溜まり始めた。その後は、殺人をしたと言う事実の恐怖で、その場から逃げるように離れた。
桂か琴音を待つという手もあったが、幼い一羽は恐怖に塗りつぶされて思いつかなかった。それから、一羽は何日も食べないで彷徨っていた。……そして、転機が訪れた。來貴は、ある一人のホームレスの男性と出会う。
壁にもたれかかって倒れそうになっていたところで、食べ物を提供してくれたのだ。……そして、幼く何も出来ない一羽にこう言った。
「この世はクソだ。だから、こうやって死にそうな子供が何人も出る。……だが、お前は何か違うようだな。……ならば、どんな手を使ってでも良い。生き残れ。……そうすれば、転機が来る」
一羽は、その言葉を胸に、一つの決意をした。
(どんな手を使ってでも……何をしても、生き残る。そしてまた……あそこに帰るんだ)
かなり遠くまで来てしまっているため、神藤家が何処にあるかはわからない。だから、生き残って情報を集め、その場所に帰る。幼くとも、一羽は頭が良い。
その程度は、考えついたのだ。そして一羽は、まだ小さかった身長を活かし、自らの気配を絶ち、動きも能力で速くして、音を立てないようにし、いろいろな所で盗みをしていた。
六歳でも食べられそうなものを全て盗んでいた。だが、その一つもバレることはなかった。何故かはわからないが、一羽は幸運だと考えて油断しないように続けた。……そうしていくことでしか、生きていくことは出来なかったからである。
そうしてその生活が続いて三ヶ月。吸い込まれるように、その場へと訪れた一羽は、偶然ある物を見つけた。
一見すると、それはただの石ころ。ただ……一羽はただの石ころでは無いと、感覚で、肌で感じていた。
……試しに、一羽はそれに魔力を込めてみた。それで壊れるかどうかを、見てみるのだ。
――やがて魔力を込め続けていると、一羽は自分の身体に何かが入ったような感覚がした。その瞬間、一羽の体――主に心臓に激痛が走った。思わず、一羽は身を疼くませる。その痛みは数分で治まった。しかし、"それ"は五歳の子供には刺激的すぎた。
その痛みの影響で、一羽の髪の色は黒色から白色になった。他に変化は無いが、何か心臓の部分に違和感を感じた。……そして、一羽の頭の中に何かの声が響いた。
『貴様は神の能力を手に入れた。ただ、制約により全ての力は引き出せないがな。貴様が手に入れた神の能力は、万物具現化の眼。見たり聞いたりしたものを具現化・実現化する能力だ。有効に使え』
――その声の主を、今も一羽は知らない。
それから來貴はその能力を使って、神藤家にいたころに見た、魔力で刃を形成する刀を再現した。そして、それを自分の懐に隠した。一応武器は欲しいと思っていたため、手軽に隠せるこれにしたのだ。
万物具現化の眼は能力すらも再現出来るが、一羽は自分以外の者たちの能力を知らない。……そのため、再現は出来なかった。しかし、神藤家に居た頃にある技を見ている。身体が成長しきっていないため使う事は出来なかったが、動きは理解出来た。
――一羽は今まで拠点を作らずに、その日食べる分を盗みながら、各地を転々としていた。これには理由がある。盗みがバレたら、警察の目に付くからだ。頭ではわかっている。もう……バレているかもしれないと言う事も。そして、軍事機関の人間には勝てないと言う事も。
だからこそ、逃げ続けてきた。生きて神藤家に戻ると言う目標を掲げているが、戻れるかどうかはわかっていない。……誰にも見つからない場所を見つけ、そこでひっそりとしているのだ。
しかし、この能力を得て変わった。この能力と自分の能力を使えば、負けることはあまり無いだろう。多対一では、遠距離の攻撃手段が無い一羽が不利だった。この能力で銃をも再現する事が可能になったため、その不利条件を覆せるのだ。
……とは言いつつも、戦う相手は選ぶが。そして一羽は、麻薬の密輸をしていたヤクザの拠点に殴り込みに行き、そこのヤクザを全員殺した。死体は、火炎放射器を再現して全て燃やした。そこのヤクザは、規模が小さかったため、見つかっては居なかった。
一羽は人の注意が逸れている場所に建っている建物を探した結果、この拠点を見つけたのだ。立地もよく、家の中の家具も揃っている。人のことを言えないが、このヤクザたちも悪いことをしているため、殺しても問題は無いと判断したのだ。
そして、そこを拠点にして、盗みをした。追跡をされないように、毎回帰りのルートを変えながら。負けないように、訓練もしながら。
電気と水は通っているため、一羽は一人で生活出来るように家事は一通り出来るようにした。料理、洗濯、掃除。実際にやってみたり、やっているところを見たりすることで、大体は出来るようになっていた。
しかし、他の問題も発生した。
――金である。当然ながら、一羽は無一文。ヤクザの拠点にあった金で生計を立てていたが、そろそろ底を突きそうだ。盗みをしていたが、大きなものは盗めないので、買うしか無かったのだ。身だしなみを整え、見た目を変えて行ったことの無い店で愛想を良くして買ってきたのだ。
しかし、その金も底をつく。そこで一羽は、他のヤクザの組織も潰し、そこにある金を奪った。これで金を得る手段を得た。
その噂を聞いた向こう側の住人からは、"小さい化物"と呼ばれていた。そうして、家出生活も半年が経ったころ、一羽は夜の公園に来ていた。
一羽の容姿は、半年で大分変貌した。まず、髪の毛はボサボサで長く、死んだ目をしている。そして、服は能力再現した新しいものを使っている。体臭は匂わない。ヤクザの拠点に風呂があったので、そこに一日に一回入っている。体臭で、他の人間に見つかる可能性があるからだ。
……その後も一羽は、ヤクザの拠点を使い、生き続けた。そして、何か能力者の家系の情報を手に入れる術はないかと考え始めた。その理由は、単純に神藤家の情報が欲しかったのと、他の能力者の家系はどうなっているのか興味があったからである。
拠点にあったパソコンを使って情報収集をしている途中、一羽の元に殺し屋がに来た。それは軍事機関と関わりは無いが、これ以上その場にいるのは危険だと考えた。殺し屋を返り討ちにし、殺し屋が持っていた武器を少し改良して再現した。
そして、拠点を捨てて別の場所へと行った。とは言いつつも、当てが無いため潰した拠点の一つに移った。
――一羽の存在は、政府にも知れ渡った。幾つもの裏側の世界に手を出していたヤクザを、潰していたのだから。
……しかし、一羽だと言う事がバレることはなかった。見た目も、神藤家にいたころとは別人のようになっている。そして、神藤一羽だとはバレなかった。
そして政府からも、唯来行颯真という刺客が送られ、連れ去られそうになった。一羽は、その刺客の事がわからなかったため、能力を駆使して逃げようとした。
その過程で少なからず傷を付けられた一羽は、能力で傷を癒やし、拠点を放りだして逃げ出した。世界最高の才能を持っていると言えど、一羽はまだ5歳。体格や戦闘経験の差がありすぎる軍事機関の人間には、勝てなかった。
拠点を失った一羽は、またヤクザの拠点を襲撃しそこの拠点を奪った。今回の拠点は、そこそこ裕福な居場所だった。
――そして、一羽は軍事機関の本部に侵入して情報が欲しいと思っていたが、無理だと自己完結した。軍事機関の本部には、颯真のような軍人が多くいる。颯真にすら勝てない一羽が、それ以上の数で来られたら死ぬと考えたのだ。
だから、ひっそりと裏で生き続けた。
――そして、その生活が一年経った。一羽は七歳を迎えた。一羽は変わらず盗みや殺しをして、傲慢に生き続けた。
一羽は、夜の公園で風に当たっていた。こんな生活で、本当に自分は神藤家に戻れるのかと考えていた。……しかし、無理かもしれないと思っている。……それは、今も。
溜息をついていると、一羽はある人出会った。その人とは、結月蓮也。蓮也は一羽の情報を聞いていて、一羽を軍事機関に連れて行こうと思った。……しかし、一羽の姿を見て思わず手が止まった。
今の來貴の姿は……長く白いボサボサの髪を後ろで結んでいて、服は少しすり切れていた。その目は、とても七歳の子供だとは思えない死んだ目をして、寂しそうな目だった。蓮也は、七歳の子供がしていい目をしていないと思った。
体はすごく冷たく、傷跡が所々に残っている。それに加え、七歳で口調が冷たかった。それを見た蓮也は軍事機関に連れて行くことは出来なかった。軍事機関に連れて行った後、一羽を閉じ込めて実験対象にすると言うのが軍事機関がやろうとしていることだ。
だから、蓮也は一羽をそこに連れて行くことが出来なかった。
蓮也は、一羽を家に連れて帰った。当然一羽は抵抗したが、蓮也の方が颯真よりも強い。大人の力には勝てず、されるがままに家に連れ帰られた。
そして、蓮也の実の子の凜と琉愛に、新しい家族だと言い、一羽を迎え入れた。一羽は当然戸惑った。家から出て行こうとしたが、蓮也に妨害され、出るに出られなかった。凜も琉愛も一羽に興味津々で、嫌っている様子は無い。
……数十分間の格闘の末、やがて一羽も諦め、蓮也たちの家に留まることになった。
だが、蓮也は一羽の本当の名前は知らない……というより、本人があの名前はもういいと言ったので、自分達――と言うより凜が「結月來貴」という名前を付けた。來貴は、その名前を持って生きることを決めた。
神藤家にはもう戻れなくなるかもしれないが、また会えると信じて結月家に留まった。
そして、凜、蓮也、琉愛は來貴を受け入れた。
「今日から、お前は俺たちの家族だ」
その日は、11月23日だった。
途中の「――――――」みたいなやつは書き間違いではありません。




