82話「遺された想い」
遅れてすみませんでした。
――焔斗は自分の部屋で、ある手紙を読んでいた。かつて蓮也に言われた、「俺が死んだら仕事場の机の引き出しの中を見てくれ」という言葉に従って。
……そしてその中にあったのは、蓮也の遺書。他にも、里奈、凜、琉愛、來貴のものもあるが、焔斗はそれの中身を見ていない。自分に当てられた遺書のみ見ている。
その内容は――――。
『焔斗へ
これをお前が見ていると言うことは、俺はもう死んでいると言うことだろう。……すまないな、こんな形になってしまって。だから、俺はお前に二つ遺す。一つ目は、俺の机の引き出しの中にある手紙を、里奈たちに渡してくれ。……頼むぞ。それは、俺の遺言が書き記されたものなんだ。二つ目は、お前に。……今まで、よくお前と依頼に行っていた。だが、俺がいなくなったら、お前はまた一人になる……何てことは無い。日軍第零課のヤツらも……そしてお前には、奥さんがいるだろ? それに、俺が言えたことじゃないが、息子を一人にしてどうすんだ。……だから、"後"は任せたぞ。お前は俺より強いからな。
蓮也より』
――――蓮也からの遺言。その内容は、自分に任せるという言葉。それは、日本の事を……いや、未来の事を言っているのだろう。そこに、今ある全てがかかっている。
そして、もう一つある。蓮也の遺族たちの遺書。……その内容は、焔斗には見る資格は無い。当てられた者にのみ、見る資格がある。
だからこそ、焔斗はこの遺書を來貴たちに届ける義務がある。……蓮也の遺志に、答えるために。自分に当たられた遺書を机の引き出しの中に仕舞い、出かける。今の時刻は14時。誰かいなくても、家のポストにでも入れておけば良いだろう。
そう考え、焔斗は車に乗り込む。遺書は纏めて大きな封筒の中に入れ、助手席の上に置く。
――目指すは、蓮也たちの家だ。アクセルを踏み、家の駐車場から出る。そして敷地から出て、道路を走る。信号は守るが、なるべく早く蓮也たちの家へと目指す。
車で走ること数分、家の近くへと着いた。時刻は14時6分。蓮也たちの家の駐車場に駐めず、車を近くのコンビニに駐める。封筒を持って車から降り、歩いて再び家へと向かう。
――そして。
家の前へと着いた。空いている右手で、インターホンを押す。静寂に包まれている住宅地に、インターホンのチャイムが鳴り響く。しばらくして、家の中から「はーい」と言う声が聞こえ、玄関のドアが開いた。
「……白凪君ね。何か用? 長いなら、中で話す?」
出てきたのは、里奈。焔斗は、里奈に渡すのが一番いいと思っていたため、丁度いいと考えた。
「……いや、この場で良い。これを渡しに来ただけだ」
そう言って、焔斗は左手に持っていた封筒を里奈に手渡す。里奈は、左手でその封筒を受け取る。少し大きめなその封筒に、里奈は怪訝な目を向ける。そんな里奈に、焔斗は封筒の中身を言う。
「……中には蓮也の遺書が入っている。……確かに渡したぞ」
焔斗はそう言って、左手をポケットの中に入れる。そして、驚愕している里奈を尻目にその場から去って行った――――。
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――――焔斗が去って行く様子を見届けた里奈は、蓮也の遺書が入っているという封筒に目を移す。玄関のドアを閉め、リビングへと足を運ぶ。ドアを開けて中に入り、ソファに座る。
(この封筒の中に蓮也の遺書が……)
里奈は緊張した面持ちで、その封筒の中身を取り出す。茶色い封筒から出てきたのは、白い封筒4枚。その封筒には、それぞれ「里奈へ」「凜へ」「琉愛へ」「來貴へ」と書かれている。……誰に向けられた遺書か、と言うことだろう。
里奈は、自身に向けられた遺書を手に取り、他の遺書はテーブルの上に置く。
――そして、自身の遺書を読もうとしたところで……。
「お母さん、その手紙何?」
凜が、話しかけて来た。里奈は自分の遺書を膝の上に置き、他の遺書を全て手に取る。……そして、その遺書を凜に見せつけた。
「それって……遺書? まさか……」
「そう。蓮也からのものよ。さっき、白凪君から届いたわ」
そう言いながら、里奈は凜に持っていた遺書を渡す。渡したのは、凜と琉愛と來貴の遺書。里奈は、自身に向けられた遺書を持っている。
凜は、里奈の意図を察した。
「……來くんと琉愛に、届けに行ってくる」
一言そう言って、凜はリビングを後にした。その様子を見届けた後、里奈は膝の上に置いていた遺書を手に取る。白い封筒の中に手を入れ、中身を取り出す。そうして、出てきたのは折りたたまれた白い紙。
空の封筒を机の上に置き、折りたたまれた紙を開く。
その内容は――――。
『里奈へ
これをお前が見ていると言うことは……俺は、もう死んでいると言うことだろう。……悪いな、先に死んじまって。お前たちを……残す形になってしまって。日本最強の軍に所属しているはずなのに、不甲斐ないな。……だから、凜たちを頼む。アイツらは、まだ"大人"にはなっていない。成長の途中なんだ。――これから、日本とアルヴァダ帝国は戦争に入る。……そこが、俺の死に戦になるかもしれない。……だから最期に、一つだけ伝える。
――愛してる、里奈。 蓮也より』
――――蓮也が里奈だけに見せる、少しの弱音。そして、凜たちを任せるという言葉。これからの布石。……そして「愛してる」と言う言葉。不器用な文章だが、確かに、そこには娘たちへの愛情と里奈への想いがあった。
それら全てを汲み取った里奈は、その遺書を強く握りしめる。……そして、目から数粒、涙が零れ落ちた。それは頬を流れ、丁度「愛してる」と言う文字の上に落ちる。
(……いえ、いつまでもこんな調子じゃダメね。蓮也に顔向けできないわ)
里奈は左手で涙を拭い、涙のの零れ落ちた遺書を白い封筒の中に仕舞う。茶色い封筒はゴミ箱の中に捨てる。そして、蓮也の遺書が入った封筒を大切そうに持ち、自分の部屋へ戻っていった。
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來貴と琉愛に蓮也の遺書を渡し終えた凜は、自分の部屋にて自分に当てられた遺書を見ていた。
(これが、お父さんの遺書……)
凜が持っている白い封筒には、「凜へ」と言う文字が書かれている。……しばらく見つめた後、凜は封筒を開いて中身を取り出す。
中に入っていたのは、一つの紙。それは折りたたまれていて、書かれている文字が見えないようになっている。……凜は、両手を使い折りたたまれた紙を開く。
「――!」
その内容は――――。
『凜へ。
これをお前が見ていると言うことは、俺はもう死んでいると言うことだろう。……悪いな、死んじまって。……お前たちを、残してしまって。……だから、來貴たちを見ていてくれ。……母さんの事は、お前が支えるんだぞ。――これから、忙しくなるな。……來貴は、お前たちの中で一番強いが、精神が不安定だ。……琉愛は、周りを見る目があるが、あまり強くない。そして凜。お前は、努力が出来る。天才……とは言えないが、精神は大人だ。……お姉ちゃん、頼むぞ?
蓮也より』
――――凜への、最期の言葉。それは、來貴と琉愛の事や、自分たちの事が書かれてあった。そして最後の、頼むと言う言葉。
だからこそ、凜は蓮也の言葉の真意を汲み取ることが出来た。だからこそ、涙が溢れてきた。
(……お父さん……うん、任せて)
左手で涙を拭い、凜は遺書を再び封筒の中へ仕舞った。その後、少し勉強してから琉愛の部屋へ向かった。
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琉愛は、凜から渡された蓮也の遺書を見ていた。それは里奈や凜のものと同じで、白い封筒に「琉愛へ」と書かれている。
(お父さんの遺書……どんなことが書かれてるんだろ)
封筒を開き、反対にして琉愛は中身を取り出す。机の上に落ちた中身の紙を取り、琉愛はその折りたたまれた紙を開く。
その内容は――――。
『琉愛へ
これをお前が見ていると言うことは、俺はもう死んでいると言うことだろう。……悪いな、死んじまって。……お前たちを、残してしまって。……だから、琉愛。お前は……お前たちはこれからだ。まだまだ若い。俺が死んだことを気にするな……とは言わない。ただ、これから前を向いていけば良いんだ。お前は、周りを見ることが出来る。少し感情的になってしまうことはあるが、それは良い個性だ。……頑張れ、琉愛。これからの成長を、楽しみにしている。
蓮也より』
――――琉愛への、励ましの言葉。……その言葉の真意には、琉愛へのこれからの成長がある。琉愛も、それを察せない程では無い。
(頑張るよ……お父さん)
目から出かけた涙を拭い、琉愛は心の中で決意する。そして、封筒の中にその白い紙を仕舞った。その後、部屋へ来た凜と談笑し、來貴の部屋へ向かった。
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來貴は、凜から渡された蓮也の遺書を見ていた。それは里奈や凜のものと同じで、白い封筒に「來貴へ」と書かれている。
(親父の遺書……これが)
封筒の中から折りたたまれた紙を取り出した來貴は、心の中でそう呟く。そして、その折りたたまれた紙を両手を使って開いた。
來貴が目にした内容は――――。
『來貴へ
これをお前が見ていると言うことは、俺はもう死んでいると言うことだろう。……悪いな、死んじまって。……お前たちを、残す形になってしまって。だが、いつまでも下を向くなよ? 下を向いてちゃ、何も上手くいかない。……それにお前は、まだあの事を乗り越えていない。哀しいのはわかる。……だが、いつまでも逃げるな。お前がそんな状態で死なずにいれられているのは、そのとてつもなく大きな才能を持っているからだ。……だからこそ、來貴。お前は、それを乗り越えなければならない。來貴……お前は、俺たちと血は繋がっていない。……だが、確かにお前は家族だ。お前が隠している事は、少しは知っているんだぞ? ずっと、使っていない武器があるのも知ってる。貯金額も知ってる。……これから、お前がどう言う道を選ぼうが自由だ。だが、決して家族を哀しませるような事をするなよ。
蓮也より』
――――來貴への、試練。それは的を射ているものであり、確かな事実だ。……そして、來貴が蓮也たちと血が繋がっていないという事も、事実だ。
(……俺は、あの事を乗り越えちゃいない。けれど、いつか……いや、必ず乗り越えなければならない。そうだった……いつから、忘れていた? それとも、思い出したくなかっただけ……だろうな)
そして、來貴は父へと向ける最後の言葉を呟く。
「ありがとう……親父。家族だって、言ってくれて」
そう呟いたのと同時に、來貴の目尻から涙が溢れ出る。それは、手に持っていた蓮也の遺書へと落ちていく。数秒間涙は落ち続け、すっかり蓮也の遺書は涙で濡れてしまった。
來貴は目の涙を両手で拭い、蓮也の遺書が破れないように慎重な手つきで封筒の中に戻す。
そしておもむろに立ち上がり、クローゼットの方へと歩く。一息ついた後、來貴はクローゼットを開く。服などがある中、最奥へと手を伸ばす。……届かなかったため、身を乗り出して掴もうとする。
――そして、届いた。クローゼットの奥に、箱の中に入れて隠されてあるもの。……誰も、触れようとしないもの。それを、來貴は箱の中から取り出した。
かつて使っていた、一振りの刀。乱雑に仕舞われたそれは、錆を感じさせない輝きを放っていた。
(……二度と、使う事は無いと思っていた。……だが、凜姉たちを哀しませる事はしたくない。それが死ぬことであるならば、死なないためにこれを使おう)
白天黒滅と銘打たれたそれは、500年前に作られた刀である。……神藤桂が、結月蓮也を通じて渡してきたものである。
桂曰くかなりの名刀だというそれは、ずっと使っていたかのようになるほど來貴の手に馴染む。
そして今一度、來貴はその刀の全貌を見る。
刀身は、約1m程。鞘には、黒と白を基調とした茨のような模様。装飾品などは着いていない。柄は金を基調としている。……そして、かなり丈夫に出来ている。來貴が使っていた銃剣とは比較にならないほど。
――來貴は白天黒滅を抜いた。鞘を地面に置き、壁に当たらないように軽く振る。
(……妙なほど、手に馴染むな。何故なのかは知らないが、今は気にすることじゃない)
白天黒滅を仕舞い、これからどうしようか考える。すると、部屋のドアがノックされた。
「來くん、琉愛と一緒だけど、入って良い?」
凜のその声に、白天黒滅を近くの壁に立て掛けてから「入って良い」と言う。
そして、凜と琉愛は來貴の部屋へと入ってきて……來貴の後ろに、あるものに驚愕しながらも…安堵する。
「それ……使うんだ。もう、大丈夫なんだね?」
「……あぁ。乗り越えた……とは言えないが、少しずつ乗り越えていこうと思う」
凜のその質問に、はっきりと答える。
「……それじゃあ、久しぶりに三人で話そうよ」
「いいね、それ。……三人でなんて、いつぶりかな?」
琉愛のその提案に、來貴の方を見ながら答える凜。……その視線を受け、來貴は目を逸らしてしまう。
――三人はリビングへ行き、数ヶ月ぶりに三姉弟で談笑するのだった。




