幕間「ジェイド・フーバーン ~望みのため~」
今年最後の投稿です。
『……そろそろかい? オリケルス』
ジェイドは、オリケルスに問いかける。それに対し、オリケルスは答える。
「……そう、だな。もうじき、來貴に悪魔と天使の事を教える。……本当に、やるつもりか? 確かに、お前の魔力はもうすぐ尽きるが……儂の魔力はまだ持つ。もう少し後でも良いのではないか?」
何度も、オリケルスはそう言ってきた。それは、ジェイドがその目的を言ったときからだ。……だが、オリケルスは口では止めながらも手伝ってはくれた。
自分が何回も言ったって、ジェイドはその意思を変えないだろうとわかっているだろうから。だからこそ、オリケルスは口では反対しながらも、ジェイドの計画に協力していた。……そしてそれは、ジェイドが仲の良い友であるからと言うことも関係している。
ジェイドとオリケルスは、500年以上の仲だ。途中でジェイドが魂のみになったとは言え、結ばれた絆の強さは変わっていない。オリケルスがジェイドの事を大体わかっているように、ジェイドがオリケルスの事を大体わかっている。
――それら全ての事をひっくるめ、ジェイドはこう答えた。
『……わかっているだろ? 君も。……僕は、止めるつもりはない。それに……』
「わかっている。望み……だろう?」
『ああ……アイツも、お前も大切だ。だからこそ、願いを叶えて死んでほしい』
ジェイドの言葉に、オリケルスは目を閉じる。……そして、自身が持つ願いを再確認した。
(儂は、ドルナイト様に元に戻ってほしい……だが、來貴には強くあってほしい。だからこそ、儂は知識を蓄えさせ地力を高めさせている)
……確認を終えたオリケルスは、目を開けた。目の前に浮かんでいるのは、ジェイドの魂。その魂は銀色を彩っていて、円形を形取っている。……魂の形は原則円形のため、変わるのは色のみだが。
――そしてオリケルスは、準備を始めた。ジェイドも、心の中で目的を確認する。
(……ただ、アイツが健康に生活出来るだけでよかった。だが、僕の手ではそれは叶えられない。それに、僕の私的な目的もある。……平和な、世界。ただ、堕神たちやアルヴァダ帝国はそれを妨げる。……だから、奴等の殲滅を彼に託す。迷惑かもしれないけれど、それくらい背負ってくれないとね)
――もうじき訪れる、自身の本当の最期。最後の最期に、ジェイドは自身の過去を振り返ってみた。
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ジェイド・フーバーン。彼の者は、悪魔として生まれた。フーバーン家は家柄が良く、上位に入る強さを持つ。ジェイド自身も、恵まれた才覚と能力を持っている。そのため、ジェイドは4歳となってから悪魔の戦士となるための訓練を受けさせられた。
幼いジェイドは、何も考えずその訓練を受けていた。それと平行し、悪魔が通う学校にも通い、知識と教養を身につけた。
「見ろ、ジェイド。妹だぞ~」
……そして10歳となった頃、妹が生まれた。だが身体と"魂"が弱く、長い戦闘がと普通の生活があまり出来い。それ故、ベッドの上で生活する事が多かった。
だが、その生活故に本をずっと読んでいたため、身につけている知識は兄であるジェイド以上となった。
――そんな生活が何十年も続き、ジェイドは悪魔の戦士である父と同等の強さとなっていた。それは100歳になった時の頃で、ジェイドが悪魔の戦士たちの集団である悪魔戦士団に入団した頃でもあった。
新人の中で抜きん出た強さを誇っていたジェイドは、瞬く間に昇進した。そして家で昇進祝いをするため帰っている途中、ジェイドは考えていた。
(……アイツも、もう90歳になっている。なんとか……自由に生活できるようには出来ないのか……)
……兄である自分が自由にしていて、妹は不自由な生活を送っている。日常生活は普通に出来ているが、頻繁に体調を崩す。だからこそ、健康な身体での生活をさせてあげたかった。……だが、それは叶わないことである。
――そして昇進祝いが終わり、二日後。ジェイドが戦士団の仕事へ行った帰り、妹が倒れたと言う連絡を受けた。妹は病院へ連れられ、ジェイドは妹の安否を父に聞いた。……妹は能力を使ったから倒れただけで、命は別状にないという。
ジェイドは安堵し、その日は眠りにつき、次の日に妹の元へ行った。妹は元気で、少ししたら退院出来ると言っていた。
……やがて月日は巡り、妹は退院した。その時には家族全員で退院祝いをし、大いに盛り上がった。
――そして、ジェイドは幹部クラスまで昇進し、ある悪魔と知り合う。その悪魔の名は、オリケルス・シュタイフレス。自身より、何十歳も年上の悪魔だ。この二人は年齢の差を超えて仲良くなり、やがて意気投合した。
だが、オリケルスが悪魔戦士団を辞めてから絡みはなかった。しかし、数百年の時を得て二人は再会する。再会した際、二人は積もる話をいろいろしたが、状況が状況のためあまり出来なかった。
……それは、再会のきっかけは良いものではなかったからだ。ジェイドもオリケルスも、堕神したドルナイトを止めるために再会したのだ。今、悪魔戦士団は切羽詰まっている状況だ。
ドルナイト率いる堕神たちの居場所、被害にあったところ、その他もろもろを調べている途中だ。同時に、戦力差や天界の神たちにどうすれば良いかを聞きに行っているため、全員が忙しい。
それはジェイドやオリケルスも例外ではなかったため、各地を巡り中々会えないのだ。……二人とも幹部クラスでもあるため、特に忙しい。
……そして、悪魔と天使たちは結託し、堕神大戦が始まった。ジェイドとオリケルスは、前線で神たちと戦う。だが、かなりの苦戦を強いられた。数では勝っているが、質ではかなり負けているため複数で相手取っても負けることがある。
……それ故、最後の手段を決行した。ジェイドとオリケルスも、主力陣に混じって作戦へと参加した。それまで少し猶予があったため、家族の元へ行きその旨を妹に伝えた。
「……僕は、死を賭した作戦に参加する事になった。……生きて、帰って来れないかも知れない」
――そのとき、泣きそうな顔で「死なないで、兄さん」と言われた。……だから、ジェイドは死なないことを誓った。
――そして、決行の日。ジェイドはオリケルスと他天使と共に、眷属の神を殺していった。能力――地獄門を駆使し、主に援護をしていた。時が経ち、主力の七柱たちがドルナイトたちを封印する合図を出した。
……全ての悪魔や天使たちが集合し、魔力と魂を削って封印を始めた。だが、魔力が足りない。……ジェイドたちは死なないように魂を削り、封印が成功した。
やがて封印が終わったときに、ジェイドは自身の寿命が減っているのを感じた。寿命が減っているのはジェイドだけではなく、ジェイドは寿命がおよそ20年だと悟った。オリケルスは運良く寿命は減っていないため、運が良いなと思っていた。
「僕は死ななかった。……だけど、寿命が減ってしまったよ。封印に魂から魔力を捻りだした結果、残りがおよそ20年ほどになった。……これからも生きられるけど、長くは生きられない。……いずれ、死んでしまうから」
ジェイドは今290歳だ。妹は280歳。……妹が300歳になるとき、ジェイドは死ぬ。瞬時にそれを考えた妹の言動に、兄は目を逸らしてはいけない。
「――嫌だよ、兄さん。……父さんも母さんもいなくなったのに、兄さんまでいなくなっちゃうの……?」
妹にその旨を言った結果、泣きつかれて悲しまれた。ただ、それはわかっている事だった。もう会えなくなると言われ、寂しがっていた。その頃にはもう両親は死去していたため、唯一の肉親である兄しかより所がなかった。……その兄がもうじき死ぬ。
……妹の喪失感は、考えられないことだろう。
約二年間のうのうと生活していると、オリケルスがやってきた。珍しいと思い、家の中に入れて茶を用意した。
……何の用か話を聞いてみると、いつの日か復活するドルナイトたちの対策のため、協力してほしいとの事。
やる事が無かったため、ジェイドは二つ返事で承諾した。それから、ジェイドは若い悪魔や天使たちの指南に回った。修行もしたが、どうせすぐに死ぬためあまりしていなかった。妹の事はかつての上司に任せ、目的のため空いた時間にオリケルスと一緒に魔力をストックした。
自身の目的、オリケルスの目的を叶えるため、奮闘し続けた。妹にも協力してもらい、想定していた量を上回る程集めることが出来た。
――そして、20年。ジェイドは死去した。……だが、自身の魂を能力と魔力で現世に留まらせた。話す事しか出来ないが、妹は少し安堵していた。……ただ、目的を話すと哀しそうにしていたが。
――それから500年、ジェイドはオリケルスと共にいた。オリケルスの能力と自分の魔力を使って留まっているため、物理的に離れられないのだ。日本の隠れ家にオリケルスと共にいると、第一の選定を突破した者が出た。それに加え、居場所は近い。
ジェイドは、その場へと駆けつけ、選定突破者――結月來貴に話しかけた。
そして、次の道を示した。オリケルスといろいろ話し、時期が経ったら來貴に自身の力を与えることにした。……その時期は、悪魔と天使の事を少し知った後。そこから來貴の歩く道に、茨が生える事を考えて。
……そして、時期が来ようとしている。ジェイドは來貴に自分の本名と魂の事を伝えてから、死を迎えようと考えている。
(元気で生きてほしいね。――アイツらには)
少し前、ジェイドが望んだこと。妹の健康な生活、オリケルスの決意、その”望み”を想いながら。
そして……叶うことはないと、知りながら。
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なんともくだらない過去だ……ジェイドはそう考えながら、自身では叶えられない望みを想う。
いずれ、彼は自身の魂を背負う。それはジェイドの能力、記憶、魔力その全てを持つ事を意味する。
ならばきっと、自身の記憶を見るだろう。そうなるとすれば、妹の存在やその上司の事を知るだろう。
『フッ……彼は、何を選択するのかな?』
ジェイドはそう呟きつつ、オリケルスの家の天井をすり抜ける。魂は実体を持っていないため、大体のものはすり抜けることが出来る。ただ、霊体に効力のあるものはすり抜けられない。オリケルスの家の天井に魔力などないので、簡単にすり抜けられる。
――そして、上空から町を見下ろす。この日本の東京のある町。日本には、オリケルスについてきて初めて来た。
初めて来たとき、良い国だ……と、思った。かつていたイギリスで、悪魔たちはそんなに親切では無かった。だが、日本の軍人たちはそんなにドライじゃない。
……仕事方面では話は別だが、少なくとも大切な人と寄り添っているときは、冷たくない。イギリスの悪魔たちは、大切な者と一緒にいることはあまりない。忙しいというのもあるが、ただ一人でいることが多い。
――距離が、違うのだ。……ただ、それはその国や場所や人それぞれであり、ジェイドがとやかく言う資格はない。
……しかし、良いと思ったのだ。日本が。……のどかで、豊かで。……今オリケルスと同居まがいの事をしている家は、元々建ててあったものだ。その家に住んでいた人は既に死んでいたため、そのまま拝借した。
時折改築はしていたが、大元は変えていない。山の上に立地していることもあり、空気が澄んでいる。……ジェイドは、これをとても良いと思っていた。
……だがまぁ、一部戦闘で荒れているが。
『……彼が来たね。そろそろ始まるのかな』
ジェイドが見ている先には、來貴がいる。そろそろ、時が来る。ジェイドは、上空で時を待った。
――ふと、妹の事が浮かんだ。今、その妹はイギリスにいる。……きっと、無事だろう。あの上司は、飄々としているがその実力は確かだ。ジェイドとオリケルスが二人で掛かっても、余裕で勝つような悪魔である。
信頼もしている。……まぁ、尊敬はしていないが。
その事を考えていると、遂にその"時"が来た。帰っている途中の來貴に、話しかける。すると山まで走ったため、追いかける。
数分で止まったため、話を再開する。來貴は口では悪態をついているが、話を真剣に聞いている。魂の事と、表向きの理由を。
――そして、全てを説明し終えた。
(――これで、僕の役目は終わる。後輩の悪魔の指南はした。選定突破者を導いた。……さて、彼は何を選択するのかな?)
――その時が来た。ジェイドは、來貴の黒い魂に向かって飛び込んだ。……そして、自身の意識を消す。魂の中に、意識は一つしか必要無い。……そのため、ジェイドが自ら消えて開示していい記憶と力のみを継承させるのだ。
――やがて、ジェイド・フーバーンは消えた。來貴の糧となり、その生涯を完全に終えたのだ。
彼の"運命"は、ここで幕引きである。
これで運命編は終わりです。次は少し遅れます。




