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真実と想いの業  作者: 神無月凍夜
第四章 運命編
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79話「帰還と報告」

 アルヴァダ帝国へ赴いた軍人たちを乗せた潜水艦は、日本に帰還していた。


 そしてその中には、來貴たちも含まれる。艦内にいた全ての軍人が出るのを確認した後、潜水艦は収納庫へと運ばれた。


 各軍人たちは、全員休暇のため自宅へと帰っていく。……だが、來貴と瞬華は報告のため軍事機関の本部へ留まる。報告役だった刀華と桐生が怪我で動けないため、代役として來貴と瞬華が選ばれたのだ。


 日本へ着く前の夜に、いきなり部屋に来た瞬華からそう告げられたため來貴は寝る間も惜しんで報告書を瞬華と共に作成していた。……その時の來貴の心情は、「もっと速く言ってほしかった」……という。


「行こっか、來貴君」

「……はい」


 瞬華の言葉と共に、來貴は軍事機関本部の最上階へ行く。階段ではなく、エレベーターでだ。軍事機関本部は15階もあるため、最上階へ行くには時間が掛かりすぎる。來貴と瞬華は最上階へ出入りを許されている者の一人ではないが、今回は特例として、刀華が桂にそう言ってある。


 そのため、來貴と瞬華は最上階専用のエレベーターへの出入りを一時的に許可された。


 ――エレベーターで最上階へ向かっている間、瞬華は來貴に話しかけた。


「ごめんね、來貴君。いきなり報告書作りを手伝ってもらって……それに、報告も……」

「……構いませんよ。ただ、もう少し速く言ってほしかったですね……」


 來貴の言葉に、瞬華は目を逸らす。……そして、報告書の入ったファイルを取り出した。その時点で、瞬華が何をしたいか來貴は察する。……話題を変えようというのだ。今の話題だと、瞬華は気まずいからだ。


「報告、大丈夫かな……私、始めてだから不安だな。……あ、來貴君も一緒か。巻き込んじゃって悪いけど、がんばろうね」

「……はい」


 無理矢理話題を変更した瞬華の言葉に、來貴は頷く。……そして、沈黙。もう話題が無いため、話す事など無いのだ。……そのため、この場の雰囲気が少し重くなる。


 それを感じた瞬華は、ある話題を出した。


「……そう言えば、聞きたいことがあったんだ。來貴君って――彼女いるの?」


 いきなり繰り出された瞬華の質問に、來貴は眉をひそめる。……そして数秒間の沈黙の後、こう答えた。


「……いませんよ」


 そう答えた來貴に、瞬華は少し意外そうな顔をする。……その顔の中にある真意がなんなのか、來貴には計りかねた。


「へぇ、意外。來貴君顔はいいから彼女の一人や二人は出来てるかと思ってた」


 瞬華から帰ってきた言葉に、來貴は遠い方を見る。……そして、瞬華は続けざまに來貴に質問をする。


「あと……來貴君って、なんで軍人になろうと思ったの?」


 再び繰り出された質問も、來貴はすぐに答えない。……やがて数秒の沈黙の後、答える。


「――何も出来ないのが、嫌だったから……です」


 そう答えた來貴の目線の先に、瞬華の姿は映っていなかった。……瞬華は「……そっか」と呟き、瞼を閉じる。……そして、自身も軍人になろうと思った理由を語り始めた。


「來貴君だけ話して私が話さないって言うのはフェアじゃないから、私も話すね。……まぁ、聞き流してくれたら良いよ。……私ね、昔は弱かったんだ。この能力も、上手く使いこなせなかったからね……でも、努力を重ねて使いこなせるようになった。……身近の人の、隣に立っていたいから。……ちょと長くなっちゃったけど、これが私が軍人になろうとした理由」


 ――そこから、來貴と瞬華の間に会話は無かった。最上階へと行くまで、來貴と瞬華はずっと何も喋らなかった。


 やがて数分経った頃、エレベーターは最上階へ到着した。エレベーターの扉が開き、來貴と瞬華はエレベーターの外へ出る。そして床に敷かれているレッドカーペットを歩き、三つある部屋の内の左側の部屋の前に立つ。


 瞬華が部屋の扉をノックすると、中から「入れ」という声が聞こえた。


 來貴と瞬華は「失礼します」と言い、中へ入る。來貴が扉を閉めるのを見た直後、最奥に座す者が口を開く。


「……君たちが如月たちの代理で報告に来た者か。私は神藤桂。……早速、聞かせてもらおう」


 約12mの距離で、一方的に聞かされた言葉。その間には、机やら椅子やらが沢山あり、その机の上にパソコンが多々乗っている。


 ……そして、瞬華が報告書の入ったファイルを出し、少しめくった後報告を始める。


「――今回の日帝戦争で、アルヴァダ帝国へ赴いた軍人の中での死者は、約3000名。負傷者は、約7500名。敵勢力は、60万以上もの軍勢を仕向けてきました。そして、その全てを抹殺しました」


 報告を聞きながら、考え込む桂。……瞬華は、報告を少し躊躇った。……そして、瞬華に「続けろ」と促す。桂に促された瞬華は、再び報告書を読み上げる。


「――二日目に、アルヴァダ帝国の軍事施設である『オヴェンズヘブン』を襲撃し、破壊しました。これで、アルヴァダ帝国の港は機能しないでしょう。……そして、アルヴァダ帝国の施設に侵入し、この資料を得られました」


 ……そして、再び報告を聞いた桂は、その内容を吟味する。……数秒ほどで吟味を終えた後、瞬華に「もう無いのか」と聞く。


 もう報告する事は無いため、瞬華は「ありません」と言おうとしたが、それを來貴が遮った。


「――終盤、突如としてアルヴァダ兵が出現。如月刀華と桐生仙千が応戦しましたが、傷一つ付けられず敗北。その後は私が戦いましたが、あまり手応えは無く。途中で、そのアルヴァダ兵は帰りました」


 今まで何の表情の変化も見せなかった桂が、ここで驚いたような表情を見せた。だがそれはすぐに無表情へと戻り、來貴と瞬華に近づく。來貴さえ反応出来ない速度で距離を詰め、話しかける。


「……では、報告書とその資料を渡してもらおう」


 いつの間にか近くに来ていた桂に、來貴と瞬華は絶句する。……特に來貴は、しばらく驚いたままだった。……瞬華が報告書を渡すところを見て、來貴は正常に戻った。


 ――そして、瞬華と共にその部屋を出た。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ――來貴と瞬華が出たのを見計らうように、最上階へ焔斗は着く。來貴と瞬華と入れ違いとなるように、レッドカーペットの上を歩く。三つある部屋の内の左側の部屋の扉をノックし、中から聞こえた声を合図に中へと入る。


「……戻ってきたか、焔斗」


 桂が、先程の雰囲気とは違う雰囲気で発言する。


「ただいま戻りました、神藤さん」

「おう、無事に戻って何よりだ。……で、報告は?」


 世間話を交わす二人。そして、桂の言葉で焔斗は報告書を取り出した。桂は後ろの席に座り、焔斗は部屋の自身の席で報告を始める。


「――今回の日帝戦争、日本の紛争地では約550名の死者が出ました。負傷者は約3200名。民間の被害者は、約120名です。倒壊した建物は約400棟。崩壊した町は、三つです」


 次々に焔斗の口から吐き出された被害報告に、桂は思わず顔を顰める。今回の戦争は、被害が大きい。一番という訳ではないが、それでも大きい方である。


 民間への被害だけでなく、見られているものもある。……それはすぐにトップが記憶を消していて、世の中から抹消されている。……だが、被害者の遺族の記憶を消すのは、少し面倒なのだ。


 記憶を丸々消すと、そこの部分だけ穴が空いたようになる。そのため、記憶の辻褄合わせ――つまり捏造をしなければならないのだ。そのストーリーを考えるのには、結構な手間が掛かる。その担当の者がやっているが、皆創造性に優れている訳ではないため、他の軍人も手伝っているのだ。


 それに、崩壊した建物や地域の修復及び破壊もあるため、迅速にやらねばならぬのだ。


「……思っていたより大きな被害だな。……他にはないのか?」


 桂の言葉に、焔斗は続きを話し出す。


「向こう側の被害は、20万の軍が全滅。その軍に含まれていなかった、指揮を執っていたであろう強きアルヴァダ兵が死亡。――代わりに、蓮也が持って行かれましたが。兵力の差が圧倒的で、地の利と個人個人の能力の差が勝利の要因だと考えられます」


 考察を交えた焔斗の報告に、桂は「ふむ」と呟き、思案をする。数秒の思考の後、焔斗から報告書を押収する。……そして、瞬華から貰った報告書を合わせてパソコンに打ち込み始めた。


 ――それを尻目に、焔斗は蓮也の机から()()()()を取り出す。その様子を見ていた桂は、何を取り出したのかを聞いた。


「……アイツが残したものですよ」

「……そうか」


 ――日軍第零課(にちぐんだいれいか)。焔斗と蓮也、そして桂"たち”が所属している軍である。……正式な名称は、軍事機関戦闘班日軍第零課。


 最強であるが故に、忙しい。焔斗と桂の間に、それ以上の会話は無かった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ――軍事機関専用の病院の中。凜と琉愛と里奈は、その病室の一室を訪れていた。……三人の顔は暗く、纏う雰囲気も重い。


 現在はその病室の前に立っており、三人とも入りかねている。……だが、里奈が病室の扉をノックした。中から、気弱げな声で「どうぞ」という声が聞こえる。……涙を堪えつつ、三人は病室の中へと入った。


 ――病室の中には、中央に一つのベッドが鎮座していた。そしてその周りを囲むように、棚の上に花瓶がいくつか並んでいる。


 ベッドには、蓮也が眠っている。腹部と顔の部分に大きな機械を付けており、それで()()()()をしていた。……だが、心臓の鼓動は段々と遅くなってきている。それは、蓮也に死が迫ってきていることを意味していた。


 ――蓮也はそれを悟っている。声は微かにしか出ない上、手足は動かない。呼吸は、呼吸器が無ければ出来ない。着々と、身体が機能しなくなっている。


「……そんな顔するなよ。死ぬのが嫌になるじゃねぇか」


 その声はか細く、三人は微かに聞こえたのみ。……だが、言っている事ははっきりとわかった。


 父のその言葉を聞いた琉愛は、蓮也の手を握って答える。


「そんな事言わないでよお父さん。……まだ、お父さんと一緒にいたいよ……」


 琉愛が発した言葉は、だんだんと萎んでいく。そして、その瞳には涙が浮かぶ。凜と里奈も、同じくその瞳には涙が浮かんでいる。……微かだが、蓮也の目にもそれは見えていた。身体はあまり動かない。


 重要な臓器や血液の1割が消え去っている上、心臓がほぼ動いていない。そのため、満足に動かないのだ。


 ――蓮也は後数分もしない内に死ぬだろう。だから、その内に伝える。


「……聞いてくれ」


 静かに響いたその言葉に、三人は身を引き締める。


「里奈、凜、琉愛……そう、泣くな。お前たち……家族だろ? ここにはいないが……來貴だって……いる。……だから――――」


 蓮也は、笑顔を見せた。


「――――一緒に生きろ。全員、胸を張れるものがあるじゃないか。……だから、俺は安心できる」


 ……その言葉を最期に、蓮也は目を閉じた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ――時は少し遡る。


 來貴が報告を終えて、家に帰ろうと軍事機関の本部から出たとき。ふと、ポケットの中に入っているスマホを見たときだった。


(凜姉からのメール……30分前は非通知にして一切見ていなかったから、気付かなかったのか)


 何気なしに、來貴はそのメールを見る。そして……硬直した。記載されていた内容が、あまりに衝撃的すぎて。信じたく……なくて。


 その内容は――死に体の蓮也の見舞い。病室は4階、408号室。一階ごとに100室あるため、病院はかなり大きい。


 だが、行かないわけにはいかないため、軍事機関用の病院へと走る。距離は約10km以上離れていたため、來貴は少し急ぐ。


 気配を殺し、屋根の上を行き最短距離で駆ける。


 ――そして数分後、來貴は軍事機関用の病院へ着いた。中へ入り、走って階段を上る。近くにいた看護師から「病院内は走らないで下さい!」……と言われたが、來貴の耳には届いていない。


 必死に走り、ものの数秒で來貴は四階にたどり着いた。……そこからは自分を落ち着かせ、歩いて蓮也たちがいる病室へと向かった。


 ――そして病室の前に立つ。深呼吸をし、扉をノックする。……中から「どうぞ」と言う声が聞こえて、來貴は静かに扉を開け、中に入る。


 蓮也がいる病室の中では、里奈と凜と琉愛がいた。その三人の目は赤くなっていた。頬は濡れていて、何があったのか全てを察してしまった來貴。


 ……そんな來貴に、凜が泣いている事を隠さずに話しかける。


「……あのね、來くん。ぐすっ……信じたく、無いと思うけど――――お父さん、死んじゃった」


 わかっていた結果であった。予測出来ていた結果だった。……だからこそ、何も出来ない自分が嫌に思える。自分の傷は治せても、他人の傷は治せない。


 ()()する事しか出来ない自分では、何も守れないのだろうか。……そして、それ以上に父の死が、恩人の死が哀しかった。

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