78話「いつかの話」
「來貴君――いつ、話してくれるの?」
刀華の質問を聞いた來貴は、顔を伏せた。刀華が言いたい事は、いつ自分の隠している事を話すか……というもので間違いない。
しかし、だからこそ來貴は答えられない。いや……答えたくなかった。その質問の答えには、來貴の過去が関係している。……そして、その過去の全てを知る者は、本人以外には誰もいなかった。
……沈黙の時間が、数十秒続く。そこで、刀華は再び口を開いた。
「……私には、答えられないかな? ……それとも、答えたくないだけ?」
以前來貴を説教したときよりも、優しい口調で刀華は問いかける。……來貴は、顔を上げて刀華の質問に答えた。
「……今は、答えられません。……ですが、いつか答えられる時には、全て話します」
來貴の答えを聞いた刀華は、少し驚きながらも笑顔で答えた。
「その答えで、今は満足です。……教師として、生徒を放っておくわけにはいきませんから」
――そして、來貴は医療室を出て自分の部屋に戻っていった。
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――数分後、來貴は自分の部屋へ戻ってきていた。特にすることは何にも無いが、銃剣が壊れてしまったため代わりの武器をどうするか考える。
拳……という訳にはいかない。いつこう言う依頼が現れるかわからないため、武器無しでは行きたくないのだ。オリケルスの武器は銃剣の改造に使ってしまったため残っていない。
どうしたものか……そう考えながら、椅子に座ったまま目を瞑る。日本に戻ってから考えようと思い、來貴は部屋を出る。
向かう場所は、食堂だ。今の時刻は午前9時であり、起きたばかりで何も食べていないためお腹が空いたのだ。
そうして数分経った後、來貴は食堂へと着いた。この潜水艦の中の食堂では、お腹が空いたときに食事を提供してくれる。……ただ、その時間は午前6時から午後11時までであり、無料ではない。扉を開けて中に入ると……視線が集中した。
――回復が早いからだろう。普通なら、來貴の怪我でも治るのには数日かかる。なのに、一日で完治した。刀華と桐生の怪我は三週間で完治する予定だ。三人の怪我は回復の魔法と治療の技術によって施されたものであるが、回復の魔法も万能ではない。
骨折を完全に治すのには、数週間かかる。無理に治すと、対象者の身体が壊れてしまうためだ。特に背骨等の繊細な部分は、慎重に治療をせねばならない。來貴の怪我は軽いものだが、場所が場所なため数日はかかる見込みなのだ。
……だが、予想に反して一日で終わった。実際は数時間であり、かなり速い。刀華と桐生も目を覚ますことはあるが、起き上がれないのだ。
――人はそれなりにいて、皆朝食を食べている。瞬華たちも、一つの机に集まって朝食を食べている。兇介も……そこに、混じっていた。
來貴は人の視線を気にせず、食堂のカウンターにて注文をする。注文したのは、辛口の鶏肉カレー。後ろに並んでいる人はいなかったため、その場で注文を待つ。
そして数分後、辛口の鶏肉カレーが來貴の元へ届く。來貴はカウンターの個人席に座り、カレーを食べ始める。
ほどよい辛味が口の中に広がり、その味に來貴は舌鼓を打つ。……そんな様子を周囲から見ている軍人たちは、朝からカレーは少し重すぎないかと思っていた。……だが、そんな事を口に出してもしょうが無いので口にはしない。
――そうして十数分が経った頃、來貴はカレーを食べ終わった。その後、ガラスコップに入った緑茶を一気に飲む。食器をカウンターの受付の人に渡した後、瞬華たちが來貴の元へ来た。
そして、幾つかの疑問をぶつける。
「來貴……怪我、もう治ったのか?」
「ああ、治った」
兇介の問いかけに、來貴は答える。治ったというのは事実なので、嘘はついていない。……そして、兇介の後ろからソワソワしている瞬華が來貴にこう問いかけた。
「ねぇ、來貴君……刀華先生たち、起きてた?」
「刀華先生は目を覚ましました。桐生先生はまだ……」
來貴が瞬華にそう答えた後、瞬華は息をつく。……そして、來貴たちに聞こえるように言った。
「……私、刀華先生のところに行ってくる」
瞬華は、食堂を出て医療室へと向かった。……瑠璃も一緒に向かったため、この場にいるのは、來貴、兇介、亜宮だけとなった。
特に話す事はもう無いため、三人は分かれ、それぞれの部屋へと戻っていった。
――そして数分後、來貴は部屋へ戻ってきていた。……しかし、やはりする事が無い。日本に帰還するには、二日かかる。だが、もう一日は経ったため残りは一日。……されど、一日。
……來貴は、暇を持て余している。潜水艦の部屋の中には、テレビなどは無い。電波など届かないため、当たり前だろう。スマホはあるが、使って何をしろというのだ。インターネットは届かないため、ただの物体と化している。
刀華が持っているパソコンは特殊なため日本の電波まで届くのだが、來貴のスマホはただのスマホなので、こんな潜水艦の中では殆ど何も出来ない。
――この場所は水深400m。……だから何だというのだが、それだけだ。來貴は、こんな深くまで潜って何があるんだと思っている。……実際は思惑も何も無く、ただ艦長がそうしているだけなのだが。
暇な來貴は、昼食の時間まで少し身体を動かすことにした。この潜水艦にはトレーニングルームなるものがあるため、そこへ行く。場所は、自室にあった案内図に記載されていた。
……暇を潰す、ついでに身体を動かすという目的のため、來貴は上着を脱ぎ捨て足早にトレーニングルームへ行く。やがて数分経った頃、來貴はトレーニングルームへ着いた。
そこへ繋がる扉を開けると、中から熱気が伝わる。來貴は中に入って扉を閉め、辺りを見渡す。中はとても広く、空いているスペースはかなりある。來貴は、サンドバッグの所へ行く。理由は、一番近かったから。
――サンドバッグの前に立った來貴は、拳を引く。……そして、放つ。來貴とサンドバッグとの距離は約1m、その距離をゼロコンマ一秒と掛からず詰め、ぶつける。
バァンッ!
トレーニングルームに音が鳴り響く。……一瞬だけ、全員の動きが止まった。そして音源を確認した後、またかと呟いてトレーニングに戻った。準備運動がてらに放った一撃は、サンドバッグを破壊してしまっていたのだ。
……だが、これはいつもの事。能力や魔力を持つ軍人たちにとって、ものとは簡単に壊れてしまうのだ。そして、トレーニングルームの係員が來貴の壊したサンドバッグを回収する。
來貴は、次どうするかを考える。サンドバッグは他にもあるが、先程の感じで行くとまた壊しかねない。辺りを見回したところ、丁度いいものがあった。
――ランニングマシーン。ペースを決めてその上を走るため、よっぽどの事が無い限り壊れる心配は無い。空いている所へ行き、適当にペースを設定する。マシンが起動したところで來貴は走る。
來貴はランニングマシーンを始めて使用したが、使用した感じはとてもいい。適度に身体を動かせて、かなり時間を潰せそうだ。
……そして、十数分來貴は走った。
(そろそろ飽きてきたな……ペースは時速12kmに設定しているが、少し速くしてもいいかもしれない)
來貴は汗をかいておらず、息は上がっていない。昼食の時間は特に決まっていないが、12時までは後1時間ほどある。……來貴は走りながらペースを時速20kmに上げ、更に速く走り始めた。
――そして30分ほど走った後、來貴は走るのを止めた。……別のものをやってみようと思ったからだ。今の時点で來貴は少し汗をかいていて、少し息が上がっている。息を整えた後、來貴は一つのものが目に映った。
――懸垂。何台か懸垂用のものがあり、ガチムチマッチョの軍人がそこで懸垂をしている。明らかに來貴よりも体重が重そうだが、懸垂器具は壊れていない。壊れる心配は無いと考えたため、來貴はその場へ行く。
自身の身長である186cmよりも高い230mのものを選び、その前に立つ。二つの柱に、横長の棒。そして、腕を引くと重りが上がるようになっている。体幹と腕の力を同時に鍛えられる。
良い運動になると思い、來貴は軽くジャンプして棒を掴み、両手でしっかり握って懸垂を始める。重りの重さが丁度良く、負荷も適度で來貴は無理なく続けられた。
近くにいたガチムチマッチョの軍人は、來貴のその姿を見て対抗心を燃やす。更に懸垂の速度を速め、その意思を示す。対して來貴は、その事に気付いてはいるが何もしていない。……が、速度を速めるのはいいのかもしれないと思い、少し速く懸垂をする。
すると、ガチムチマッチョの軍人は、驚きもせずただ興味を示した。……そして、そのまま懸垂を続ける。
――やがて十数分続けたところで、ガチムチマッチョの軍人がバテた。懸垂を止め、水分補給をし休憩をとる。ガチムチマッチョの軍人が降りたあと、來貴も懸垂を止めた。汗を手で拭っていると、ガチムチマッチョの軍人が話しかける。
「やるな、君。……だが、次は負けない」
それだけ言うと、再び懸垂を始めた。……來貴は、そろそろ止めようと思っていたところだったため、トレーニングルームを出た。
――すると、見知った人影が現れた。
「來貴、ここにいたのか。……その様子を見る限り、身体を動かした後みたいだな。俺も身体動かすから、またな」
そう言って、兇介はトレーニングルームへ入っていった。……その様子を尻目に、來貴は自分の部屋へと戻っていく。
――数分経った後部屋につき、中に入る。扉を閉め、万物具現化の眼を使いタオルを数枚再現する。……そして、汗を拭く。洗濯機も再現し、その中に今着ていた服を全て入れる。
洗剤を適量入れ、能力で電気を入れ起動させる。その後、全身をくまなくタオルで拭き、タオルを消す。……さすがに全裸のままではマズいので、適当に服を再現して着る。
そして、ベッドへ倒れ込んだ。
(……凜姉たちは今頃何してるんだろうな)
――そんな事を、考えつつ。
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――日本にて。
軍事機関に所属する軍人専用の、大きな病院の中で。結月蓮也は、治療を受けていた。治療が始まり5時間以上が経過したが、未だ終わらない。
……医療班が総力を以て治療しているが、出血が多すぎるのと背骨の一部が丸々無くなっている。それに加え、複数の臓器が消し飛んでいる。そのため、治療が終わった後に生きているかどうかの確率は低い。
――そうして治療が終わったのは、約10時間後だった。
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――凜と琉愛は、來貴たちの帰りを待っていた。明日は土曜日であり、その日に來貴は帰ってくる。……そして、蓮也と里奈は休暇である。
現在の時刻は18時で、凜と琉愛は協力して夕飯を作っていた。蓮也と里奈は夕飯の時間には帰ることが出来ると連絡を貰っているため、二人は張り切って料理をしている。
凜と琉愛は雑談をしながら、二人の帰りを待つ。
――そして数分後、家の扉が開く。その音が聞こえた凜と琉愛は、蓮也と里奈が帰ってきたのだと悟った。……やがてリビングの扉が開くと、暗い雰囲気を纏った里奈が入ってきた。
「……凜、琉愛……ただいま。……悪いんだけど、少し来てくれる?」
里奈はリビングへ入ると、暗い声で凜と琉愛を呼ぶ。凜と琉愛は、何かあったのかと思い、里奈の事を心配する。……そして、凜は蓮也が帰ってこない事を不思議に思う。
「二人とも、よく聞いて」
その醸し出される雰囲気に、凜と琉愛は息を呑む。
「――――蓮也が……あの戦争で致命傷を負ったの。治療もしたけど、もう……」
里奈から発せられた凶報に、凜と琉愛は思わず口を手で押さえた。……そして、凜は里奈に蓮也は大丈夫なのかを聞く。
その質問に対し、里奈はこう答える。
「……そう、思いたかったわ」
――里奈のその一言で、全てを察した凜と琉愛。
……重い雰囲気のまま、二人は料理を再開する。里奈は、食器出しを手伝う。三人の頬には、涙の痕があった。
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――桂は、戦争の事後処理をしていた。
死人、一般人も含め約5000人。負傷者、30000人以上。崩壊した建物、3000棟。……被害数は多く、一般人に見られた戦闘も多々ある。
そして、何より――――。
(蓮也のヤツ……)
――――この戦争が残した傷痕は、決して浅くない。戦争が生み出すものは、悲しみと憎しみ、そして罪科のみ。……日本とアルヴァダ帝国の戦争・"日帝戦争"は、500年前から何度も行われてきた。
幾度と繰り返される悲しみと憎しみの罪科の中で、軍人たちは何を思うか……。




