77話「死へのカウントダウン」
「オレの名前はジーレスト・オヴェイロン。……精々、楽しませてくれよ?」
突如現れたアルヴァダ兵は、他のアルヴァダ兵とは別格だった。それを感じ取った來貴は、警戒度を一気に上げた。
紅色の長い髪に、青色の瞳。そして、黒色の軍服を着ている男。……來貴は、グリップの部分しか残っていない銃剣を投げ捨て、両手を黒銀の魔力で覆う。……そんな來貴を見て、ジーレストは口角を上げる。
(今まで見てきた相手とは、格が違う……しかも、銃剣を壊された。他の目があるから悪魔の力は使えない……勝てるかどうか……いや、勝つんだ)
來貴が今まで戦った中で一番強いと思ったのは、オリケルスだ。……だが、目の前にいるアルヴァダ兵は、オリケルスとは比較にならぬ程の威圧を放っている。
……それでも、來貴は怯まない。
――そしていざ、戦いが始まろうとしていたその時だった。
「來貴君は下がって!」
「ここは私たちが相手をします!」
刀華と桐生がジーレストを攻撃し、離れた場所へと吹っ飛ばした。それを認識した來貴は、戦闘態勢を止めたがいつでも戦闘出来るように身構える。……そして、刀華と桐生とジーレストの戦いを見見守る。
――刀華と桐生が同時に戦っても、來貴には勝てない。……だが、その事実を二人は知らない。自身が悪魔になった事、他に沢山の能力を得た、持っている事を知らない。……故に、來貴は任せた。
だが、來貴は危惧している。ジーレストの強さはかなりのものであり、本気にならねば勝てない程であり、それでも勝てる保証は無い。來貴は内心で危機感を感じつつも、心の中で抑えた。
――刀華は、剣を生成しジーレストの周りに操作する。……そして、桐生と協力して逃げ場を無くし、串刺しにしようとする。……だが、ジーレストは焦りの一つ見せなかった。その顔を見た桐生は、策が無いのかと思いつつも警戒は緩めない。
そして、剣が刺さろうとした瞬間、突風が吹き荒れる。ジーレストに迫っていた全ての剣は、刀華と桐生と共に吹き飛ばされた。刀華たちは吹き飛ばされながらも、飛んでいた剣を全て消す。その後受け身を取り、地面に着地した後すぐに立ち上がる。
……その時、刀華と桐生は土で汚れていた。
二人は先程の突風をジーレストの能力だろうと予測し、それを警戒しつつ攻撃を仕掛ける。桐生が能力を使用し、誘導したところに剣を突き刺す。即興で立てられた作戦により、ジーレストは追い詰められていく。
――桐生の能力は『空間操作/空間を操る能力』。その本質は『境界』で、一つ一つの空間を区別する事を得意とする。……この能力でジーレストが移動できる空間を区別し、剣の道筋へと誘導するのだ。
桐生は能力を使い、ジーレストの移動先を誘導し、刀華の剣の射程内に入れる。……その瞬間、上の辺りに常駐していた剣がジーレストを襲う。ジーレストが突風を出さないように周りの空間に境界を敷いている。
……ジーレストは風を出せないと判断すると、腕で顔を覆う。全身から深紅の魔力が溢れ、剣が弾かれた。だが、刀華も剣に藍色の魔力を纏わせ、ジーレストの防御を破ろうとする。……その傍ら、近くに剣を潜ませ疲労したところを撃つように企てる。
――だが、数分経ってもジーレストの防御が破れることはなかった。……その事を実感した刀華の手が、一瞬だけ止まる。しかし、止めてはいけなかった。ジーレストの身体から深紅の風が吹き荒れ、桐生が創った境界ごと周りを削る。
「きゃっ!?」
「なにっ!?」
刀華と桐生は上方へ吹き飛ばされ、姿勢を崩しジーレストの位置を見失う。……下を見たときには、ジーレストの姿は無かった。危機感を感じ上を見てみると――ジーレストが、両手を掲げ何かをしようとしていた。
……ジーレストは、両手から深紅の風を出し、風圧で刀華と桐生を地面に叩きつける。その衝撃で砂埃が巻き起こり、地面にクレーターが出来る。そして、地面に倒れ伏せた二人の姿が隠れた。同時にジーレストも着地し、砂埃が晴れるのを待つ。
――砂埃が晴れた先に待っていた光景は、倒れて動けない刀華と桐生、そして悠然と佇んでいるジーレストの姿だった。
「……この程度でもう動けねぇのか……つまらねぇな。もっとタフなヤツはいねぇのか?」
そう吐き捨て、ゆっくりと歩を進める。そして、いつの間にか持っていた槍を地面に突き刺す。地面から淡く光る紅が溢れ出て、やがてそれは電流へと形を変える。
――電流は地面を抉り、刀華と桐生の元へ迫っていく。
刀華と桐生は、風は能力の一部だった事がわかった。……だが、それがわかったところで二人は動けない。
迫ってくる死を、二人は実感した――――。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
――――來貴は、迷っていた。少し遠くの場所では、刀華と桐生がジーレストと名乗ったアルヴァダ兵に痛めつけられている。
今こうしている間にも、先程放たれた電流が二人に当たった。死んではいないようだが、もう動けない。
助けたい思いと、力を見せたくない気持ち。その二つの狭間で、來貴は動けないでいた。
「……來貴、行かなくていいのか?」
潜水艦の外にいるのは、來貴と今出てきた兇介しかいない。他の軍人たちは、潜水艦の中から見ているだけだった。
(……力が使えないという理由だけで、勝てない可能性がある相手から逃げ出すのか。……それは、理由にすらならないだろう。ならば……俺がすべきことは一つ、だな)
來貴は決意した。この世界では、いくら願ったって神も仏も助けてくれない。残酷で理不尽なこの世界だからこそ、いきなり担任が死んだら、文奈たちは哀しむだろう。
――だから、動く。力が使えないなど、理由にすらならない。勝てない可能性があるなんてものは、考えている暇は無い。
……今も、ジーレストはその槍を振り下ろそうとしている。
「……兇介、刀華先生と桐生先生を頼む」
「わかったぜ。行ってこいよ」
その瞬間、來貴の姿は消えた――――。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
――――刀華は、今度こそ死を覚悟した。身体は動かなくて、誰も助けに来ない。そして目の前では、自身よりも圧倒的に強者である男が槍で頭を刺そうとしている。
「……誰も助けに来ないなんて、薄情だな」
ジーレストはそう言い、槍で頭を刺そうとした。だが……薄れゆく意識で、微かに感じた気配。それを認識した時、刀華は安心して意識を落とした。……近くに倒れていた桐生も、近くの気配を感じ取って意識を落とした。
ドゴォンッ!!
轟音が鳴り、ジーレストは後方に大きく吹っ跳ぶ。……木々をなぎ倒し、数十本目でようやく止まった。自身の胸にあるアザと、腕に出来た掠り傷を見てジーレストはニヤリと笑った。
「ようやく来たか……結月來貴!!」
銀灰色の髪色で金と紫のオッドアイを持つ、天性の才能を持つ少年にジーレストは叫んだ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
――來貴は、頭を冷やす。自身の事は視界に入っていないようだったため、胸部を蹴り後方に大きく吹っ飛ばした。刀華と桐生から距離を取らせるためだ。後ろでは、兇介が他の軍人と協力して刀華と桐生を運んでいて、この戦いの様子を見守っている。
もし來貴がピンチになった時、助けに行くためだろう。丁度潜水艦の中に入ったとき、兇介が來貴の方を見ている。そちらは完全に任せ、來貴は意識を目の前の男に集中する。
両手に魔力の剣を出現させ、來貴はジーレストへ斬りかかる。ジーレストも、持っている槍を自由自在に振り回し、來貴の斬撃に対抗する。
――やがてそれは、來貴の負けに終わった。魔力の剣は両方とも破壊され、來貴に槍が届こうとしている。だが、來貴はそれを後方に跳ぶことで難なく躱す。それと同時に覇壊の轟きを発動し、身体能力を上げる。
現状使える能力は本来の能力である覇壊の轟き以外に無いため、この能力に今ある魔力を込める。
両手に黒銀色の魔力の剣を生成し、先程とは比べ物にならない程の速度と力で斬りかかる。ジーレストは、槍を掲げ來貴の剣と打ち合う。
打ち合うごとに火花が散り、金属音が鳴り響き、速度を増していく。……そして、來貴は一瞬だけ減速する。生じたその隙に、ジーレストは反応した。一直線に槍を突き出し、來貴を殺そうとする。
――が、それは來貴の仕掛けた罠だった。來貴はゼロのスピードから音速の速度まで加速し、ジーレストの背後に回り斬撃を浴びせる。
が――――。
「この程度……ね。本気は出していないか」
――――瞬時に後ろを向き、斬撃を槍で防ぐ。……その状態のまま、ジーレストはペラペラと喋り出す。
「その力、解放しないのか? そうすれば……本気のオレにも勝てるかもしれないぜ?」
ジーレストのその言葉は、暗に自分が本気を出していない事を示唆している。……そして、自身が他に力を隠している事も見抜かれていた。來貴はその事実に動揺もせず、剣に力を入れ続ける。
「……ま、自分を飼いならせていないお前じゃ無理か」
「……何?」
飛んで来たのは、予想外の言葉。それを聞いた來貴は、思わず反応をしてしまった。その反応にジーレストはニヤリと笑いつつ、続けて言葉を吐く。
「少し、自分と向き合ってみろよ。……オレが言えることじゃねぇけど」
ジーレストは一瞬目を逸らした後、槍に力を込め來貴を吹き飛ばす。森の木々をなぎ倒し、数十本目で來貴の身体は止まった。……その時には、來貴の身体は傷ついていた。とは言うものの、大きな怪我はしていない。
背骨に少しヒビが入ったのと、頬と脚に傷がついたのみだ。來貴は瞬時に立ち上がり、雷を纏った槍を躱す。ジーレストの追撃は外れたが、しっかりと反応をし外れたと認識した瞬間後ろを振り向く。そして、地面に槍を突き刺し電流で來貴を攻撃する。
來貴は空中へ跳び上がり、魔力を利用して攻撃を躱す。同時に、凝縮した黒銀の魔力の弾丸をジーレストへ放つ。放たれた魔力の弾丸を買わすため、ジーレストも空中に跳び上がる。來貴も、地上へ落ちないように魔力の床を創り更に跳び上がる。
約50mの空中で対峙する二人は、互いに持つ武器を振りかざした。……ただ、そのままやっても届かないため、來貴は魔力を、ジーレストは雷を使い射程を補う。
黒銀の一閃と紅の雷鳴が空を舞い、空気が振動する。そして段々と二人は重力に従い落ちていく。地上との距離が約10mになった時、ジーレストは瞬時に來貴に接近する。
――そして、思いっ切り蹴りつけた。
來貴は反応出来ず、潜水艦付近に吹っ飛ばされた。來貴が地面に激突した衝撃で、地面は割れ海に波が出来た。ジーレストも來貴についていき、潜水艦付近へと着地する。
「……"機は熟していなかった"。……じゃあな。また会った時は、成長していることを祈るよ」
――ジーレストは、そう言い残して空の向こうへと消えた。……その様子を、來貴は見続ける。やがて見えなくなった後、來貴の元に兇介が来た。
「大丈夫か、來貴!」
後ろから来た兇介に、來貴はこう答える。
「……ああ、大丈夫だ」
「背中、怪我してるだろ。手、貸すぞ」
「……助かる」
來貴は兇介の手を借り、潜水艦の中へ戻っていった――――。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
――――そして、來貴は刀華と桐生と共に潜水艦の中の医療室へ入れられた。
來貴は刀華と桐生に比べ傷が浅いので、刀華と桐生――特に刀華を優先して治療した。もうアルヴァダ帝国から引き下がる予定だったため、日本へと帰りながら。
刀華と桐生の治療が終わった後、來貴の治療を始めた。
來貴の怪我は、背骨のヒビと頬と脚の傷。刀華と桐生の全身骨折・多量の出血・感電に比べれば、軽い方である。
――そして一日後、三人の治療が終わった。内訳は、刀華と桐生が10時間、來貴が30分。來貴は治療をするときは少し治っていたため、治すのは楽だったそう。
医療室のベッドで目を覚ました來貴は、周りの光景を見る。
壁一面は白で、自分が眠るベッドは部屋の左端。五つあるベッドの中で、一番ドアから遠い場所だ。そして、その右隣に桐生、刀華の順にベッドにいる。ちなみに、起きているのは來貴のみ。
「……自分と向き合う……ね」
あの時ジーレストに言われた言葉を、來貴は復唱する。そして、自身の手を見つめる。傷だらけだ。体内にある魔力。……ほぼ全て回復している。……それを確認したところで、ガサゴソと音がした。
音がした方を見てみると、刀華が起きていた。刀華はベッドから身体を起こし、自分の身体を確認する。……異常は無かった。そして、周りを見る。起きた來貴と目が合った。
來貴と目が合った刀華は、すぐに目を逸らす……が、意を決し、來貴の元へ行こうとする。……だが、立ち上がれなかった。治療したとは言え、骨と骨は繋がっていない。全身を骨折している刀華は、立ち上がれないのだ。
それを察した來貴は、ベッドから出て刀華の方に向かった。
「……気遣いありがとう、來貴君。……それで、聞きたいことがあるの」
次に放たれる言葉を、來貴は慎重に待つ。
「來貴君――いつ、話してくれるの?」
刀華の質問を聞いた來貴は、顔を伏せた。




