75話「日帝戦争」
――焔斗は、蓮也と共に作戦会議を始める。他にも強い軍人が何人かいるが、一番強いのは焔斗と蓮也だった。
近くの誰もいないビルの屋上で、立ったまま会議をする。蓮也と焔斗はズボンのポケットに手を入れたまま、他の軍人10名はピンと立ったまま会議に参加している。
「……海沿いのあの場所には、アルヴァダ兵が1000人ほどに分かれて隠れているようです。アルヴァダ兵はおよそ20000人ほどいるため、20組あるでしょう。……どうしますか?」
ピンと立ったままでいる軍人の一人が、焔斗と蓮也に淡々と報告する。その報告を聞いた焔斗と蓮也は、対策を考える。アルヴァダ兵の人数配分は、的確だ。蓮也も焔斗も、半分以上が雑兵だろうと考えている。
その雑兵の中に、精鋭が混じっていて、一番強い者が現場で指揮を執っていると推測している。……だが、本当の黒幕はアルヴァダ帝国の本土にいるだろう。……そう、蓮也と焔斗は予測していた。
「1000人1組に分かれたアルヴァダ兵はどう言う位置取りだ?」
先程報告をした軍人に、焔斗は聞く。焔斗の発言を聞いた蓮也も、その軍人の方を見て注目する。
「各方面に散らばっています。森の中や、誰もいない街。そして、過疎化している田舎町を襲撃してそこを拠点としているようです」
その報告の内容に、焔斗と蓮也は思わず顔を顰める。想像以上に厄介だった事もあるが、何よりも非人道的なのだ。
人のことを言えないが、自身が守る国で好き勝手されるのは面白くない。そして……好き勝手された結果、大切な人が死ぬのは笑えない。
「こちらの戦力は12000人ほどだ。場所がわかっているならば、10組に分かれて潜んでいる場所を1組2つ襲撃させる。各組にお前たちは一人ずつつけ。……すぐにさせろ」
「了解!!」
焔斗以外の軍人が、その場から消える。潜んでいた軍人たちを収集し、1組1200人に分けさせた。その様子を横目に、焔斗は蓮也に話しかける。
「……いいい判断だと私は思う。だが……何故私を残した? あの瞬間、お前は私の方を見なかった」
焔斗の質問を聞いた蓮也は、ビルの屋上から集まっている軍人たちを見下ろす。釣られるように、焔斗もそうする。蓮也の見る先には、白凪鉤人が映っていた。銘仙雫、明城楓、百々海水月に目を移す。……焔斗も、蓮也の視線の先を辿る。
蓮也が見たあの四人は、次世代の軍人たちの筆頭になると考えている。……そして、その次世代の軍人たちを育てなければならないとも考えている。故に、不安要素は自分たちで摘む。海の方に、不可解な魔力反応があった。
「……お前には、協力してもらう。詳細は向かいながら説明する」
「……了解だ」
焔斗と共に、蓮也は海の方へ向かう――――。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
――――数分後、12000人ほどいた軍人たちは、1200人1組に分けられた。白凪、雫、明城、百々海は、全員別の組に分けられている。
……そして、一人の軍人の掛け声と共に、各組は散開。会議にいた軍人の先導で、アルヴァダ兵が潜んでいるところへ向かう。別の所に行って他の町を襲う可能性があるので、全員魔力を纏って身体能力を上げていた。
数分走った後、全ての組がアルヴァダ兵が潜んでいる場所――廃れた町へ着いた。場所は既に先遣隊が特定していたため、最短ルートで来ることが出来た。
『インサイト・モノクル』を使い、魔力の強弱で細かい位置を判断する。おおよその位置が予測出来たところで、インカムを通してゴーサインを出す。
――そして、一気に町の中へ侵入する。……蹂躙の始まりだ。アルヴァダ兵が潜んでいる建物へ各個分かれて入り、中にいるアルヴァダ兵を不意打ちで蹂躙する。中の兵は雑兵ばかりだったため、苦戦すること無く殺し終える事が出来た。
町にいるアルヴァダ兵を蹂躙し終えた後、各組は他のアルヴァダ兵が潜んでいる場所へ向かう。
大概の場所は、殆ど雑兵であったためにすぐに蹂躙が可能だった。だが、たまに強き者が混じっている場所もあるので、そこは一筋縄ではいかなかった。
……残ったアルヴァダ兵が、最後の一組になった時。会議にいた軍人の一人が思案する。
(……あまりに上手く行きすぎている。……何か、裏があるのか……それとも、単に上手くいっているだけなのか……どちらにせよ、警戒を緩めてはいけませんね)
――そして、残りのアルヴァダ兵が潜んでいる場所――襲撃された田舎町へと着いた。その田舎町へ来たのは、白凪がいる1組。白凪は、田舎町の惨状に思わず顔を顰めていた。
(……惨いな……殺された人が外に放り出されている……それだけじゃない。放り出されているのは殆ど男性だ……これは)
そこまで考え、白凪は考えるのを止めた。これ以上考えてはならないと感じたからだ。
『……侵入します』
この組を率いている軍人のインカム越しの掛け声と共に、全ての軍人が気配を殺して侵入する。手当たり次第家の中に入り、中にいるアルヴァダ兵を蹂躙していく。
白凪も、近くの家に入って中にいるアルヴァダ兵を斬殺する。……それと同時に、爆発音が響いた。
家の壁を蹴り、そこから外へ出て様子を見る白凪。そして、見たのは――――。
(クソッ、殺られた……中に強いアルヴァダ兵が混じっているな。……殺らねぇと)
――――家とその中に侵入していた軍人が、爆ぜていた光景だった。白凪は気を引き締め、その光景を生み出したアルヴァダ兵に肉薄する。そのアルヴァダ兵――テミオは、白凪の方に向く。そして、舐め回すような目で白凪を見る。
その眼差しに、思わず白凪は顔を顰める。そして、物質支配を発動して崩れた家と地面でテミオを閉込めた。白凪は油断せず、その後閉込めた壁の中に百以上の槍を出す。
……その、数秒後だった。
白凪は、危機を感じ大きく後ろに下がった。同時に、テミオが閉込められていた壁が爆散する。それは同時に、テミオが死んでいないことを意味していた。白凪は鞘から剣を抜き、テミオの方に剣先を向ける。
これから始まる戦いは、白凪とテミオ以外に余所者はいない。余所者が入る隙など、既に無かったからだ。
――テミオが瞬時に両手を白凪に向けて、能力を発動する。掌から爆発音が鳴り響き、白凪に向けて爆発が放たれる。白凪は能力を使い、地面を隆起させ爆発を回避。爆発音が鳴り止んだところで空中に飛び上がり、モノクルでテミオの位置を視認して魔力の斬撃を放つ。その数は、百以上。
放たれた斬撃はテミオを正確に捉え、テミオを殺さんと空を翔る。……だが。
「……他愛も無い」
腰に差していた二つの大型のナイフを抜き、繰り出された斬撃により全て防がれた。その後、テミオはナイフに橙色の魔力を纏わせる。ただならぬ空気を感じ、白凪も剣に白の魔力を纏わせる。
――そして、動き出す。
テミオは能力――『爆破操作/爆破を操る能力』を発動し、白凪の周囲を爆破させる。跳び上がることで爆破を回避した白凪は、全力で剣を振り抜く。それにより生み出された真空の刃は、テミオへと迫っていく。
テミオはその場から飛び退き、家の壁を利用して白凪より上の高さへと跳ぶ。対して白凪は段々と落ちていき、やがて地上へ着地した。白凪の上を取ったテミオは、白凪の地面を爆破する。……ただ、前と同じでは無い。爆破させるのは、白凪の地面とその上空の空気。
白凪は地面の爆破は躱せたが、空気の爆破は躱せなかった。後方に大きく吹き飛ばされ、奥にあった家屋にぶつかる。大きく壁は崩壊し、家は崩れてしまった。白凪は手から離れた剣を持って立ち上がり、テミオを牽制しつつ今までの戦況を分析する。
(……能力は爆発とみて間違いないだろう。……その爆発の対象となるのは、地面と空気……? いや、掌からも出していた)
――そこで一旦分析を止め、左に大きく跳ぶ。自身の足下が爆破したからだ。左に跳んだことで方向転換が出来なくなった白凪に、テミオは爆破の勢いを利用して接近する。そして、両手に持っているナイフを振るう。
振るわれたナイフを剣で捌き、自身も能力を使用して地面から柱を出す。柱の先は鋭利な形状になっており、刺されば身体が下から真っ二つになるだろう。それを察知したテミオはそこで一旦退き、刺さりそうになった柱を斬り裂きながら、屋根の上に立つ。
白凪も、テミオが乗っている家の屋根と少し離れた家の屋根の上に乗る。
――そして、睨み合う。白凪は、テミオの行動に注意しながら分析を再開する。
(……次は、どうやって爆破させているかだな。……モノクルを付けて、能力を使わせてみるか。それでわかるかもしれない)
そうと決まったら、白凪は早速行動する。テミオの家を崩し、再び地面から柱を出す。テミオがいた家は完全に壊れてしまったが、必要な犠牲と割り切る。そして、テミオが能力を使うのを待つ。テミオは柱を横っ飛びで躱したが、その躱した先に白凪は柱を出す。
テミオは足の裏を爆破させ、斜めの方向へ飛ぶ。それと同時に、白凪は左眼を閉じて右眼に意識を集中する。
――見えた。
先程、テミオの足の裏に魔力が集中していた。もう一度能力を使わせることが出来れば、原理を特定できる。そうすれば、有利に戦いを進めることが出来る。
白凪は左眼を開け右眼を閉じる。そして、左手を翳す。
……辺り地面が隆起し、棘の山がテミオを襲う。幾千もの岩石の刃が舞い、たまらずテミオは周囲を爆破させた。その瞬間を、白凪は見逃さなかった。……テミオの能力の原理を、完全に理解した。
(あの能力は、俺と相性が良い。……俺の能力は、ヤツに取って天敵と呼べる存在だろう)
そう確信した白凪は、強気に攻める。勿論油断はせず、一歩離れた距離で剣を振るう。そして数十秒後に、再び地面を隆起させる。……同時に、能力を利用してその場から音を立てずに移動した。
テミオは、白凪が"いた"前方数百メートルを爆破する。後ろも爆破したのは、白凪が後ろに避ける可能性を配慮してだ。
……だが、そこにもう白凪はいない。後ろに気配を感じて振り向いたテミオは、剣に魔力を溜めている白凪の姿を視認した。瞬時にテミオは爆破を発動したが……爆破は、起こることは無かった。
(何故だ……爆破が起こらない!?)
テミオがそう考えると同時に、手に持っているナイフで抵抗する。今はそんな事より、攻撃を凌ぐ方を優先する方がいいと考えたからだ。……だが、白凪の能力によりナイフは折れ、刃がテミオを斬り裂いた。
身体から血飛沫が出て、テミオの上半身が斜めに割れる。……テミオは死んだ。白凪が負った怪我は、建物にぶつかったことによる背中の強打のみ。それにより何本か骨が折れていたが、能力により直すことが出来た。そのため、白凪に怪我は殆ど無いと言っていい。
白凪の勝利だった。
――テミオの能力である爆破操作の本質は『起爆』。この能力は、魔力を火種にして物質を爆破させる能力だ。そのため、地面でも物質でも人体でも爆破できる。……ただし、100m以内で無ければならない。そして、爆破には僅かな時間差がある。
……だが、物質を支配する能力――物質支配を持っている白凪には通用しなかった。物質を爆破させようとしている魔力の火種を霧散させ、物質を爆破しないようにする。……それだけで、爆破操作を封じることが出来たのだ。
白凪は、近くにある家の壁にもたれかかる。テミオは造人尖兵軍の中でも最上級の強さ。……そんなテミオと戦って、疲れたのだろう。
これで、全てのアルヴァダ兵を蹂躙し終えた。……しかし、最後の戦いは蹂躙と呼べるものでは無かった。能力の相性が良かったため勝つことが出来たが、攻撃を食らった。
白凪は、目を閉じる。そして、自身の原点を思い出す。
白凪鉤人は、父である白凪焔斗に小さい頃から軍人になるように言われていた。それが洗脳なのかどうかは、今更どうでもいい。幼い頃から刷り込まれてきたその軍人としての価値観は、今や鉤人にとって当然のものとなっているのだから。
『ねぇ、鉤人! 大きくなったら、一緒に日本を守ろう!』
幼馴染の少女に、言われた言葉。幼馴染の少女も軍人として育てられていたため、その幼き純粋な言葉は当然のものだった。
その時、鉤人は能力を覚醒させていなかった。まだ、目覚めていなかった。……それは、あるきっかけで目覚めることとなる。
それは、10年前の事。日本に侵入していたアルヴァダ兵が事件を起こした。噛砕いて言えば、能力を持っている家系の軍人を襲うという事件だった。
――その事件に、鉤人と幼馴染の少女も巻き込まれることとなった。不幸な事件……と言えば、それで終わりなのかも知れない。だが、鉤人にとってそれでは抑えられないことだった。鉤人と二人で近くに出かけているところを、不意に襲われた。
まずは近くにいた幼馴染の少女――明城楓が狙われた。"それ"は下劣な目で明城を見つめ、ナイフを振り下ろしてきた。……その光景を見ていた白凪は、妙に遅く見えた。……そしてその時、白凪の中で"このままでいいのか"と言う声が聞こえた。
楓を殺されたくない――そう答えた白凪は、妙に力が湧いてくるような感覚にあった。……今思えば、それの正体は能力だったのだろう。
その能力を使い、白凪はナイフをグニャグニャに変えた。……その後、驚いているそれを余所に、ショックで気絶してしまった少女の前に立ち、それを地面にひれ伏させる。その時に焔斗が駆けつけ、焔斗がそれを見えないように殺した。
……焔斗が来たことによる安堵と、楓を守れた事による満足感でその時は気絶してしまい、その後はあまり覚えていない……が、一つだけ、確かに言えることがあった。
(俺は……この国を、楓を守るために軍人になった。……この程度の事で躓いてちゃダメだな。……また、一から鍛錬のやり直しだ……)
心の中でそうぼやく。それと同時に、近くに誰かがいる事に気付いた。
「白凪君、戦場でボーッとしてたら危ないじゃない! いつ敵が来るかわからないんだから!……この辺りにもうアルヴァダ兵はいないから、全員集合するって。行くよ」
――今の楓は、昔の記憶を覚えていない。鉤人と一緒にいた記憶が、丸々無くなっているのだ。……原因は、鉤人と一緒にアルヴァダ兵に襲われたことだろう。……その時のショックで、鉤人の記憶ごと無くなっていると医療班は推測していた。
……だから、こうやって傍にいる事しか出来ない。だが、自身の信念は変わらない。世話焼きで、強気で、仲間思いな大切な少女を、守り抜くのだ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
蓮也と焔斗は、海の近くにある森の木の上にいた。そこで、作戦会議をしている。海の砂浜に佇んでいる一人の男を殺すためだ。
その男は今回日本に襲撃してきたアルヴァダ兵の頭で間違いないだろうと考えている。……だが、まともにたたかっても勝てそうには無い。姿から見える雰囲気が、普通では無いのだ。
……声を潜め、焔斗は蓮也に言う。
「……今回は、一筋縄では行かなさそうだな」
「……ああ。いつも以上に力を出さなければならなさそうだ」
そして、二人の軍人は本格的に木の上での会議を始めた。




