73話「陣地侵略作戦」
遅れてすみません。忙しい時期は過ぎたので、投稿頻度は上がると思います。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
刀華は、大型の装甲車に揺られながら考える。だが、今考えているのは來貴の事では無い。今この場、アルヴァダの陣地に潜入するのに、それは今は必要無いからだ。
刀華は、陣地侵略作戦について考えていた。このアルヴァダの陣地侵略作戦は、刀華だけで考えたわけでは無い。サングラスの軍人、潜水艦長、桐生たちと考えたものである。
潜水艦に残した來貴たちは謹慎という意味で残しているのもあるが、潜水艦の防衛としても残している。サングラスの軍人や潜水艦長もいるので、大丈夫だろうと刀華は思ったのだ。……それは一旦思考から外し、刀華は外の様子を装甲車の助手席の能力者に聞く。
返ってきた答えは、「木々が倒れていて、静けさと不気味さがある」との事。……一旦、刀華は自身が座っていた場所に戻った。
「――刀華先生、何か考えているのですか?」
隣に座っている瞬華が、刀華にそう聞く。刀華は、瞬華の問いにこう答えた。
「……いえ、何もありません」
刀華のその言葉に、瞬華は前を向く。……と言っても、見ているのは斜め下であり、瞬華は集中している。
――これから行う、陣地侵略作戦。それはあまりに危険であり、死ぬ可能性はかなり高い。思わぬ伏兵だっているかどうかわからない状況……であるが、勝算はある。故に、この作戦に打って出ているのだ。
潜水艦を出発してから、約一時間。……そろそろ、アルヴァダ軍の兵士たちが根城にしている場所へ着く。そこで装甲車の砲撃と共に、アルヴァダ軍の根城の一つであるオヴェンズヘブンに突撃するのだ。
オヴェンズヘブンとは、アルヴァダ帝国の軍事施設の一つ。唯一の港の近くにあるので、その存在は軍事機関にも認知されている。そして、オヴェンズヘブンはアルヴァダ軍の重要な施設の一つでもある。
ここに入っていく生き残りの兵を見たという軍人もいた。……故に、ここを落として崩壊させれば、アルヴァダ軍の戦力を削ぐことが出来るというわけである。……崩壊以外に占領という選択肢も出たが、それは出来ない。
――占領が出来ない理由は、ただ一つ。ここに人員を割けないから。軍事機関に所属している軍人は、強いが人数が少ない。日本の警備と他国との訓練でキツキツなのだ。非戦闘員だけを置くわけにはいかないため、ここに誰かを置くことは出来ない。
このアルヴァダ帝国との戦争も、日本に"最強"の軍人たちを置き警備をさせていることで、人員を少なくしている。日本の軍人は量より質が高いのだ。
――そして、今まで動いていなかった桐生が動き出す。
装甲車から出て、周囲の空間を探る。オヴェンズヘブンは、装甲車の400m先ほどにある。アルヴァダ兵がいないか、オヴェンズヘブンの中に何があるのか。それを探るのが、桐生の役割だ。
数分能力を使って探った後、桐生は耳に付けたインカムでこの作戦の現場指揮――如月刀華に連絡をする。
「如月さん、オヴェンズヘブンの周りにアルヴァダ兵はいませんでした。……ただ、中にはうじゃうじゃいます。そして、オヴェンズヘブンの遙か後方、約10km先にアルヴァダ兵らしき反応を感知しました」
桐生の報告を耳に付けていたインカムで聞いた刀華は、これから攻め入るプランを立てる。今この装甲車たちは、まだ向こうには見つかっていない。状況に応じて、刀華は作戦を立てようと思っていたのだが、少し難しい状況になったと考えた。
(周りにアルヴァダ兵がいない……これは、桐生さんの能力ならば確か。約10km先のアルヴァダ兵というのが気になります。戦闘中に急に来られて、奇襲でも仕掛けられたらたまったものではありません。ならば、どう攻めるべきでしょうか――)
刀華は数瞬の内の思考の元、ある考えを導いた。
(――では、こういきましょうか)
桐生を装甲車内に戻し、この作戦に出ている全ての軍人に作戦を伝える。
『今から、オルヴェンズヘブンの侵略を行います。そこで、こう攻めることにしました。まず、装甲車とキャンプカーは絶対に見つかってはなりません。遙か後方、約10kmにアルヴァダ兵が来ているとの情報がありました。いざというときに、逃走手段の確保は必要です。……オヴェンズヘブンには、先遣隊を放ちます。少数精鋭で、オヴェンズヘブンの各所を攻撃して崩壊させます』
――刀華の話を、全軍人が真剣に聞く。
『そこにアルヴァダ兵が集中したところに、皆さんで潜入して攻撃を放ちます。各所に散らばった兵を挟み撃ちにして殺し、その後に一気に大規模攻撃で消し去ります。有用なものなもう抜き取ってあるので、思いっ切りやっちゃってください。……少数精鋭の部隊は、今から作ります。呼ばれた軍人は外に出て、私如月刀華の元へ来て下さい』
全車両にそう伝えた後、刀華は通信を切る。その後刀華は外に出て、インカムで軍人を呼びつける。インカムは全員に付けられているので、電波の波長と暗号を合わせれば付けている者を誰でも呼べる。十数人ほど呼んだ後、刀華は作戦を伝えた。
その後、その者たちはオヴェンズヘブンへと潜入していった。
――瞬華たちが前に潜入したのは、このオヴェンズヘブンである。オヴェンズヘブンは、重要施設であるため大きく、かなりの敷地面積を取っている。……そして、破壊された時の被害は甚大だ。
アルヴァダ帝国が軍事用に作ってある港は、この港――ゲートのみ。ある程度整備されているだけで、近くに建物も船も何も無い。ただ、大きな船が丸々一個入るようなスペースと、そこだけ海が浅いということ。……これだけでは、港には見えない。
……アルヴァダ帝国は、何らかの力で船をオヴェンズヘブンからあの港へと転移させている。それ故、港には何も無い。少し離れた場所に、オヴェンズヘブンがあるのみだ。
この情報は、瞬華たちが持って来た資料の中にあった。……どうやってやっているのかはわからない。その手順が、記されていただけなのだ。
――瞬華たちも、出る準備をする。瞬華も、瑠璃も、亜宮も、準備は出来ている。瞬華と亜宮は張り詰めている様子で、瑠璃は少し緊張している様子。瑠璃はこんな作戦に参加したのは初めてであり、上手くやれるかが不安なのだ。
そんな瑠璃に、瞬華は話しかけた。
「瑠璃君、そんなに緊張しなくても大丈夫よ。強いんだし、それに私たちがいるし」
瞬華の言葉に、瑠璃から緊張は抜けていく。深呼吸を数回し、完全に抜けたようだ。
「……ありがとうございました、東道先輩」
「いいって。……それより、もうすぐじゃないかな」
その直後、全車両から刀華の声が響く。
『――作戦開始です。皆さん、装甲車から出てオヴェンズヘブンへ見つからないよう潜入して下さい。潜入した後は、見つかっても構いません』
装甲車から軍人たちが出る。慎重に、それでいて迅速にオヴェンズヘブンへ潜入する。誰一人として見つかることは無く、潜入出来た。監視カメラなどの警備はあったが、それは先遣隊として派遣された者たちが全て破壊している。
なので、全員憂い無しで暴れていく。能力を惜しみなく使い、オヴェンズヘブンを荒らす。
アルヴァダ兵は先遣隊の方へ行っているが、一部は後に侵入した軍人たちの方へいる。対処するためだ。……数は多いが、所詮雑兵のため次々とアルヴァダ兵を蹂躙していく。瞬華たちも、他の軍人たちと一緒にアルヴァダ兵と戦っている。……だが、違和感を感じていた。
(……弱いわね。このアルヴァダ兵たち。こんなに進んでるのに、強いのが一人もいない。……警備が弱いのだけ、なのはあり得ないよね。なら、何処かに――)
――瞬華はそう考えた直後、後ろを見る。周囲にアルヴァダ兵がいなくて余裕が出来たので出来た行動だ。……見えたのは、三人のアルヴァダ兵。そのアルヴァダ兵は、そこらにいるアルヴァダ兵とは一線を画す雰囲気だ。
瞬華は、嫌な予感がした。その者たちは、他のアルヴァダ兵とは違い銃を持っていない。……と言うことは、銃以外で殺せる手段があると言うこと。隠し持っている可能性もあるが、それならばもう抜いていることだろう。
――そして、猛威が吹き荒れる。突風が吹き荒れ、斬撃が飛ぶ。同時に、その一連の動作を行った人物の存在を、全員が認識した。
彼の者たちは、オヴェンズヘブンや他のアルヴァダ兵の事など気にしてないような攻撃を仕掛けてきた。瞬華たちは大丈夫だが、他の者たちは多少なりとも傷を負っていた。
「あー、殺れてないね」
「……次で殺す」
「お前たち、独り言はよせ。……これはあの御方からの命令だ。完璧に遂行しなければならない。……行くぞ」
三人の中心の位置にいるアルヴァダ兵の言葉で、横の二人は表情を引き締めて構えを直す。……そして、再び猛威が吹き荒れる。今度は全員が軍人たちに接近し、次々攻撃を仕掛ける。
――だが。
瞬華は時間を止め、その三人の首筋を斬り、心臓を貫く。あれから瞬華は更に鍛錬を積み、停止世界の法則を改変できた。
停止世界の中でも攻撃を仕掛けられるようになった。……ただ、そうすると魔力をかなり消費するが。今回は三人に殺すほどの攻撃を与えたため、これで瞬華はしばらく能力を使えない。これにより瞬華はかなり強くなり、校長と戦い一撃を入れられるほどにまで至った。……前は、遊ばれているだけだったのである。
……ただ、それで倒せるほど現実は甘くなくて。
瞬華が殺したつもりの三人は、傷を負えど全員生きていた。首を斬って心臓を貫いたが、それでも死んでいなかった。三人とも、首は完全に斬られ、心臓は貫かれていた。首は斬られたままで、心臓部分に穴は開いたまま。三人とも息絶え絶えで、次が最期の攻撃となるだろう。
だが、その最期は油断できるものでは無い。
「……いつの間に……攻撃されてたな。こりゃ大変だ」
「全くだ。……だが……その様子だともう使えないか?」
「……なら……行けるか。最低限は……やらねば」
金髪で襟足が長い、短刀を二つ持っている男がそう呟く。黒縁のメガネをかけた男がそれに同意し、前髪が長い男が独り言を呟く。
――三度目の、猛威。
瞬華がメガネを掛けた男を、瑠璃が前髪の長い男を、亜宮が金髪の男の攻撃を受けようと構える。それは怪我をしているのにも関わらず、威力は前とは非にならないと瞬華たちは感じた。三人が仕掛けるのは、風の攻撃。それに魔力と武器の力を乗せている。
猛威が、放たれようとしたその時。瞬華たちが対応しようとした時――――。
「……剣?」
――――刀華の剣が、三人を貫いた。幾千もの剣が飛び、三人を斬り裂いた。瞬華たちが刀華のいるであろう方向を見ていると、刀華がいた。距離は約100m程で、装甲車から出てきていた。刀華は瞬華たちの方へ走ってきた。
「……この辺りにいるアルヴァダ兵は全て殺したでしょう。瞬華さんたちは、桐生さんたちのいる方へ合流してください」
瞬華たちは刀華の命令に頷き、刀華から伝えられた場所へと走った。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
桐生は、オヴェンズヘブンの奥でアルヴァダ兵と戦っていた。だが、もう終わるだろう。アルヴァダ兵よりも、桐生の方が圧倒的に強いからだ。持っている武器である銃と刀剣を駆使し、任務を遂行する。
刀華から命令が来たのだ。
『瞬華さんたちが来るまで、その場で粘っていてください。そして、瞬華さんたちが来たら、瞬華さんたちと一緒に残存兵を潰して下さい』
との事である。桐生は今一人だ。桐生以外の先遣隊は、別の場所へ行かせたためである。桐生は瞬華たちを待ちつつ、周りのアルヴァダ兵を一通り倒したため少し休憩する――――。
――――そして、数分後。
「桐生先生、お待たせしました」
瞬華たちが到着した。桐生は休憩を止め、瞬華たちと一緒に残存兵を潰しに行った。
残っている兵の数は少なかったので、これはすぐに終了し、オヴェンズヘブンは完全に陥落した。掛かった時間は約4時間。途中で昼食等を挟んだりしたのにもかかわらず、すぐに終わった。隠れている兵がいないか数十分探し回ったが、残っていた兵は密から無かった。
そして……最後にする事がある。
死んだ兵の弔いである。遂行時間は短かったとは言え、こちら側にも死んだ者はいる。その者たちに、敬意を払わなければならないのだ。
残っている遺品を回収し、数秒間の黙祷。
……やがてそれが終了し、一同は潜水艦へ帰還した。作戦は、成功であった。




