72話「戦争二日目」
――俺は今、潜水艦の外へ出てきていた。そこで、様子を見ていた。今はアルヴァダ兵はきておらず、軍人たちも艦内で休憩している者や、見張りをしている者もいる。俺は少し外に出たかったから外に出ている。
刀華先生たちは端で強い軍人たちと会議をしている。何の会議かは知らないが、俺は混ざる気は無いので適当に外をぶらつく。
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刀華は、悩んでいた。悩んでいるのは戦争のことでは無く、來貴の事。刀華の年齢は25歳。軍事高校を出て軍事機関に入り、それから一年経った時から軍事育成機関高校で教師を始めたので、教師生活は六年目。
……これまで、こんなに手の掛かる生徒はいなかった。今までの生徒の中で、才能の高さはダントツ。そして、自身よりも強く教えることが無い。……何か悩みがあるように見えたが、頑なに教えてくれない。
教えることを強要する気は無いが、少しは相談して欲しいと思っている。特別何かしたと言うわけでは無いが、明らかに変わったことがある。
入学式から一週間後、土日の二日で身長が伸びたこと、髪と瞳の色が変わっていたこと。その事について質問をしたが、上手く流された。
(……本当に、手の掛かる子ね)
独りで何でも出来るが故に、誰にも頼らない。それはいつか、大きな壁となるだろう。
……だから刀華は、來貴を気に掛ける。他の生徒の事も見ているが、特に問題ありそうな生徒はいない。
――――そうして、夜になった。このアルヴァダ帝国との戦争は、一週間を予定している。そのため、潜水艦内には一週間分の食料がある。
刀華は夜食を食べた後、潜水艦の中の自分の部屋に戻り、部屋に着いているシャワールームに入った。それからシャワーを浴びる。数十分くらいシャワールームにてシャワーを浴びた後、シャワールームを出た。
そして、服を着て椅子に座る。机の上に置いてあるパソコンを開き、あるアプリを開く。……刀華がそれを開くと同時に、パソコンの画面が切り替わる。映し出されたのは、神藤桂の姿だった。
『……如月、現状はどうなっている?』
桂が刀華の姿を視認すると同時に、そう言葉を投げかける。
「……現在、こちら側が優勢です。アルヴァダ帝国軍の指揮は乱れており、指揮官を誰かがやったと思われます。負傷者は多数いますが、死者は数名ほどしか出ておりません」
始め、刀華は現状の報告をする。今の状況をざっくりと纏め、桂に伝えた。この報告を聞いた桂は、心の中で思い通りだと笑みを浮かべる。だが、それを刀華に気付かれないようにし、続きを促す。
「……そして、明日からアルヴァダ兵の陣地に攻め入ろうと作戦を立てています。これは、潜水艦に結月來貴や紫﨑兇介等の強力な軍人を数人を潜水艦の見張りに残し、陣地には全員で攻め入ります」
刀華が軍人たちと考えた作戦を、桂に伝えると、桂は「いいだろう」と呟いた。
桂は、今回の総司令官である。現場には来ていないが、来られないのだ。日本にも、アルヴァダ兵はいる。その日本にいるアルヴァダ兵を殺すのが、桂の仕事なのだ。そして、アルヴァダ帝国本土に赴いている軍人たちの指揮も執っている。
報告は、刀華にさせている。理由はただ一つ。この中で一番頭脳が高いからである。普段はアホなように見える刀華だが、頭は悪くなく、寧ろ良い方なのだ。……ただ、來貴や雫、琴音の頭が良すぎるために霞んで見えるだけだが。
……そして、桂は刀華のパソコンの画面から消える。それを確認した後、刀華はパソコンを閉じた。その後、明日に備えて眠りについた。
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……暇だ。暇である。現在時刻は日本時間で9時。今起きたのだが、今日は俺は非番だ。潜水艦の外に出るなと言われた。これは、艦長からの命令であった。他の強力な軍人――兇介とその他にもこの命令はされたようだが……これで、アルヴァダ軍に勝てるのだろうか。
主力の戦力が、半分くらいいなくなっている。……だがまぁ、心配していても仕方ないか。結果は、誰にもわからないのだし。
そう考え、俺は再び寝ることにした。これから約数日間、潜水艦に引きこもる日々が続く。……アルヴァダ兵が来たら殺すか価値があるなら捕縛しろと伝えられているが、正直いって来たアルヴァダ兵は気付いたら死んでいる。
……この潜水艦の中にいる軍人が、殺ってくれているのだ。なので、俺は何もしていない。強いて言えば、残った敵を打ち抜いただけだ。
――アルヴァダ陣地の近くに移動するため、超大型の装甲車と調理等のためのキャンプカーが二代ずつ出たようだ。……どうやら、今から陣地に行くらしいな。……と言うか、アレだとバレバレだと思うのだが、大丈夫なのだろうか。
……と、思っていたその時だった。
(……消えた?)
突然、圧倒的な存在感を放っていた装甲車とキャンプカーが消え失せた。……これは、能力だろう。何の能力かはわからないが、凄まじいものだな。
装甲車とキャンプカーの場所が全然わからない。目を凝らせばわかるかも知れないが、それでも凄いものだ。……感想はこれぐらいにして、寝るか。俺はベッドに再度潜り、目を閉じた――――。
「來貴!!」
――――時だった。兇介の大きな声が響いたため、俺は目を開ける。ベッドから出て、外にいるであろう兇介に向かって言う。
「今から寝ようとしていた所なんだが?」
不機嫌そうな顔で俺がそう言うと、兇介は「そんなことより」と言い、それを一蹴した。そして、こちらの事をそっちのけで話を続けた。
「――アルヴァダ兵が来た。今度は軍勢だ。あの人らだけじゃ対処出来ねぇから、ここにいる軍人全員呼んで来いって言われてよ。……だから、お前も準備してこい」
……タイミングが悪いな。まさか二度寝をしようとした所で来るなんて……まぁいい。さっさと全員斬り裂いて二度寝するか。
俺は瞬時に部屋に立てかけてあった銃剣二振りを取り、兇介と一緒には知って潜水艦の外に出る。そこには、数人の軍人がいた。その軍人の一人が俺たちを見かけると、声を掛けてきた。
「来たか! ……見ろ、アレがアルヴァダの軍勢だ。軽く6000以上はいやがる。対してこっちは6人。……単純計算で、人数差は約1000倍だ。かなり不利な状況だが、この潜水艦を取られるわけにはいかないからな。がら空きになったここに回す軍勢がいたのは驚きだが――」
その軍人は、掛けているサングラスをクイッとあげ、口角を上げる。
「――一人で1000人以上分担すれば行けるだろ?」
……それはあまりにも、無謀な言葉であった。だが、全員が考える素振りすらも見せずに頷いた。それが意味することは、この軍勢は敵では無いと言うことである。
だが、油断はしない。何か爆弾がある可能性がある。他の軍人たちが攻め方を考える中、俺は一人考えていた。
(……気になるな。何故、このタイミングなんだ? もっと前に来ていれば、出発を防ぐことが出来た。……出発した後、すぐのタイミングで、この雑兵共は来た)
――そこで俺は、一つの可能性を考える。
「……まさかな」
「? 來貴、どうした?」
何やら、兇介が俺の顔を覗き込んでいる。俺は「何でも無い」と言い、目の前の草原にいるアルヴァダ兵を見据える。
「……お前ら、行くぞ!」
サングラスを掛けた軍人の号令により、潜水艦に残っていた軍人六人は一気に駆けだした。
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來貴たち軍人六人と、アルヴァダ兵約6000人の戦い。その戦いを、一言で表すならば――蹂躙。アルヴァダ兵たちは、何も出来ないまま殺されていく。……一人一人が1000人以上を相手しているので、繰り出される攻撃の殆どは大規模攻撃。その攻撃は地を割り、空を裂く。
そんな中、來貴は覇壊の轟きのみを使ってアルヴァダ兵を蹂躙していた。強化系の最高峰である、覇壊の轟き。その能力によって強化された來貴の無駄が排除された動き。
それにより、來貴は舞いを踊るようにアルヴァダ兵を斬り殺していた。來貴は普段、能力を使った攻撃で戦っている。銃剣による斬撃の乱舞で、アルヴァダ兵を斬り裂きながら奥へ進む。
(……久しぶりだな、こんな戦い方は。……っと、これで480か。先は長いな)
來貴はそう思いつつも、アルヴァダ兵を斬り殺す。
――來貴は、自身が人より優れていると自覚している。そしてそれは、客観的なる事実だ。優れていると言うのは、自身が持つ覇壊の轟き然り、身体能力、頭脳等然り。
万物具現化の眼やそれで再現した能力や、死黒暴滅と地獄門等能力も多く所有しているため、人がいなければその力による力押しで勝ててしまう。
だが今は、來貴以外にも五人ほどいる。その中には聡い者もいるため、來貴は覇壊の轟き以外の能力を使うことが出来なかった。
――そして、來貴は魔力を纏った銃剣を振るう。魔力の刃が何枚も飛翔していき、アルヴァダ兵が悲鳴を上げながらその命を散らす。
(……今ので730ぐらいだな。……もう少しか)
來貴は淡々と、アルヴァダ兵を殺していく。サングラスを掛けた軍人は一人で1000人と言っていたので、もう少しである。
來貴はアルヴァダ兵がいる所へ飛び込み、見せるのは圧倒的で流麗な剣技。その剣技でアルヴァダ兵を斬り裂き続け――。
(……これで1000以上殺したな。これで言われたことは終わったが、終わるまで待っておくか。……殺す数は抑えて、近くに来た兵だけ殺していこう)
――遂に、1000以上のアルヴァダ兵を殺した。……だが、まだ終わっていない者もいるため、それまで來貴は待つ。
――兇介は能力を刃に付与しつ、大規模な攻撃でアルヴァダ兵を蹂躙していた。
「――殺刃波動!」
"死滅"を運ぶ赤い刃は、波紋のように広がる。範囲内にいたアルヴァダ兵が血を撒き散らしながらバタバタと倒れていき、兇介は周りを見渡す。
(……今ので大体500ぐらい殺ったか?)
兇介が放った殺刃波動で、兇介の周りにいたアルヴァダ兵は大体死んでいた。……思わず、近くにいたアルヴァダ兵は後退ってしまう。
……兇介はアルヴァダ兵の方を向き、瞬時に接近する。そして、両手で持った刀を振るう。魔力を纏い、能力が付与された斬撃は、そこから前方にいたアルヴァダ兵を斬り裂いた。前方の視界が開き、そこから前にアルヴァダ兵がいないことがわかった。
放たれた銃弾を斬り裂き、再び殺刃波動を放つ。
……その赤の色は、魔力の色か、はたまた血の色か。どちらかわからないほどに、広がった刃はアルヴァダ兵を殺し続ける。やがて、アルヴァダ兵は兇介の周りからいなくなっていた。
「…………」
――兇介は何も言わず、周りを見渡す。
(……今ので、1000以上は殺しただろう。來貴も終わってるようだし、もうすぐだな)
そう考る兇介。終わるまで、近くにいるアルヴァダ兵だけを殺す事にした。
――そうして、6人と6000人の戦いが始まってから数十分。
「皆、お疲れ。よく一人でアルヴァダ兵1000人を相手してくれた。とりあえず、潜水艦に戻ろうか」
サングラスを掛けた軍人が、皆に労いの言葉を掛けていた。……この戦いで、こちら側の軍人が傷を負うことは無かった。潜水艦へ来た軍勢はただの雑兵の集まりだったので、簡単に殺せたことが要因だろう。
全員が足並みを揃えて潜水艦に戻り、そこから解散となった。各々の部屋に戻り、そこからは暇となる。
來貴も、その内の一人だった。
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……やっと終わったか。軍勢は、雑兵だけだったから弱かった。まぁ、終わったからこの話は良いか。
二度寝しよう。さっきはアルヴァダ兵に邪魔されて眠れなかったけど、今ならば眠れる。俺はベッドに潜り込み、布団を被る。
(おやすみ……)
誰に言ったのかわからないが、心の中でそう言う。そして、俺は眠りにつくのだった。
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――來貴が二度寝を始めた時と同時刻。サングラスの軍人は、潜水艦内に残っている艦長と話をしていた。
「……この作戦、どう見ますか?」
サングラスの軍人――ジョセフ・イニーガルは、潜水艦長の軍人に問いかける。
「まぁ、成功すると思いますよ。刀華ちゃんは頭が良い。そして、実力もある。……余程の事が無い限り、作戦へ赴いた軍人の8割以上が生きて帰ってきます」
……潜水艦長の軍人――エガド・アロンナイトはそう答える。イニーガルとアロンナイトは、日本出身の者では無い。イニーガルはイギリスから、アロンナイトはアメリカから来て軍人になった者である。
その二人は談笑しながら、作戦の行く先を憂うのだった――――。




