71話「真意」
……來貴はローレが消滅したのを確認した後、銃剣を仕舞ってその場を後にする。もうここに、用は無い。故に、留まる理由は無いのだ。そして悪魔化を解除し、目を閉じる。
(――戦う理由、か)
ふと、思い出したこと。來貴がローレと戦っているときに、不意に思い出した。來貴が、戦う理由。
……それは、二つある。一つは、自分のため。もう一つは、他人のため。それを思い出した來貴は、フッと笑った。
(……いや、今は良いか。俺には、戦う理由がある。そのために戦っている。目的のために……ただ、それだけだ)
――來貴は、来た道を戻っていった。
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――そして、兇介は。
(……來貴の野郎……何処行った? はぐれちまったぜ……速く合流したいんだが)
絶賛、アルヴァダの森林を彷徨っていた。ところどころにアルヴァダ兵がいて、出会い頭に遭遇することもあるので、兇介は気を抜かず來貴を探す。
……だが、森林という最悪の環境の中で見つかるわけも無く――――。
「あら、強そうな軍人ね」
――――代わりにアルヴァダ兵を見つけた。赤く長い髪に、黄色い瞳。そして、藍色の軍服を着ている。そして何よりも目を引くのは、腰に携えている刀。その色は赤く、普通では無いと兇介は考えていた。
……しかも、兇介が見つけたアルヴァダ兵は、他のアルヴァダヘイトは違う雰囲気を纏っている。……つまりは、強者だという事だ。
(……どうやら、厄介なヤツに遭遇しちまったようだ)
兇介は、腰に携えている刀に手を掛ける。それを見て、兇介と向かい合っているアルヴァダ兵は言い出した。
「私の名はミレイ。そなたの名は?」
「……紫﨑兇介だ」
兇介は自身の名を言うか迷ったが、言うことにした。兇介にも、礼儀というものはある。敵に礼儀がいるのかは知らないが、最低限の礼儀はいるだろうと思ったのだ。
名乗りが終わったので、兇介は腰の刀を抜く。ミレイも、腰の刀に手を掛けた。……一瞬、鞘から抜かないのかと兇介は思った。……だが、そう言う戦闘スタイルなのかと納得し、攻撃を仕掛ける。
瞬時にミレイに近づき、刀を振るう。しかし、居合いの要領で抜刀したミレイに防がれた。兇介はそれを認識した瞬間、ミレイの刀を受け流して後ろを取る。そして、能力を込めた刃を振るう。
「……危ないな。死ぬところだったぞ」
だが、ミレイが後ろを向き、刀を翳したことで防がれた。ミレイの魔力色は淡い黄色。その魔力が刀身を覆い、刀が鮮やかに彩られていて、兇介は思わず見惚れそうになってしまう。……その一瞬の隙を突き、ミレイは兇介の刀を弾き腹部を突く。
兇介は、当たる寸前に気付き刀で逸らしながら突きを避けた。
(……っぶねぇ。今は戦闘中だ。余計なことは考えないようにしねぇと……)
兇介は気を引き締め、距離を取り刀を構え直す。そして、能力を発動して斬りかかった。その斬撃にミレイは危険を感じ、能力を発動させ対抗する。数回程斬り合った後、ミレイが兇介の斬撃を後ろに躱す。
勢い余った兇介は体勢を崩し、その隙を突いてミレイは魔力の斬撃を飛ばした。
兇介は、崩れた体勢を戻せない。だが、場所は視認できる。そのため、右手に殺戮機械を発動させ、魔力の斬撃に翳す。するとミレイが放った魔力斬は一瞬にして消え、それを見たミレイは呆然としてしまった。
ミレイが呆然としている内に、兇介は体勢を戻す。そして、呆然としているミレイに向かって技を放つ。
「――終焉の斬閃」
兇介の狙いは一つ。身体の何処かである。この技は兇介の中で最速にして最凶の技。
殺戮機械の本質は『死滅』。この能力を発動させて触れたモノは、全て『死滅』する。……それが触れられないモノでも、その力がこもった魔力に当たれば『死に滅ぶ』。ただ、この能力に込められた以上の魔力で対抗された時や、普通に対抗された場合は効かない。
それに、この能力は射程がゼロに等しいので、遠距離の能力には無力なのである。……故に、兇介は一定距離を保ち、それ以上離れたら近づき、近づいたら離れると言う戦闘スタイルなのだ。
「――抗魔」
声が聞こえたかと思えば、兇介の攻撃は防がれていた。ミレイの刃には、薄い黄色の魔力が纏われていて、兇介の赤い刃を防いでいる。それには、ミレイの能力が使われていて、その能力を使った技で対抗したのだ。
ミレイの能力は『抗力強化』、抵抗の力を強化する能力。その本質は『抵抗』。その能力は強化系で、階級は上位。階級自体は殺戮機械の最高位より下だが、強力な能力だ。
そして、ミレイの刃が兇介の斬撃を防ぎきった。その事に兇介は顔を顰めそうになるが、抑えて次の攻撃を仕掛ける。兇介は、能力を込めた魔力の斬撃を何度も飛ばす。ミレイの防御が追いつかないように速く、そして強く。
ミレイは何度も飛ばせることに驚愕したが、防御をしなければ死ぬので能力を使った刀で防御をする。兇介はその場から動かず、ミレイの身体の何処かに当たるように魔力斬を飛ばす。それはいつまでも続くように思え、ミレイは一瞬反応が遅れる。
そして、魔力斬が当たりそうになったがなんとか回避に成功した。ミレイは距離を取るため、兇介から離れ身を隠す。兇介に見つかる前に、対抗策を考えるのだ。
(危ないな……それにしても、キツい。何度も何度もあの攻撃が飛んで来ては、防戦に徹せざるを得ないな。あの魔力斬に当たれば、間違いなく死ぬだろう。最初に能力で抵抗した感触でそう感じた。……それに、兇介の魔力は無尽蔵か? あれだけ放ったのに、魔力が切れる様子は無い)
ミレイは思案する。兇介の魔力は、今自分に残っている魔力より多いだろう。長期戦になれば、動きが鈍くなったところをあの能力で殺される。そこまでは、わかっていた。だが、勝てる未来が見えない。
能力の相性は良い。効果を防ぐことが出来るのだから。だが、普通に押し切られる。……魔力も残り僅かなので、真っ向勝負だと押し負ける。
……だが、もうミレイに考える時間は無い。兇介が来たからだ。
兇介はミレイが潜んでいる場所ごと、消滅させるつもりでいる。その証拠に、兇介はミレイから少し離れた場所で刀を構えている。……離れているため、不意打ちも通用しない。ミレイは万事休すかと思ったが、最期に少し抵抗することにした。
「――死滅尽魔導斬!」
兇介が放った殺刃の魔力波道は、全てを斬り裂き死に滅ぼす。その波動に対抗するため、ミレイは本気を出す。
「――全反発抵抗刃!」
それは、あらゆるチカラに抵抗するモノ。その抵抗力は、込められている魔力が増えれば増える程強くなる。ミレイはそれに全ての魔力をつぎ込んだ。故に、今ミレイに魔力は残っていない。この技が破られれば、ミレイに待っているのは死だ。
ミレイは祈るしか無い。兇介の技に打ち勝てるかどうか。
――やがて、二つの技はぶつかり合う。死の波動が抵抗のチカラを飲み込まんとするが、負けじと抵抗する。……だが、やがて死の波動が抵抗のチカラを飲み込んだ。
それを見た瞬間、ミレイは悟った。
(……私もまだまだだったと言うことか)
――そして、ミレイは死に滅んだ。ミレイの周りにあった木も朽ち果てていて、ミレイが居た場所には残っていたのはボロボロになった刀のみだった。
兇介はそれを確認した後、何も言わずその場を離れる。刀を仕舞いつつ、來貴が何処に居るのかを探しに行った。
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俺は今、歩きながら刀華先生の元に戻っていた。走ろうかなとも思ったが、この戦争は長く続きそうなためなるべく体力を消費せずに行こうと思った。それに、これならば兇介が見つかりやすいかも知れない。
兇介の事だから、走って俺の事を探しに来ていると思う。なので、アイツが自然に俺を見つけてくれるだろう。……まぁ、見つからなかったら探しに行くが。
俺がそう考えていたときだった。横の森から走ってくる音が聞こえてきた。……恐らく、兇介だろう。思っていたより来るのが速いな。
「來貴! やっと見つけたぞ……」
兇介は息を切らしながら、俺の肩に手を置く。数秒ほど経った後、兇介は肩から手を離した。体力が回復したのだろう。
そして、体力が回復した兇介は俺にこう言ってきた。
「……お前、何処行ってたんだ? 心配で追ってきたんだが、途中ではぐれちまって。見たところ、強いアルヴァダ兵と戦ってたのか?」
――大体、当たっているな。兇介が追ってきていたのはわかっていたから、途中で撒いた。というか、こいつも強いアルヴァダ兵と戦ってきたように見えるな。魔力量が明らかに減っている。それに、手の甲に傷が付いている。
雑兵共は、兇介に傷を付けることは出来ない。故に、兇介は少し強いアルヴァダ兵と戦い、傷を負ったと思うが……微々たるものだな。
まぁいい。兇介の質問に答えよう。
「……強いアルヴァダ兵とは戦った。あそこらへんで」
俺はローレと戦った場所を指差しながら答える。兇介は俺が指差した場所を見つつ、何か考え込むような仕草をする。……あそこは更地になっている。兇介は何か違和感を感じたのだろうか。今バレるのは、マズい。
「お前、派手にやったな。あそこ、更地になってるぞ」
――それだけだった。やはり、兇介はバカだった。いや、何も考えてないと言うべきなのだろうか。
恐らくは、俺の魔力による斬撃で全てが更地になったと考えているのだろう。……だが、俺の戦闘スタイルを知っている兇介ならばそう考えるのが妥当か。しかも、兇介は俺と中学時代に何回も戦っている。
そして、俺はそこで散々魔力を使った攻撃を兇介にしてきた。兇介と一緒に行った依頼でも、魔力の斬撃でビルを倒壊させたりもした。
どちらにせよ、助かった。……速く刀華先生のところへ戻ろう。
そして、俺は刀華先生のところへ向かって歩き出した。兇介も、俺について行くように歩き出した――――。
――――数十分歩いた後、刀華先生がいたところへ戻ってきた。途中でアルヴァダ兵たちに遭遇したが、全て兇介が殺した。いたのは雑兵だったため、兇介が先立ってやってくれたのだ。
刀華先生たちは今、軍人たちとアルヴァダ兵の陣地を襲撃に行く作戦を立てていた。……だが、俺たちが来た瞬間、その話は終わった。――いや、切り上げたとでも言うべきなのだろうか。刀華先生たちは俺の所へやってきた。
何が始まるのか身構えていると、刀華先生が喋り出す。
「來貴く~ん……今まで、何処へ行っていたんですか?」
……これは、説教の気配がする。今まで散々凜姉に説教されてきたからわかる。これは、刀華の説教だ。
(と言うか、兇介には何も無いのか)
と思っていたら、兇介は桐生先生に連れられていった。……終わったな、兇介。心の中で手を合わせ、刀華先生の話を聞く。
「……少し、向こうへ」
その前に、刀華先生の質問に答える。適当に行った場所を指差して。……これで、説教は――。
「……來貴君、説教をするので着いてきて下さい」
――終わるわけ無かった。わかっていたが、とりあえず刀華先生について行こう。
そうしてついて行き、俺と刀華先生は潜水艦内へ戻ってきた。そして、近くにあった部屋に入った。その部屋には誰もおらず、丁度良く机一つ、椅子が二つ用意されている。俺は手前の椅子に座らされ、刀華先生は前の椅子に座った。
「來貴君。何故、一人で離れたのですか?」
刀華先生は、俺にそう聞いてくる。
何故、俺が一人で離れたのか。……まぁ、向かった場所から妙な気配を感じたからなんだが、それを堂々と言うわけにはいかないな。
そこには聖邪闘鋭隊のアルヴァダ兵――ローレ・イノセントがいた。そいつと俺は戦い、勝利した。……そして、誰にも言っていない力を使っている。アルヴァダ兵がいたと言うことを話せば、そいつの生死やどうやって倒したか等を訊かれる可能性がある。
ここは、適当に濁して言おう。
「……アルヴァダ兵を倒していたら、いつの間にか」
嘘では無い。そこへ行くため、ちょくちょくアルヴァダ兵を倒していた。と言っても、全て雑兵だが。
そして、俺の答えを聞いた刀華先生は。
「――そうやって言うんだね。來貴君は。いつだって、本当のことを隠す。……そんなに、私が……信頼できないの? ……もう説教じゃ無くなってるけど、いいや。……ただ、一つだけ言ってほしいの」
何か聞くわけでも無く、何か言うわけでも無い。ただ、教師としての言葉を俺に掛けたのだと思う。
そして、微笑を浮かべながら俺に言った。
「……どうして、一人でいるの?」
刀華先生の言葉は、酷く、俺の心を刺してくる。
(……一人でいるのか……と、言うのは、どういうことだ?)
わかっている。わかっているのだ。それが、どう言う意味なのか。そして、それが俺の心を突いてくるのも。
…………だから、俺はこう応えた。
「――そうで無ければ、全力が出せないからです」
俺の応えを聞いた刀華先生は、哀しそうな顔をしていた。だがすぐに表情を戻し、こう言った。
「……そうですか。これで説教は終わりです。私は戻ります。來貴君は自由にしていて構いません」
……そう言って、刀華先生は部屋を出て行った。




