66話「始業式と不穏な影」
――そうして、夏休みが終わり、始業式の日となった。9月1日……この日は、全国の学生が絶望する日だろう。夏休みの終わり、学校の再始動という名の……絶望に。
……俺だって、そうだ。夏休みという学生の天国。宿題という名の地獄はもう終わっていたため、地獄では無かったが。……そして俺は今、自分の部屋のベッドの上で寝転がっている。
「來くん、そろそろ降りてきて!」
一階から、凜姉のの声が聞こえてくる。……これは、降りなければならないな。俺はベッドから降り、部屋を出て一階に降りた。そして、リビングへと入る。
「おはよう、來くん。朝ご飯もう出来てるから、早く食べよっ」
朝食が並んでいる机の椅子に、琉愛は既に座っている。俺が隣に座ったときに、「おはよう、お兄ちゃん」と言ってきた。それに挨拶を返した後、凜姉が俺の隣に座ってきて、全員でいただきますを言って朝食を食べ始めた。
――そうして、十数分後。朝食を食べ終わり、俺は学校へ行く支度をして凜姉を待っていた。琉愛は友達と行くらしく、先に行った。
「お待たせ、來くん」
声のした方を振り向くと、服を着替えて荷物を持った凜姉がいた。俺と凜姉は一緒に家を出て、学校へと向かう。俺と凜姉は同じ学校なので、始業式のタイミングが一緒だ。今日は、互いに一緒に行く人が居ないので、普段も一緒に行っているが一緒に行くことになった。
学校まではそれなりに距離があるため、凜姉と喋りながら向かう。……だが、学校への距離が近くなるにつれ、俺の足取りは重くなる。
そんな俺を見て、凜姉は声を掛けてきた。
「……來くん、学校行きたくないのはわかるけど、ちゃんと行かなきゃダメだよ?」
凜姉が俺の背中に手を当てながら言う。そして、俺の真横に立ってこう言ってきた。
「今日は短いんだから、頑張ろ? ……ね?」
俺の眼を下から見上げ、そう言ってくる凜姉。……今日は短いから、明日から調子を出せば良い。……そう思いついた俺は、凜姉に「わかった」と返事をし、再び学校に向けて歩き始める。
……周りに少し人が居たので、少し恥ずかしかったのは言わないでおく。
――そうして、学校についた。俺は凜姉と別れ、一年一組の教室へ行く。教室のドアを開け、誰も居ない教室の中に入り、自分の席へと向かう。
自分の席に座り、バッグをロッカーの中に仕舞う。そして、席へと戻る。
「…………」
教室に着いているエアコンが、俺の髪を揺らす。
――少し、冷える。それと同時に、俺はあの時の事を思い出していた。こんな些細な事で思い出すのかと、俺は思った。……だが、俺にとって、それ程重要だったのだ。あれから時間は経った。しかし、あの時の事は色褪せず、俺の記憶の中に残っている。
いつの日か、また。会えるときが、来るのだろうか。……わからない。叶わぬ願いか、それとも――――。
「おはようございます、來貴君。今日も早いですね」
……文奈が来たので、思考を中断する。文奈は軽い足取りで隣の席に来て、荷物を仕舞って腰を降ろす。それと同時に、俺に話しかけて来た。
その内容は、夏休みの事だったり、今後の事だったり。文奈は、夏休みに来た依頼で金が貯まったのは良いが、武器や服が壊れることで金が無くなるのが不安だと。……俺にはその悩みがわからないが、苦労しているのはわかる。……まぁ、助けてはあげないが。
そんな会話を文奈としていると、教室のドアが開いた。
「おはよう、來貴、文奈」
「おはよう、文奈、來貴」
そこから入って来たのは、雫と黎。……何だか、前より距離が近くなっているような気がする。俺と文奈に挨拶した後、二人は自分の席に座り、和やかな雰囲気で会話を始めた。
……文奈は、無言でそれを見つめている。話しかけられるような感じでは無くなったので、俺は文奈の行動を見守る。……やがて、文奈は席を立ち、黎たちの方へ行く。そしてタイミングを見計らい、雫に話しかけた。
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「……黎君と上手くいったそうですね、文奈」
突然、肩の後ろから囁かれた声に、雫はビクッとしながら後ろを振り向く。そこには、ニヤニヤしている文奈の顔が見えた。雫は顔を文奈に近づけ、黎に聞こえない声で呟く。
「……うっさいわよ。……上手くいってる。……あ、友達としてよ? 別に、そう言う意味じゃ、無いから……」
雫の言葉を聞いた文奈は、ニヤニヤを続けたまま。何も言わない。……そこで雫は、先程のお返しをした。
「……文奈、來貴とはどうなの? あまり上手くいってないように見えるけど」
途端、文奈のニヤニヤが止まり、雫の肩を掴んで下を向く。そして、俯かせた顔を雫の耳元に近づけ、こう囁く。
「……わからないです。……ですが、前よりはマシになっている気がします」
その曖昧な答えに、雫は頷く。
「二人とも、何話してるの?」
それと同時に、黎が身を乗り出しこう聞く。
「……えぇ、ちょっとね」
「……はい、少し」
二人は黎にそう言ってから、黎も話に加える。そして、やがて來貴も加わり、四人は始業式が始まる時間の少し前まで話をし続けた。
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――――そして。
始業式が始まった。今現在、俺たちはだだっ広い体育館に集められている。一番奥にある壇上の前から三年、二年、一年の順に座っていて、全ての生徒にパイプ椅子が用意されている。だが、まだ話は始まっていない。校長が来ていないのだ。……まぁ、もうすぐで来ると思うが。
「では、始業式を始めます」
桐生先生の一言で、始業式が始まる。それと同時に、喋り声の全てが霧散した。そして、校長が壇上に上がり、机の前に立つ。そして、話し始めた。
「皆さん、おはようございます。では早速、話を始めます。……まずは、全員で二学期を迎えられたことに、心から嬉しく思います。夏休み中にも、依頼が来た生徒は沢山いると思います。そんな中で、誰一人として欠席すること無くこの場に集まれたことは、素晴らしいことです。……これから、依頼の数は増えると思います。勉学の方も、難しくなっていきます。……ですが、ここからです。頑張ってください。――以上、私からはこれで終わりです」
校長が、壇上から降りて体育館の端っこへ行く。そして、マイクを桐生先生に渡した。
……相変わらず、校長の話は短かった。……まぁ、それはどうでもいいか。ともかく、今は話を聞いておこう。
「次に、夏休み中に起こった出来事の話です」
そう言いながら、壇上に立つ桐生先生。
この学校は、今の日本の状況を全員が集まっている時に知らせるという習慣がある。……勿論、公には出来ないことが殆どだが。敵国組織が日本に侵入したり、他国の軍事機関と交流したりと。……そう言う内容が、殆どなのである。
「……まず、変わったことはあまりありません。強いて言うとするならば――――」
そうして、桐生先生は話し始める。全ての生徒が、それを真面目に聞いている。……当たり前だろう。これは、自分の生死に関わる。この情報は全て正確だ。情報が集まっていないと、思わぬ所に思わぬ敵が居る可能性がある。
それを減らすために言っているのもあるだろうが、単純に情報を知らせるためというのもあるだろう。これは、長いときは長く、短いときは短い。状況によって、時間が変わる。……長いのは面倒だが、大体の生徒が致し方無しとして話を聞いている。
「――――戦争が、始まろうとしています。皆さん、常々気をつけるように」
(……何?)
俺は、眉をひそめる。いきなり戦争が始まる、なんて言われたのだ。ほぼ全ての生徒が、ヒソヒソと話をしている。それがしばらく続き、刀華先生が「静かにしてください」と言ったことで、全員が話を止めた。
「……では、これで話は終わりです」
桐生先生が壇上を降り、刀華先生が続きの司会を始めた――――。
――――そして、始業式が終わり、教室に戻ってきた。教室内は、不穏な空気が漂っている。そうだろう。いきなり、戦争が始まる……と、伝えられた。
いくら殺し合い等を経験していて、実戦経験があろうとも……学生だ。高校生なのだ。不安が無い方がおかしいだろう。……とは言ったものの、俺に不安は無いが。だが、懸念事項はある。
(……戦争が始まる……と言ったが、何処の国と殺り合うんだ? 表向きにはされるわけが無いとして、アメリカやイギリス、ロシア……は、無いな。協定がある。――だとしたら)
そこで、俺は考えるのを止めた。これ以上考えると、憎くなりそうだったからだ。
そして、刀華先生が教室に入って来た。
「皆さん、席に……は、着いていますね。では、少し話をします」
突然、刀華先生がそう言い出した。いきなりそう言った刀華先生に、大体のクラスメイトが訝しげな目を向ける。
「――皆、そんな目しないでよ。話しづらいじゃん」
……いきなり、刀華先生から敬語が抜ける。苦笑いしながら言ったその言葉に、クラス全体の気が抜けた。それを確認して、刀華先生は小さく頷いてから話を始めた。
「……いい? 皆。……これは、教師としてじゃなく、皆の担任としてだから良く聞いてね。……まず、皆はそこまで不安にならなくて良いよ。不安になっても、何か変わるわけじゃ無いから。それに、皆が駆り出されることは……まぁ、無いと思うから。でも、一つだけ言っておくよ」
――そして、刀華先生は口を閉じる。一瞬口ごもってから、刀華先生は言った。
「……いつか、きっと。皆は成長すると思うから」
――その言葉の意味をわかっている者は、殆ど居なかった。
「――話はこれで終わり。皆、もう帰って良いよ」
刀華先生はそう言って、教室を出て行った。しばらく教室がシーンとした後、全員が動き出した。各々の荷物を取り、教室を出る。俺も、文奈たちと一緒に教室を出た……が。俺のスマホに着信音が鳴り響いた。
俺はスマホを取り出し、画面を見る。そして、通話ボタンを押す。
『今すぐ校長室に来て下さい』
いきなりそう言われ、すぐに電話を切られた。俺は無言でスマホを仕舞い、一年生の玄関まで来た道をUターンした。
「どうしたんですか? 來貴君」
文奈が、何かあったのかと聞いてくる。黎と雫も、俺の方を見ている。
「呼び出された。行ってくるから先に帰ってくれ」
そう言って、俺は校長室に向かって歩き始めた。
……帰ろうとしている中逆走していった俺は奇異に見えたようで、何人もの生徒が俺の方を見ていた。……まぁそんなことはどうでもいいので、気にせず校長室の方へ行く。
――そうして、校長室の前に着いた。扉をノックし、部屋の中に入る。
「失礼します」
そう言って入った校長室の中には、校長以外にも人が何人かいた。
いたのは、瑠璃、怜次……先生、刀華先生、亜宮先輩、瞬華先輩、桐生先生だ。……この雰囲気を見るに、恐らく……いや、俺が最後なのだろう。
「全員が集まったので、早速呼び出した理由を話しますね」
その言葉に、ここにいる全員の視線が校長に集中する。それを確認して、校長は話し始めた。
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「……今日、皆さんに『戦争が始まる』と伝えました。……その相手は、今まで冷戦状態にあったアルヴァダ帝国です」
――アルヴァダ帝国。その名前を聞いたとき、來貴は自分の目が鋭くなるのを感じた。……だが、誰も気付いていないようで安心した。
……アルヴァダ帝国。正式名称は『神聖アルヴァダ・グローリア帝国』とは、日本の南――オーストラリア大陸、南極大陸全域とインドネシア辺りを支配している、帝国主義の皇国。日本が敵対している唯一の国でもある。かなりの国力を持っており、日本だけじゃ対抗が出来ない国だ。
そのため、アルヴァダ帝国を倒すためだけにアメリカ、イギリス、ロシアの三国と協定を結んでいる。そして、100年もの間何回も戦い続けた。……だが、今は冷戦状態だ。各国がアルヴァダ帝国の動向を監視し、好きにさせないようにしている。そして、アルヴァダ帝国も表向きは何もしていない。
「アルヴァダ帝国は、戦争の準備をしていました。そして、日本に宣戦布告をしてきました。……なので、迎え撃ちます」
アルヴァダとの戦争の理由は、向こうから宣戦布告をされたからである。そして実際に、日本に刺客を送られてきている。
(……戦争の理由には納得がいった。懸念事項も無くなった。……だが、数人で迎え撃つのか……?)
そんな來貴の疑問は、すぐに晴れることとなった。
「ですが、これだけの人数で行くわけではありません」
琴音の口から、そう伝えられたからだ。そして、次の話をしようとした琴音だが、何か忘れていたように手を叩き、この場にいる全員へと聞いた。
「……後、聞き忘れていたことがありました。――この戦争に参加する意思の無い者は、校長室から出て行って下さい」
……そう、琴音が聞いてから数秒。誰も、校長室から出て行く者は居なかった。
「――それは良かったです。では、一週間後にアルヴァダ帝国へ侵入しますので、それまで準備をしていてください。……では、もう戻って良いですよ」
その言葉を最後に、全員が校長室から出て行った。
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投稿遅れて済みませんでした。でも、最近は調子が出てきたので投稿が早くなる……と思いますので、お楽しみを。




