7話「覇壊の先駆者」
「私と……今から、手合わせお願いできますか?」
その言葉と同時に、校長の体から青色の魔力が溢れ出した。そして、俺に向かって手を向ける。その手は段々青色に光っていき、暴風が放たれた。
「チッ……」
その暴風を躱したが……完全には躱しきれなかったようで、俺の体は後ろに吹っ飛ばされた。後ろの壁を使って足で着地できたが……帰っていいかな?
「……断ってもいいですか?」
「ダメです。バッグから武器を取り出すのを待ってあげますので、早く準備してください」
予想はしていたが、やはり拒否権はないようだ。やだなぁ……戦いたくねぇなぁ……校長、結構強いからなぁ……とりあえず、一応武器を出すか。
帰りたい気持ちを押し殺し、バッグから武器を二つ取り出す。はぁ……面倒だな……。
「武器を取り出しましたね。じゃあ……行きますよ?」
ドゴォンッ!
そして、俺に向かって上から雷が放たれる。だが、速度が遅いので普通に躱し、距離を取る。雷が当たった方を見てみると、地面が抉れていた。……結構な威力だな。当たっていたら致命傷だぞ。
とりあえず、お返しはしておこう。持っている武器を、校長の方に向ける。
バァンッ!
「……危ないですね。それ、実弾ですよね?」
俺の持っている銃で発砲したのだが、普通に躱された。俺が持っている武器は、銃だ。二丁持ちだけどな。たが……ただの銃じゃないんだけどな。まぁ、今はそんなことはいいか。
校長の言っているとおり、この銃に入っているのは実弾だ。まぁ、校長なら防いだり躱したり出来るだろうと思って、俺は実弾を発砲した。
「実弾ですが、どうかしましたか?」
「……まぁいいです。続けましょう」
どうやら、実弾でもいいらしいので、続けていく。とはいえ、さすがに殺すのはマズいから、ほどほどにして適当に終わろう。
「考え事ですか?」
いつの間にか、校長が接近していた。そして、腹部に向かって蹴りを放ってくる。
俺はその蹴りを銃で防ぐ。だが、校長の蹴りは魔力を纏った蹴りなので、力不足でこっちが押し切られそうだ。校長が魔力を纏うなら……こっちも魔力で対抗しよう。
金色の魔力が、俺の持っている銃に纏われる。そして、校長の足を押し返す。
「……相変わらず、綺麗な魔力色ですね」
校長はそう軽口を叩いてはいるが、その表情は苦しそうだ。俺に力負けしているので、足を押し返す事が出来ないからだろう。そう考えている内に、校長が距離を取った。
「力じゃ、さすがに敵いませんか……これは、能力で攻めるしかありませんね」
そして、校長が能力を使い、炎や雷などをポンポン放ってくる。……校長も、魔力量が多いので、かなりの回数能力を使える。だから、早期決着が好ましい。まぁ、能力を長時間使えるのは俺もだが、俺の能力は長期戦には不利なため、早期決着で決めたいのだ。
「……そろそろ、俺も能力を使うか」
最初に覇壊するのは、脳のリミッター。覇壊しすぎてほぼ機能していないが、一応壊す。覇壊するのは、脳のリミッターだけで十分だろう。
「……この感じ……能力を使いましたか」
俺の出した魔力圧を感じ取り、校長に能力を使ったことに気付かれた。まぁ、それはどうでもいいんだが。
「さ、て……そろそろ行くか」
「ッ!?」
俺は、校長に急接近し、銃で攻撃する。
俺の持つ銃は、ただの銃じゃない。魔力を込めると、刃が出る。謂わば銃剣だ。まぁ、魔力の量で強度や切れ味を調整できる。色は、魔力を込めた本人の魔力色と同じ色になる。
ギンッ!
だが、寸でのところで校長の手に纏った氷で防がれた。しかし、その氷には罅が入っている。ここままやれば氷ごと腕を切断できそうだ。やらないけど。
そう思ったが、上手くはいかないようだ。氷を使って逸らされた。逸らされて体勢が不十分なところに、左足で蹴りを入れられた。右腕で防御をしたので、そんなにダメージは無い。
とりあえず、この体勢じゃ不利だ。少し距離を取ろう。そして、約2m離れた。
「やはり強いですね、來貴君」
「……校長も、強いですよ」
「ふふ、ありがとうございます」
その言葉を最後に、俺はまた接近して攻撃を仕掛ける。右、左、上、斜め、あらゆる角度から攻撃を仕掛けるが、氷で防がれる。俺が最も得意なのは近接戦なので、あまり距離は取らせたくないし取りたくない。
そして、校長の顔を見ていると、あまりいい表情をしていなかった。
校長は、能力的に多分近接戦は得意では無いのだろう。そのせいで、あんな表情をしているのだと思う。だが、このままでは埒が開かないので、俺は仕掛けることにした。とりあえず、隙を見つけてその瞬間反応しよう。
更に、足のリミッターも覇壊する。これなら、反応してすぐに動ける。
「……あまり、近接戦は得意ではないのですがね」
「クソが……」
校長が、少し距離を取ったと同時に地面から炎を放ってきた。その炎を躱すために、結構な距離を取ってしまった。この距離だと、銃剣を振っても届かない。ただし、校長の攻撃は届く。……これは、距離を詰めないと一方的な蹂躙になってしまう。
とりあえず、今は接近できる機会を待とう。
迫り来る炎と氷を回避しながら、集中力を高めていく。回避しながら発砲もしたが、全部躱されたり風で吹き飛ばされたりした。
ワンチャン、発砲すれば当たるかなとも思ったが、そんなに甘くはないようだ。やはり、近づかなくてはならないようだ。
「……キツくなってきましたか? 來貴君」
「……まだまだですよ。そっちの方こそ、キツくなってませんか?」
「……いえ、まだまだ余裕です……よ!」
そして、校長が一気に接近して雷を纏った拳で攻撃してきた。というか、校長が思っていたより能力使いこなしている。
校長の拳に当たるわけにはいかないので、とりあえず横っ飛びで回避する。
校長自ら近づいてきてくれたので、後ろに回り込みたいが……如何せん、隙が無い。戦闘経験が違うのだろう。俺も戦闘経験は結構ある方だとは思うが、さすがに軍事育成機関高校の校長は、俺とは踏んだ場数が違うのだろう。
そして、俺は更にリミッターを覇壊し、力と速度のゴリ押しをする。これこそが、一番効果的な方法なのだ。俺が校長に勝っている点は、力と速度だけ。経験や能力の練度は圧倒的に向こうの方が上だ。
それ故に、俺はこの方法が一番効果的だと思ったのだ。
「速い……ですが、対応できないわけではありません」
しかし、校長も俺の速度に対応できていないというわけではなかった。銃剣による攻撃を手に纏った氷で防いで逸らし、そこに風や炎による攻撃を食らわせる。
……実に効率のいい戦法だ。……だが、俺にはまだ奥の手がある。
「オラアッ!」
声を上げ、迫ってきた氷を斬り校長に接近する。そして、銃剣の刃に金色の魔力を纏わせる。この技は、俺の二つ目の遠距離攻撃法だ。ちなみに一つ目は銃撃だ。
そして、金色の魔力を纏った銃剣を振る。
すると、金色の魔力が斬撃となって校長の方へ飛んでいった。とりあえず、これが当たれば幾分か楽になりそうなんだが……。
「……まだ奥の手がありましたか」
「……防がれて躱されたか」
だが、それは氷によって防いで威力と速度を殺され、いとも簡単に躱された。氷が厄介だな……唯一の固形だから、防御によく使っているが、攻撃にも使える。面倒だが、アレを使うことも視野に入れておこう。
そして、俺はまた金色の魔力を纏った銃剣を振る。
だが、それもまた氷によって威力と速度を殺されて躱される。とりあえず、隙を見て後ろに回って止めを刺したい。もう何分戦い続けていると思ってんだ。面倒だから早く帰りたい。
俺は、魔力を纏った銃剣を振りながら接近する。結局の所、接近しないと決まらない。まぁ、校長の魔力切れを狙うという事も出来るが、それは面倒だからやりたくないし、多分その場合俺が負ける。
「やはり、接近しないと決まりませんか……」
校長は、そう言いながら溜息をつく。溜息をつきたいのはこっちの方なのだが、それはこの際置いておく。
そして、校長が、雷と風を纏いながら接近する。使い勝手よさそうだな、その能力。
そんなことを考えながら、俺は全身に魔力を纏う。とりあえず、もうすぐ勝負を決めないとな。魔力が少なくなってきた。
足に力を集中して、一気に接近する。その力を込めた衝撃で、地面がひび割れるほどだ。
「な!?」
反応する間もなく接近したことで、校長は驚いている。が、すぐに対応し俺の斬撃を氷で防いだ。その後も攻撃を続けたが、ほぼ全て氷で防がれた。ちょっとは当たったが、たいした傷にはなっていない。
「……そろそろ、終わらせたいんですけどね」
さっきも言った通り、本当にもう終わらせたい。体感約10分くらい戦っているぞ。いい加減やめたい。
そして、校長は銃剣を氷で滑らせて俺の体勢を崩そうとする……が。俺は滑った勢いを使って回転し、回し蹴りをする。
しっかり腕で防がれたが、別に問題ない。
「……これで終わりです」
左手に持っている銃剣の銃口を、校長の方に向ける。引き金を引いたら、銃弾が校長の眉間を貫くだろう。
「……終わりなのはあなたですよ」
校長の言葉を聞いて、俺は視線を周囲に巡らせる。すると、俺から見て左の方に、鋭い氷が俺の首筋を捉えていた。このままだと、氷が俺の首に刺さって致命傷になるだろう。
……だが、これ位の距離なら躱せる。というか、校長だって、俺が発砲したって躱すと思う。
「……これ位なら躱せますよ。校長もそうですよね?」
「そうですね……躱せます。……では、続けましょうか」
言い終わったと同時に、俺は発砲。校長は、氷を伸ばしてきた。体を後ろに倒すことで、氷を躱す。校長は、風で軌道を逸らして躱していた。予想通り、躱されたか。まぁ、別にこれはどうでもいいか。俺だって校長の予想通り躱したからな。
とりあえず、距離を詰めて攻撃しよう。俺は攻撃法が少ないからな。それが一番効率いい。俺と校長の距離は約3.5m。この程度の距離なら、一呼吸の間に詰められる。
俺は校長との距離を詰めた。校長が瞬きをしたときに詰めたので、すぐには反応出来ないはずだ。そして、校長に向かって銃剣を振り下ろす。が、やはり氷で防がれる……直前に俺は軌道を逸らし、もう一方の銃剣で攻撃を仕掛ける。
だが、これも氷で防がれる。そして、右手を俺に向けて雷で攻撃する。それを体を横に倒して躱し、その勢いで後ろに回る。
校長は、そのことに驚きつつも、反応してこっちの方を向こうとする。
「これで終わったらいいんですけどね……」
本当に、もう終わらせて帰りたい。今はそれを置いておく。
銃剣を握り直し、より一層集中してかかる。右手の銃剣を首に向かって振る。それと同時に、左手の銃剣で左に迫っていた氷を斬る。右にも氷が迫っていたが首に向かって振る途中に斬った。とりあえず、これで大丈夫だろう。
だが、油断はしない。全方位に注意を向け、何かが迫ってないかを確認する。すると、後ろには氷が迫ってきていた。左手の銃剣で、後ろの氷を斬る。その時には、俺の銃剣は校長の首に届いていた。
「……今度こそ終わりです」
「……あなたの方こそ、終わりですよ」
俺は、校長の言葉に、顔は動かさず目だけを動かして見る。周囲には何も無いが、俺の下と上に雷が仕掛けてあった。
「……終わりにしますか?來貴君」
「……そうしときます。このままだと永遠に終わりそうにないですし」
すると、上と下に仕掛けられた雷が消えた。俺も、銃剣を引っ込める。
「……これも止めますか。さすがです」
俺が銃剣を引っ込めたと同時に、校長が蹴りを放ってきた。俺はしっかりと左腕で防御し、返しに拳を放った。まぁ、それもしっかり防御されたけど。
「というか、もう帰っていいですか? 10分以上戦っていたと思うから無駄に疲れたんで」
「待ってください。もうちょっとで終わるので」
そう言われ、俺は渋々残る。
「……さすがは、覇壊の先駆者ですね。とても強かったです」
「…………そうやって呼ぶの、やめてくれませんか?」
「はいはい、わかりました」
覇壊の先駆者……というのは、俺の二つ名だ。中学時代に、なんか付けられてた。正直、この二つ名はやめてほしい。この名前の由来は、『覇壊』という名前の付いた能力を持っているのが俺だけだかららしい。そんなん知らんわ。
「で、今度は何ですか?」
「來貴君、私が何故、君と手合わせをしたいと言ったと思いますか?」
「……そんなの知りませんよ」
そんなことを急に聞かれても、俺は人の心なんざ読めないのでわからない。心を読む能力とか持っていたら分かるのかもしれないが、生憎とそんな能力持っていない。
「答えを言いますが、まぁ……私が戦いたかったという理由もありますが、本当の理由は來貴君の強さを見たかったからです。軍事育成機関中学歴代最強と呼ばれたあなたの強さを」