63話「神とその創りものたち」
「……それは、あなたがあの神に勝てる可能性が、唯一あるからです。私達神は、諸事情で動けない。ただの悪魔や天使たちは、神を殺すに足りない。……ですが、あなたならば可能です。それを持つあなたならば、対抗できる可能性があるのです」
俺は、静かに天照の話を聞いていた。そして、天照の言葉に疑問を覚えた。
(……俺でなければ、勝てない? その理由はなんだ?)
そこが、俺には気になっていた。ドルナイトは、地上に来て弱体化していると聞いた。ならば、悪魔や天使たちでも勝てると思うのだが。一回ドルナイトに負けたとは言え、俺より強い者がいる可能性が高いからな。
「……あなたが、真の意味で選定を突破したならば、全てを明かしましょう。信じるか信じないかは、來貴さんの方で判断してくれて構いません」
……真の意味で選定を突破したら、全てが明かされる。その場合、ドルナイトの情報が集まるだろう。真の意味……と言うのが何かはあまり見当が付かないが……恐らく、アレだろう。
俺がドルナイトを殺す目的は、世界を終わらせないため。世界が終われば、俺の願いが叶わなくなる。凜姉たちが、死んでしまう。だから、俺はドルナイトを殺す。この思考が、導かれたものなのかもしれない。だが、俺はこれに逆らわないのだ。
――そして、俺は天照に一つ聞く。
「……なぁ、天照。……ドルナイトの情報に関しては、どこまで開示出来る?」
出来る限り、情報は欲しい。だが、強制的に開示させようとしても、返り討ちにされるだけだろう。俺よりも、天照の方が断然強い。見れば、わかるのだ。
……そして、天照は笑顔を浮かべてこう言った。
「良い質問ですね。それも含めて、今から話そうとしていたところです」
どうやら、それは話そうとしていたことだったらしい。俺は、天照の話を聞くことにした。
「……私達"神"は、原初の神であるドルナイトにより創られました。全てを原初たる神であり、神を束ねる王でした。より詳しくは、申し訳ありませんが明かせません。ドルナイトは、七つの源の力を以て、全てを創造しました」
――その言葉を言い終えた瞬間、天照の目が鋭くなったような気がした。
「――あなたも、その力をお持ちでしょう?」
……恐らく、いや間違いなく、万物具現化の眼の事を言っている。……万物具現化の眼は、俺が幼い頃に手に入れた能力だ。強すぎるが故にあまり使っていないが、10年以上使い続けているため練度は高いと思っている。だが、その全ての力を引き出せているとは思っていない。
ドルナイトの力だという事はオリケルスから聞いた。何故天照がそれがわかったのかは……まぁ、神だからだろう。……だが、天照の言いたいことが見えない――。
「……その力を持てると言うことは、神の力に耐えられると言うこと。……こちら側の領域に、一歩踏み出しているのです。ここは、その者達だけが来られる領域。神からは神域と呼ばれています」
情報が多いな。……だが、まだ言いたいことはありそうだ。肝心な部分が説明されていない。
「そして、ドルナイトが持つ七つの源の力。原初之誕生と呼ばれていて、七つ共に名称があります。
一つ目は、あなたが持つ万物具現化の眼。
二つ目は、全ては零と無限。
三つ目は、森羅万象の終焉。
四つ目は、宇宙の万物創造。
五つ目は、理念と概念の理。
六つ目は、不屈で不服な心。
七つ目は、全知全能の因果。
……この七つが、ドルナイトが持っていた原初之誕生の力です」
――とても凄い名前だ。俺が最初に抱いた感想は、そんなどうでもいいような事だった。……いや、案外どうでも良くないな。その名前からどんな能力かが予測出来ない。神の能力だから、俺の創造の上を行く力である可能性は十分ある。
……大方は予測出来る。しかし、単語の組み合わせのせいでよくわからない。
「……この力の詳細は、あなたが真の意味で選定を突破したならば教えられます。……申し訳ありません」
天照の言葉を聞き流しながら、俺は今後について考える。……とは言っても、俺はネルやオリケルス、ジェイド以外の悪魔とは会ったことは無いし、天使とは存在すら見たことが無い。
……だが、オリケルスは「いずれ会うだろう」と、言っていた。いつか……会うときが来るのだろうか。
「……そう言えば、聞きたいことがあったのですが」
天照が、思い出したかのようにそう切り出す。
「あなたが手にしている、万物具現化の眼は何処で手に入れましたか? 私たちの方でも探したのですが、あまり見つからなくて……他の能力は大方わかっていたのですが」
天照にそう言われ、俺は万物具現化の眼を手に入れた"あの時"を想起する。あの時は――――。
「……日本の東京だ。そこに、眠っていた」
「情報、ありがとうございます。地上にある神の力は、見つけやすいのですがね……」
そう、天照が呟いた後。天照の顔つきが変わった。
「私から言えることはこれだけです。……では、最後に一つ」
天照の顔は、いつの間にか髪に隠れて見えなくなっている。……だが、その奥に一粒の涙が見えた。
「――必ず………………いえ、やっぱり良いです。……では、現世へと戻します」
……最後に、天照が言おうとした言葉。それが気になったが、俺は聞けなかった。聞こうと思ったときには、もう、現世へと戻っていた。
言いかけていた、必ず……という言葉が聞こえた。これは、何なのだろうか。俺は全てを知らないため、よくわからない。今は俺だけが、この事情に巻き込まれているが……凜姉たちは、巻き込みたくない。
俺だけの事情では無いが、凜姉たちが関わる必要は無いし、危険を冒す必要が無い。それにこれは、俺の感情も混ざっている……。
――そんな決意を胸に、俺は目を開けた。
周りを見渡してみると、文奈たちはちょうど目を開けた頃だった。参拝が済んだため、文奈たちと一緒に足早に賽銭箱の前からどく。
……そして、文奈と雫がある話題を切り出した。
「……あの、來貴君。どんなお願い事をしましたか?」
「それ、気になるわね。來貴って、お願い事しなさそうなイメージあるし」
……そう、俺がした願い事に関してだ。その質問に、俺はこう返した。
「……していない。ただ金を入れただけだ」
金を入れたのは間違っていないし、願い事は……していない。だから、この返答は間違っていない。
「そうなんですね……それって、ただ損しただけのように見えるんですが」
「私もそう思うわ……ねぇ、黎? あなたはどうなの?」
さらっと逃れようとしていた黎の肩に、雫が手置きながら声を掛ける。
その後、どんな願い事をしたのかを尋問していた。……その結果、黎はどんな願い事をしたのかを吐いた。……黎の願い事を聞いた雫は、顔を真っ赤にしていたと言うことだけ言っておこう。そして、黎たちは戻ってきた。
――黎が自分も願い事を言ったのだから、雫たちも言ってほしいと抗議をした。雫たちは元々言うつもりだったらしく、抗議を受け入れた。……そして、どんな願い事をしたのかを言った。最初は、文奈から。
「私は……皆一緒にいられるようにってお願いしました……」
最後の方、文奈が何を言ったのかが聞き取れなかった。だが、最初の部分は聞こえていたので問題は無いだろう……。
……そして、次は雫の願い事。雫の願い事は、健康でいられますようにという願いだった。他にあるそうだが、それは教えてくれなかった。黎は知っているそうだが――――。
――――そして、伊勢神宮を出て雫の別荘へ戻ってきた。今は、昼食を取っている。もう午後1時を回っているためだ。
振る舞われた昼食は、高級料理のフルコース。とは言っても、食べられる分だけ振る舞われたが。
食べ終わった後は、十分間休憩。その後、東京へと戻る予定だ。何故一時間休憩するのかは、単純明快。満腹を無くすためだ。フルコースを食したので、皆腹がいっぱいなのだ。俺は大丈夫だが、他が大丈夫じゃ無かった。
車での帰路は、揺れることが多い。それに、なので、満腹をある程度無くした方がいいと言うことになったのだ。
その間は、文奈たちと話して過ごしていた。とは言っても、俺はあまり話していないが。……いつものことか。
――そうして一時間経った後は、荷物を持って黒い高級車に乗り込んだ。行きにここに来たときと同じ車だ。中はとても快適で、揺れ一つ感じない。……休憩した意味があったのかを感じるが、休憩の効果はあるだろう。
文奈たちは休憩する十分前、かなりやつれた表情をしていた。出された料理をかなり食べていたからだろう。……途中で止めておいた方がいいんじゃ無いかと忠告はしたが、おいしいのでもっと食べるとか言って無視していた。……まぁ、本人が良いのなら良いだろうと、俺は考えないことにしていたが。
そして、車に揺られて帰る中、俺は一つの事を考えていた。
(……天照は……ドルナイトの事を、全てを創造した神だと言っていた。神さえも創造したドルナイトに、勝てる可能性があるのは俺のみ。……それは、神達でも勝てないと言うこと。……俺は神じゃ無い。原初の悪魔でも無い。……そんな俺だけが、勝てるのか……?)
思考が、沼にはまりそうになっている。そこで俺は、その事について考えるのを止めた。別のことを考えようと思ったのだ。
(……いや、やっぱりいいか)
だが、考えるのを止めた。考える必要は無いと思ったのだ。いずれ来る運命に、怯える必要は無い。必ず、乗り越えなければならないのだから――――。
――――そして、東京の家へと帰ってきた。帰ってきた今は、部屋のベッドで寝転んでいる。……少し休みたいのだ。
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――天照は、一つ、考え事をしていた。
(……あれでよかったのでしょうか。來貴さんに説明したこと……)
天照は、思考を巡らせている。來貴に話したことが、本当に良かったのか。それを、考えていたのだ。
來貴に話したことは、全て真実である。來貴しかドルナイトに勝てる可能性が無いこと、來貴が真の意味で選定を突破したら全てを明かすこと。これら全て、本当なのである。
だからこそ、これらを話して良かったのかを考えているのだ。
「……どうした? さっきから悩んでいるようだが」
天照が考え事をしていると、後ろから声が掛かってきた。天照が後ろを見てみると、数少ない天照と対等の神――オーディンが話しかけて来た。
天照はオーディンの登場に、少し顔を顰めそうになった。だが、自身より経験を積んでいるオーディンに話してみるのも良いかもしれない……と、そう思った。
「人間の中で唯一、悪魔の選定を突破した者――結月來貴に、一部の真実を話しました。……これが本当によかったのか、考えていたところです」
話を聞いたオーディンは、考える素振りも見せずこう言った。
「――良いんじゃなかろうか」
「えっ」
オーディンから帰ってきた意外な返事に、天照は思わずそう声を漏らした。そんな天照を余所に、オーディンは話し始める。
「その結月來貴という者は、私も知っている。天使たちから、人間が悪魔の選定を突破したという報告が来たからな。私の方である程度調べていた。……結月來貴は、とても強い魂と力の持ち主。だが、人間という枠組みに捕らわれているせいで、その全てを発揮出来ていなかった。彼奴は、こちら側の領域に来れば来る程強さが倍増する。……その者に降りかかる運命は、重いだろう。だが、先は明るい。……きっと、明るい未来を……ドルナイト様を、救って下さるだろう」
オーディンの言葉を聞いた天照は、言葉に違和感を覚えながらも納得した。
來貴は強く、その運命は重い。だが、その先は明るい。來貴ならば、500年以上前から続いている滅亡の定めを回避出来るかもしれない。……そう、考えたのだ。
それに、來貴ならば力を悪用することも無い。一回の対話で、無愛想なのは感じた。だが、悪に染まっているわけでは無いとも感じたのだ。
天照たち神は、ドルナイトの部下複数に阻まれ動けない。他にも、管理が理由だが。
……地上へ行っても、神は全ての力を発揮出来ない。ドルナイトも同様だが、それでも最強だ。他の有象無象の神は、創造主には敵わない。何せ……ドルナイトは神で、他はその創りものなのだから。
來貴は、その創造主の力の一端を持っている。それが勝てる可能性の一つであり、來貴がドルナイトと同じだという証明なのだ。
(……頑張ってください、來貴さん……)
――心の中で、天照はそう想ったのだった。
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