61話「浦坂黎と銘仙雫 ~淡く光る心~」
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夏祭りが終わってから、三日が経った。その日の朝方、雫は黎の家を訪れていた。二人はとても仲が良く、よく遊びに行ったり一緒に居たりしている。そのため、互いに互いの家を知っていて、よく雫が黎の家に行く。ちなみに、この逆もある。
雫が黎の家に来た目的は、単純に遊びに来ただけ。他にも、黎に会いたいと言う目的があるが……。
そして、雫は黎の家のチャイムを鳴らす。数コール鳴った後に、黎が玄関から出てきた。
「いらっしゃい、雫。入って」
黎はそう言って、雫を家の中に入れる。その後、黎は雫を客間に連れて行く。……一瞬、自分の部屋に連れて行くという選択肢が脳裏によぎったが、さすがに女子を自分の部屋に連れて行くのは無いだろう……と考え、その選択肢を排除した。
そして黎は、雫にお茶を出す。それを雫は受け取り、一口飲む。飲み終わったところでで目の前の机に置き、口を開く。
「……今日、来たのは……」
雫は、黎から顔を逸らしてしまった。それは、三日前の事を思い出したからである。黎にぬいぐるみを取ってもらい、はしゃぐ自分の姿。それを見られたことを、雫は忘れていなかった。そして、それを思いだし顔を赤くした様子を、黎は見逃していなかった。
だが、どうすればいいかわからないようである。黎はこういう女性経験があまりないので、対処がわからない。心の中であたふたしていたが、途中で必要無いと止めた。
雫が、顔を赤らめながらも自分の方を向いたからである。
「今日! 来たのは……夏祭りの時のお礼のためよ」
雫はそう言い、黎に近づく。そして、持って来ていた鞄から何かを取り出し、黎に渡す。黎はそれを受け取り、雫にこう尋ねる。
「これは……?」
「……タオル。お礼にあげる」
雫が黎に渡したタオルは、ピンクの花柄で可愛い柄となっている。黎は使わないかなと雫は懸念していたが、黎は「ありがとう」と笑顔で受け取ったので、それはないだろうと考えた。
「ねぇ、黎。お礼も終わったから遊ぼ?」
そう言った雫は、既に遊ぶ準備をしている。何をして遊ぶのかというと、ゲームである。黎の家にはゲームが多い。逆に、お嬢様な雫の家にはゲームが少ない。そのため、ゲームをするため雫は黎の家に何回も訪れているのだ。
「わかったよ。やろう、雫」
そして、黎も雫と一緒にゲームを始めるのだった――――。
――――そうして、黎と雫がゲームを始めて数時間が経った。二人は今、黎の部屋にいてゲームをしていた。現在は、少し疲れたとの頃で休憩をしている。
休憩している途中で、雫は黎に話しかけた。
「……ねぇ、黎。なんで黎は、銃器の扱いが得意なの?」
ふと、雫が疑問に思ったことである。今まで黎と一緒に遊んでいたりしていたが、雫は黎の事はあまり知らない。黎も雫の事をあまり知らない。そこで、雫は黎の事を知ろうと考えたのだ。
「……雫。今から、僕の過去を話すよ」
黎の顔が真剣なものとなり、雫も顔つきを変える。
――そして、黎が話し始めた。
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浦坂黎は、浦坂家に生まれた。浦坂家は、能力を持たない軍事機関に関わる家系の一つ。父は暗殺の名手、母は諜報の名人として今も活動している。そこで、黎にも軍人となるための教育がされた。
黎は、父の才能を見事引き継ぎ、銃器の扱いはとても得意であった。同時に、暗殺もお手の物であった。……だが、諜報はあまり得意では無かった。これは黎の性格による問題だが、どうしようも無かった。
これを黎と黎の両親は仕方ないと捉え、銃器と暗殺の才能に磨きを掛けた。
小学校に通いながらも磨き続けてきたため、黎の暗殺の腕前は、子供の頃の父を上回ると言われた。友達はあまり居ないが、両親が比較的家に居たためあまり寂しくは無かった。
……そうして、黎は中学生になった。勿論、軍事中学校の生徒だが。
そして、黎は中学で順調に依頼をこなしていった。依頼は複数人で行くことが多かったが、仲間とのコミュニケーションは最低限取れていた。黎はそこが少し心配だったが、意外となんとかなるものだと感じていた。
黎たちの元に、ある依頼が舞い込んできた。
それは、「ある組織の大元を掴め」というもの。黎たちはその依頼を受け、十数人で依頼へと向かった。その依頼は成功し、根源を掴むことが出来たが、帰還途中に敵に追い詰められた。黎は、後ろの方での援護をしていたが、銃弾を味方に当ててしまった。
幸い、当たった場所は腕なので致命傷にもならず後遺症も残らなかった。その者も気にしていなかったが、黎はその事を気にしていた。
それから、黎は一人で依頼へ行き始めた。
そのまま中学を卒業し、軍事育成機関高校へと入学した。黎は誰とも関わらない予定だったが、両親からの助言で、信頼できる人は一人以上は作っておいた方がいいと言われたため、まず隣の席の雫や偶然いた來貴、そして文奈と関わっていた。……だが黎にとって、文奈との関わりは成り行きである。
雫、來貴、文奈、自分の四人でよく一緒に学校生活を過ごしていた黎は、ある依頼で雫と同伴することになった。黎はそれにあまりいい顔をしなかったが、雫から一緒に行こうと言われて断るにも断れなかった。
――そして黎は、雫と一緒に依頼へ赴いた。
黎は、その依頼で、雫の事が気になり始めた。その成り行きは、この依頼にある。この依頼は、密入国をしてきた敵国工作員を殺せという依頼だった。雫が前方、黎が後方で殲滅をしたのだが、一回雫に銃弾が当たりそうなときがあった。だが、雫から銃弾が逸れたので当たらなかった。
これは雫の能力による影響で、銃弾の軌道で逸れたのだ。雫はその事を黎に話し、そこから二人は一緒にいる事が多くなった。
そして、黎は――――。
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「……これが、僕の中学時代までだよ。……まぁ、つまらない話だよ」
そして、黎は過去を話し終わった。話したのは中学までだが、黎にとっては中学までより高校からの方が記憶に残っている。
黎の過去を聞いた雫は、黎の事を知れたのが嬉しかった。そして、過去の嫌なことや嬉しかった事を自分に話した黎に、自分の過去も話そうと話を切り出した。
「……ねぇ、黎。私の過去の話も聞いて?」
雫が、黎に近寄る。そして、自分の過去を話し始めた。
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雫は、銘仙家の長女に生まれた。上に兄が一人いて、父と母の四人家族。
銘仙家は、軍事機関の中枢の家系の一つ。それ故に、強力な家系の一つでもある。そのため、高い才能と能力を持って生まれた雫が軍人として教育されるのは、自然なことだった。
そして彼女は軍人として教育され、能力や魔力の使い方、そのほか銃器の扱いなどあらゆることを叩き込まれた。六歳になると、軍事小学校に通わされた。そこで、軍人としての基礎を学びながら、家での教育。十歳になると、人殺しを経験した。
勉強と訓練の日々を繰り返し、雫には遊ぶ時間が無かった。ただ、休みたいと言ったら休ませてくれたが。そして、友達も居ない。それ故、世間知らずだった。
中学に入学した後は、勉強と訓練の量が減り遊ぶ時間が取れたが、それでも少なく、雫は退屈していた。軍人としての生活は充実していたが、自分の生活は充実していなかった。
高校へ入学した後は、勉強と訓練を全て自分でしろと言われ、自分の時間を多く取れるようになった。そこで、隣の席の黎が話しかけて来て、いろいろ話していく内に友達になった。そして、初めて黎の家に遊びに行ったとき。
ゲームなど、遊べるものが沢山ある黎の家に感動した。雫は度々黎の家に遊びに行っては、ゲームをしたり話したりして過ごしている。
逆に、黎が雫の家に遊びに行くときは、勉強したり、話したり。そうして過ごしている内に、雫は毎日が楽しくなった。友達も、黎を始め、文奈、來貴、その他能力科の女子一年生たちと少ない方だが、零では無い。雫はその中で黎と一番過ごしている。
そして、雫は――――。
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「……これが、私の過去。まぁ、大したことは無いけれど」
雫はそう言いながら、黎の方を見る。すると、黎は雫の手に触れた。
「ちょ、黎!? 何……してるの?」
黎の行動に、雫は顔を赤らめながら意味を聞く。雫の質問に対し、黎は微笑を浮かべながら答える。
「雫が、なんだか寂しそうだったから」
その一言を聞いた雫は、真っ赤な顔を伏せて黎と目を合わせないようにする。だが、手は繋がったまま。そして、雫も黎に反撃する。
「黎も、悲しそうになってるわよ」
その一言を聞いた黎は、顔が赤くなるのを感じた。そして、雫から顔を逸らす。
黎と雫の間に、手を繋いだまま目は合わせていないという気まずい状況が続く。その状況に耐えられなかったのか、黎が雫に話しかけた。
「……ねぇ、雫。ゲームの続きしない?」
「……ええ! やりましょう」
雫が黎の提案を受け、ゲームの続きをする。
その間……二人の距離は、いつもより近かったような――――。
――――そして、昼頃。雫は、黎の家で昼ご飯を食べることになった。雫の事は黎の両親も知っていて、親公認の仲みたいになっている。これは逆も同じで、黎の事は雫の両親も知っている。
今日は黎の両親が休みであるため、黎の母親が食事を作る。四人分のため、少し時間が掛かると黎の母親は思っていたが、雫が申し訳ないと思い手伝ってくれたので、比較的すぐに終わった。
そして、四人で昼ご飯を食べ始める。全員で「いただきます」と合掌し、箸を動かす。
(おいしい……)
それが、雫の感想だった。黎の母親が作った料理は、とてもおいしかったのだ。雫の家では、両親が忙しいため大体家の使用人が料理を作っている。そのため、家族と一緒に食事をしたことが殆ど無かったのだ。それでも、一週間に一回はそう言う時間があったので寂しくは無かったが。
そうして昼ご飯を食べ始めて少し経った頃、黎の母親が爆弾を投下した。
「そう言えば、黎は雫ちゃんと付き合ってるの?」
その発言に、黎と雫は思わず吹き出しそうになった。そして同時に、顔がとても赤くなったのを感じる二人。それを見て、黎の母親は微笑を浮かべる。その隣にいる黎の父親は、無言で黙々と食べ進めている。
「つ、付き合ってないよ!」
黎は母親の発言を否定し、横にいる雫を見る。雫は赤い顔のまま上の空で、黎に見つめられている事にしばらく気付かなかった。そうして数秒後、雫は黎に見られていることに気付いた。
雫は挙動不審になりつつも、平然と装う。そして、黎の意図を察して頷く。
そして、再び食べ進める。そこから会話は無かったが、黎と雫の二人の間には良い雰囲気が漂っていた。
そうして、全員が昼ご飯を食べ終わった。全員で「ごちそうさま」と言い、食器を片付ける。食器を片付け終わった後、黎と雫は再びゲームをする。今しているゲームは、朝にしていものとは別のもの。二人は楽しんでゲームをしていた。
四時を過ぎた頃に、黎の部屋のドアがノックされた。ドアを開けてみると、そこにいたのは黎の父親だった。
「黎、学校から依頼が来ている。どうする?」
そして、開口一番こう言った。父の言葉を聞いた黎は、その依頼の詳細を聞く。
父が持って来た依頼は、ある監視カメラに映った密入国者たちの暗殺。行くのは複数人でも構わない。……というものだ。
夏休み中にも、依頼が来ることがあると黎は聞いていた。だが、なんでこんなタイミングに来るのか文句を言いたくなった。それと同時に、雫の方を見る。雫は横で黎たちの様子と話を聞いていて、その内容にビックリしていた。雫も、まさかこのタイミングで依頼が来るとは思っていなかったのだろう。
黎は、受けるか断るかを考えていた。そして、今は雫がいるため断ろうと考えた。その場合、父がやるだろう……と考え、口を開こうとしたときだった。
「黎、受ければ良いんじゃないかしら? なんなら、私も行くし」
「……雫?」
横から響いた雫の声に、黎は戸惑いを隠せなかった。だが、雫がそう言うなら行こうと考えた。
「……受けるよ。今から武器を取りに行ってくる。雫、武器は? ……って、無いよね」
黎の一言に、雫は微笑を浮かべる。そして、こう言った。
「武器は必要無いわよ」
雫の自信ありげな言葉に黎は頷き、黎は雫を連れて依頼へと行った――――。
――――黎と雫が受けた依頼は、簡単に終わった。密入国者たちは依頼が意外と多かったが、黎の狙撃と雫の能力による嵌め殺しですぐに終わった。
雫の能力で、空気と圧力の流れを操り動けなくして呼吸を止める。それを逃れた者は、全て黎の狙撃で死亡。しばらく時間を過ごした後、密入国者たちは全て死亡した。
その後、報告だけして黎の家に戻った。その頃にはもう六時で、辺りが暗くなり始める時間だった。そこで、雫は帰ることにした。
「……またね、黎」
「うん、またね、雫」
そう、最後に言葉を交わした後、雫は帰って行った。
この日、二人は自覚した。
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