60話「夏祭り・後編」
「あ、來貴君じゃないですか」
その声が聞こえた方へ、俺は顔を向ける。そこには、文奈が立っていた。今日の文奈は、普通の私服姿だ。凜姉や琉愛のように浴衣では無い。
そして、その表情は何故か可笑しなものを見たかのようになっている。その表情のまま、文奈は俺のように近寄ってきた。
「……來貴君って、金魚すくいするんですね」
文奈はそう言った後、クスッと笑った。……何かおかしいのだろうか。まぁ、多分おかしいとか言う話では無いと思うが。だが、さっきの言葉は聞き捨てならんな。
「いや、來貴君が金魚すくいしてる姿を想像すると……つい、笑えてきます。來貴君って、そんな事するような人には見えませんから」
「……俺が何しようといいだろ」
俺の言葉に文奈は微笑を浮かべつつ、文奈は俺の隣に立つ。
「來貴君、折角ですから一緒に回りませんか?」
文奈にそう言われた俺は、一瞬で思考して結論を出す。
「……あぁ、行こう」
断る理由が無かったので、俺は文奈の申し出を了承した。そして、俺は文奈が行きたいところに連れて行かされた。その場所は意外に遠く、歩いて十数分掛かった。
そして着いた場所は――――。
「あら、文奈。遅かったじゃない」
「あれ? 來貴もいるの?」
――――夕凪公園だった。この公園は、ベンチと机が沢山ある。夏祭りの会場の範囲内にあり、屋台と寛いでいる人がいる。そして、文奈と俺が来た所には、黎と雫が二人で楽しそうにしていた。
二人が向き合っている机の上には、屋台で買ったであろう品が乗っている。
「お待たせ、雫、黎君。來貴君は、途中で見つけたから連れてきました」
文奈の言葉に、黎と雫は「そうなんだ」という表情を浮かべて頷く。その後、俺は黎の隣に、文奈は雫の隣に座る。座った後、黎からたこ焼きを手渡された。文奈も同様に、雫からたこ焼きを手渡されていた。
「これ、あげる。食べてみて」
黎の言う通りに、俺は爪楊枝が刺してあるたこ焼きを一つ、食べる。文奈も雫に言われて、たこ焼きを食べていた。味の方は……とてもおいしかった、とだけ言っておく。ちなみに、深い意味は無い。
「近くの屋台で買ったんだけど、おいしかったから來貴たちにも食べてほしくて……一つ、多めに買っておいてよかった……」
そう言いながら、黎は自分の近くに置いてあるたこ焼きを一つ食べる。食べたときの反応からして、それは本当なのだろう。そして雫も、近くにあるたこ焼きを食べていた。全員が一つ食べ終わった後、雫がおもむろに話し始めた。
「ねぇ、夏休みの宿題って終わった?」
そして、俺たち三人にそう聞いてきた。まず始めに、文奈が雫の質問に答えた。
「私はまだ終わっていません。ですが、もう少しで終わりそうです」
文奈の回答に、雫は「なるほど」と頷く。その後、黎が話し始める。
「僕は……まだ半分くらいしか終わってないよ。でも、そのうち終わるかな。雫はどうなの?」
黎がそう言った後に、視線を浴びた雫はこう言った。
「私は、もうすぐ終わるところ。帰ったらやる予定よ。……そう言えば、來貴はどうなの? なんか喋ってなかったけど」
三人の視線を受け、俺は答える。
「もう終わっている」
俺の言葉を聞いた文奈は、大して驚いていない。対照的に、黎と雫はとても……とまでは言わないが、驚いていた。驚いている黎と雫を余所に、俺では無く文奈が話し始めた。
「來貴君って、夏休みが始まって三日ぐらいでほぼ終わらせてませんでしたっけ?」
文奈が俺にそう聞いてくる。その質問に対し、俺は少し考えてから答えた。
「……そうだな。その頃にはもう終わっていた。……まぁ、記録系の宿題は残っているが」
これだと宿題が終わっていないようになるが、これは仕方ない。記録系の宿題はすぐに終わらせられないのだ。……偽装の記録を書けばいけるが、そんなことしたらすぐにバレて待つのは指導だ。そんなのは面倒なので、俺は地道にしている。
「そうなんだ……凄いね、來貴」
黎がそう言いつつ、またたこ焼きを一つ食べる。……この様子を見ていると、話に興味が無さそうに見えるのだが。まぁ、別にどうでもいいか。
そんなことを考えつつ、俺もたこ焼きを一つ食べる。そこで雫が、ボソッと呟いた。
「……夏休みの宿題って、約三日で終わるものなのかしら」
その呟きは文奈と黎に聞こえていて、二人は同時に頷いた。そして、続けて黎が喋る。
「頭がとても良くて、宿題をひたすらやり続ければいけるかもね。……でも、來貴ぐらいしか出来なさそう」
黎の言葉に、雫と文奈は頷く。……いつまで続くんだ、これ。そう思いつつ、残りのたこ焼きを食べた。
話が終わらなくなりそうになった頃、雫がある提案をした。その頃には、机の上に置いてあった食品は全て食べ終わっていた。雫は、この時を狙ったのかもしれない。まぁそれはいいとして、雫の提案はこういうものだった。
四人で屋台を回ろう。……要約すると、こうであった。雫の提案に、俺たち三人に異論は無かった。
と言うわけで早速ゴミを片付け、屋台を回り始めた。
始めに来た場所は、食べ物がある屋台では無く射的などの屋台がある場所だ。そこへ行った後、文奈と雫が射的をやり始めた。黎は雫の方へ行っていて、俺は文奈の方へいる。……見事分かれているが、後で合流するので問題は無い。
バァンッ!
文奈が発砲した。まぁ、発砲したのは実銃では無く射的の銃だが。その銃から輪ゴムが射出され、景品のぬいぐるみに勢いよく当たる。そして、ぬいぐるみは景品が乗っている台から落ちていった。それを確認して、文奈は舞い上がった。
「やりました!」
屋台の店主からぬいぐるみを受け取り、そう言いながらぬいぐるみを見せてくる文奈。その顔には、花が咲くような笑顔が浮かんでいた。そしてまた、金を出して射的をやり始めた。
文奈が次に狙うのは、一番上にある大きなぬいぐるみ。
(……これは、射的で落とせるのか?)
俺が最初に抱いた感想はそれだった。とは言っても、工夫を重ねれば落とせるだろう。それに反則だが、能力を使えば楽勝だ。……まぁそれはともかくとして、見届けるか。
バァンッ!
銃からゴムが射出され、ぬいぐるみの脳天にヒットする。だが、少し動くだけで倒れなかった。
「倒れせませんでしたか……」
文奈はそう呟きながら、肩をすぼめる。その様子を見て、俺は文奈に近づく。
「貸せ」
「えっ……?」
戸惑う文奈を余所に、俺は金を払って輪ゴムを銃口につける。そして、振り具合を確かめる。何をしているんだとう目で文奈と店主から見られ、ついには文奈に話しかけられた。
「……何してるんですか? 來貴君」
文奈の質問に、俺は正直に答える。
「振り具合だ。これが重要だからな」
「お客さん、何をするつもりで……?」
店主にそう聞かれるが、気にしない。そして、銃身を両手で握り、勢いよく振りながら発砲する。
バァンッ!!
先程よりも大きく音が鳴り、景品のぬいぐるみは輪ゴムに当たって倒れた。これは、振りの時の風圧により輪ゴムの射出速度と威力を高めて落としたのだ。……まぁ、タイミングを正確に計らないとそもそも当たらないが。
その後、驚きながらもぬいぐるみを渡してきた店主からぬいぐるみを受け取り、文奈に渡す。
「あ、ありがとうございます、來貴君」
文奈はそう言いつつ、ぬいぐるみを受け取った。
そして、ぬいぐるみを抱きしめ笑顔になる。その微笑ましい様子を見つつ、俺は黎たちの方を見た。
side ~浦坂黎~
僕は今、雫と一緒に射的に来ている。正確には來貴たちも一緒なのだが、今は別の屋台でそれぞれ射的をしている。
その雫は射的で、景品を狙っている。その景品とは、ぬいぐるみである。文奈と雫は射的の屋台にあるぬいぐるみが欲しかったけど、違うぬいぐるみを欲しがったため一旦分かれたというのが別々な理由だ。
バァンッ!
雫が屋台の銃を発砲し、屋台の景品台に置いてあるぬいぐるみに輪ゴムを見事当てる。そして、ぬいぐるみが倒れた。
店主からぬいぐるみを受け取り、柄にも無くはしゃぐ雫。
「黎、見て! やったよ!」
僕の目の前ではしゃぐ雫は、とても可愛い。……本人の前では絶対言えないけど。
そうしてはしゃいでいる自分に気付いたのか、雫ははしゃぐのを止めた。その代わり、ぬいぐるみを僕に預けて再び射的をやり始めた。
雫が狙うのは、この屋台の中で一番上にあるぬいぐるみ。それは先程のよりも大きく、倒すのは難しそうだ。……僕は持っていないからあまりよくわからないけど、能力を使えばいけそう。でも、反則だけどね。
屋台の銃を発砲し、雫はぬいぐるみを狙う。そして、輪ゴムは見事命中したが、ぬいぐるみは倒れなかった。その後、また雫はやり始めたが、ぬいぐるみが倒れることは無かった。
「……雫、貸して」
「黎?」
僕は雫から屋台の銃を受け取り、僕は輪ゴムを付けて構える。……ただ、普通に構えるわけじゃない。スナイパーライフルを構えるようにして、僕は狙う。
バァンッ!!
輪ゴムはぬいぐるみに命中し、ぬいぐるみは見事倒れた。これは、ぬいぐるみの重心の部分を狙い、輪ゴムを工夫して掛けたから。そうしなかったら、多分倒れてなかったと思う。そして店主からぬいぐるみを受け取り、雫にそのぬいぐるみを渡す。
「……ありがと、黎」
雫は少し顔を赤くしながら、そのぬいぐるみを受け取った。その後、雫は大事そうにしてぬいぐるみを抱えた。その様子は、とても微笑ましく可愛かったとだけ言っておく。
side out
俺は黎たちと再び合流し、屋台を回り始めた。
射的などがある屋台がある場所でいろいろ巡り、少し経った時。雫がコソコソ文奈に何かを話し始めた。
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雫は、來貴と黎が少し離れるタイミングを狙って文奈に近づいた。そして、文奈の耳元で囁く。
「……ねぇ、文奈って來貴の事が好きなの?」
「……えっ!?」
雫の言葉を聞いた文奈は、顔が一気に紅潮しそうになったが、文奈は気合いで抑える。そして、雫に近づき抗議の声を上げる。
「いっ、いきなりなんてことを言うんですか……!」
だが、文奈の声には動揺が混じっている。それを雫は見抜き、追い打ちを掛ける。
「……來貴の事、好きじゃないの?」
からかうような口調で問う雫に、文奈は反撃する。
「……確かに、私は來貴君の事が好きです…雫は、黎君の事どう思ってるんですか?」
文奈の言葉を聞いた雫は、顔を紅潮させつつも反撃する。
「……私は、黎の事が気になる、だけ……だけど。と、とにかく! この話はもう終わり! 速く行かないと置いてかれるわよ!」
雫はそう言い捨て、早足で來貴と黎がいる方へ行く。文奈も、雫に続いて來貴と黎の方へと行った。
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そして、俺たちが屋台を回り始めて数時間経った。今や5時で、俺は凜姉たちが今どうしているか心配になった。その事を頭の隅に置きつつ、文奈たちと回っていると、ある人物たちを見かけた。
「……司先輩、食べ過ぎじゃないですか?」
「ん? これくらい普通だろ。お前ももっと食うか?」
「……いえ、大丈夫です。竜二先輩からも何か言ってくださいよ」
「俺と司は鍛えてるから、これじゃ食い足りねぇよ。お前も鍛えてるんだろ? なら、もっといけるだろ」
「まぁ……いけますけど」
白凪と天上先輩と竜二先輩だ。……見ただけにしておいて、文奈たちについていくか。そして俺は、白凪たちをスルーした。
そうして文奈たちと屋台を回っていると、気になる声が聞こえた。
「あの……止めてください」
「え~いいじゃ~ん。俺達と遊ぼ~よ~」
……どうやらナンパをしているようだ。この声だけを聞くと、女性の方が迷惑しているな。というか、凜姉の声に似ていたような気がするんだが。いや、まんま凜姉の声だ。行くか。
文奈たちにトイレへ行くと伝え、俺は凜姉のナンパをしている輩に近く。そして、そいつの肩に手を置く。
「おい、何をしている?」
俺の声を聞いた輩は、面倒そうに顔をこちらに向ける。俺の方が輩より身長が高いので、見下す形となっている。
「な、なんだよ……!」
輩がそう言ってきたので、俺は言葉を返す。
「その人が迷惑しているだろ。さっさと帰れ」
「……う、うるせぇ!」
凜姉をナンパしていた輩は、そう言って殴りかかってきたが、普通に躱した。その後輩をひっくり返して、地面に叩きつけた。もう用は無いので、凜姉を連れて少し離れた。
「……助けてくれてありがとね、來くん」
凜姉はそう言っているが、大して困っていなかったかのように見えた。
「あの程度なら倒せたんじゃないか?」
そういう訳で、凜姉に聞いてみる。そして、凜姉から回答が返ってきた。
「……だって、來くんの姿が見えたから大丈夫かなって」
……それだと、俺が必ず助けるみたいになるが……まぁ、いいか。それよりも、ふと気になることがあった。
「そう言えば、琉愛は? 百々海先輩とも一緒に回っていなかったか?」
「琉愛と水月は、向こうでお手洗い中だよ。その途中で絡まれて困ってたから、助けてくれてありがとね、來くん。水月はもうすぐ来ると思うから、一緒に待っててもらっていい?」
凜姉にそう言われ、待つこと数分。百々海先輩と琉愛がやってきた。
そして、俺は文奈たちの所に戻ろうとしたが――。
「來くん、一緒に行かない?」
――凜姉にそう言われた。……だが、文奈たちを待たせているためそちらに戻りたい。そう言う旨を凜姉たちに言ったのだが、私たちも行くと言ってついて来た。
そして、文奈たちが待っている所へ行くと――。
「……來貴君、随分遅かったですね。何をしていたんで……すか?」
「お、結構多くなったな」
「來貴君が女の子たちを引き連れてる……」
――なんと、白凪たちや瞬華先輩たちがいた。瞬華先輩がサラッと言ったことが少し気になったが、触れると何かが起こりそうなのでスルーを決める。
そうして、俺はこの場にいる人たちと談笑をして時間を過ごした。その時間の中で、屋台で食べ物を買ったり遊んだりしていろいろやって、楽しかった。
ちなみに白凪たちと瞬華先輩たちと文奈たちは、偶然出会い、同じ学校なので自己紹介をしてそのまま仲良くなったそうだ。
そして七時になり、そろそろ終わり時。そこで、ある人たちがやってきた。
「ここにいたのか。何やら楽しそうだな」
「探すのにくろうしたわ」
親父と母さんがやってきた。この二人の登場に、場は驚愕で満たされていた。俺でさえ、まさか来るとは思わなかった。と言うか、来ている事を忘れかけていた。
そしてそこからは、親父と母さんも交えて話しが進んだ。
こうして、夏祭りは終わっていった――――。




