59話「夏祭り・前編」
次に60話です。
――そうして俺は、家に帰ってきていた。勿論、オリケルスの曲刀は持って帰ってきている。……そして今は、自分の部屋にバッグ二つを置いた。
「……來くん、ちょっと来て」
……その後は、凜姉の部屋に強制的に連れてこられた。何をされるかわからないが、断ったらどうなるかもわからない。……故に、俺に選択肢など無い。
そして部屋に着いた後は、入らされてベッドの上に座らされた。凜姉は、俺の正面の椅子にある椅子に座って俺の方をじっと見ている。数秒見つめられた後、凜姉は口を開いた。
「來くん、今日はどこ行ってたの?」
そう言った凜姉は笑顔だったが、目が笑っていない。……とりあず、何か言わなくては。まずは、先程の凜姉の質問に答えるか。
「……山の奥」
嘘は言っていない。俺はオリケルスの家に行ったが、オリケルスの家は山の中……しかも結構奥の方にある。行くのが結構面倒で、しかもいろいろ不便なところがある。まぁ、能力でなんとかなるからいいのだが。
俺の解答を聞いた凜姉は、椅子から立ち俺に近づいてきた。そして、俺の胸に甘えるようにすり寄ってくる。
「……來くんは強いからあまり心配はしてなかったけど、それでも……ちょっと不安だったよ。でも、よかったよ」
そう言って、笑顔を浮かべる凜姉。その後、少し俺から離れてスマホを取り出し、画面を見せてきた。そこには予定が組まれていたが、一つ、目を引くものがあった。
「ねぇ……來くん。今年も、夏祭り……行こ?」
予定が組み込まれていた中で、目を引いたもの。それが、デカデカと書かれていた夏祭りの予定だった。その日……というか明日には何も無いため、了承しようと返事をしようとしたら、凜姉が急に赤面して何か言い始めた。
「……あ! いや、二人で行こうって訳じゃなくて、昨年と同じように家族みんなと一緒に……」
後半の言葉がしおれて、途中指をいじっていた凜姉。客観的に見て、その動作で男は十人中十人は落ちるだろう。それくらいの破壊力を持っていた。……まぁ、俺は別だが。
「わかった。明日だったよな?」
「うん。楽しみにしてるね!」
そして、俺は凜姉の部屋から出て自分の部屋へも戻った――――。
――――そうして、翌日。現在時刻は午後1時で、今は夏祭りに行く準備をしている途中だ。
俺は既に準備は終わっている。服装は、普通の茶色の長ズボンと白いシャツと黒い長袖の上着だ。そして持っているものは、財布とスマホだけだ。武器とかは必要無いので、部屋に置いている。
そして、俺がリビングで親父と母さんと一緒に凜姉と琉愛を待っていると、後ろから肩をチョンチョンとつつかれた。
「……來くん、どう?」
そこにいたのは、浴衣を着た凜姉の姿だった。着ている浴衣は、水色を主な色として、花の柄が色鮮やかに彩られている。紫の花と水色の布の対比は素晴らしく、凜姉の美しさを引き立たせている。
凜姉は俺の目の前に来て、くるりと一回転して感想を求めてきた。
「似合っているよ、凜姉」
「ありがとね、來くん!」
俺の感想を聞いた凜姉は、嬉しそうな様子で親父と母さんの方へ行った。
(後は琉愛か……)
準備が出来ていないのは琉愛だけである。琉愛が来たら、親父が運転する車に乗って夏祭りの会場に行くのだ。
琉愛が来るまで、俺はソファに座って待ち続けた。凜姉たちは、いろいろ楽しそうに話している。ソファにもたれかかり暇していると、後ろから足音が聞こえた。
どうやら、琉愛も準備が出来たようだ。
「……お兄ちゃん、見て?」
後ろにいたのは、凜姉と同じく浴衣を着た琉愛。緑色が主体とされていて、黄色の花弁が散りばめられていて、琉愛によく似合っている。
琉愛は俺の目の前に来て、腕を広げ着物を見せつけてきた。……どうやら、感想を求めているようだ。まぁ、大体わかっていたが。
「似合っているよ、琉愛」
「お兄ちゃん、ありがとう!」
そう言って、琉愛は凜姉たちの方へ行った。俺もソファから立ち上がり、凜姉たちが居る方へ向かった。
「じゃあ、行くか」
親父の一言に、凜姉と琉愛が張り切って頷く。そして、家を出て親父の車に乗り込んだ。
席順は、親父と母さんが前。運転席に親父、助手席に母さんだ。後ろは、俺を中心にして左右に凜姉と琉愛がいる。何故この席順になっているのかは知らないが、少し狭い。親父の車は比較的広い方で、五人程度余裕で入る。
だが、凜姉と琉愛が俺の方に寄ってきているため、俺がきつくなってきているのだ。……俺に近づくのは良いが、少し離れてほしいな……。
「……凜姉、琉愛、少し離れてくれないか?」
俺がそう言うと、凜姉と琉愛は間髪入れずにこう言った。
「「やだ!」」
……とても、良い返事である。俺は、夏祭りの会場に着くまでずっとこのままなのか。まぁ、別に悪い気はしないが、少し暑いのだ。冷房がガンガン効いているのであまり気にならないが、密着している部分は暑い。
……だが、もう少しだというナビが聞こえた。……さて、頑張るか――――。
――――そして、夏祭りの会場に着いた。駐車場に車を駐め、車から出て会場を回り始めた。
「俺達は里桜と回るから、何かあったら呼べよ」
親父はそう言って、母さんを連れて回り始めた。俺は、凜姉と琉愛と一緒に回ることになっている。
「來くん、行こっ!」
凜姉に手を引っ張られ、少し体勢を崩し掛けそうになりながらも、凜姉についていく。そして、俺の後ろに琉愛がついてきている。
そうして、俺たちは夏祭りの会場へ入った。今の時刻は二時で、とても気温が高くなっている。だが、俺は別に何ともない。この程度の気温の変化ならば耐えられる。現に、俺は長袖を着てきている。暑くないのとか聞かれるが、暑くない。
……まぁ、それはいいとして。
今俺は、凜姉と琉愛と一緒に屋台を巡っている。凜姉と琉愛は元気そうにはしゃいでいるが、俺は普通だ。はしゃいではいないが、楽しくないわけでも無い。
「來くん、琉愛、あそこ行こう」
「ん、わかった」
「わかったよ、お姉ちゃん」
凜姉たちと共に向かった屋台は、りんご飴の屋台。頭文字にヤのつく人がやっている屋台では無く、ちゃんと地元の顔見知りの女性がやっている屋台だ。その人は去年もそのまた去年の夏祭りも、同じくりんご飴の屋台をやっている。なんでも、五年以上やっているそうだ。
……まぁ何が言いたいかというと、信用出来ると言うことだ。凜姉と琉愛はそこでりんご飴を買って食べ歩きをしている。俺は何も買っていない。というか、買いたいものが無いんだよ。凜姉と琉愛はいろいろ買っているが。
「ねぇ、來くん。これ食べてみて?」
ボーッとしていると、凜姉がりんご飴を持ってきた。思わず受け取ると、凜姉が笑顔でこちらを見てきた。……食べろと言ってきたわけだし、食べるか。満腹というわけでは無いからな。
そして、俺はりんご飴を食べ始める。どうやらぶどう味だったようで、口の中にぶどうの風味が広がる。……りんごなのに、ぶどう味というのは中々違和感があるが、それは名前だけであり、味に違和感などは無かった。
食べたのは久しぶりだが、腕は劣っていないようである。
「どう? おいしい?」
そして、凜姉が俺に詰め寄って味を聞いてくる。……というか、近い。今の凜姉は俺とほぼ密着していて、俺を上目遣いで見上げる形となっている。大体これはいつものことだが……なんか今日は、凜姉がいつもより近い気がする。
……まぁそれより、凜姉の質問に答えよう。……周りの視線も少し気になるが。
「……あぁ、おいしいぞ」
俺の答えを聞いた凜姉は、機嫌が良さげになった。聞いてみようかと思ったが、その必要は無くなった。
「それ、私が頼んで自分で作らせてもらったんだ」
……凜姉は、自分で作ったりんご飴を俺においしいと言ってもらえて嬉しいのだろう。それに、恐らく初めてだったから上手くいくか不安だったのもあると思う。だが実際、おいしかった。……まぁ、長年やってきたりんご飴屋の女性には劣るが。これは仕方ないだろう。
そして、食べ終わった後はゴミをゴミ箱に捨てて、はしゃぐ凜姉と琉愛について行った。その後は様々な屋台を巡り、夏祭りを楽しんだ。
そうして二時間ほど経った頃、俺はある人たちと遭遇した。同時に、その人たちを見かけた凜姉はそちらの方へ駆け寄っていった。
「水月! 瞬華! 彩月!」
……そうして、先輩たちは凜姉を見かけると、凜姉の方へ向かった。
「あ、凜。……それと、琉愛ちゃんと來貴君もいるね」
そう言ったのは、凜姉と一番仲が良い百々海先輩。他には、瞬華先輩と彩月先輩がいる。どうやら、三人で夏祭りに来ているようだ。……この三人が来ているなら、他の奴らも来ているのかも知れないな。
どうやら、凜姉は琉愛をあの三人に紹介しているようだ。そして、琉愛が三人にかわいがられている。そして、五人で楽しそうに話している。……話が長くなりそうだ。それに、話に加われないから居心地が悪すぎる。
……何処かに行くにしても、勝手に行ったら凜姉と琉愛に心配される。……仕方無い、待っておこう。
「さっきから暇そうだね、來貴君」
「ずっと喋ってないし、どうしたの?」
このまま暇になるのかと思ったら、瞬華先輩と彩月先輩が話しかけてきた。しかも、逃げられないように周囲を固めている。……非常に面倒だ。
「……何か用ですか?」
面倒な気持ちを声と顔に出さないようにして、俺は瞬華先輩と彩月先輩に対応する。適当に話して適当に離れようと思う。
「いや? 來貴君が暇そうだから構ってあげようと思って。ほら、凜。来て」
そして、瞬華先輩が百々海先輩と話していた凜姉を連れてきた。何故凜姉を連れてきたのだろうか。……まぁ、別にどうでもいいが。
「來くん……さすがに、女の子が多数の中で男の子一人は話しかけずらかったよね?」
俺に話しかけた凜姉は、からかうような口調で俺に言う。凜姉の言うとおり、確かに話しかけずらかった。一言も喋れなかったしな。……それに、周りの視線が激しいのもある。周りの『何お前美少女に囲まれてるんだ』……という視線だ。
……この視線は別にどうでも良いのだが、鬱陶しい。人がそれなりに多いせいか、結構目立っているこちらを見ている者も多い。だが同時に、他のしっかりした者にしばかれている者もいるため、まぁ大丈夫だろう。
「……まぁ」
俺がそう返事をすると、凜姉がいたずらに笑みを浮かべて自分たちがいる方へ手を引っ張ってきた。無理矢理話に混ぜてきた。
「凜にでも頼まないと、來貴君は話しに加わってくれなそうだからね。強硬手段を取ったよ」
瞬華先輩がそう言いながら、話を続ける。
そこから五人でいろいろ話をし始めた。俺が喋る回数はあまり無かったが少なくは無かった。……そして、一人男子が混じったガールズトークは……意外に楽しかった。
その後は、俺は瞬華先輩たちと凜姉たちと別れた。どうやら、凜姉は琉愛と百々海先輩と一緒に行くようだ。瞬華先輩は、彩月先輩と。……俺は混ざりづらくなったので、一人で行くことにした。
一人で屋台を巡り、いいものを見つけたのでそこへ行く。
「お、イケてる兄ちゃんじゃないか。金魚すくい、やるかい?」
そう、金魚すくいだ。俺が小学生だった頃、よくやっていた。勿論、去年もしている。その時と同じ人がやっているのだが、まぁ見た目が変わっているので気付かない。……顔立ちはあまり変わっていない筈なんだけどな。まぁ、いいけど。
「はい、やります。一回何円ですか?」
俺が屋台のおっちゃんにそう聞くと、おっちゃんからは「200円だよ」と返ってきた。俺は財布から200円を取り出し、おっちゃんに渡す。そして、おっちゃんからぽいと袋を受け取る。
ぽいを受け取った俺は、金魚がいる大きな水槽の前の椅子に腰掛ける。そして、水槽で泳ぐ金魚共を袋の中にぶち込んでいく。ぽいの網が破れることなど無く、サクサクと金魚を袋に詰めていく。その様子に、おっちゃんが目を見開きながら見ている。
……まぁ、気にせず詰め込んでいくが、さすがに全部詰めるという訳では無い。四分の一くらい減った時、俺はわざと網を金魚で破った。一年ぶりの金魚すくいの感想は、楽しかった。
「……や、やるじゃねぇか兄ちゃん。ここまで取ったのは今年で兄ちゃんが初めてだ。……そう言えば、あんちゃんみたいに金魚すくいがやたら上手い兄ちゃんがいたな。そいつも、あんちゃんみたいにイケててな……そうだな、あんちゃんみたいな顔だな。身長はあんちゃんより低くて、髪は黒だったな。名前は確か……」
一人物思いに耽っているおっちゃんに、俺は言う。
「……俺ですよ。一年で見た目が変わったので」
俺の一言を聞いたおっちゃんは、驚愕、という言葉が一番似合う表情が一番似合っている。
「ほ、ホントか……? あ、あんちゃんの名前は……?」
そして、俺はおっちゃんに「結月來貴です」と名を告げる。
「……その名前は、一年前の兄ちゃんと同じだな。……この一年で何があったのかは知らねぇが、変わったな。身長も大分伸びたんじゃねぇの?」
そう言うおっちゃんに、俺は告げる。
「……175cmから、186cmくらいまでに伸びました」
俺がそう言うと、おっちゃんは椅子から俺の方へ来て身長を比較し始めた。
「そうかぁ……随分高くなったなぁ……おっちゃんは165センチだから、羨ましいぜ。まぁ、こんなおっちゃんと世間話してもアレだし、そろそろ別の所へ行ったらどうだ?」
「……そうさせてもらいます」
最後におっちゃんに礼を言い、屋台から離れていった。
金魚が入った袋は、大事に右手に持つ。折角200円で手に入れたので、大事にしたい。……まぁ、オリケルスの家で保管すると思うけど。
……次は何処に行こうか。まだ行っていない場所は沢山あるから、そこら辺に行くか。
行く場所が決まったので、俺はその場所へと足を進めた。
「あ、來貴君じゃないですか」
その声が聞こえた方へ、俺は顔を向ける。そこには、文奈が立っていた。
少しだけ遅れてすみませんでした。それはそうと、長くなったので前編後編で分けました。




