57話「ずっと……」
「……お主もその域に達したか。……来い、來貴。この攻防で儂に勝てば、もう教えることは何も無い」
オリケルスの言葉を聞いた來貴は、前傾姿勢に構えて翼を広げる。オリケルスも、翼を広げ曲刀の剣先を來貴に向ける。
――そして、來貴とオリケルスは"最期"の攻撃のために能力を発動する。
來貴が発動させるのは、万物具現化の眼。再現された能力の中でよく使っている三つの能力――力の操作、殺戮の波動、万物の感知を同時に発動させ、常駐させる。能力と技術により最適化された使い方と動きで、來貴は地を蹴り空中を駆ける。
オリケルスが発動させるのは、言うまでも無く重力の穿牙。重力と貫通力を操るこの能力で、來貴を迎え撃つ。自身の動きを重力で操り、速さと重さを上乗せする。そして、刃の貫通力を操り、空中へ跳ぶ。
――二人の位置が近づいてきたとき、同時に技を使う。
「暴絶殺戮波動刃!」
圧倒的な世界の力の暴力と、理不尽な殺戮の波動を纏った二つの刃。その刃は、周囲を歪め、切り裂き、絶命させながらオリケルスの方へ刃を向ける。
「斬牙重穿覇!」
対してオリケルスは、曲刀に魔力を纏わせて能力を使う。重力と貫通力を最適化した魔力斬で、來貴の刃を迎え撃つ。
――決着は、一瞬でついた。
來貴の圧勝だった。拮抗……というものは一切無く、來貴の刃が、オリケルスの魔力斬を切り裂いた。ただ、それだけだった。
そして、オリケルスの魔力斬を切り裂いた來貴の刃は、オリケルスへ迫っていく。魔力を使い果たしたオリケルスは、躱すことも防ぐこともせず、攻撃を――――。
「ぐぅ!」
――――受けた。それにより、オリケルスは左半身に大きな傷を負い、大量に出血した。來貴は、その事に驚きはせず、ただ目を逸らした。オリケルスは、安心したようにニヤリと笑った。
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俺は悪魔化を解除し、オリケルスの元へ行く。よく見てみると、オリケルスもいつの間にか悪魔化を解除していた。
「……フッ、もうお主には敵わなんか。力の差は、圧倒的……これも、お主の才能か。……來貴、もう教えることは何も無い。……弟子が、師匠を超える……出藍の誉れよ」
そこでオリケルスは言葉を切り、俺の眼を見据える。……そして、話し始めた。
「……儂はもう死ぬ。仮に先程の攻撃が当たっていなかろうとも……な。寿命なのだよ。……儂が最期に話す事は、あの家にある手紙に置いてきた。お主ならば、探すのは容易だろう。……來貴よ、探しにいけ。儂は、少し休む――」
言い終わったと同時に、オリケルスは眼を閉じた。……それと同時に、呼吸音も聞こえなくなった。……死んだのだと、俺は悟った。
……しばらく動きたくなかったが、オリケルスが最期に残した手紙の捜索がある。そう自分に言い聞かせ、俺はオリケルスの家の中に入った。
オリケルスの家の中は、和装。襖、畳、棚か……他の何処かに、手紙は置いてあるだろう。……だが、俺は他の所を探すまでも無く、一つの部屋へと行った。その部屋は、俺とオリケルスがいつも話していた場所。ここにある……と、思ったのだ。
根拠は無い。だが、ここにあると勘が働いたのだ。
……そして、あるものを見つけた。
「これは……?」
俺が手に取ったのは、ある箱。鉄製のものである。部屋の中心に鎮座している机の上に、置いてあったのだ。……そして、俺はその箱を普通に開いた。施錠はされていなかった。
中に入っていたのは、一通の手紙。これは予想通りである。そして意外なことに、もう一つ入っていた。手に取って確かめてみると、この家の鍵だった。……家の鍵はとりあえず置いておくとして、まずは手紙を見るか。
そして俺は、入ってある手紙を見始めた。書いてあったのは――――。
『結月來貴へ。
お主がこの手紙を読んでいると言うことは、儂はもう死んでいると言うことだろう。……そして儂を超えたという事は、第二の選定を突破したと言うことになる。選定は、第一、第二、第三と三回。ある。
第二の選定は、第一の選定を突破した者の指導が主な事。そして選定が突破される時は、第二の選定の悪魔の強さを超えた時。
お主は、もう儂を超えた。選定は突破だ、おめでとう。……そして次は、第三の選定。第三の選定の悪魔は、強いぞ。時が来たなら……しかとして挑め。だが、挑むも挑まないのもお主の意思だ。……挑む前ならば、引けるぞ。……もし、挑んだならば、もう後には引けない。気をつけろ。
第三の選定を突破し、全ての選定を突破したならば、全ての真実を知る事が出来る。もしその真実を聞くことになったならば、お主が信頼している者以外には、絶対に漏らすなよ。
――そして、最期に一つ。……お主は、悩んでいることがあるな? それが何なのかは最期まで聞けなかったが……ただ、この手紙で言えることはある。
一人で抱え込む必要は無い。そして、強くあれ。……まぁ、儂から言えることはこれだけだ。
……後、この家は好きに使って良いぞ。鍵は箱に一緒に入ってあるだろう。
オリケルス・シュタイフレスより』
手紙を読み終わった俺は、そっと手紙を箱の中に入れ、オリケルスの家の鍵をポケットの中に入れた。そして、銃剣が入ったバッグを背負い、家を出て行く。鍵は、閉めていった。
――その後は、オリケルスが死んだ場所へと行った。
その場所は、木々や草などが破壊されていたり絶命したりしている。……間違いなく、あの時の戦闘の影響だ。とりあえず気にしないことにして、辺りを見渡してみる。……そして、気付いたことが一つあった。
――オリケルスの死体が、消えている。だが、あの時もネルの死体は消えていた。……この現象は、選定と関係があるのだろう。そう俺は仮定した。そして俺は、残っていたオリケルスの曲刀を手に取る。死体が消えていても、オリケルスの遺品は残っていたのだ。
(……これは、オリケルスの家に置いておこう)
そう、俺が思ったときだった。
――來貴よ、本当の最期に一つ。……儂の力を授けよう。その曲刀は、自由にして良いぞ……。
オリケルスの声が聞こえた。同時に、自身に大きな力が流れてくるのを感じた。……だが、力は俺の身体に馴染むように流れ込んできて、数秒で収まった。身体への変化は……瞳の色の変化しかないだろう。目頭が熱くなったので、恐らく変化していると思う。
身体の変化以外には、魔力量がまた増えたのと、オリケルスの能力が完全に使えるようになった。……それと、オリケルスの曲刀を自由にして良い……と。……なら、持って帰るか。鞘もあるが……いや、待てよ。
(……持って帰るのはいいが、このバッグの中に入るか?)
そこが問題だった。オリケルスの曲刀は、俺の銃剣より刀身が長い。……さっき入れようとしたが、入らなかった。……さて、どうしたものか。一旦、オリケルスの家に置いておくのもありだな。この家は自由にしてもいいみたいだしな……。
いろいろ考えた結果、置いておくことにした。家の和室の壁に立てかけておいた。……さて、帰るか。
そして、俺は家へ帰っていった――――。
――――そうして十数分後、俺は家に着いた。
「あ、おかえり來くん」
家の中に入ると、凜姉が出迎えてくれた。……とりあえず俺は、右眼を髪で隠しながら洗面所へと行った。
洗面所に入った後、鏡で自分の顔を見る。……右眼を見てみると――。
(……紫、か)
――右眼が、紫色になっていた。オリケルスの魔力色が紫色だったので、その魔力が入った影響で右眼が染まったのだろう。……何故染まるのかは知らないが。……まぁ、確認出来たことだし部屋に行くか。
俺は洗面所を後にし、階段を上がり自分の部屋に入った。
そして自分の部屋に入った後、俺は深くベッドに倒れ込んだ。持っていたバッグは適当にそこら辺に置く。
(……はぁ……こんな感覚、久しぶりだな――)
俺はそう思いながら、枕に顔を埋める。
……心の中にある虚無感と、この何とも言えない息苦しさ。オリケルスが死んだときからだ。俺はこの感情を知っている。大切な人が死んだときにおこるものだ。……ならば、オリケルスは俺にとって大切だったのだろうか。だが、涙は溢れない。
――もう、枯れているから。だから泣かないし、泣けない。……戦闘では、どんな状況でも対応が出来る。だが、この感情はどうすれば良いかわからない。……だから、俺はそれが消えるまでずっとこうしている。
……ずっと、そうだった。幾度となく哀しみが襲ってくる人生の中、人殺しや悪魔というものには、すぐに慣れることが出来た。……だがこれは、いつまで経っても慣れることは無いだろう。……いや、これは慣れてはいけないものだ。
俺はそう考えながら、より一層強く枕に顔を埋める。
(オリケルスとは、経った数ヶ月の付き合い。……たった三ヶ月。されど三ヶ月だ。その三ヶ月で、オリケルスからいろいろ教わった。……三ヶ月前と今では、心も力も何もかも違っていた)
俺は、オリケルスに感謝している。故に、もう寿命だったとは言えオリケルスを自分から殺すような事をして罪悪感があるのだ。だが、後悔はしていない。それはオリケルスが望んだ結末であるし、それをしなければ乗り越えられなかっただろうからな。
そうして、俺はずっとそのままベッドにいた。
しばらくすると、部屋のドアがノックされた。誰だろうか。
「來くん、入って大丈夫?」
凜姉だった。俺は返事をしないで、無言のままやり過ごす。
「……入るよ、來くん」
すると、凜姉が部屋に入って来た。そしてドアを閉めた後、俺がいるベッドの方に来て、俺の頭に手を乗せながらしゃがむ。
「どうしたの、來くん? 帰ってきたとき、何だか暗い雰囲気だったから心配だったんだけど……何かあったの?」
凜姉が優しい声で聞いてくる。俺は何も言わず、ただ凜姉にされるがままにしていた。そして俺が返事をしないと知ると、凜姉はベッドに潜り込んできた。
「凜姉!?」
俺が驚いていると、凜姉はこう言った。
「……今の來くん、あの時に似てる。……何かあったんだね。こう言うときは、人肌に触れた方がいいって聞いたことがあるから……ね?」
語尾にウインクを付け加える凜姉。大体の人が落ちそうな雰囲気を出している。そして、俺に抱きついてくる。抱きついた後は、俺の頭を撫で始めた。俺の頭を撫でて嬉しそうにしている凜姉に、俺はこう聞く。
「……何してんの?」
凜姉は、笑顔でこう答えた。
「撫でてるの。こうしたら、來くんも大丈夫かなって思って」
そう言いながらも、凜姉はずっと俺の頭を撫で続ける。……少し眠くなり、俺は眼を閉じた――――。
――――そして、目が覚めた。
「あ、起きた? 來くん」
目を開けると、凜姉と目が合った。……現在の状況を説明しよう。俺は今、凜姉に抱きつかれている。と同時に、頭を撫でられていた。そして、俺の頭は凜姉の胸辺りにある。……多分、この位置が一番撫でやすいからだろう。
俺の身長は186cmで、凜姉の身長は170cm。差は15cm以上はあるので、どうしても俺が下に行かないと撫でにくいのだろう。……まぁ、それは凜姉が撫でるときの場合で、逆だったら話は別だが。……この話はもう良いか。
そんなことを考えていると、凜姉が若干顔を赤らめながら言った。
「……來くんの寝顔、可愛かったよ? 安心してる顔で寝てて……それに、寝てる途中に抱きついてきたから、嬉しかったな……」
そこで俺は初めて、凜姉を抱いていることに気付いた。気付かなかった原因は……まぁ、置いておこう。……とりあえず、凜姉の腰から手を離す。凜姉が残念そうな顔をしたが、見なかったことにする。
「來くん、もう大丈夫そう?」
凜姉がそう聞いてくる。
「ああ。心配……かけたか?」
俺がそう聞くと、凜姉は笑顔を浮かべる。……どういうことだろうか。
「心配はしてけど……來くんなら大丈夫だって思ってたから」
そう言った凜姉の方を、俺は見ることが出来なかった。その後はベッドから降りて、時間を確認した。気付けば、もう5時になっていた。昼後に出発して帰ってきたのが3時だったから……二時間ほど寝ていた訳か。
「來くん、リビングに行かない? そろそろ夕飯を作りたいからさ」
「……わかった」
そして俺は、凜姉と一緒に一階のリビングへと行った。
その後は、普通に夕飯の準備をしたり夕飯を食べたりして過ごした。
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――ある国の、ある街の、ある建物の中。
「……ほう、第二の選定を突破したか」
「報告では、そうなっています。……同時に、オリケルスも寿命で逝ったようですが……」
「……まぁ、あやつは寿命だったからな。仕方あるまい。問題は、次の選定をどうするかだな……その者は天才だと聞いているが、まだその時では無いな」
二人の悪魔が話していた。その立場ははっきりとしていて、前者が上、後者が下であった。
「だが、その者の姿は一目見ておきたい。……行くか、日本へ」
「……私はどうすべきでしょうか」
「お前もついてこい。お前も、見ておきたいだろう?」
「……では、ご一緒に」
そして、運命は動き出す――――。
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