6話「能力というもの」
キーンコーンカーンコーン
休み時間終了のチャイムが鳴り、刀華先生が授業モードに切り替わる。二限目の始まりだ。ちなみに二限目は、能力についてだ。
「皆さん、席に着いてください。授業を始めます。來貴君、号令お願いします」
……また俺が号令か。……まぁ、大人しく号令しよう。授業が始まらん。
「起立、気をつけ、礼」
「「「「「お願いします」」」」」
「着席」
「「「「「失礼します」」」」」
今回の号令は、適当にやった。だが、全員反応出来た。……そんなことはどうでもいいので、席に座る。
「來貴君、号令係みたいですね」
「やめろ」
「はいはい」
文奈が変なこと言ってきた。号令係とかどういう係だよ。ただ授業の始めと終わりに号令するだけの係か? 聞くだけでは楽そうな係に聞こえるが、実際は面倒な係だ。……これは体験した者で無いとわからないだろう。
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「二限目は、能力についてです。持っている人はそれだけで有利です。能力は魔法とは比べものにならないくらい強いですからね。まずは、能力の名称でしょうか」
能力の名称。それは、全ての能力が初めから決められている。
「能力……來貴君の覇壊の轟きで例えましょうか。まず、"覇壊の轟き"の部分は、能力明記と呼ばれています。そして、"オーバー・ドライブ"の部分は、能力読見と呼ばれています。この二つを組み合わせて、能力の名称が決まっています」
……そして、刀華の説明に付け足すとするなら……來貴の覇壊の轟きは、全てのリミッターを覇壊する能力。この"全てのリミッターを覇壊する能力"の部分は、能力概要《のうりょくがいよう》と呼ばれていて、ここも初めから決められている。
「次に……皆さん、能力系統《のうりょくけいとう》って知ってますか?」
その問いに、殆どの生徒が頷く。……これは、中学でやったことだ。殆どの者が覚えているだろう。別に飛ばしてもいいだろう來貴は思ったが、高校から軍事学校に入ったという生徒もいるので、復習も兼ねて理解をして貰おうと言うことだろう。
「能力系統というのは、どんな能力かの分け方です。その種類は、5つです。まず、強化系。この種類の能力は、自分を対象にするものが多いです。そして、比較的強い方の能力が多いです。例えば、來貴君の覇壊の轟き、脳のリミッターを解除する能力。これがいい例です」
……來貴の覇壊の轟きは、自身も強化出来るほかに武器等も強化出来る。正に、万能能力だ。……ただ、強化に耐えられなくて武器が壊れることもあるため、一概に万能とは言えなさそうだが。
「次に、操作系。この種類の能力は、強い能力と弱い能力がはっきり分かれます。そして、最も数が多いです。例えば、文奈さんの風流操作、私の刀剣操作がありますね」
文奈の能力と、刀華の能力は操作系。來貴な新しく舞い込んできた情報に心の中で驚く。操作系の能力は一番多いから、仕方ない部分もあるかもしれないが。
「次に、現象系。この種類の能力は、強い能力が多いです。そして、数が比較的少ないです。操作系に似ています。このクラスには一人だけいましたね」
現象系……それは、珍しい系統の能力だ。一人はいると刀華から言及され、來貴なその能力を持っている人物を頭に浮かべる。來貴は名前は一応覚えているが、話したことはない。
「次に、生成系。この種類の能力は、戦闘に向いてないものが多いです。そして、魔力を多く使用します。この能力を持っている人は、一人も居ませんね」
生成系は一人も居ない……が、來貴は入試の時に一人いたことを思い出した。その人物の名前を來貴は覚えていないが、クラス違うため覚える必要も無いと考えている。ただ、クラスが同じだったら覚えていたかもしれないとも考えていたが。
「最後に、補助系。この種類の能力は、常に発動している能力しかありません。そして、これは自分を援助するという能力で、強化系と似ています。違う点は、一定以上上がらない、という点です」
常に能力を発動している方の能力だと、魔力を消費しなければならない。その点に関しては便利だが、常に発動していると言うことは、力を抑えないといけない。……それは、不便そうだと來貴は思った。
それに、一定上上がらない……それは、弱そうに聞こえるが、その『一定』がどれ位かによって強い弱いが関わってくる。
例えば、來貴の覇壊の轟きが補助系だったとする。その場合、常にリミッターが覇壊されるということだろう。……そうなると、軽く力を入れただけでコンクリの壁を壊せる。他には、ジャンプしたら約10mは普通に跳べる。
これでわかっただろうか。『一定』がどの位かによって、強くなるか弱くなるかと言うことが。
「次は、能力を使用するときに消費する魔力についてです。これについては、補助系の能力は例外で、何も消費しません。他の能力は消費します。まず、消費する魔力の多さです。大体は発動したときの規模に比例します。魔力量が多ければ多いほど能力を多く使えるってことですね。大体これぐらいですかね」
消費魔力を抑えることもできるが、それは能力を使いこなしていないと無理だ。……説明が大雑把過ぎて、高校から入って来た奴にも伝わってないと來貴は思ったが、 ある程度は教えられているのでなんとかなっている。
「あ、能力の強さの序列っていうものがあってですね、私の能力は能力階位の上から三番目の上位なんですよ……って言ってもわからない人いますよね。説明します。強さの序列っていうのは、能力序列という能力の強さの序列のどこに属するかで大体わかります。序列ピラミッドは、上から、最高位、最上位、上位、中位、下位、最低位です。そう考えると、上から三番目って結構凄くないですか?」
……確かに、上位能力は凄い。強さが上位になればなるほどその数は減るので、……知らない人は完全に話について行けていない。相変わらず説明を端折っているので、説明しよう。
能力の強さの序列。それを『能力階位《のうりょくかいい》』という。『能力階位』には、上から『最高位』『最上位』『上位』『中位』『下位』『最低位』の六つがある。中位から下の能力は『下等能力』、上位から上の能力は『上等能力』と呼ばれている。序列が上に行けば行く程能力が強く、数も少ない。
ちなみに、來貴の覇壊の轟きは最上位なので、刀華の能力よりも序列が上と言うことになる。……これを刀華に言うと、自分の能力が上位だって自慢していた刀華の自信をへし折るようなことになりそうだと來貴は思った。
そして、その階位の能力として定められる基準は、どの階位も二つ。
最高位の能力の基準の一つ目は、国を一つ滅亡させられる規模と威力であること。二つ目は、概念を無視できるような力であること。
最上位の能力の基準の一つ目は、都市を一つ滅亡させられる規模と威力であること。二つ目は、法則を無視できるような力であること。
上位の能力の基準の一つ目は、街を壊滅させられる規模と威力であること。二つ目は、法則を逸脱するような力であること。
中位の能力の基準の一つ目は、戦闘向きの能力であること。二つ目は、その能力が法則の範囲内であること。
下位の能力の基準の一つ目は、戦闘に比較的不向きな能力であること。二つ目は、あまり自由に何か出来る能力で無いこと。
最低位の能力の基準の一つ目は、戦闘が出来る能力で無いこと。二つ目は、その能力の中で殆ど何も出来ないこと。
能力階位についてはこれ位だ。ひとまず、能力について纏めよう。
能力は大きく分けて五つに分類される。
強化系、操作系、現象系、生成系、補助系。この五つだ。
強化系は、自分を対象にする能力が多く、比較的強い能力が多い。ちなみに、強化系は大体能力の効果が同じだ。
……まぁ、強化系の能力の効果が被るのは仕方ないだろう。大体は『身体能力を上げる』とか『頭の回転が速くなる』とか『武器を強化する』とかであるためだ。ちなみに、來貴の能力もその三つを合わせたような感じの能力である。
だが、來貴が例えに出した三つ以外の強化系の能力も普通にある。例えを出すが、『磁力を強化する』とか『硬度を強化する』とか。
強化系じゃないだろと思う者も居そうだが、強化系は強化出来れば何でも強化系な為、さっきの例えも強化系に分類される。
操作系は、強い能力と弱い能力がはっきり分かれており、能力の中で最も数が多い。ちなみに、操作系は能力が被る事もある。同じ系統の能力で威力が違うのは、主にこの三つで分けられる。『操作』、『支配』、『皇帝』だ。
強さは、上から順に『皇帝』、『支配』、『操作』。支配は、操作系の能力者1000人の内一人いるか居ないかの確率。皇帝は……操作系の能力者10万人に一人いればいい方。いないことが殆どだ。
操作系の『皇帝能力』強さは、"最強"と言ってもいい。その規模はもはや現象系のそれなのだが、現象系ではなく操作系である。
ただ……操作系は、さっきも言った通り数が最も多いので、被るのは仕方が無い。例えば、『冷気を操る』とか『電気を操る』とかその辺の能力は結構被る。だが、それは能力の練度の違いによって規模や強さが段違いになる。操作、支配、皇帝かにもよるが。さっきの例えは、操作系で強い方の能力だろう。
操作系で弱い方の能力は、意外と数が多い。例えば、『紙を操る』とか『機械を操る』とか。その能力を見た來貴の感想は、「何に使うんだよ、それ」だった。規模があまりにも小さいし、別に強くもない。
――このように、操作系は強い能力と弱い能力がはっきりと分かれている。
現象系は、強い能力が多い。そして、数が比較的少ない。そして、現象系の能力を持っている奴は大体強い。本当に、強い能力が多い。操作系の『皇帝』が周囲の環境を破壊する能力ならば、『現象系の能力』は環境そのものを変える能力である。
現象系は、強い能力が多い。例えば、『大地を支配する』とか『虚無を創る』とか。この辺りの能力は、かなり強い。だったら、どれが現象系の能力なの? と気になるだろう。現象系の能力と断定される基準は、三つ。
一つ目は、規模が大きい。二つ目は、現存する事実。三つ目は、現象の一つを起こせること。
先程の例えを使い、この基準を説明する。一つ目、『大地を支配する』。これは、操作系だと勘違いされるかもしれないが、現象系だ。まず、大地。これは、地面のことだ。地面を操る能力の上位互換であるこの能力は、地面を操って色々出来る。地震を起こしたり、盛り上がらせたり。
規模が大きいし、地震も現象の一つだ。よって、これは現象系と断定できる。
『虚無を創る』。これは、生成系だと言われそうだが、断言しよう。現象系だ。こんなヤバい能力、現象系に決まっている。まず、虚無というのは、何も無いことだ。この能力は、何もかもを『無』に出来たり、『無』の空間を作ったり出来る。他にも、『虚』によって生命維持を妨害出来る。ただ、消費魔力が多いからそんなには出来ない。これは規模が大きいし、虚無自身が現象の一つなので、これも現象系だ。
わかりやすく説明したので、わかってくれると嬉しい。後、今までで戦ってきた現象系の能力の者たちも、大体が強い能力だった。來貴が今まで戦った者の中で現象系の能力を持つ者でも、強き者が殆どだ。
生成系は、戦闘に向いていない能力が多い。例えば『鉄を作る』とか『木を作る』とか。明らかに、さっきのは戦闘に向いていない。頑張れば使えそうだが、來貴は数個しか戦法が思い浮かばなかった。
……ただ、何でも作れるとかいう強力な能力なら戦闘出来そうだな。だが、消費魔力が多そうだから使いたくはない。
補助系は、常に発動している能力しかない。だが、常に発動している能力は魔力を消費しない代わりに、一定以上上がらない。強化系の能力と似ているが、強化系の下位互換だとよく言われる。
だが、強化系の能力では強化出来ないことが、補助系では出来る。その辺りで区別は出来ている。
大雑把に纏めてこの位である。
次は、刀華がさらっと説明していた能力使用時の消費魔力について。消費魔力というのは、消費した魔力の略称。消費魔力は、発動したときの規模と強度に比例する。
……これは本人の能力の練度である程度抑えることが出来て、消費魔力の多さは能力によって違う。これ位しか説明することが無いので、これで終わりだ。
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キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴った。これで、二限目が終わった。
「これで、二限目の授業を終わります。來貴君、号令お願いします」
「起立、気をつけ、礼」
「「「「「「ありがとうございました」」」」」」
今回の号令も俺だったことは気にしないでおく。今回の号令は、大体の人が反応できた。ちょっとだけ速度を上げたために、反応が遅れたようだ。
とりあえず、三限目が始まるまで寝ていよう。そして、俺は三限目が始まるまで机に突っ伏して寝ることにした――――。
「來貴君、起きてください。もうすぐ三限目ですよ」
「ん……わかった」
――――文奈に揺さぶられ、俺は瞼を開ける。時計を見てみると、授業開始まで後1分だった。とりあえず、適当に起きていよう。
その後、チャイムが鳴り三限目が始まった。
「皆さん、席についてください。授業を始めます。來貴君、号令お願いします」
「起立、気をつけ、礼」
「「「「「お願いします」」」」」
「着席」
「「「「「失礼します」」」」」
三限目は、特に何も無く終わった。というか、国語の授業だから特に語ることもない。その後の四限目と五限目と六限目も、特に何も無かった。
今は、帰りのHRだ。
「……これで、帰りのHRを終わります。皆さん、気をつけて帰ってくださいね。それでは、さよなら」
「……はあ」
刀華先生は、教室から出て行った。他のクラスメイトは、刀華先生が出て行ったことで教室から出て行った。そしてさっき、俺は思わず溜息をついてしまった。
これは仕方ないだろう。……二連続で、学校の校長に呼び出される学校の生徒がいるだろうか。否、いない。これは断言できる。俺以外に、そんな奴はいない。俺も勘違いだと思いたい。……が、魔法の授業の時に、「放課後、必ず校長室に来てくださいね」と耳打ちされたのだ。
……だが、俺は行きたくない。面倒なことになるのが容易に予想できる。それに、俺が武器を持っていることを確認していた。
「來貴君、どうしたんですか?」
席で頭を抱えながら現実逃避をしている俺に、文奈が少し心配した表情で話しかけてくる。
「……なんでもない」
「じゃあ、一緒に帰りましょうよ」
「……無理だ、用事がある」
「そうですか……じゃあ、私は先に帰っています」
そう言って、文奈は教室を出て行った。教室には、俺しか残っていない。……とりあえず、行くか。俺はバッグを持ち、教室を出て校長室に向かって歩いた。
……行きたくねぇなぁ。そう考えながらも、行くしか選択権が無いので、校長室に向かう。
数分後、校長室の前についた。このままUターンして帰りたいという気持ちを我慢して、俺は扉をノックする。
「失礼します」
「……来ましたか。返事を待たないのはこの際おいておきます」
俺は、嫌な予感を感じ取った。この予感は、面倒事になる予感だ。間違いなく面倒事が舞い込んでくるだろう。
「來貴君、場所を移しましょう。そこで呼び出したわけを話します」
「……校長室じゃダメなんですか?」
早く帰りたい俺は、校長にそう聞く。だが、校長は無言で首を横に振った。どうやら、ここじゃいけないようだ。早く帰りたいのに、どうして俺は早く帰れないのだろうか。
「來貴君、付いてきてください。行きますよ」
「はい」
校長室を出る校長について行き、俺の知らない場所へ来た。何処だ、ここ。体育館並に広いけど、体育館ではないな。というか、幾つかの破壊の痕がある。まるで誰かに壊されたみたいだ。ということは、材質はかなり頑丈なものを使っているんだな。それか、生成系の能力で作った材料か。
「……ここ、何処ですか?」
場所の名前を、校長に聞く。すると、校長は少し悪そうな笑みを浮かべて、こう言った。
「ここは、第三戦闘場です」
戦闘場……戦闘場……戦闘場って、名前からして戦う場所だよな……あれ、俺、今から校長と戦うのか……?
「今から、呼び出したわけを言います」
すると、校長はこちらを向いた。その顔には笑みを浮かべていて、期待が混じっているようだった。
「私と……今から、手合わせをお願いできますか?」