55話「500年前の時」
「……今から、500年前。神……いや、ドルナイトが、地へ堕ちた」
……そして、オリケルスは話し始めた。
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――それは、500年前の事。
世界では、人類が華やかに生活していた時代。対して悪魔や天使達は、ひっそりと暮らしていた時代であった。
"原初神"ドルナイトは、地へ堕ちた。この「堕ちた」と言うのは、もう一つの「落ちた」という言葉の意味とは違う。地へ、"堕ちた"。……この堕ちたは、神の質が変質して地へ来たと言うことだ。地へ来なくても変質する場合はあるが……一度堕ちて変質してしまえば、もう戻れない。狂った野望を抱くようになり、そうなれば何をするか予測不可能。
故に、堕ちて「変質した」神は殺される。
――例え、原初の神であろうと。
だが、堕ちたのはドルナイト一人だけでは無かった。ドルナイトの直属の眷神である"統制神"イマジュアを始めとした眷属も、一緒に堕ちていた。
ドルナイト達が地へ落ちた目的は、世界を破壊すること。何故ドルナイトがそう考えたのかは知らないが、兎に角他の神から依頼を受けた悪魔や天使たちが神を倒しに……戦争が始まった。
悪魔達の主力の者は、古より生きてきた最強の悪魔"七柱"。
天使達の主力の者も、古より生きてきた最強の天使"七柱"。
他にも強い者は沢山いるが、これが悪魔と天使の軍勢の主力だった。
対してドルナイト達は、ドルナイト自身やイマジュアを始め、ドルナイトが最初に創造した神達。その他にも、その神達の眷神がいる。
……ドルナイト達が東部の地へ堕ちたとき、戦いが始まった。開戦の合図は、ドルナイト達が世界各地に攻撃を仕掛けたことからである。
……それは、各地に大量の死と破壊をもたらした。中には、参戦していた悪魔や天使もいて、巻き込まれた者のほぼ全てが死亡という結果である。だが同時に、ドルナイトの眷神達に主力級の者が攻撃を仕掛け、攻撃を仕掛けた内の約四分の一を殺せた。
この攻防による両方の被害は大きかったが、悪魔・天使側の方が大きかった。そして、これをきっかけに全面戦争が始まった。舞台はこれまた東部辺りで、悪魔や天使が東部の比較的北側に陣取っていて、ドルナイト達は南側に陣取っていた。
その戦いは熾烈を極め、戦いの舞台となった地は荒れ果て、生活していた生物は死滅していく。戦いの舞台は東部だけでは無かったので、世界は混乱に満ちた。
戦いの舞台が東部だけでは無くなったのは、この戦いにおける"最強"の者たちが原因だろう。
最強の悪魔・天使の七柱や、ドルナイトやその直属の眷神。この者達は、普通に空中で戦うので、衝撃で吹っ飛んだりした場所で、そのまま戦いの続きをするのだ。それは即ち、戦いの場所が入れ替わると言うこと。
それ故、世界が神達や悪魔・天使達の戦いに巻き込まれたのだ。だが、人々や生物の混乱は問題では無かった。人類やその他の生物の混乱程度、能力でどうとでもなるからだ。人類にも能力を持っている者は居たが、使いこなせている者は殆ど居なかったため、記憶操作の時に抵抗は無いに等しかった。
そして戦況は、人類やその他の生物の問題を解決し、再び激しい戦乱を迎えた。
悪魔・天使側は、質では負けているが、数は勝っている。ドルナイト側は、数では負けているが、質では勝っている。
各地で悪魔及び天使対神の戦いが勃発したが、最終的に勝つのは神と言う結果が多かった。
その理由は単純。
悪魔や天使達よりも、神の方が強かったから。複数で挑んでも、返り討ちにされることが多々あったのだ。主力の者は一対一でも眷神程度には勝てたのだが、ドルナイト側の主力の者には苦戦を強いられた。
そして、徐々に悪魔・天使側の者の数は減っていった。ドルナイト側の者も減っていたが、悪魔・天使側程では無かった。
それにより数の利も無くなり、追い詰められていった。悪魔と天使共に主力級の者は、最強の七柱の他は殆ど残っていなかった。……対して神は、主力級の者は殆どやられていない。
他の神達に頼ろうにも、その者達は足止めを食らっている他、世界の管理のために地へは行けない。これ以外にも、弱い神じゃ太刀打ちできないのだ。
それ故、ジリジリと悪魔・天使側の軍勢は不利になっていった。神達が人間を改造し、自分達の軍勢に引き入れたのも要因の一つだろう。だが、その改造人間は弱かったので問題なかった。問題なのは、その「数」だった。それにより、数の差は圧倒的となった。
圧倒的な数で悪魔・天使側の者は殺されていき、北の方へ追い詰められた。
――もう、後が無い。
悪魔と天使の主力の者達は、そう思った。
……そこで、ある一つの作戦を実行した。これしか、選択肢が残されていなかったのだ。
悪魔・天使側で最強である七柱と他の強き者は、ドルナイトやその直属以外の神を殆ど殲滅した。これは、一人でいるところを強い者四人以上で掛かっての勝利だ。その代償に、強き者の三分の一が死亡した。
そして、七柱達は死を賭して、ドルナイト達を南の方に押し返した。途中で勢いが途切れ、その途中にドルナイトが能力を持つ強い人間に何かをしたが、それを確認する間も無く戦った。
――そして、七柱達はドルナイト達をオーストラリアに追い詰めることに成功した。
だが、追い詰めたとて、七柱達にドルナイトを殺す手段は無い。
それ故……封印と言う手段が取られた。ただし、ただの封印では無く、能力と魔力をフルに使った超封印だ。
そして、この作戦は最終手段であり、残された最後の手段である。完全に成功する確率は、5%にも満たない。……だが、それ以外には無い。直接戦っても、負けるのは目に見えているし、放っておいたら世界が滅びてしまう。それだけは避ける必要があった。
――そして、作戦決行の日。
七柱達――七柱とその直属の部下は、遺書を書いて部下の者に託した。遺書の内容は様々だが、七柱の者だけ一つ共通していることが書いてある。
それらを残して、七柱達はドルナイト達の封印に向かった。
七柱達は、ドルナイトの元に向かい攻撃を仕掛けた。対してドルナイト達は、攻撃にすぐ反応し応戦した。その攻防で七柱達は、封印を成功させるため、一点に集めて勝負を仕掛けた。
数多の犠牲を出したが、半数の神を減らすことに成功した。……だが、ドルナイト達の主力級の者は一人も死んでいない。それどころか、傷一つ負っていない者もいる。それに、半数の神を減らせたのは、主力級の者達があまり戦っていなかったからだ。眷神達に戦闘を任せ、自分達はいろいろ話し合いをしていた。
七柱達は、話の内容が気掛かりだったが、気にせず攻撃を続けた。
……だが、遂にドルナイト達が動いた。それを勘付いた瞬間、七柱達は気を引き締めた。
――そして、ドルナイト達対七柱達の戦いが始まった。ドルナイトの眷神達は、命令で避難していたが、七柱以外と戦闘する。七柱以外は、他の眷神と戦っている。
そして数日間経った末、七柱達はドルナイト達の封印の一手を打つことに成功した。戦っているどの者も生物としての限界を遙かに超えているので、休むこと無く戦い続けている。……だが、時間が経つにつれ地力が強い神の方が有利になっていくのは目に見えていた。
……そこで七柱達は、命――寿命を燃やした。自らの命すらも魔力の輝きに変え、無理矢理ドルナイト達をオーストラリアの地に封印し始めた。この封印は、最大の障壁であるドルナイトが弱体化していたのが要因の一つである。……ただ、この弱体化は三回されているが。
一つは、堕ちて地球へ来た時に著しく弱体化したこと。ただし、この部分は全ての神に対象する事だが。
二つ目は、能力を一つ失った。ドルナイトは、七つ能力を持っている。その内の一つ――即ち、万物具現化の眼である。これを失った影響で、複製が上手くいかなかったのだ。
三つ目は、何故か弱体化していた。これの原因は何かわからない。だが、七柱達は好都合だと考えた。
これらが組み合わさり、封印が少し上手くいった。
だが、少しだけだった。他の神達は少しは弱体化していたものの、それでも七柱達と同程度の力で抵抗した。
この封印は、七柱達が命――いや、"魂"さえも賭けた事で成功した。
――そして、魂さえも賭けた封印の結果は、不完全に終わった。正確に言うならば、魔力不足だ。命を魔力に変えたことで、大体は補えたが、ドルナイトの無尽蔵とも言える魔力の前には足りなかった。能力を使い強固に補強されているが、数百年で解けるだろう。
それと同時に、封印での死亡者は、参戦していた者ほぼ全て。悪魔と天使の最強の七柱は全て死亡し、その直属の部下も殆ど死亡している。死亡していなかったのは、その中で比較的魔力量が少ない者だった。……だがその者達も、命を魔力に変えたことで長くは生きられない。寿命が著しく短くなったのだ。
短くて十年、長くて三十五年。人間にとっては長いかもしれないが、悪魔や天使達の生きる時間にとっては短い時間。故にその者達は、後のことを若者に託した。
――そして、死亡した七柱達の魂は、現世に留まっていた。直属の部下達が自らの魂を魔力に変換させ、魂が世界から離れないように留まらせていたのだ。
この行動に七柱達は驚いたが、ありがたく使わせて貰うことにした。
七柱達は留まって何をしていたのかというと……「選定」である。自らの力を託すに相応しい者を見つけてその者の身に宿るのだ。はた迷惑な話だが、宿られた者は大体受けている。
――そして死ななかった悪魔・天使達は……次のドルナイト復活までに、準備を、始めた。
この頃にようやく、神達はドルナイト達による足止め係を殺す事が出来た。その者はドルナイトの直属だったので、数で有利になっていても手こずったのだ。
その処理が終わった神達は、生き残った悪魔・天使側の者を呼び、地上で何が起こったかを聞いた。呼ばれた者は、それを事細かく話した。……その者の話を聞いた神達は驚き、哀しんだ。そして、その者を交えて神達で話し合いが行われた。
何故、ドルナイトは堕ちたのか。
ドルナイトについて行った者以外の全ての神が、それが気になっていた。ドルナイトの人柄的に、堕ちるなんて事は無い。ドルナイトの人柄を知る誰もが、そう考えていた。
……だが、真相は闇の中。ドルナイト本人に聞かなければわからないのだ。それに、そんな事を考えている余裕は神達には無い。全ての世界の管理という仕事が、神達を待っているのだ。気にはなるが、仕事をサボるわけにはいかない。
そして、話し合いが終了し、神達は皆仕事へ着いた。
呼ばれた者は、下っ端の神に地上へ戻された後、自身の家に帰り、後の事に対しての準備を手伝った。
――そして、この大戦争は「堕神大戦」と呼ばれた。
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「……これが、500年前の全てだ」
そして、オリケルスの話が終了した。同時に、俺の反応を見てこう言った。
「……しかし、意外なものだな。お主でももう少しは驚くかと思っていたのだが……いや、驚いてはいるか」
オリケルスはそう言って、少し眼を閉じた。そしてオリケルスの話を聞いた俺は、心の中でとても驚いていた。だが表情には出さず、心の中で抑えていた。
……いろいろな情報が出てきて、戸惑っているというのもあるのだろう。
……だが、さっきのオリケルスの話を聞いて、俺は幾つか不可解な点がある。
一つ目は、神は普段何処に居るのか。二つ目は、肉体を持たぬ魂が何処へ行くのか。三つ目は、悪魔、天使、神が持つ魔力について。
……俺が持つ魔力は、少し変質している気がする。俺の魔力に何かが混じっているような感じだ。俺にはそれがあって、俺以外の者には無い。いや、ネルやオリケルスには俺と同じ何かがあったが。
気になるが、どうせ教えてくれないのだろう。一瞬オリケルスの方を見たが、眼がそう語っていた。
……つまり、本気の戦いで勝てば教えてくれるのだろう。確証は一つも無いが、俺は自然にそう思っていた。
そして、俺がそんなことを考えていると……。
「來貴よ、武器を持て。外へ行くぞ。……最期の戦いを始める」
立ち上がりながらオリケルスはそう言い、曲刀を持って外へ出て行った。そして、一瞬見えた目は、覚悟を決めていたように見えた。……それが、何の覚悟なのかは知らないが。
そして、俺も立ち上がる。同時に、持って来ていたバッグの中から銃剣を取りだし、腰に差す。中身の無くなったバッグは、丸めて床に置いておいた。
そのまま外に出て行こうと歩き始めた。だが俺は、ふと思い足を止めた。
(……オリケルスが言った、最後の戦い。その、最後というのはどう言う意味なんだろうな……)
そんな事を考えつつ、俺はオリケルスが待つ家の外へ出て行くのだった。




