5話「魔法というもの」
「で、要件はなんですか?」
「無視ですか……まぁいいです。それで要件ですが……明日、なるべく体力を消耗しないようにしてくださいね」
……これは、どういうことだ?そんなことを考えつつ、俺は口を開く。
「……どういうことですか?」
「ふふ、それは、明日のお楽しみです。明日も、校長室に来てくださいね。要件はこれだけです。もう行っていいですよ」
……本当に、どういうことだよ。明日になったらわかるって。……まぁ、明日になったらわかるんだし、もう買えって良いみたいだし、とりあえず帰ろう。俺は、扉の方を向き、校長室のドアノブに手を掛ける。
「失礼します」
最後にそれだけ言って、俺は校長室を後にした。校長に呼び出されて、余計に時間を食ったから、早く帰って寝たい。
そして、一年生が使う学校の玄関へ行き、俺はそこから出た。……帰るか。
俺は校門を出て、家に帰る。家に帰る間、校長が言ったことについて考えていた。
(明日、なるべく体力を消耗しないように、か……嫌な予感がしてきた。面倒なことになりそうだ)
そんなことを考えながら帰っていると、いつの間にかもう家に着いていたようだ。俺は家に入り、自分の部屋に行った。さてと……明日はどうなることやら――――。
――――そして次の日、俺は今学校にいる。
「起立、気をつけ、礼」
「「「「「「お願いします」」」」」
「着席」
「「「「「「失礼します」」」」」」
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そして、一限目が始まった。一限目は、魔法についてである。
「一限目は、魔法についてです。正直言ってそんなに使いませんが、一応学びます。まず、魔法というのは、詠唱に魔力をのせ、詠唱のイメージ通りの効果を発動するというものです。詠唱は、魔力を乗せないと発動できません。それと、イメージも大事です。どんな感じなのか、過程をイメージすると楽に発動できます。まぁ、発動できても、威力が雀の涙ほどなので使う人はほとんどいませんが」
刀華が言っていることは、今の魔法事情。魔法等、回復と強化以外に使い道がない。何せ威力が弱すぎるのだ。能力で威力を引き上げることは出来そうだが、普通に能力を使った方が速い。
刀華の説明は色々端折っていたので、詳しく説明しよう。端折られていたのは、端折られていた部分は知っていて当然ということだろう。一応魔法の教科書に端折られた部分は書いてあるが。
魔法というのは、『攻撃魔法』と『援助魔法』の二つに分けられる。回復と強化は『援助魔法』に属する。
まず、詠唱について。詠唱は、言葉を発することで魔法を発動するためのトリガーである。そして、魔法を発動するために必ず必要なもの。詠唱なしで魔法を発動したという事例は無い。……『攻撃魔法』と『援助魔法』のどちらも詠唱が必須故に。
次に「詠唱に魔力を乗せる」というのがどういうことなのかも説明しよう。だがこれは……特定の言葉に魔力を乗せるだけだ。その方法は簡単で、舌に魔力を集中させる事で出来る。元々魔力は全身を巡っているので、集中させなくても元々舌にある魔力で発動させられるが。
最後に、『詠唱のイメージ』というのは、頭で考えた魔法の過程だ。考えた方が、魔法の威力や効果が強くなる。別にこれはなくてもいいが、あるのと無いのとでは威力が違う。
魔法の発動過程についてはこれで全てである。次は、『攻撃魔法』について。
『攻撃魔法』というのは、大きく分けて四つの属性に分けられる。これを『四大属性』という。四大属性は、『炎』『風』『雷』『氷』の四つの属性のことだ。攻撃魔法は、必ずこの四つの属性のどれかに属する。
『攻撃魔法』の威力が低い理由は、ただ一つ。補助が無いから。能力の方が大きな現象を起こせるというのは、能力が起こした現象は一定の威力が必ずあるからだ。
簡単に言うと、魔法は0からの威力。能力は最低でも10の威力があるということで区別が付く。
そして攻撃魔法による攻撃は、詠唱に魔力を乗せて発動すると、その詠唱やイメージに沿った魔法が発動する。ゲームみたいな魔法陣等は無い。あっても目立つだけで、使っている者の全ての者は魔法陣などは無い。
次に、『援助魔法』。『援助魔法』は、文字通り援助する魔法だ。例えるなら、回復や強化などいろいろなもの。ただ、回復と強化だけである。
魔法による回復は、よく使われる。効果は『攻撃魔法』と違って大きいから。その理由は、何故かはわかっていない。ただ、回復系の能力の方が効率はいい事はわかっている。しかし、その回復系の能力を持つ者が少ないため、援助魔法による回復も使われる。
魔法による強化も、効果は絶大だ。これも理由はわからない。だが、來貴の覇壊の轟きによる強化の方が効率はいいと断言できる。
そして援助魔法による回復は、対象者が使用者の魔力に覆われて回復する。強化も、回復と同じ感じであり、効果が切れるとその魔力が見えなくなる。
「まぁ、魔法についてはこのくらいですかね。次は、魔力についてです。言っちゃうとこっちの方が重要です。魔力というのは、能力を発動するのに必要です。魔力が多ければ多いほど強いです。それに、魔力で体を覆ったり、武器を覆ったり出来ます。魔法にするよりそのままのほうが便利ですね」
刀華の言う通りであり、頷いている生徒も多数いる。刀華の言った通り、魔力の方が使い道が多い。能力のほうが強いというのもあるが。
魔力について。相変わらず刀華は説明を端折っているので、詳しく説明する。
地球上にいる生物は、皆魔力を持っている。だが、それに気付いていない者が殆どで、人間以外の動物は、その存在に気付いているのはいない。気付いていない者が殆どな理由は簡単。世間に魔法や魔力、能力という存在が公表されていないからだ。人間以外の動物が気付いていないのは、単純に知性が無いからである。
魔力は常に全身を巡っている。脳、心臓、肝臓などの人体の重要な器官もだ。何処を辿って巡っているのかというと、"魔力路《まりょくろ》"という、魔力しか通れない道だ。その魔力路は全身を辿っていて、そこを辿って魔力は全身を巡っている。血液とは別のものだ。
魔力には、色がある。これは、"魔力色《まりょくいろ》"と呼ばれている。人によって、魔力色が違う。魔力の量が多ければ多いほど、魔力色はより濃くなる。魔力色が濃ければ濃いほど、強いのだ。そして……魔力色は、二色混じっていることがある。二色持っている者は稀で、二色持っている者は天才であるとされている。來貴は一色だが。
魔力には、圧力がある。それは"魔力圧"と呼ばれていて、魔力を放出したとき・能力を使用したとき・魔法を使用したときに生じる圧の事を言う。魔力圧は、使用した魔力が多量であればあるほど範囲が広くなり、圧力が高くなる。
それは魔力を持つ物体にしか影響せず、魔力を持たない物体に影響は無い。魔力圧は、魔力ある物体を段々と潰していく等の効果を持つ。魔力圧は一般人も感じるが、そもそも魔力を知らないため感じたことに気付いていない。
対抗するには、魔力圧の発生源である魔力以上の魔力量を内包しているか、魔力で身体を覆う他無い。
そして、魔力で武器や体を覆うというのは、単純に魔力で覆うと強度が高くなったり、動きが速くなったりする。だから、魔力を纏っただけでも普通に使えるのだ。それに、攻撃の威力も上がる。
それだと、魔力はどうやって回復するのか? ということになる。
刀華は説明していなかったが……空気中にも、魔力はある。それは"魔素《まそ》"と呼ばれていて、魔力の元となっている。体内の魔力に引っ張られる事で空気中の魔素を体内に取り込まれ、一定量を合成して魔力になり、それが身体中の魔力路を巡るのだ。
だが……一定量の魔力が合成されると、それ以上は魔素を取り込んでも魔力は増えない。これが、個人個人の魔力量の上限だ。取り込めない理由は、その上限以上に魔力を取り込むと、身体が耐えられなくなるから。その取り過ぎた魔素は、二酸化炭素と一緒に息を吐くときに体外に放出される。
つまりは、呼吸をして魔素を取り込み、体内で自動的に合成されて魔力が出来て身体を巡る。これが、"魔力回復《まりょくかいふく》"の仕組みである。
「だいたい説明は終わりましたね。皆さん、ちゃんと聞いていましたか?」
その端折った説明を聞いてどうしろというのだ。ただしっかり聞いていれば、教科書と照らし合わせて理解出来るが。來貴はそう思ったが、声には出さない。自分がわかっているため大丈夫だと思ったのだ。
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――授業の残り時間は、どれくらいだろうか。俺はそんな事を考えながら、時計を見る。授業の終わりまで、残り約10分。
刀華先生の魔法と魔力についての説明が終わり、今は刀華先生が生徒からの質問に答えている。質問しているのは、高校から軍事機関に入った生徒や、この科目が苦手な生徒だろう。
一つ一つ、刀華先生は丁寧に質問を答えていく。俺は話を聞いていないが、耳に自然に入ってくる。
その応答を聞いた俺は、こう思った。
(そんなに丁寧に答えられるのに、何故説明はあんなに端折っているのだろうか)
俺は、そこが疑問だった。説明が下手なタイプで、聞かれたことには完璧に答えられると言う感じなのだろうか。それとも、何かあるのか。俺はわからないが、別にどうでもいいので気にしない。
頬杖を突き、授業が速く終わらないかなと考えながら時間を潰す。
しばらくそうしていると、隣の文奈から声が掛かってきた。
「――あの、來貴君。聞きたいことがあるんですけど」
「……なんだ?」
何を聞くつもりなのだろうか。変な事を聞かれない限りは、正直に答えるつもりではある。……ただ、俺の事情に踏み込む質問は止めて欲しいが。
そう祈りを込めながら、文奈の繰り出す質問に耳を傾ける。
そして、文奈はその質問を言う。
「來貴君って、魔力量はどれくらいですか?」
魔力量……か。その質問を聞き、俺は心の中でホッと胸をなで下ろす。変な事では無いし、授業の趣旨にも沿った質問である。これは言っても何も問題は無いため、俺は答えようと口を開く。
――答えようと思ったが、どう答えれば良いのだろうか。数値で表すにしても、基準がわからない。「すごく多い」と言っても、あまりに抽象的で文奈も俺もよく分からないだろう。
そこで俺は、一つ思いついた。普通の軍人の魔力量を「100」として、俺との差を答えれば良いのではないかと。早速、それと自分の魔力量を照らし合わせて答えを出す。
「普通の軍人が"100"だとするのならば、俺は"50000"ぐらいだ。……要は、すごく多いって事だ。ちなみに、文奈は?」
とりあえず、聞き返す。文奈は、俺の魔力量に驚いているようだが……暇つぶしに、話題を広げようと思ったのだ。その話題を広げるため、俺に聞かれたことをそのまま聞き返した。
すると文奈は少し考え込むような仕草を見せ、それから数秒後に答える。
「來貴君の例えを借りて、普通の軍人が"100"だとするなら、私は"3000"ぐらいでしょう。來貴君には敵いませんが、それでも多い方だと自負しています」
文奈その声は、何処か自慢しているように聞こえた。だが、少し自信を無くしている様にも聞こえる。
――俺の魔力量を聞いた後だからだろうか。
単純計算にして、その差は約16.6倍。かなり……いや、その間に何個も壁が出来るような差である。普通ならば、超えることの出来ない差だろう。それと……そんな反応をすると言うことは、信じていると言う事で良いのだろうか。
常人ならば、大きすぎる記録に嘘をついていると疑っても良いはず。だが文奈は、疑うことも無く信じた。魔力は完全に身体の内側に隠しているので、漏れ出ているという事はない。だから本当に、信じているのだろう。
純粋な奴だなと、俺はぼんやりと思った。
――そこから俺と文奈は、互いに会話をして時間を潰した。途中で刀華先生に「授業をしっかり聞いてください!」と怒られたが、適当に謝った。
キーンコーンカーンコーン
そうして、ようやく授業が終わった。この約10分をやけに長く感じたが、そう言う時もあるだろうと俺は考えないことにした。
適当に号令を済ませたところで、俺は休み時間をどう過ごそうか考える。することは無く、話せる相手である文奈はクラスメイトと話していて、黎は見当たらない。
文奈と黎以外に友達と呼べる存在がいない俺は、寝て過ごすことにした。