44話「稲垣文奈 ~積み上げたもの~」
そして、第四試合。刀剣科一チーム対能力科二チームだ。
「さぁ! 第二回戦も最後です。第四試合、刀剣科一チーム対能力科二チーム! 双方の先鋒は準備をしてください」
刀華の言葉で、互いのチームの先鋒は出てくる。刀剣科一チームの先鋒は、瑠璃。能力科二チームは、文奈である。
二人が来た後、刀華がマイクに向かって喋る。
「双方の準備が出来たようですので、審判の荒川先生お願いします」
刀華の言葉で、怜次が合図をする。
「それでは、始め!」
そして、第二回戦第四試合、その最初の戦いが始まった。
先鋒戦が開始してすぐ、瑠璃は刀剣科の科員にふさわしく、刀の柄に手を掛ける。文奈も、能力科の科員にふさわしく、その能力を発動させる。
文奈は、吹き荒れる風を瑠璃に当て近づかれないようにする。それにより、瑠璃は文奈に近づけない。
文奈の能力である『風流操作』。風を操る能力である。そして、その本質は『空流』。風というは、空気の流れ。つまり、風を操ると言うことは、空気を操ると言うこと。それこそが、この能力の本質なのである。
それを理解した文奈は、劇的に強くなっていった。例え相手が來貴であっても、簡単には負けない程だ。
そして文奈は、近づけさせないだけじゃ勝てない事もわかっているので、風の風圧で攻撃をする。それにより、瑠璃は不利であった。
(強いな……稲垣さん)
瑠璃はそんなことを考えながら、自身も能力の発動を決意する。
そして、瑠璃は能力を発動させた。その瞬間、瑠璃は一瞬で文奈の近くへと移動した。そして、瑠璃色の波紋が波打つ刀を斬り上げる。文奈は、ギリギリ反応出来たので躱す事が出来た。だが、胸辺りの服と髪が少し切れている。
文奈は髪が切れたとことにしょぼくれつつも、瑠璃と距離を取る。そして、風壁で距離を詰められないようにする。
瑠璃が持つ能力は、『抵抗操作』。抵抗を操る能力。その本質は『摩擦』。抵抗を操ると言うことは、摩擦を操れると言うこと。瑠璃は空気抵抗を操ることで、超速移動を可能にしていたのである。
そして、瑠璃は能力を使って抵抗を操り、無駄を無くす。そして、文奈にその刀を振り下ろす。
だが、刀は当たっていない。文奈が、風を使い刀を押し返しているからである。この状態では、文奈が有利だった。風を操り、文奈は瑠璃の足下を崩す。
そして、風拳を食らわせる。文奈の拳を食らった瑠璃は、多少吹き飛んだが能力を使い留まった。ただ、摩擦の影響で、瑠璃の足裏の温度はとても熱くなっているが。
瑠璃は、そんなの気にしたことかと攻撃を仕掛ける。刀身と身体に瑠璃色の魔力を纏わせる。
それを見た文奈は、自身も身体に緑色の魔力を纏わせる。そして、透明の風に緑色が付く。風の軌道が読みやすくなったが、その分速度と威力は段違いに上がっているだろう。
そして、文奈は緑風で瑠璃に攻撃する。だが、躱され近づかれそうになる。近づかれる前に、文奈が地面に仕掛けておいた上昇気流により接近を防げたが、次は通用しないだろう。瑠璃は優秀なので二度同じ事は繰り返さない。工夫を加えないと、文奈では瑠璃には勝てないだろう。
瑠璃は、刀身の魔力を伸ばし文奈に攻撃しようとした。だが、文奈の風壁で防がれる。文奈の風壁は鉄壁の防御だが、攻撃手段が乏しいためあまり意味が無い。
何回も攻撃を防がれた瑠璃は、一度目を閉じ深呼吸をする。そして、身体と刀身に纏う瑠璃色の魔力を濃くする。それにより、刀の波紋が瑠璃色に光る。同時に能力を発動し、文奈に向かって駆け出す。
文奈の近くに来たとき、瑠璃は刀を向かって振りかざす。瑠璃が近くに来て刀を振りかざすギリギリで、文奈や反応が出来た。瑠璃の波紋の刀に対し、緑の暴風で太刀打ちする。
「……降参です」
勝ったのは瑠璃。瑠璃は能力で空気抵抗を減らしたので、文奈の暴風に抵抗できた。対して、文奈は瑠璃に刀と自身に対する空気抵抗を操られていたので、瑠璃の刀を躱せなかった。それにより、瑠璃の勝利である。
「そこまで! 勝者、瑠璃湊!」
怜次の審判が下され、瑠璃の勝利が確定した。
文奈は、落ち込んだ様子で待機場所へ戻っていった――――。
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――――第二回戦第四試合が終わった。結果は、先鋒戦勝利、次鋒戦敗北、中堅戦勝利、副将戦勝利で刀剣科一チームの勝利である。
これで、第二回戦全てが終わった。次は準決勝だが、準決勝は明日だ。なので、俺は今帰っている途中だ。
そして、俺が帰っている途中。俺は、知っている人影を見かけた。
「あ、來貴君……」
文奈だ。なんだか、少し落ち込んでいるように見えるが、大丈夫だろうか。そんなことを考えつつ、俺は文奈に声を掛ける。
「どうした、文奈」
俺がそう聞くと、文奈は顔を俯かせながら言った。
「いえ……ちょっと、落ち込んでるだけです」
落ち込んでいる……という俺の予想は、当たっていた。こう言うときは、どうしたら良いのだろうか。よくわからないが、とりあえず何か話そう。
「大丈夫か?」
俺が文奈にそう言うと、文奈から答えが返ってきた。だが、その後に続いた言葉は俺を驚愕させた。
「……大丈夫、です。ですけど……來貴君、あのとき、一回私の言うこと聞いてくれるって言いましたよね? だったら、ちょっと私の話を聞いて下さい」
文奈は、俺の服を掴み逃げられないようにしながら言う。話を聞く……のは、別にいいのだが、一回言うことを聞く……というのは、こういうことに使っていいのだろうか。文奈の本を勝手に取った詫びとしての、俺への命令権を。
もっといい使い道があると思うのだが……でも、面倒な事に使われなくてよかったと思っている。いや、これも面倒なのだが、これより面倒な事が来る可能性があるので別にいい。
「來貴君、私と瑠璃君の戦いは見てましたか?」
「……あぁ、見ていた」
文奈と瑠璃の戦いは、観客席の一番上から見ていた。文奈は、以前とは比べ物にならないくらい強くなった。約二ヶ月と二週間前に、俺が文奈に戦闘を教えた時とは全然違うだろう。
まぁそれでも、俺には勝てないだろうけど。……それはいいか。
「私、強くなりましたか? 來貴君」
文奈が、俺に密着しながら聞いてくる。ちょっと近い気もするが、気にしないことにする。
「……あぁ。約二ヶ月と二週間前とは比べ物にならないほどだ」
俺がそう言うと、文奈はポツリと呟いた。
「……そう、ですか。やっぱり、來貴君は覚えてないんですね」
文奈が呟いた言葉は、よくわからなかった。
(……どういうことだ? 覚えていない……ということは、俺は何かを忘れているのか?)
心当たりは無い。そもそも、俺は文奈に会ったのは入学式前のあのときのはず。それ以前に、会ったことがあったのか……?
――わからない。そもそも、中学の時の記憶はあまり無いからな。
俺がそんなことを考えていると、文奈が口を開いた。
「……來貴君。今から、私の過去を話します。聞いて下さい」
そう言いながら、文奈は俺の服の裾を掴む。
――そして、文奈は自身の過去を話し始めた。
side ~稲垣文奈~
私は、來貴君に自身の過去を話した。來貴君は、覚えてないようでしたけど、私はちゃんと覚えています。忘れられたのは、ちょっと不本意なんですけどね。
――――――――――――――
私の父の名前は、稲垣宗介。私の家系は、父方の方が能力持ちでした。なので、私は父と全く同じ能力を受け継ぎました。私と同じ能力を持つお父さんは、軍事機関で働いています。家に帰ってくることがあまり無かったので、仕事が忙しいのかと思っていました。
ただ、私が知らなかっただけでした。
……ですが、それに気付くのはもっと後です。
それまで、私は軍事機関に関係の無い、普通の小学校で過ごしていました。普通の小学校で普通の学校生活は、私にとってとても楽しかったです。
――それは、私が小学六年生になった頃。私は、身体に妙な違和感を感じました。それは、身体の中で大きくなっていて、私はそれを出したらいけないと直感で感じ、抑えるのために私は机でうずくまっていた。
「文奈ちゃん、どうしたの? なんか、苦しそうだよ?」
私の友達の女の子が、ずっと無言で椅子に座っている私に話しかけて来た。ですが、私としては話しかけてほしくなかったです。
その友達と話したことで、私は少し気が緩んだ。だから、私は抑えきれなくなった。
そして……周囲に風が吹き荒れた。それにより、教室内はパニックになった。教室内の殆どの者は、私が出した風により吹き飛ばされて気絶している。中には、机や窓等に当たって重傷の人も居る。
先生は慌ててパニックになっているため何もしていない。
そんな中……私は、ただ何も言えなくなっていた。
そうなっている内に、軍事機関の人達が駆けつけて、この事に関する記憶は消された。怪我をしている者も、軍事機関の者が治した。壊れた教室の一部も、軍事機関の者が直した。
……ただ、私に対する記憶消去は、お父さんが止めさせた。
そして、私に能力についての説明をし、聞いてきた。
「文奈、お前の能力はどんな能力だ?」
この時の私は、脳内に浮かび上がった能力を答えた。それを答えたら、お父さんは少し考え込むような動作をしてからこう言った。
「……その能力は、俺と全く同じ能力だ。だが、それは俺の力では無くお前の力だ。お前は、その力をどう思う?」
お父さんの質問に対し、私はこう答えた。
「……嫌い。私が、これを抑えられなかったから……」
そう私が答えると、お父さんはこう言った。
「そうか。じゃあ、能力の制御の特訓、やってみるか? 同じ能力だから、俺が教える」
そして、私はお父さんに能力の制御を習う事になった。今まで通り、学校に通って……魔力の事もも知って……三ヶ月後、能力を使いこなすことが可能になった。
それで、お父さんは軍事学校に入ることを勧めた。勿論、嫌だったら止めても良いという条件で。
私は、軍事学校に入学した。その理由は、一つだけ。私のこの力で、誰かを守れると思ったから。
そうして、軍事学校で私は優秀な成績を残した。勿論、人も殺した。最初、殺すのにとても躊躇したが、守るために殺さなければならない……と言うことをお父さんから教わったので、殺した。
優秀な成績を残した私には、沢山の依頼が来た。そこで、依頼相手と話すときに敬語を使うことが多かったので、今では敬語しか使わなくなった。
ですが、私は。ある依頼で、ヘマをしてしまい殺されそうになりました。その時に、助けてくれたのが、來貴君でした。
苦戦していた敵を、一瞬で全員殺しました。そして、來貴君は、私に一言二言声を掛け、安全な場所に連れて行ってから何処かへ行きました。その時に、名前は聞いて覚えておきました。私も、自分の事をいろいろ來貴君に話していました。
それ以来……私は、來貴君のその強さに憧れました。それと同時に、來貴君を見ていると、胸の高鳴りが収まりません。もう一度、來貴君に会いたいとも思いました。ですが、來貴君は私とは違う中学で、中学時代ではあれ以来会えませんでした。
軍事育成機関高校で、一目見て名前を聞いたときに確信しました。それから、私は積極的に來貴君に絡みに行きました。
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「……というのが、私の過去です」
私の過去を聞いた來貴君は、少し驚いたようだが、私の事を思い出したのか頷いている。
それを見て、私は瑠璃君に負けて落ち込んでいた気分が晴れました。來貴君が私の事を思い出してくれたので、気分が良くなったからでしょうか。
「……あのとき、助けたのが文奈だったのか。というか、お前機嫌が良くなってないか?」
そう聞いてきた來貴君に、私はこう言葉を返す。
「はい! 來貴君が私のことを思い出してくれたので!」
それから私は、來貴君に引っ付いて帰って行った。
side out
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暗がりの中。ドルナイトはその身に宿る力を開放する。その力の圧は來貴よりも圧倒的に強い。だが、ドルナイトは満足していないのか溜息をつく。
「衰えたものよ……何百年と行使していなければ、こうも衰えるものなのか。……それに、私の数多の力は、まだ一つしか集められていない。それに、配下の者達への力の付与や創造もおぼつかない」
そう独り言を呟きながら、開放した力を抑える。そして、一人考え込む。
「大分力の感覚は取り戻したが……まだ活動できる段階では無い。それに至るまでは、最低でも一年……長くて三年か。速いところ、散らばった全ての力を取り戻したいがな」
ドルナイトの力は、良くて地球での全盛期の三割以下。かつて最強の神と呼ばれたドルナイトの力は、とても衰えていた。今は、ドルナイトの配下の者達に自身の力を探索させているが、その内の一つはもう誰かに奪われた。
それを悟ったドルナイトは、歯軋りした。取り戻そうと、その者がいる日本に一人送らせた。だが、送った者はその者にやられた。これを知ったドルナイトは、溜息をつきたくなった。だが、弱い方の力なので良しとして割り切った。
「……もうすぐ、私の力の封印が解ける。そこからは、私直々に動こうではないか……!」
神が動き出すときは、近い――――。
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