42話「”家族”だからこそ、”大切”だからこそ」
來貴はそれを置いておくことにして、油断なくレノルドの方へと行った。それと同時に、少し周りの気温を上げる。
レノルドの近くに着くと、來貴は銃口をレノルドへ向けた。それに気付いたレノルドは、射線から逃れようとする。だが、自身の身体が動かないことを察すると、あっさり止まった。そして、來貴に向かってこう言った。
「……殺すなら速くしてください」
來貴は、それに言葉を返すことなく引き金を引く。放たれた銃弾は、寸分の狂いも無くレノルドの眉間を貫いた。
――そして、レノルドは事切れた。
(終わったか……)
それを確認した來貴は、銃剣の魔力刃を仕舞う。そして、能力を解除し大きく溜息をついた。
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(……はぁ、やっと死んだか。……それにしても、強かったな……。ドルナイト側には、アレより強いのがうじゃうじゃいるのか? ……だったら、もっと強くならないと神を殺すなんて出来ないな)
俺はそんなことを考えつつ、周囲の気温を調節する。限定空間の外と同じくらいに。限定空間も解除して、俺は最小サイズにしたバッグを取り出す。広げてから中に銃剣を仕舞う。そして、帰り始めた。
……凜姉に怒られるかも知れないが、仕方ないだろう。襲われたのだから。
とりあえず、ポケットからスマホを取り出し現在時刻を確認する。……良かった、壊れてなかった。壊れていたら、凜姉に何を言われるかわからないからな……。
メールの部分を確認すると、約二十件程の未読メールがあった。……恐らく、凜姉と琉愛のメールだろうと考え、俺は未読のメールを見る。メールの内容は主に『今何してるの!?』とかだった。とりあえず、『今から帰る』とだけメールをしてからスマホを仕舞おうとした。
するとすぐに、『今まで何処行ってたの!?』というメールが凜姉から来た。……後で返信するとして、俺は家への帰路を辿る。
「……見事だ」
すると、後ろから声が聞こえた。俺は後ろを向き、こう言った。
「……やっと出てきたか、オリケルス」
俺の一言で、隠れて見ていたオリケルスが出てきた。オリケルスは、俺が神の尖兵と遭遇して戦闘を開始したときの一部始終を見ていた。だが、一切の手出しをしていなかった。
俺が言った言葉の意味に気付いたオリケルスは、肩を竦めながら近づいてきた。そして、こう言ってきた。
「あぁ……來貴よ、見事な戦いじゃ。能力や武器の使い方も、見事だ」
思っていたより、評価が高かった。
「思っていたより、あの尖兵が強かった。推測するに、使い捨ての駒。それに、どうやって侵入してきた? それと、お前の存在があの御方に何故伝わったのか……それが、疑問じゃ」
オリケルスが一人考察している中、俺は口を開く。
「……そろそろ帰らないとヤバいから、帰ってもいいか?」
もう日は完全に沈んでおり、空は暗く街灯と家の中の光だけが輝いている。そろそろ帰らないと、凜姉に怒られそうだ。
「……そうか。いいぞ」
オリケルスの言葉を聞いて、俺は再び家へ向かって歩き始めた。
(さて、凜姉に怒られるとするか……)
そんなことを考えながら。
そうして家への帰路を辿り、十数分が経つ。家の前に着いた。凜姉と琉愛の気配がドアの奥からするので、玄関奥で待っているのだろう。……とても入りづらいが、その気持ちを押し殺す。そして、いざドアを開けようとすると。
「來くん!」
ドアが開き凜姉が出てきた。そのわずか数瞬後に、琉愛が出てくる。そして、凜姉は俺の顔を見た後、俺に近づいてきた。
「大丈夫!? 何処も怪我してない?」
その後、俺の身体をペタペタと触ってきた。そうして俺の身体を触る凜姉は、俺の顔や身体についた傷に気付いた。そして、俺にこう聞く。
「ねぇ、この傷どうしたの?」
そう聞いてきた凜姉の声音は、心から心配しているような、不安を孕んだ声音だった。琉愛も、さっきから喋っていないが心配そうな目でこちらを見ている。
そして、俺は奥から誰かが来るのを確認した。
「帰ってきたのね、來貴。事情は中で聞くから、とりあえず入って。その傷も、治療するから」
ここに来たのは、結月里桜。黒髪ショートカットで、青い瞳を持つ。凜姉達の母親だ。母さんは、軍事機関で医療師をやっており、主に軍人達の怪我の治療をしている。俺も何回も母さんの治療を受けてきた。それは、凜姉も琉愛も親父もそうだ。
俺と凜姉と琉愛は、母さんの言うことに従い、リビングへと行った。俺は半袖半ズボンの服に着替え、治療を受ける。傷は深くないので、しなくても二日で治るんだけどな。
そこで、俺は事情を……結構はぐらかし嘘を憑きながら喋った。
「……遅れたのは、特訓のしすぎ……で、怪我は特訓のせいってこと……ね」
母さんが、俺の言ったことを要約して呟く。まぁ、ほぼ全て嘘なのだが。
「……嘘、だよね。お兄ちゃん」
琉愛が、そう呟く。その呟きは、凜姉と母さんに聞こえていたようで、哀しそうな表情で俺を見る。そんな凜姉と母さんの様子を一目見て、琉愛は言葉を続ける。
「お兄ちゃん、あの時からずっと、嘘つき続けてるよね。……なんで本当のこと言わないの?」
――その言葉は、俺にとって心に来る言葉だった。
(……嘘をつき続ける理由、か)
何故、俺が嘘をつき続けるのか。何故、本当のことを言わないのか。これには、理由がある。
……過去、俺は一度だけ本当のことを、言ったことがある。そして、その一人の大切な人を失った。……もう、失いたくないんだ。俺にとって、一番大切なのは凜姉と琉愛だ。だから……だからこそ、言えないんだ。本当のことは。
「私達、"家族"でしょ? 家族ならさ……本当のことを言っても、受け入れてくれるよ」
「…………」
俺は、琉愛の言うことを無言で聞いていた。
……琉愛はあくまで、俺にとって嬉しい言葉を掛けてくれているのだろう。凜姉と琉愛、母さんと親父、兇介と……あともう一人は俺の本当の覇壊の轟きを知っている。そして、その能力とそれを持つ俺を受け入れてくれた。
……だが、"家族"だからこそ、"大切"だからこそ言えないこともある。そしてこれは……それに値する。
――そして、俺は言葉を返す。
「……家族だから、言えないんだ」
俺のその呟きは、小さいものだった。だが、凜姉、琉愛、母さんの耳には届いていたようだった――――。
――――その後、俺は、母さんの治療が終わるタイミングで、自分の部屋に戻った。
自分の部屋に戻った俺は、再現した能力を確認していた。
(無限魔増殖……対象を増殖させる能力か)
それは、俺が殺したレノルドが持っている能力。この能力を、レノルドは紅の槍を増殖させるために使っていたのだろう。……だったら、あの炎はなんだ? 能力でないなら、何で炎を起こしていたというんだ? ……失われた技術か、それともドルナイト側が確立した技術か……まぁ、オリケルスに聞いてみるか。
俺が部屋で寛いでいると、ドアがノックされる。そして、部屋に琉愛が入って来た。部屋に来た琉愛に、俺はこう聞く。
「……なんだ?」
その質問に、琉愛は答える。
「夕飯、だよ。パパが帰ってきたから、家族全員で食べよう」
その答えを聞いて、俺は扉の方へ行く。そして、琉愛と一緒に一階へ降りてリビングへ行った。それまで、俺と琉愛の間に会話は無かった。
リビングへ着くと、そこには凜姉と親父と母さんが居た。……というか、親父はいつ帰ってきたんだ?
「おう、来たか來貴。早く夕飯食べようぜ」
親父の一言を聞き、俺は夕飯が乗っている机の近くの椅子に座る。
そして、全員で合掌をし夕飯を食べ始めた。
久しぶりに家族全員で食べる夕食だというのに、食卓はずっと無言のままだった。そうして夕食を食べている中、親父が口を開いた。
「……來貴。今日、右半身が無く、他にも所々に傷がある美女の死体を見つけた。その死体の周りの環境は、誰かが戦った痕があった。それに、民間への被害も多少出ていた。それは、民間にも目撃されていたようで、民戦対処班がその記憶を消した。そして、その戦痕と被害も、民戦対処班が綺麗に消した」
親父の言葉に、凜姉と琉愛は「そんなことがあったんだ」というような顔をしている。母さんは、聞かされていたのか無反応だ。俺は、少しだけ反応を見せた。怪しまれないためだ。
……十中八九、俺とレノルドの戦闘だな。レノルドの死体や民間への対処は、国がなんとかしてくれると思って何もしなかった。さすがに、最後の気温が低いのはなんとかしたけど。
民戦対処班というのは……まぁ、簡単に言うと軍事機関の仕事や、民間にバレたらマズいものをもし見られたときに記憶を消し処理する班だ。
そして、次の親父の一言に、凜姉と琉愛は驚愕する。
「……それは、來貴。お前が軍事育成機関高校へ行くときの登下校路と同じ道にあった」
親父は俺の方を見ながら、言った。
「來貴。……お前が、あの美女を殺したのか?」
そう聞いてきた親父の目は、俺の目を見据えていた。そして、嘘は許さないと言っているような表情をしていた。
凜姉も琉愛も母さんも、俺の方を見ていた。その青色の瞳は、俺を静かに見据えている。そして、その瞳には、哀しみと怒りが混じっているような気がした。
そんな四人に見られている中、俺は……答える。
「……そうだが」
何故、俺は嘘をつかなかったのか。これに関しては、もう嘘をつく必要性を感じなかったからだ。嘘がわかっても、真実がわかることは無い。それ故に、俺は嘘をつかなかったのだ。
俺の答えを聞いた四人は、少し驚愕しつつも納得した。俺がさっきついた嘘の辻褄が合ったからだろう。
「じゃあ、あの怪我はその美女から付けられた傷ってこと?」
凜姉の言葉に、俺は頷く。すると、凜姉はムスッとした表情になり、俺に迫ってくる。
「……來くん……そうやって、また隠したんだ」
その後、俺は、凜姉にジト目を向けられている。隣の琉愛は、無表情でうつむいている。
――そして、誰も口を開かない中、口を開いたのは琉愛だった。
「――いい加減にしてよっ! お兄ちゃんっ! ……ずっと、嘘つき続けてて……そんなに、私達は信用出来ないの? お姉ちゃんも、ママも、パパも……私も、みんな、お兄ちゃんの家族なんだよ? だからさ、例えどんなことがあっても、たくさん迷惑を掛けても、全然、大丈夫だから。……本当のこと、言ってよ……お兄ちゃん……」
そう言い続けている内に、琉愛の目には涙が溜まっていった。やがて、涙を流しながら俺の手を強く握った。
……俺は、琉愛の言葉を黙って聞いていた。それは、凜姉も親父も母さんも同じだった。そして、その目は琉愛の方を向いていたが、チラチラ俺の方を向いていた。……答えろ、と言っているのかもしれないが……それは、出来ない。
だから、俺は黙ったままだった。
そして、無限とも言える数秒間が経過した後、琉愛が口を開いた。
「……答えてよ、お兄ちゃん。本当のことがどんなことだって、私達は拒まないから……!」
琉愛の言葉を聞いて、俺は俯く。下を向いたので、俺の銀灰の髪が顔に掛かる。俺の前髪は無駄に長いので、俺以外の四人から表情は見えなくなっているだろう。
……そうして、数秒後。俺は、口を開いた。
「――それは、言えない」
呟いた言葉は、四人の耳に届いていたようだ。
そして、どうしてか問い詰められたが、夕飯を食べ終えたと同時に逃げ出した。咄嗟のことだったので、なんとか逃げ出すことに成功した。
("家族"だからこそ、"大切"だからこそ、言えないんだ――)
今現在は、部屋にいる。部屋で、琉愛が言った言葉について考えていた。
凜姉、琉愛、親父、母さんは風呂に入っていると思う。何故、追いかけて問い詰めなかったのかは知らないが……俺の心には、罪悪感があった――――。
――――そして、朝になった。今から学校に行くところ。……凜姉と琉愛とは、朝起きてから一階も話していない。挨拶だけだ。その挨拶も、如何にも不機嫌そうだった。親父と母さんは、俺の見た目が変わったわけを聞いてきたが、適当に答えた。
後は、親父と母さんが学科対抗戦を見に来ることが判明した。今日は、学科対抗戦の二回戦がある日。
俺は、一言「いってきます」と言ってから学校へ行った。
この日の朝は、雨だった。その中、俺は傘も差さずに歩き、学校へ行く。
……だが、雨は気にならない。いや、気にしたくない。
(……やっぱり、雨は嫌いだ。……とても、嫌な気分になる)
そうしている内に、学校へ着いた。




